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39:公爵と大公子
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「姫さま! どこにいらっしてたのですか!?」
侍女と護衛がこちらを見つけて駆け寄ってくる。皆、見慣れた顔だ。
「心配をかけてごめんさない、アン」
「姫さまの姿が見えなくなった時、心臓がとまるかと思いましたよ」
アンはレティシアに抱きつきながらお説教をたれた。
「ところで、そちらの方は?」
落ち着いたアンは俺のことに気づいたらしく、はっとして見出しなりを整えた。
「はじめまして。エテルネ大公国からきましたギルバートです。アルバート卿からお話は聞いてますよ、アン嬢」
アンは情報の処理がうまくできないのか、しばしば沈黙してから驚愕の顔をした。
「え? ギルバートって、あの大公子さまで、大陸の英雄の? 父がなんと……いや、私は何も聞かされていないんですけど? え?」
混乱しているアンに、レティシアはその気持ちわかるわと頷いていた。
そんな彼女たちとととに公爵邸まで行くと、あまり友好的ではない表情をしたエドウィンが迎えてくれた。
ヨーセアン公爵邸は俺の記憶のままの雅やかな外観と洗練された使用人たちがいる、華美すぎない純度の高い場所だった。
「ギルバート殿、これほどはやくつくとは知りませんでした。前もって仰っていただけれは最高のお出迎えをしたものですが」
エドウィンは笑みを浮かべて歓迎しているようで、目は全く笑っていない。だが、そんな姿に臆するものか。
「気にしないでください。俺が予定よりも数時間はやく来てしまったのが悪いんですから」
そう言って申し訳なさそうにすると、罪悪感に駆られる人物が一人いる。
「お兄さま、僭越ながら。ギルバートさまは私が悪漢に襲われそうになったところを助けてくださり、ここまで送ってくださったのです」
予想通りレティシアは俺をかばうようにエドウィンにもの申した。
「本来ならもっと都の視察をしていたでしょうから」
私のせいなんですと、彼女は主張した。
俺はその事を否定しなかった。実際に、あの場面で彼女に会わなければ、視察という名で彼女を探し回っていただろう。それこそ、公爵邸に向かうギリギリの時間まで。
「レティシア、お前は先に部屋へ戻っていなさい」
エドウィンはタメ息をついてから、冷たく言い放った。
レティシアはそれに少し傷ついたような顔をしたが、すぐさま膨れっ面になってエドウィンに舌をだして威嚇して屋敷の中に入っていった。
「とんだお転婆娘だ」
呆れたようにいいながらも、レティシアを見守る瞳はとても温かかった。
「妹を助けていただき感謝します」
「当然のことをしたまでです。それよりも、彼女を襲った者たちはプセアラン王国の言葉で何やら話をしていたようです。それの現場に偶然通りかかった彼女が狙われたようです」
「プセアラン王国……」
またその名前かと、エドウィンは鬱陶しそうな顔をした。
彼の言いたいこともわかる。おそらくプセアラン王国はいつか攻撃をしかけてくるだろう。そのための裏工作と言ったところだろう。証拠は今のところないが心証はある。
問題はそれにどう対策するかだ。誰が裏で糸を引いているのかを知らないと、とかげの尻尾切りで永遠に終わらない。
「レティシアさまを襲った連中は俺の部下に回収させています。どこまで吐くかはわかりませんが、情報は共有させていただきます」
親切な態度をしめす俺にエドウィンは訝しげな視線を向ける。
「それはありがたい話です。しかし、ギルバート殿はどうしてそこまで我が家と懇意にしてくれるのでしょうか」
「滞在させてもらっていますし、恩義もありますから。そう言っても信じてもらえませんよね」
正直な話、フーリエ王国とプセアラン王国のいざこざに関与するなど、エテルネ大公国として何の得はない。まあ、損もないが。
だが、はじめから俺の目的はこれだった。レティシアを、彼女を今度こそ死なせない。そのために今まで生きて行動してきたのだ。
「立ち話もなんですから、中に入って話しませんか? 公爵に望むことはあまり大きなことではありません」
余裕のあるように振る舞ったが、エドウィンとの対談がもっとも大きな関門だ。
できることなら彼を味方につけたい。
侍女と護衛がこちらを見つけて駆け寄ってくる。皆、見慣れた顔だ。
「心配をかけてごめんさない、アン」
「姫さまの姿が見えなくなった時、心臓がとまるかと思いましたよ」
アンはレティシアに抱きつきながらお説教をたれた。
「ところで、そちらの方は?」
落ち着いたアンは俺のことに気づいたらしく、はっとして見出しなりを整えた。
「はじめまして。エテルネ大公国からきましたギルバートです。アルバート卿からお話は聞いてますよ、アン嬢」
アンは情報の処理がうまくできないのか、しばしば沈黙してから驚愕の顔をした。
「え? ギルバートって、あの大公子さまで、大陸の英雄の? 父がなんと……いや、私は何も聞かされていないんですけど? え?」
混乱しているアンに、レティシアはその気持ちわかるわと頷いていた。
そんな彼女たちとととに公爵邸まで行くと、あまり友好的ではない表情をしたエドウィンが迎えてくれた。
ヨーセアン公爵邸は俺の記憶のままの雅やかな外観と洗練された使用人たちがいる、華美すぎない純度の高い場所だった。
「ギルバート殿、これほどはやくつくとは知りませんでした。前もって仰っていただけれは最高のお出迎えをしたものですが」
エドウィンは笑みを浮かべて歓迎しているようで、目は全く笑っていない。だが、そんな姿に臆するものか。
「気にしないでください。俺が予定よりも数時間はやく来てしまったのが悪いんですから」
そう言って申し訳なさそうにすると、罪悪感に駆られる人物が一人いる。
「お兄さま、僭越ながら。ギルバートさまは私が悪漢に襲われそうになったところを助けてくださり、ここまで送ってくださったのです」
予想通りレティシアは俺をかばうようにエドウィンにもの申した。
「本来ならもっと都の視察をしていたでしょうから」
私のせいなんですと、彼女は主張した。
俺はその事を否定しなかった。実際に、あの場面で彼女に会わなければ、視察という名で彼女を探し回っていただろう。それこそ、公爵邸に向かうギリギリの時間まで。
「レティシア、お前は先に部屋へ戻っていなさい」
エドウィンはタメ息をついてから、冷たく言い放った。
レティシアはそれに少し傷ついたような顔をしたが、すぐさま膨れっ面になってエドウィンに舌をだして威嚇して屋敷の中に入っていった。
「とんだお転婆娘だ」
呆れたようにいいながらも、レティシアを見守る瞳はとても温かかった。
「妹を助けていただき感謝します」
「当然のことをしたまでです。それよりも、彼女を襲った者たちはプセアラン王国の言葉で何やら話をしていたようです。それの現場に偶然通りかかった彼女が狙われたようです」
「プセアラン王国……」
またその名前かと、エドウィンは鬱陶しそうな顔をした。
彼の言いたいこともわかる。おそらくプセアラン王国はいつか攻撃をしかけてくるだろう。そのための裏工作と言ったところだろう。証拠は今のところないが心証はある。
問題はそれにどう対策するかだ。誰が裏で糸を引いているのかを知らないと、とかげの尻尾切りで永遠に終わらない。
「レティシアさまを襲った連中は俺の部下に回収させています。どこまで吐くかはわかりませんが、情報は共有させていただきます」
親切な態度をしめす俺にエドウィンは訝しげな視線を向ける。
「それはありがたい話です。しかし、ギルバート殿はどうしてそこまで我が家と懇意にしてくれるのでしょうか」
「滞在させてもらっていますし、恩義もありますから。そう言っても信じてもらえませんよね」
正直な話、フーリエ王国とプセアラン王国のいざこざに関与するなど、エテルネ大公国として何の得はない。まあ、損もないが。
だが、はじめから俺の目的はこれだった。レティシアを、彼女を今度こそ死なせない。そのために今まで生きて行動してきたのだ。
「立ち話もなんですから、中に入って話しませんか? 公爵に望むことはあまり大きなことではありません」
余裕のあるように振る舞ったが、エドウィンとの対談がもっとも大きな関門だ。
できることなら彼を味方につけたい。
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