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50:ぶつけ合う
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本題に入ろうと、大公は足を組み直した。
秘書官から今回の使節団のリストを渡されて名前を確認する。ブラッドが言ったとおり、ヴィクトール王子が代表をつとめているようだ。
「わざわざ王子を派遣して来ましたか」
「ああ。それほどまでに本気で諸国を併合しようとしているようだ」
「しかし、国内で意見がわれていると聞きましたが」
「ヴィクトール王子が強権的に出たんだろう。彼の国内での後ろ楯は大きいようだ」
彼らが内紛でしばらく揉めてくれればいいのだが。できれば小国主義に軍配があがるとありがたい。国家団結がなされてさらなる強国となって、いずれは牙をむくだろうが、それはまだ先の話である。
それに侵攻されるのは、豊富な鉱山資源のある北東のホローム国と広い農耕地帯を持っているフーリエ王国だ。正直な話、フーリエ王国が損害を被ろうと俺は一向に構わない。ただ、彼女のために動いているだけなのだから。
「中立の立場を示しましょう。荷担することも阻害することもしない。相手にとっては上々でしょう。我が国は大陸交易の要所ですから」
テーブルに大陸の地図をひろげると、宰相や秘書官がそれを囲むように見た。
「確かに、交易の要所という立地からも我が国の発言権はありましたが、殿下のおかげでそれはさらに強まりました。プセアラン王国からしたら、敵対しないというだけで大きいでしょう」
老齢の宰相は俺の意見に同意するように、強めの外交姿勢を示すことを主張した。だが秘書官はそれに対して不安視するように口を開いた。
「ですが、プセアランも王子を派遣してきているのでそう簡単には引き下がるとは思えません」
「それには僕も同意する。いくら軍事力に余裕があるとはいえ、戦争は避けたいですから」
秘書官の危惧に同意するようにルーカスが意見した。
「ならばプセアランに関税優遇措置をあげればよろこんで帰るだろう」
「そうすると、プセアランの力を助長するのでは?」
「取引相手はヴィクトール王子になるが、優遇措置はプセアラン王国に等しく行われる」
老齢の宰相と大公は俺が言いたいことをわかったのか顔色を変えた。
「内紛を引き起こそうということか」
大公の言葉に俺は頷た。
「確かにプセアランは今、方針についてもめていますが」
「他国に介入するのは危険なのでは」
さすがに他国の国政に関与するのは憚られるのか俺の言葉に乗り気ではないようだ。
「あくまでも平等に扱うだけです。小国主義派に接触するのは俺たちではありません。そういうことはファミュタ共和国のディアチーノ家に任せましょう」
ファミュタ共和国のディアチーノ家といえば、大陸でもっとも裕福な家だ。彼らはどこまでも貪欲だ。
「プセアランは宝石がのった泥舟だ。そんな舟に乗るのは愚かだ。だが、ディアチーノ家は宝石のために乗船する。カラスのように光り物には目がないからな」
ディアチーノ家はその莫大な富から親族の利権争いが絶えない家だ。とくに当代は直系がおらず泥沼状態だ。
彼らは持てる財には限度があることを知らず、貪欲に財を集めている。そんな中で新しい国という餌を泳がせれば、他者を蹴落とし成り上がることしか考えていない者たちは泥舟にのりその餌を掴もうとするだろう。
「痕跡がつかないように、ディアチーノ家の者をそそのかしてプセアラン王国の内紛をさそうわけだな」
「はい。彼らは本来は銀行家です。新国家ならではの不安定さにつけいり、金を貸し、搾り取れるまで、バランスよく均衡を保ってくれるでしょう」
これでかつての彼女の口から聞いた忌まわしい男たちの内二人を排除できる。残すはアルリゴー枢機卿の子息と、彼女の国の王太子だ。
「いいだろう。この件はお前に任せる。外務大臣と共に話をすすめなさい」
大公は息子に一任することにし、まわりもそれに反発しなかった。
俺はプセアランのヴィクトール王子を迎える準備をしながら、残りの弊害をどう処理するべきかを考えた。
秘書官から今回の使節団のリストを渡されて名前を確認する。ブラッドが言ったとおり、ヴィクトール王子が代表をつとめているようだ。
「わざわざ王子を派遣して来ましたか」
「ああ。それほどまでに本気で諸国を併合しようとしているようだ」
「しかし、国内で意見がわれていると聞きましたが」
「ヴィクトール王子が強権的に出たんだろう。彼の国内での後ろ楯は大きいようだ」
彼らが内紛でしばらく揉めてくれればいいのだが。できれば小国主義に軍配があがるとありがたい。国家団結がなされてさらなる強国となって、いずれは牙をむくだろうが、それはまだ先の話である。
それに侵攻されるのは、豊富な鉱山資源のある北東のホローム国と広い農耕地帯を持っているフーリエ王国だ。正直な話、フーリエ王国が損害を被ろうと俺は一向に構わない。ただ、彼女のために動いているだけなのだから。
「中立の立場を示しましょう。荷担することも阻害することもしない。相手にとっては上々でしょう。我が国は大陸交易の要所ですから」
テーブルに大陸の地図をひろげると、宰相や秘書官がそれを囲むように見た。
「確かに、交易の要所という立地からも我が国の発言権はありましたが、殿下のおかげでそれはさらに強まりました。プセアラン王国からしたら、敵対しないというだけで大きいでしょう」
老齢の宰相は俺の意見に同意するように、強めの外交姿勢を示すことを主張した。だが秘書官はそれに対して不安視するように口を開いた。
「ですが、プセアランも王子を派遣してきているのでそう簡単には引き下がるとは思えません」
「それには僕も同意する。いくら軍事力に余裕があるとはいえ、戦争は避けたいですから」
秘書官の危惧に同意するようにルーカスが意見した。
「ならばプセアランに関税優遇措置をあげればよろこんで帰るだろう」
「そうすると、プセアランの力を助長するのでは?」
「取引相手はヴィクトール王子になるが、優遇措置はプセアラン王国に等しく行われる」
老齢の宰相と大公は俺が言いたいことをわかったのか顔色を変えた。
「内紛を引き起こそうということか」
大公の言葉に俺は頷た。
「確かにプセアランは今、方針についてもめていますが」
「他国に介入するのは危険なのでは」
さすがに他国の国政に関与するのは憚られるのか俺の言葉に乗り気ではないようだ。
「あくまでも平等に扱うだけです。小国主義派に接触するのは俺たちではありません。そういうことはファミュタ共和国のディアチーノ家に任せましょう」
ファミュタ共和国のディアチーノ家といえば、大陸でもっとも裕福な家だ。彼らはどこまでも貪欲だ。
「プセアランは宝石がのった泥舟だ。そんな舟に乗るのは愚かだ。だが、ディアチーノ家は宝石のために乗船する。カラスのように光り物には目がないからな」
ディアチーノ家はその莫大な富から親族の利権争いが絶えない家だ。とくに当代は直系がおらず泥沼状態だ。
彼らは持てる財には限度があることを知らず、貪欲に財を集めている。そんな中で新しい国という餌を泳がせれば、他者を蹴落とし成り上がることしか考えていない者たちは泥舟にのりその餌を掴もうとするだろう。
「痕跡がつかないように、ディアチーノ家の者をそそのかしてプセアラン王国の内紛をさそうわけだな」
「はい。彼らは本来は銀行家です。新国家ならではの不安定さにつけいり、金を貸し、搾り取れるまで、バランスよく均衡を保ってくれるでしょう」
これでかつての彼女の口から聞いた忌まわしい男たちの内二人を排除できる。残すはアルリゴー枢機卿の子息と、彼女の国の王太子だ。
「いいだろう。この件はお前に任せる。外務大臣と共に話をすすめなさい」
大公は息子に一任することにし、まわりもそれに反発しなかった。
俺はプセアランのヴィクトール王子を迎える準備をしながら、残りの弊害をどう処理するべきかを考えた。
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