51 / 74
49:帰国
しおりを挟む
俺は早馬に乗って帰国を余儀なくされた。
フーリエ王国への暗躍とレティシアの護衛のために部下を一部残していった。必ず戻ってくるという意思表示でもある。
「去り際のエドウィンの顔! 今思い出すだけで腸が煮えくり返りそうだ」
俺が帰国すると知るなり、エドウィンは清々しい顔をして見送ってくれた。あの勝ち誇ったような表情がムカつく。
「そんなこと言ったって仕方ないじゃないですか。ちょっ、安全運転でお願いします」
ブラッドが批難するように後ろから苦言を呈した。
「トニーを置いてきたから、うるさいのが俺の馬に乗っている。なんで、お前は主の馬に乗せてもらっているんだ」
「だって、他にはゴツい奴とヤバい奴しかいなくて殿下が一番安全なんです。わっ! 急に速度あげないでくださいよ」
半ば八つ当たりのように馬を走らせた。
フーリエ王国の王都からエテルネ大公国まで馬を全速力で走らせ乗り捨てながら向かっても、二、三日はかかる。だが、馬を使い潰すほどの緊急性はないため、気持ちだけが先走っているのだ。
「相手のプセアラン王国の内情は?」
「一枚岩ではないようですね。大国主義と小国主義で二分しているようです」
多民族を内包して領土を広げようとする大国主義と単一民族を元にまずは国家団結をはかる小国主義とでプセアラン王国は意見がわれているようだ。
「新興国家らしい内紛だな。それで、どちらの使者が来ているんだ?」
「第二王子のヴィクトール殿下ですから、大国主義と思って貰えれば。同盟でも考えているのかと」
「あの人相の悪そうな奴か」
聖地奪還の祝典の時に顔をあわせた記憶がある。好戦的で悪人面をした慇懃な男だ。
プセアラン王国の対策や、レティシアに関するフーリエ王国に対する処置などを話している内にエテルネ大公国の公都ファドールの関門前にいた。
門衛は俺の姿を確認するとすぐに開門した。城に続く大きな通りを馬で走っていると、歓声に似た声が上がる。
「殿下よ」
「お帰りなさい」
「見ろ、金獅子隊も一緒だ」
「きゃー。サイモンさまー!こっち向いて」
「エリック、かっこいいぞ!」
道を囲むように集まる観衆に手をふって、その声にこたえるが、馬の速度はゆるめない。
「相変わらず人気者だな」
馬の頭一つ分後ろを走る部下のエリックが言った。それに対して、ブラッドが後ろを振り向いて自慢気な態度をした。
「我らが殿下なんだから当然だ。それより、お前たちの仰々しい名前は恥ずかしくないのか? 金獅子隊なんて二つ名」
「別に? な、サイモン」
「ああ。金獅子は殿下を指す言葉なんだから、その隊員の僕たちにぴったりじゃないか」
「お前一人だけモテないからって、そう僻むなよ」
「僻んでない!」
後ろで騒がしいブラッドをどうやって黙らせようかと思っていると、急に静かになった。
城門前には、ブラッドの天敵と俺の叔父であるルーカスらが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、殿下」
「叔父上、それとテネユ侯爵まで出迎えてくれるとは思わなかった」
馬をおりて二人に挨拶していると、ブラッドは俺の後ろで自分の父親から隠れようとした。
「殿下には愚息がお世話になっております。その矮小な息子に少々話があるのでお借りしても?」
「もちろんだ。親子で語り合うこともあるだろう。気にせずに行くといい」
ブラッドは父であるテネユ侯爵に耳を引っ張られながら消えていった。
「派手なことをしているようですね」
「お説教か?」
「まさか。かわいい甥を心配しているんです」
俺がフーリエ王国で何をしているかなどすでに父にも伯父のルーカスにも報告が上がっているのだろう。
「プセアラン王国の使者は?」
「あと数日で着くらしいです」
「間に合ったようでよかった。父上と対外姿勢をどうするか話し合わないとな」
城内を歩きながら外套を脱いで身なりを整える。
城には当然俺たちに使える下働きから書類を抱えて右往左往する文官までいる。俺について帰国した金獅子隊は兵舎へと戻っている。
「父上、ただいま戻りました」
大公の執務室にはいると、自分とそっくりな顔をした、色が違うだけの人間がいた。老けるということを知らない人のようだ。
「呼び戻してすまないな」
大公は書類にサインを書き終えて、顔を上げた。ソファに腰かけるようにすすめられ、荘厳なローテーブルの上にティーカップと菓子が用意される。
「プセアラン王国への外交姿勢にはお前も望むことがあると思ってな」
フーリエ王国の王族であるレティシアと婚約しようとしているのだから全くの無関係とはいかないだろう。ただでさえ、ヨーセアン公爵のまわりを飛び回る煩い蝿はプセアラン産だというのに。
「それにしても派手に動いているらしいな」
「ルーカス伯父上にも言われましたよ」
側で控えているルーカスに視線をやると何食わぬ顔をした。執務室にいる大公の秘書官と宰相は困ったような顔をして笑っている。
「婚約の話は構わない。名分も十分にあるしな。それがお前が望む事だったんだな」
何年も前から計画されていたことだと気付いた父はあきれたように笑った。
「お前には俺とは違う結末をむかえてほしい」
「ええ。そのつもりです」
フーリエ王国への暗躍とレティシアの護衛のために部下を一部残していった。必ず戻ってくるという意思表示でもある。
「去り際のエドウィンの顔! 今思い出すだけで腸が煮えくり返りそうだ」
俺が帰国すると知るなり、エドウィンは清々しい顔をして見送ってくれた。あの勝ち誇ったような表情がムカつく。
「そんなこと言ったって仕方ないじゃないですか。ちょっ、安全運転でお願いします」
ブラッドが批難するように後ろから苦言を呈した。
「トニーを置いてきたから、うるさいのが俺の馬に乗っている。なんで、お前は主の馬に乗せてもらっているんだ」
「だって、他にはゴツい奴とヤバい奴しかいなくて殿下が一番安全なんです。わっ! 急に速度あげないでくださいよ」
半ば八つ当たりのように馬を走らせた。
フーリエ王国の王都からエテルネ大公国まで馬を全速力で走らせ乗り捨てながら向かっても、二、三日はかかる。だが、馬を使い潰すほどの緊急性はないため、気持ちだけが先走っているのだ。
「相手のプセアラン王国の内情は?」
「一枚岩ではないようですね。大国主義と小国主義で二分しているようです」
多民族を内包して領土を広げようとする大国主義と単一民族を元にまずは国家団結をはかる小国主義とでプセアラン王国は意見がわれているようだ。
「新興国家らしい内紛だな。それで、どちらの使者が来ているんだ?」
「第二王子のヴィクトール殿下ですから、大国主義と思って貰えれば。同盟でも考えているのかと」
「あの人相の悪そうな奴か」
聖地奪還の祝典の時に顔をあわせた記憶がある。好戦的で悪人面をした慇懃な男だ。
プセアラン王国の対策や、レティシアに関するフーリエ王国に対する処置などを話している内にエテルネ大公国の公都ファドールの関門前にいた。
門衛は俺の姿を確認するとすぐに開門した。城に続く大きな通りを馬で走っていると、歓声に似た声が上がる。
「殿下よ」
「お帰りなさい」
「見ろ、金獅子隊も一緒だ」
「きゃー。サイモンさまー!こっち向いて」
「エリック、かっこいいぞ!」
道を囲むように集まる観衆に手をふって、その声にこたえるが、馬の速度はゆるめない。
「相変わらず人気者だな」
馬の頭一つ分後ろを走る部下のエリックが言った。それに対して、ブラッドが後ろを振り向いて自慢気な態度をした。
「我らが殿下なんだから当然だ。それより、お前たちの仰々しい名前は恥ずかしくないのか? 金獅子隊なんて二つ名」
「別に? な、サイモン」
「ああ。金獅子は殿下を指す言葉なんだから、その隊員の僕たちにぴったりじゃないか」
「お前一人だけモテないからって、そう僻むなよ」
「僻んでない!」
後ろで騒がしいブラッドをどうやって黙らせようかと思っていると、急に静かになった。
城門前には、ブラッドの天敵と俺の叔父であるルーカスらが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、殿下」
「叔父上、それとテネユ侯爵まで出迎えてくれるとは思わなかった」
馬をおりて二人に挨拶していると、ブラッドは俺の後ろで自分の父親から隠れようとした。
「殿下には愚息がお世話になっております。その矮小な息子に少々話があるのでお借りしても?」
「もちろんだ。親子で語り合うこともあるだろう。気にせずに行くといい」
ブラッドは父であるテネユ侯爵に耳を引っ張られながら消えていった。
「派手なことをしているようですね」
「お説教か?」
「まさか。かわいい甥を心配しているんです」
俺がフーリエ王国で何をしているかなどすでに父にも伯父のルーカスにも報告が上がっているのだろう。
「プセアラン王国の使者は?」
「あと数日で着くらしいです」
「間に合ったようでよかった。父上と対外姿勢をどうするか話し合わないとな」
城内を歩きながら外套を脱いで身なりを整える。
城には当然俺たちに使える下働きから書類を抱えて右往左往する文官までいる。俺について帰国した金獅子隊は兵舎へと戻っている。
「父上、ただいま戻りました」
大公の執務室にはいると、自分とそっくりな顔をした、色が違うだけの人間がいた。老けるということを知らない人のようだ。
「呼び戻してすまないな」
大公は書類にサインを書き終えて、顔を上げた。ソファに腰かけるようにすすめられ、荘厳なローテーブルの上にティーカップと菓子が用意される。
「プセアラン王国への外交姿勢にはお前も望むことがあると思ってな」
フーリエ王国の王族であるレティシアと婚約しようとしているのだから全くの無関係とはいかないだろう。ただでさえ、ヨーセアン公爵のまわりを飛び回る煩い蝿はプセアラン産だというのに。
「それにしても派手に動いているらしいな」
「ルーカス伯父上にも言われましたよ」
側で控えているルーカスに視線をやると何食わぬ顔をした。執務室にいる大公の秘書官と宰相は困ったような顔をして笑っている。
「婚約の話は構わない。名分も十分にあるしな。それがお前が望む事だったんだな」
何年も前から計画されていたことだと気付いた父はあきれたように笑った。
「お前には俺とは違う結末をむかえてほしい」
「ええ。そのつもりです」
11
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説

婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

【改稿版】婚約破棄は私から
どくりんご
恋愛
ある日、婚約者である殿下が妹へ愛を語っている所を目撃したニナ。ここが乙女ゲームの世界であり、自分が悪役令嬢、妹がヒロインだということを知っていたけれど、好きな人が妹に愛を語る所を見ていると流石にショックを受けた。
乙女ゲームである死亡エンドは絶対に嫌だし、殿下から婚約破棄を告げられるのも嫌だ。そんな辛いことは耐えられない!
婚約破棄は私から!
※大幅な修正が入っています。登場人物の立ち位置変更など。
◆3/20 恋愛ランキング、人気ランキング7位
◆3/20 HOT6位
短編&拙い私の作品でここまでいけるなんて…!読んでくれた皆さん、感謝感激雨あられです〜!!(´;ω;`)

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる