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52:外交
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緊張が走る広間で、エテルネ大公国とプセアラン王国は互いに偽りだらけの笑みを張り付けていた。
「エテルネ大公国は国土からは想像できないほど豊かで活気のある国ですね」
プセアラン王国の王子であるヴィクトールがその赤褐色の瞳を歪にゆがめてわらった。
「我が国も見習わないといけないところが多くありました」
「そうでしょう。まわりに大国がある中で公国が生き残っているのにはちゃんと理由があるんです。歴史が物語るといったところでしょうか」
談笑している風を装っているそれぞれの主を見ながらまわりは冷たい汗を流していた。
要約すると。
ー 小国のくせに威張ってるんじゃねぇよ。お前ら自慢の港や交易路を奪うことだってできるんだよ。
ー 新参者のくせに調子のってるんじゃねぇよ。そう簡単に落ちる国なわけないだろう。俺らの各国への影響力と軍事力をなめるなよ。
ヴィクトールは本当に友好のために来たのか疑わしく思うほど慇懃無礼な奴だ。そんな奴に下手にでるほど俺はやさしくない。
しかし、敵対的なのはヴィクトールだけで、まわりの使者たちはとりなすように動き回っている。ヴィクトールの態度も俺だけであり、プセアラン王国がこちらと同盟を結びたがっているのは事実だ。
「そう言えば、婚約を控えているとか」
「耳がはやいですね。まだ相手に話を持ちかけている段階ですが」
「フーリエ王国の姫だとか。俺も噂程度には知っていますよ。月のように美しいと。しかし、湖面にうつる月を掴もうとすると歪んで、湖に溺れてしまうでしょうね」
お前には過ぎたる者だといいたいのか。はたまたフーリエ王国と結ぶことでプセアラン王国と敵対することを警戒しているのか。
どちらにしてもいい気分ではないのは確かだ。
「ハハハ。月に惑わされて溺れ死ぬのなら本望ですよ。彼女は俺の長年の片思いなんです。あまりそう身構えないでください。もしかしたらフラれてしまうかもしれないので」
政治的な意図はあくまでもないのだと自嘲するように言った。
まだ彼女からの返事を貰っていないのだ。欲張りにも愛してほしいと思っている。これじゃあ、本当に湖に溺れて死んでしまうだろう。
「我が国は長年中立性を持って、国際的立場を築いてきました。だからこそ、いかなる戦時下でも交易がまわっているのです」
「つまり、今回も中立でいると。フーリエ王国の姫を娶ろうといしてるのに?」
「先ほどもいいましたが、彼女との婚約話は私的な感情です。父の自由な恋愛観を子が真似たと思ってもらっていいです」
父に飛び火してしまったが、すでに父と母の話は国際的にも有名になっている。なんなら感動話として大衆からは人気で彼らをモデルに書籍化までおこなわれている。
「ハハハ。そうですか。なんとも開放的で面白い」
ヴィクトールは口ではそういいながら、顔には野蛮で汚らわしいとでもいいたげだ。血統への意識がこれほどまで強いと大変そうだ。
「そういって貰えて嬉しいです。我らとしてもプセアラン王国の発展には尽力したい。我が国ができることは限られていますが、微力ながらお助けしますよ」
軍事力は提供しないが、交易経済力はどうにか工面してやれるぞと笑えば、ヴィクトールの側で控えていた使者が顔色を変えた。
ここからは具体的な話がはじまった。
関税の優遇の対象やその割合、互の損得を考えながら外務大臣を中心に話をまとめていく。
プセアラン王国への関税優遇をしればディアチーノ家が黙って見ているはずがない。
ヴィクトールとのやり取りは腹立たしいものでしかなく、なんどもテーブルをひっくり返したい気持ちになったが、交渉はこちらの思う通りに進んだ。
「ああ、そうだ。ヴィクトール殿。太りすぎると足元が見えなくなって大きく転倒しますよ」
ヴィクトールはお世辞にも背が高いとはいえないが、ほどよく筋肉のあるバランスの取れた体型だ。
だから、俺の言葉の意味がわからずに怪訝そうな顔をした。ただ俺はその顔に満足した。
それから半年もしないうちに、プセアラン王国の内情に変化が出た。第一王子を中心とむする小国主義派が勢力を大きくしていった。そして数年後には大きな内乱が起きるが、それは俺とは関係のない話だ。
「エテルネ大公国は国土からは想像できないほど豊かで活気のある国ですね」
プセアラン王国の王子であるヴィクトールがその赤褐色の瞳を歪にゆがめてわらった。
「我が国も見習わないといけないところが多くありました」
「そうでしょう。まわりに大国がある中で公国が生き残っているのにはちゃんと理由があるんです。歴史が物語るといったところでしょうか」
談笑している風を装っているそれぞれの主を見ながらまわりは冷たい汗を流していた。
要約すると。
ー 小国のくせに威張ってるんじゃねぇよ。お前ら自慢の港や交易路を奪うことだってできるんだよ。
ー 新参者のくせに調子のってるんじゃねぇよ。そう簡単に落ちる国なわけないだろう。俺らの各国への影響力と軍事力をなめるなよ。
ヴィクトールは本当に友好のために来たのか疑わしく思うほど慇懃無礼な奴だ。そんな奴に下手にでるほど俺はやさしくない。
しかし、敵対的なのはヴィクトールだけで、まわりの使者たちはとりなすように動き回っている。ヴィクトールの態度も俺だけであり、プセアラン王国がこちらと同盟を結びたがっているのは事実だ。
「そう言えば、婚約を控えているとか」
「耳がはやいですね。まだ相手に話を持ちかけている段階ですが」
「フーリエ王国の姫だとか。俺も噂程度には知っていますよ。月のように美しいと。しかし、湖面にうつる月を掴もうとすると歪んで、湖に溺れてしまうでしょうね」
お前には過ぎたる者だといいたいのか。はたまたフーリエ王国と結ぶことでプセアラン王国と敵対することを警戒しているのか。
どちらにしてもいい気分ではないのは確かだ。
「ハハハ。月に惑わされて溺れ死ぬのなら本望ですよ。彼女は俺の長年の片思いなんです。あまりそう身構えないでください。もしかしたらフラれてしまうかもしれないので」
政治的な意図はあくまでもないのだと自嘲するように言った。
まだ彼女からの返事を貰っていないのだ。欲張りにも愛してほしいと思っている。これじゃあ、本当に湖に溺れて死んでしまうだろう。
「我が国は長年中立性を持って、国際的立場を築いてきました。だからこそ、いかなる戦時下でも交易がまわっているのです」
「つまり、今回も中立でいると。フーリエ王国の姫を娶ろうといしてるのに?」
「先ほどもいいましたが、彼女との婚約話は私的な感情です。父の自由な恋愛観を子が真似たと思ってもらっていいです」
父に飛び火してしまったが、すでに父と母の話は国際的にも有名になっている。なんなら感動話として大衆からは人気で彼らをモデルに書籍化までおこなわれている。
「ハハハ。そうですか。なんとも開放的で面白い」
ヴィクトールは口ではそういいながら、顔には野蛮で汚らわしいとでもいいたげだ。血統への意識がこれほどまで強いと大変そうだ。
「そういって貰えて嬉しいです。我らとしてもプセアラン王国の発展には尽力したい。我が国ができることは限られていますが、微力ながらお助けしますよ」
軍事力は提供しないが、交易経済力はどうにか工面してやれるぞと笑えば、ヴィクトールの側で控えていた使者が顔色を変えた。
ここからは具体的な話がはじまった。
関税の優遇の対象やその割合、互の損得を考えながら外務大臣を中心に話をまとめていく。
プセアラン王国への関税優遇をしればディアチーノ家が黙って見ているはずがない。
ヴィクトールとのやり取りは腹立たしいものでしかなく、なんどもテーブルをひっくり返したい気持ちになったが、交渉はこちらの思う通りに進んだ。
「ああ、そうだ。ヴィクトール殿。太りすぎると足元が見えなくなって大きく転倒しますよ」
ヴィクトールはお世辞にも背が高いとはいえないが、ほどよく筋肉のあるバランスの取れた体型だ。
だから、俺の言葉の意味がわからずに怪訝そうな顔をした。ただ俺はその顔に満足した。
それから半年もしないうちに、プセアラン王国の内情に変化が出た。第一王子を中心とむする小国主義派が勢力を大きくしていった。そして数年後には大きな内乱が起きるが、それは俺とは関係のない話だ。
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