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49:帰国
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俺は早馬に乗って帰国を余儀なくされた。
フーリエ王国への暗躍とレティシアの護衛のために部下を一部残していった。必ず戻ってくるという意思表示でもある。
「去り際のエドウィンの顔! 今思い出すだけで腸が煮えくり返りそうだ」
俺が帰国すると知るなり、エドウィンは清々しい顔をして見送ってくれた。あの勝ち誇ったような表情がムカつく。
「そんなこと言ったって仕方ないじゃないですか。ちょっ、安全運転でお願いします」
ブラッドが批難するように後ろから苦言を呈した。
「トニーを置いてきたから、うるさいのが俺の馬に乗っている。なんで、お前は主の馬に乗せてもらっているんだ」
「だって、他にはゴツい奴とヤバい奴しかいなくて殿下が一番安全なんです。わっ! 急に速度あげないでくださいよ」
半ば八つ当たりのように馬を走らせた。
フーリエ王国の王都からエテルネ大公国まで馬を全速力で走らせ乗り捨てながら向かっても、二、三日はかかる。だが、馬を使い潰すほどの緊急性はないため、気持ちだけが先走っているのだ。
「相手のプセアラン王国の内情は?」
「一枚岩ではないようですね。大国主義と小国主義で二分しているようです」
多民族を内包して領土を広げようとする大国主義と単一民族を元にまずは国家団結をはかる小国主義とでプセアラン王国は意見がわれているようだ。
「新興国家らしい内紛だな。それで、どちらの使者が来ているんだ?」
「第二王子のヴィクトール殿下ですから、大国主義と思って貰えれば。同盟でも考えているのかと」
「あの人相の悪そうな奴か」
聖地奪還の祝典の時に顔をあわせた記憶がある。好戦的で悪人面をした慇懃な男だ。
プセアラン王国の対策や、レティシアに関するフーリエ王国に対する処置などを話している内にエテルネ大公国の公都ファドールの関門前にいた。
門衛は俺の姿を確認するとすぐに開門した。城に続く大きな通りを馬で走っていると、歓声に似た声が上がる。
「殿下よ」
「お帰りなさい」
「見ろ、金獅子隊も一緒だ」
「きゃー。サイモンさまー!こっち向いて」
「エリック、かっこいいぞ!」
道を囲むように集まる観衆に手をふって、その声にこたえるが、馬の速度はゆるめない。
「相変わらず人気者だな」
馬の頭一つ分後ろを走る部下のエリックが言った。それに対して、ブラッドが後ろを振り向いて自慢気な態度をした。
「我らが殿下なんだから当然だ。それより、お前たちの仰々しい名前は恥ずかしくないのか? 金獅子隊なんて二つ名」
「別に? な、サイモン」
「ああ。金獅子は殿下を指す言葉なんだから、その隊員の僕たちにぴったりじゃないか」
「お前一人だけモテないからって、そう僻むなよ」
「僻んでない!」
後ろで騒がしいブラッドをどうやって黙らせようかと思っていると、急に静かになった。
城門前には、ブラッドの天敵と俺の叔父であるルーカスらが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、殿下」
「叔父上、それとテネユ侯爵まで出迎えてくれるとは思わなかった」
馬をおりて二人に挨拶していると、ブラッドは俺の後ろで自分の父親から隠れようとした。
「殿下には愚息がお世話になっております。その矮小な息子に少々話があるのでお借りしても?」
「もちろんだ。親子で語り合うこともあるだろう。気にせずに行くといい」
ブラッドは父であるテネユ侯爵に耳を引っ張られながら消えていった。
「派手なことをしているようですね」
「お説教か?」
「まさか。かわいい甥を心配しているんです」
俺がフーリエ王国で何をしているかなどすでに父にも伯父のルーカスにも報告が上がっているのだろう。
「プセアラン王国の使者は?」
「あと数日で着くらしいです」
「間に合ったようでよかった。父上と対外姿勢をどうするか話し合わないとな」
城内を歩きながら外套を脱いで身なりを整える。
城には当然俺たちに使える下働きから書類を抱えて右往左往する文官までいる。俺について帰国した金獅子隊は兵舎へと戻っている。
「父上、ただいま戻りました」
大公の執務室にはいると、自分とそっくりな顔をした、色が違うだけの人間がいた。老けるということを知らない人のようだ。
「呼び戻してすまないな」
大公は書類にサインを書き終えて、顔を上げた。ソファに腰かけるようにすすめられ、荘厳なローテーブルの上にティーカップと菓子が用意される。
「プセアラン王国への外交姿勢にはお前も望むことがあると思ってな」
フーリエ王国の王族であるレティシアと婚約しようとしているのだから全くの無関係とはいかないだろう。ただでさえ、ヨーセアン公爵のまわりを飛び回る煩い蝿はプセアラン産だというのに。
「それにしても派手に動いているらしいな」
「ルーカス伯父上にも言われましたよ」
側で控えているルーカスに視線をやると何食わぬ顔をした。執務室にいる大公の秘書官と宰相は困ったような顔をして笑っている。
「婚約の話は構わない。名分も十分にあるしな。それがお前が望む事だったんだな」
何年も前から計画されていたことだと気付いた父はあきれたように笑った。
「お前には俺とは違う結末をむかえてほしい」
「ええ。そのつもりです」
フーリエ王国への暗躍とレティシアの護衛のために部下を一部残していった。必ず戻ってくるという意思表示でもある。
「去り際のエドウィンの顔! 今思い出すだけで腸が煮えくり返りそうだ」
俺が帰国すると知るなり、エドウィンは清々しい顔をして見送ってくれた。あの勝ち誇ったような表情がムカつく。
「そんなこと言ったって仕方ないじゃないですか。ちょっ、安全運転でお願いします」
ブラッドが批難するように後ろから苦言を呈した。
「トニーを置いてきたから、うるさいのが俺の馬に乗っている。なんで、お前は主の馬に乗せてもらっているんだ」
「だって、他にはゴツい奴とヤバい奴しかいなくて殿下が一番安全なんです。わっ! 急に速度あげないでくださいよ」
半ば八つ当たりのように馬を走らせた。
フーリエ王国の王都からエテルネ大公国まで馬を全速力で走らせ乗り捨てながら向かっても、二、三日はかかる。だが、馬を使い潰すほどの緊急性はないため、気持ちだけが先走っているのだ。
「相手のプセアラン王国の内情は?」
「一枚岩ではないようですね。大国主義と小国主義で二分しているようです」
多民族を内包して領土を広げようとする大国主義と単一民族を元にまずは国家団結をはかる小国主義とでプセアラン王国は意見がわれているようだ。
「新興国家らしい内紛だな。それで、どちらの使者が来ているんだ?」
「第二王子のヴィクトール殿下ですから、大国主義と思って貰えれば。同盟でも考えているのかと」
「あの人相の悪そうな奴か」
聖地奪還の祝典の時に顔をあわせた記憶がある。好戦的で悪人面をした慇懃な男だ。
プセアラン王国の対策や、レティシアに関するフーリエ王国に対する処置などを話している内にエテルネ大公国の公都ファドールの関門前にいた。
門衛は俺の姿を確認するとすぐに開門した。城に続く大きな通りを馬で走っていると、歓声に似た声が上がる。
「殿下よ」
「お帰りなさい」
「見ろ、金獅子隊も一緒だ」
「きゃー。サイモンさまー!こっち向いて」
「エリック、かっこいいぞ!」
道を囲むように集まる観衆に手をふって、その声にこたえるが、馬の速度はゆるめない。
「相変わらず人気者だな」
馬の頭一つ分後ろを走る部下のエリックが言った。それに対して、ブラッドが後ろを振り向いて自慢気な態度をした。
「我らが殿下なんだから当然だ。それより、お前たちの仰々しい名前は恥ずかしくないのか? 金獅子隊なんて二つ名」
「別に? な、サイモン」
「ああ。金獅子は殿下を指す言葉なんだから、その隊員の僕たちにぴったりじゃないか」
「お前一人だけモテないからって、そう僻むなよ」
「僻んでない!」
後ろで騒がしいブラッドをどうやって黙らせようかと思っていると、急に静かになった。
城門前には、ブラッドの天敵と俺の叔父であるルーカスらが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、殿下」
「叔父上、それとテネユ侯爵まで出迎えてくれるとは思わなかった」
馬をおりて二人に挨拶していると、ブラッドは俺の後ろで自分の父親から隠れようとした。
「殿下には愚息がお世話になっております。その矮小な息子に少々話があるのでお借りしても?」
「もちろんだ。親子で語り合うこともあるだろう。気にせずに行くといい」
ブラッドは父であるテネユ侯爵に耳を引っ張られながら消えていった。
「派手なことをしているようですね」
「お説教か?」
「まさか。かわいい甥を心配しているんです」
俺がフーリエ王国で何をしているかなどすでに父にも伯父のルーカスにも報告が上がっているのだろう。
「プセアラン王国の使者は?」
「あと数日で着くらしいです」
「間に合ったようでよかった。父上と対外姿勢をどうするか話し合わないとな」
城内を歩きながら外套を脱いで身なりを整える。
城には当然俺たちに使える下働きから書類を抱えて右往左往する文官までいる。俺について帰国した金獅子隊は兵舎へと戻っている。
「父上、ただいま戻りました」
大公の執務室にはいると、自分とそっくりな顔をした、色が違うだけの人間がいた。老けるということを知らない人のようだ。
「呼び戻してすまないな」
大公は書類にサインを書き終えて、顔を上げた。ソファに腰かけるようにすすめられ、荘厳なローテーブルの上にティーカップと菓子が用意される。
「プセアラン王国への外交姿勢にはお前も望むことがあると思ってな」
フーリエ王国の王族であるレティシアと婚約しようとしているのだから全くの無関係とはいかないだろう。ただでさえ、ヨーセアン公爵のまわりを飛び回る煩い蝿はプセアラン産だというのに。
「それにしても派手に動いているらしいな」
「ルーカス伯父上にも言われましたよ」
側で控えているルーカスに視線をやると何食わぬ顔をした。執務室にいる大公の秘書官と宰相は困ったような顔をして笑っている。
「婚約の話は構わない。名分も十分にあるしな。それがお前が望む事だったんだな」
何年も前から計画されていたことだと気付いた父はあきれたように笑った。
「お前には俺とは違う結末をむかえてほしい」
「ええ。そのつもりです」
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