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54:鍵を握った老女
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春になる前に、父の体調は回復し面倒な仕事は全て押し付けてやった。これで財務大臣のジジイの顔をみなくてすむと思うと清々する。
あのジジイは老婆心からうんたらかんたらと仕事を押し付けてくるが、お前は老婆ではなく老爺だろうとなじりたくなる。
だが、留守の間にも仕事を任せられる者が手に入ったのは僥倖だろう。
「これで紙の山をみることもなくなって、フーリエ王国に行けますね!」
ブラッドはまるで休暇に旅行でも出かけるかのように言う姿が無性に腹立たしく感じた。
「何を言ってる。お前をつれていくとは言っていないが」
俺の言葉にあんぐりとしているブラッドをまわりが笑った。
「殿下こそ、私を連れていかないなんて正気ですか? こんな脳筋ばかりで誰が殿下のブレインになるんですか! それに、私のトニーにやっと会えるんですよ! トニーが待ってる!」
「お前のじゃないだろう。トニーがお前と同じ気持ちだと思うなよ」
「うぅ。それでも参謀は必要ですよね! 殿下の馬に乗せてくれなんていいません。姫君のプレゼントを運ぶ荷馬車でもいいので!」
「わかった、わかった。お前にはプライドはないのか?」
「時には捨てることも大切です。手段を選んでいられないですし、そんなものにこだわっていたら手に入らないですよ」
相変わらず、こいつは侯爵家の人間とは思えないことを言う。
「そんなに言うなら、馬車で来い。頼みたい仕事もあるしな」
「つまり、まだトニーには会えない?」
「頑張って働けばすぐに会えるぞ」
ブラッドに仕事内容を伝えると芦毛の愛馬に跨がり走らせた。
フーリエ王国の首都に向かう前に、パルモス伯爵領にたちよった。
首都と離れた田舎と称するに差し障りない、のんびりとした農村と森林ばかりが広がる何もない領地だ。
地方貴族たちはもっぱら小作料を主な収入としており、王室および都市貴族たちの封建的特権の廃止に大きく反発している。
農民たちが畑にでて作業をしているところを馬から眺めていた。
少し馬を走らせると集落から外れた小さな小屋がある。俺はその扉をノックした。
「はーい。どちら様ですか?」
「こんにちは。こちらにジュリアという少女がいましたよね。実は、彼女についてお話を聞きたくて」
にこやかに笑う俺をみて、小屋から出てきた老女は顔を青くした。
焦ったように老女が扉を閉めようとするが、すかさず手と足を挟みこじ開ける。
「どうやら当たりのようだな」
この老女はパルモス伯爵とジュリアの秘密を知っている。これほど焦るのだから大きなものだ。
「女性、しかも老人相手に手荒な真似はしたくないんです。中に入れて、お話を聞かせてくれませんか?」
これはお願いではなく脅迫だ。後ろで立っている部下たちが威圧感を放っている。
老女はおずおずと扉を開いて小さな家の中に通した。
彼女はジュリアがパルモス伯爵に引き取られる以前に世話をしていた者だ。関係性としては外祖母と考えていいとブラッドは報告した。
粗末な木の椅子に腰をかけて足を組む。
「さて、何から聞きましょうか。パルモス伯爵のことか……。それともプセアラン王国についてなんてどうでしょう?」
「どうしてその事を……っ」
鎌をかけた発言に老女は明らかに動揺した。
やはり、プセアラン王国と繋がっていたのはパルモス伯爵だったのか。
「じっくり話をしたいんですが、俺も時間に余裕はないんです。だから、あなたの昔話を早く話して貰えませんか?」
これでクイーンの首に剣先が届いた。あとはキングをどう攻めるかだ。
老女が口を開くと、チェックメイトまでの手を考える。
もうすぐ、前世で彼女を苦しめた中核を排除できるだろう。
もし、彼女の障壁が全て取り払われたならば、俺は彼女を手放すことができるだろうか。
あのジジイは老婆心からうんたらかんたらと仕事を押し付けてくるが、お前は老婆ではなく老爺だろうとなじりたくなる。
だが、留守の間にも仕事を任せられる者が手に入ったのは僥倖だろう。
「これで紙の山をみることもなくなって、フーリエ王国に行けますね!」
ブラッドはまるで休暇に旅行でも出かけるかのように言う姿が無性に腹立たしく感じた。
「何を言ってる。お前をつれていくとは言っていないが」
俺の言葉にあんぐりとしているブラッドをまわりが笑った。
「殿下こそ、私を連れていかないなんて正気ですか? こんな脳筋ばかりで誰が殿下のブレインになるんですか! それに、私のトニーにやっと会えるんですよ! トニーが待ってる!」
「お前のじゃないだろう。トニーがお前と同じ気持ちだと思うなよ」
「うぅ。それでも参謀は必要ですよね! 殿下の馬に乗せてくれなんていいません。姫君のプレゼントを運ぶ荷馬車でもいいので!」
「わかった、わかった。お前にはプライドはないのか?」
「時には捨てることも大切です。手段を選んでいられないですし、そんなものにこだわっていたら手に入らないですよ」
相変わらず、こいつは侯爵家の人間とは思えないことを言う。
「そんなに言うなら、馬車で来い。頼みたい仕事もあるしな」
「つまり、まだトニーには会えない?」
「頑張って働けばすぐに会えるぞ」
ブラッドに仕事内容を伝えると芦毛の愛馬に跨がり走らせた。
フーリエ王国の首都に向かう前に、パルモス伯爵領にたちよった。
首都と離れた田舎と称するに差し障りない、のんびりとした農村と森林ばかりが広がる何もない領地だ。
地方貴族たちはもっぱら小作料を主な収入としており、王室および都市貴族たちの封建的特権の廃止に大きく反発している。
農民たちが畑にでて作業をしているところを馬から眺めていた。
少し馬を走らせると集落から外れた小さな小屋がある。俺はその扉をノックした。
「はーい。どちら様ですか?」
「こんにちは。こちらにジュリアという少女がいましたよね。実は、彼女についてお話を聞きたくて」
にこやかに笑う俺をみて、小屋から出てきた老女は顔を青くした。
焦ったように老女が扉を閉めようとするが、すかさず手と足を挟みこじ開ける。
「どうやら当たりのようだな」
この老女はパルモス伯爵とジュリアの秘密を知っている。これほど焦るのだから大きなものだ。
「女性、しかも老人相手に手荒な真似はしたくないんです。中に入れて、お話を聞かせてくれませんか?」
これはお願いではなく脅迫だ。後ろで立っている部下たちが威圧感を放っている。
老女はおずおずと扉を開いて小さな家の中に通した。
彼女はジュリアがパルモス伯爵に引き取られる以前に世話をしていた者だ。関係性としては外祖母と考えていいとブラッドは報告した。
粗末な木の椅子に腰をかけて足を組む。
「さて、何から聞きましょうか。パルモス伯爵のことか……。それともプセアラン王国についてなんてどうでしょう?」
「どうしてその事を……っ」
鎌をかけた発言に老女は明らかに動揺した。
やはり、プセアラン王国と繋がっていたのはパルモス伯爵だったのか。
「じっくり話をしたいんですが、俺も時間に余裕はないんです。だから、あなたの昔話を早く話して貰えませんか?」
これでクイーンの首に剣先が届いた。あとはキングをどう攻めるかだ。
老女が口を開くと、チェックメイトまでの手を考える。
もうすぐ、前世で彼女を苦しめた中核を排除できるだろう。
もし、彼女の障壁が全て取り払われたならば、俺は彼女を手放すことができるだろうか。
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