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43:1周目の彼女と2周目の彼(sideレティシア)
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「姫さま、どうかされましたか? お顔が真っ赤ですが」
走って部屋に入って来た私を心配するように、侍女が声をかけてきた。
「大丈夫。少し頭を冷やしたいから一人にしてほしいの」
「わかりました」
侍女が出ていくと、私はベッドに飛び込んで、枕を思いっきり叩いた。
「もぉー! なんであんなこと言ったのよっ!」
推しの美しい上半身を目の前に、下心まるだしの言葉を言ってしまった。
だらしない顔をしていただろうし、いくら混乱していたからってあの言葉はないでしょ。
「素敵な大胸筋ですねって何よ。死にたい。でも、今日も推しは素敵だったわ」
私の推しは、とある乙女ゲームのサポートキャラだ。ヒロインに淡い思いを抱きつつも、ただの便利キャラとしてその役割を終える。
時には当て馬になったり、道化のようになっていたりして、滑稽なキャラだとさんざんな言われようだが、その生い立ちや性格は攻略対象に並ぶほど壮絶だ。
私は一途で優しい彼が好きだ。
「ヒロインとの出会いのために、タリーム街には手をつけなかったのに……。どこでシナリオが狂ったのかしら」
ヒロインと推しであるギルバートとの出会いはタリーム街だった。
母親の遺品をタリーム街の破落戸に奪われて、そのまま天涯孤独で干からびるように死をまっていたギルバートは、心優しいヒロインの施しをうける。
パンとスープを受けたギルバートはヒロインの優しさに触れ彼女に報いたいと思うようになる。
そうして治安のよくないタリーム街で必死に生き残るうちに武力を身に付けていると、母親の遺言通りに、高貴な人がギルバートを迎えに来た。
実の父親は大公であり、彼と母親をずっと探していた。ブラックマーケットに流れていた遺品のペンダントが流れに流れて、大公のもとにたどり着き、やっとのことで見つけたらしい。
これはアイテムである金色のロケットペンダントに記されているストーリーで、その後のストーリーはよくわからない。
ただ、たかがパンとスープをくれただけの人のことをおもい、必死に生きて、その後もヒロインよりも高い身分を手に入れたというのに、一途に付き従っている彼がいじらしくも愛おしく思えた。
私がヒロインだったらその気持ちに答えてあげたいのに、ゲームはそれを許してくれない。
彼には幸せになって欲しかった。
「まるでワンコみたいでかわいいのに。あの体は……」
思い出して顔をまた真っ赤にした。
「これじゃあ、変態みたい」
落ち着こう。
私は悪女レティシアだ。断罪をさけるためにできることはやってきた。その影響がギルバートにも出てしまったのだろうか。
「私とギルバートさまが婚約だなんて」
まだ考慮期間だとはいえ、こんな話はゲームのシナリオにはなかった。
ルートによってことなるが、基本的にレティシアの婚約相手は王太子だからだ。そしてどんなルートを選ぼうとも、さまざまな理由で婚約破棄されて断罪される。
「人生何周分の徳を積めばこんなことが起きるの」
夢を見ているのではないかと思いたくなるような出来事ばかりだ。
ふと、扉を叩く音が聞こえた。
「トニーです、姫君」
その言葉にはっとする。
ゲームには出てこない人たちがたくさんいる。
私によくしてくれるアルバートや、その娘で侍女をしてくれているアン、有能な執事のダン、いつも美味しいご飯を作ってくれるジョージ、教会の優しいシスター・ミリア。
ギルバートが連れてきた部隊は、隊というには少数だ。一番大きなダッド、顔に傷のある強面のエリック、快活に笑う元気のいいグレン、軟派な雰囲気をもつサイモン、最年少のトニー、参謀のブラッド。
あたりまえだが、皆にはそれぞれ名前があって、それぞれの人生がある。ここはゲームの世界ではなく現実なのだ。
「殿下が、是非オペラに同行させていただきたいとのことです」
扉越しに、少し幼い声がした。
さっき自分で誘ったことを思い出す。合わせる顔がないのに、誘ったからにはやっぱり無しとはいえない。
「わかりました」
半分開いた扉から顔を除かして、私が落ち着くまでの時間稼ぎになればいいと思って、トニーにありもしないドレスコードを伝えた。
それが失敗だと気づいたのは、エスコートしてくれるギルバートを見た時だ。
自分の好みを伝えるものではない。
推しには後光がさしていて、直視できなくなってしまった。
本当に婚約してしまったら、私の心臓がもつのかしら。
走って部屋に入って来た私を心配するように、侍女が声をかけてきた。
「大丈夫。少し頭を冷やしたいから一人にしてほしいの」
「わかりました」
侍女が出ていくと、私はベッドに飛び込んで、枕を思いっきり叩いた。
「もぉー! なんであんなこと言ったのよっ!」
推しの美しい上半身を目の前に、下心まるだしの言葉を言ってしまった。
だらしない顔をしていただろうし、いくら混乱していたからってあの言葉はないでしょ。
「素敵な大胸筋ですねって何よ。死にたい。でも、今日も推しは素敵だったわ」
私の推しは、とある乙女ゲームのサポートキャラだ。ヒロインに淡い思いを抱きつつも、ただの便利キャラとしてその役割を終える。
時には当て馬になったり、道化のようになっていたりして、滑稽なキャラだとさんざんな言われようだが、その生い立ちや性格は攻略対象に並ぶほど壮絶だ。
私は一途で優しい彼が好きだ。
「ヒロインとの出会いのために、タリーム街には手をつけなかったのに……。どこでシナリオが狂ったのかしら」
ヒロインと推しであるギルバートとの出会いはタリーム街だった。
母親の遺品をタリーム街の破落戸に奪われて、そのまま天涯孤独で干からびるように死をまっていたギルバートは、心優しいヒロインの施しをうける。
パンとスープを受けたギルバートはヒロインの優しさに触れ彼女に報いたいと思うようになる。
そうして治安のよくないタリーム街で必死に生き残るうちに武力を身に付けていると、母親の遺言通りに、高貴な人がギルバートを迎えに来た。
実の父親は大公であり、彼と母親をずっと探していた。ブラックマーケットに流れていた遺品のペンダントが流れに流れて、大公のもとにたどり着き、やっとのことで見つけたらしい。
これはアイテムである金色のロケットペンダントに記されているストーリーで、その後のストーリーはよくわからない。
ただ、たかがパンとスープをくれただけの人のことをおもい、必死に生きて、その後もヒロインよりも高い身分を手に入れたというのに、一途に付き従っている彼がいじらしくも愛おしく思えた。
私がヒロインだったらその気持ちに答えてあげたいのに、ゲームはそれを許してくれない。
彼には幸せになって欲しかった。
「まるでワンコみたいでかわいいのに。あの体は……」
思い出して顔をまた真っ赤にした。
「これじゃあ、変態みたい」
落ち着こう。
私は悪女レティシアだ。断罪をさけるためにできることはやってきた。その影響がギルバートにも出てしまったのだろうか。
「私とギルバートさまが婚約だなんて」
まだ考慮期間だとはいえ、こんな話はゲームのシナリオにはなかった。
ルートによってことなるが、基本的にレティシアの婚約相手は王太子だからだ。そしてどんなルートを選ぼうとも、さまざまな理由で婚約破棄されて断罪される。
「人生何周分の徳を積めばこんなことが起きるの」
夢を見ているのではないかと思いたくなるような出来事ばかりだ。
ふと、扉を叩く音が聞こえた。
「トニーです、姫君」
その言葉にはっとする。
ゲームには出てこない人たちがたくさんいる。
私によくしてくれるアルバートや、その娘で侍女をしてくれているアン、有能な執事のダン、いつも美味しいご飯を作ってくれるジョージ、教会の優しいシスター・ミリア。
ギルバートが連れてきた部隊は、隊というには少数だ。一番大きなダッド、顔に傷のある強面のエリック、快活に笑う元気のいいグレン、軟派な雰囲気をもつサイモン、最年少のトニー、参謀のブラッド。
あたりまえだが、皆にはそれぞれ名前があって、それぞれの人生がある。ここはゲームの世界ではなく現実なのだ。
「殿下が、是非オペラに同行させていただきたいとのことです」
扉越しに、少し幼い声がした。
さっき自分で誘ったことを思い出す。合わせる顔がないのに、誘ったからにはやっぱり無しとはいえない。
「わかりました」
半分開いた扉から顔を除かして、私が落ち着くまでの時間稼ぎになればいいと思って、トニーにありもしないドレスコードを伝えた。
それが失敗だと気づいたのは、エスコートしてくれるギルバートを見た時だ。
自分の好みを伝えるものではない。
推しには後光がさしていて、直視できなくなってしまった。
本当に婚約してしまったら、私の心臓がもつのかしら。
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