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37:偶然の再会
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フーリエ王国へ赴く理由はなんでもよかった。
ダグリ領に対する賠償でも、アルフレッドに誘われた歌劇場への見学でも、文化を学びに行くという留学使節団でもよかった。
長期間滞在するなら留学という形の方が都合がいいからと、各方面に連絡し根回しをした。
そのせいか少し時間はかかったが、これでやっと彼女に会うことができる。
守る力を手に入れた。彼女を守ることができるのは俺の隣であり、そのためには婚約者や夫婦という形が望ましい。
彼女に会ったら何と言おうか。
よくも俺を騙したな。
どうして俺の手で君を殺させたんだ。
なぜ俺だったんだ。
恨み言ばかりだが聞きたいことだった。
苦しくなかったのだろうか。
「少し散策するから、お前たちも自由行動してくれ。お小遣いはブラッドからもらえ」
「えっ!? いいですけど、経費で落としてくださいね。ちょっ、トニー節度ってもんがあるだろ」
部下たちとわかれて、俺は生まれそだったタリーム街にむかった。
前世では、レティシアのおかげで栄えた職人街になっていたが、その面影は微塵もない。俺が大公国に向かった時のままの半スラム街でしかなかった。
道端に座っている人、小汚ない子供に、臭い物乞い。
俺が彼女に会う前にここを去ったから再開発しなかったのか?
いや、彼女は道端の草花でさえも憐れみを向ける博愛主義者だ。こんな状況の人たちを見捨てるなんてしないはずだ。
ふと視界の端で銀糸のような美しい髪が見えた。
外套で隠れていて一瞬しか見えなかったが間違いない。
「……ティジさま」
彼女は何かから逃げるように路地裏に走っていく。
治安がいいとは言えない場所の路地裏になんて間違っても足を踏み入れてはいけない。なにより、あそこは行き止まりのはずだ。
彼女を追っていたであろう男たちもそっちに行った。
考えるよりも先に体が動いた。
彼女のあとを追って路地裏にはいると、案の定、よくない輩に絡まれていた。
「やめて! はなして!」
彼女の細い腕を不躾に握る男に殺意がわいた。その手を切り落としたい衝動にかられた。
彼女に気を取られている男を後ろから殴り倒す。
「何しやがる!」
倒した男の残りの仲間二人の視線が彼女から俺にむかった。
「タリーム街の治安がこんなにも悪くなっていたなんて。か弱い女性を追い詰めて乱暴を働くとは。しかもお前たち、この街、いやこの国の人間じゃないだろう」
言葉や服にどこか北特有の訛りや装飾がなされている。
「なっ、ふざけたこといいやがって」
「痛い目みないとわからないようだな」
男たちは粗雑に見えて、剣を習ったことがあるような動きをみせた。だが、剣を抜くほどの相手でもない。
かるく体術でのして、適当に転がす。通りかかった部下にでも処理をまかせよう。
助けた女性と目があった。
銀髪に鮮やかな紫色の瞳が動揺したようにこっちを見つめてくる。
「……。ギルバートさま」
彼女の言葉に違和感を覚えた。
彼女は俺をそんな風に呼ばない。
前世の彼女ではないのか?
いや。それだとどうして俺の名前を知っているんだ。
ダグリ領に対する賠償でも、アルフレッドに誘われた歌劇場への見学でも、文化を学びに行くという留学使節団でもよかった。
長期間滞在するなら留学という形の方が都合がいいからと、各方面に連絡し根回しをした。
そのせいか少し時間はかかったが、これでやっと彼女に会うことができる。
守る力を手に入れた。彼女を守ることができるのは俺の隣であり、そのためには婚約者や夫婦という形が望ましい。
彼女に会ったら何と言おうか。
よくも俺を騙したな。
どうして俺の手で君を殺させたんだ。
なぜ俺だったんだ。
恨み言ばかりだが聞きたいことだった。
苦しくなかったのだろうか。
「少し散策するから、お前たちも自由行動してくれ。お小遣いはブラッドからもらえ」
「えっ!? いいですけど、経費で落としてくださいね。ちょっ、トニー節度ってもんがあるだろ」
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前世では、レティシアのおかげで栄えた職人街になっていたが、その面影は微塵もない。俺が大公国に向かった時のままの半スラム街でしかなかった。
道端に座っている人、小汚ない子供に、臭い物乞い。
俺が彼女に会う前にここを去ったから再開発しなかったのか?
いや、彼女は道端の草花でさえも憐れみを向ける博愛主義者だ。こんな状況の人たちを見捨てるなんてしないはずだ。
ふと視界の端で銀糸のような美しい髪が見えた。
外套で隠れていて一瞬しか見えなかったが間違いない。
「……ティジさま」
彼女は何かから逃げるように路地裏に走っていく。
治安がいいとは言えない場所の路地裏になんて間違っても足を踏み入れてはいけない。なにより、あそこは行き止まりのはずだ。
彼女を追っていたであろう男たちもそっちに行った。
考えるよりも先に体が動いた。
彼女のあとを追って路地裏にはいると、案の定、よくない輩に絡まれていた。
「やめて! はなして!」
彼女の細い腕を不躾に握る男に殺意がわいた。その手を切り落としたい衝動にかられた。
彼女に気を取られている男を後ろから殴り倒す。
「何しやがる!」
倒した男の残りの仲間二人の視線が彼女から俺にむかった。
「タリーム街の治安がこんなにも悪くなっていたなんて。か弱い女性を追い詰めて乱暴を働くとは。しかもお前たち、この街、いやこの国の人間じゃないだろう」
言葉や服にどこか北特有の訛りや装飾がなされている。
「なっ、ふざけたこといいやがって」
「痛い目みないとわからないようだな」
男たちは粗雑に見えて、剣を習ったことがあるような動きをみせた。だが、剣を抜くほどの相手でもない。
かるく体術でのして、適当に転がす。通りかかった部下にでも処理をまかせよう。
助けた女性と目があった。
銀髪に鮮やかな紫色の瞳が動揺したようにこっちを見つめてくる。
「……。ギルバートさま」
彼女の言葉に違和感を覚えた。
彼女は俺をそんな風に呼ばない。
前世の彼女ではないのか?
いや。それだとどうして俺の名前を知っているんだ。
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