悪女の騎士

土岐ゆうば(金湯叶)

文字の大きさ
上 下
38 / 74

37:偶然の再会

しおりを挟む
フーリエ王国へ赴く理由はなんでもよかった。

ダグリ領に対する賠償でも、アルフレッドに誘われた歌劇場への見学でも、文化を学びに行くという留学使節団でもよかった。

長期間滞在するなら留学という形の方が都合がいいからと、各方面に連絡し根回しをした。

そのせいか少し時間はかかったが、これでやっと彼女に会うことができる。

守る力を手に入れた。彼女を守ることができるのは俺の隣であり、そのためには婚約者や夫婦という形が望ましい。

彼女に会ったら何と言おうか。

よくも俺を騙したな。

どうして俺の手で君を殺させたんだ。

なぜ俺だったんだ。

恨み言ばかりだが聞きたいことだった。

苦しくなかったのだろうか。

「少し散策するから、お前たちも自由行動してくれ。お小遣いはブラッドからもらえ」

「えっ!? いいですけど、経費で落としてくださいね。ちょっ、トニー節度ってもんがあるだろ」

部下たちとわかれて、俺は生まれそだったタリーム街にむかった。

前世では、レティシアのおかげで栄えた職人街になっていたが、その面影は微塵もない。俺が大公国に向かった時のままの半スラム街でしかなかった。

道端に座っている人、小汚ない子供に、臭い物乞い。

俺が彼女に会う前にここを去ったから再開発しなかったのか?

いや、彼女は道端の草花でさえも憐れみを向ける博愛主義者だ。こんな状況の人たちを見捨てるなんてしないはずだ。

ふと視界の端で銀糸のような美しい髪が見えた。

外套で隠れていて一瞬しか見えなかったが間違いない。

「……ティジさま」

彼女は何かから逃げるように路地裏に走っていく。

治安がいいとは言えない場所の路地裏になんて間違っても足を踏み入れてはいけない。なにより、あそこは行き止まりのはずだ。

彼女を追っていたであろう男たちもそっちに行った。

考えるよりも先に体が動いた。

彼女のあとを追って路地裏にはいると、案の定、よくない輩に絡まれていた。

「やめて! はなして!」

彼女の細い腕を不躾に握る男に殺意がわいた。その手を切り落としたい衝動にかられた。

彼女に気を取られている男を後ろから殴り倒す。

「何しやがる!」

倒した男の残りの仲間二人の視線が彼女から俺にむかった。

「タリーム街の治安がこんなにも悪くなっていたなんて。か弱い女性を追い詰めて乱暴を働くとは。しかもお前たち、この街、いやこの国の人間じゃないだろう」

言葉や服にどこか北特有の訛りや装飾がなされている。

「なっ、ふざけたこといいやがって」

「痛い目みないとわからないようだな」

男たちは粗雑に見えて、剣を習ったことがあるような動きをみせた。だが、剣を抜くほどの相手でもない。

かるく体術でのして、適当に転がす。通りかかった部下にでも処理をまかせよう。

助けた女性と目があった。

銀髪に鮮やかな紫色の瞳が動揺したようにこっちを見つめてくる。

「……。ギルバートさま」

彼女の言葉に違和感を覚えた。

彼女は俺をそんな風に呼ばない。

前世の彼女ではないのか?
いや。それだとどうして俺の名前を知っているんだ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
29話で第一部完です! 第二部の更新は5月以降になるかもしれません…。 詳細は近況ボードに記載します。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

処理中です...