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36:口実
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戦闘が一段落し、アルバートと少し話すとちょうど領地にいるというヨーセアン公爵と会うことになった。
「エテルネの大公子殿、ご尽力に感謝します」
ヨーセアン公爵であるエドウィンと対等の立場で扱われることになんだか違和感を覚えた。だがそれをさとられないように対外的な笑みをはりつける。
「いえ。そちらのアルバート卿にかつて助けられた恩返しだと思ってください」
「その話はアルバートから聞き及んでいます。しかし、他国の領地戦に貴殿が関与してよかったのか」
「そのことですが。実は、たまたま通っていた道にダグリ領のゲリラ隊になぜか攻撃されまして」
ヨーセアン公爵のためではなく、あくまでも攻撃された報復という体裁をとる。
「それはとんだ災難だったでしたね。貴殿らがダグリの隠れた兵をとらえていなかった、こちらの被害は甚大だったでしょう。何か礼をしなければなりませんね」
エドウィンも俺たちの建前を理解しているようだ。前世ではつかえてい人の兄として、上司としていた彼が、こうやって対等になると食えない奴だと思いしらされる。
「礼だなんて。ただ、フーリエ王国にしばらく滞在する予定があるので、親しくしていただけると嬉しいです。フーリエ王国には友人がいないので」
「そんなことなら、滞在期間中は我がタウンハウスに招待しましょう」
その言葉を待っていた。
やっと彼女に会える。
舞い踊りそうな気持ちに蓋をして、エドウィンに感謝の言葉を伝えた。
「そういえば、ダグリ領の兵の中に北訛りで話す兵士たちが見受けられました。まるで、プセアラン王国の者のように。最近の流行りですか? あまり、いい流行ではないですね」
ヨーセアン領やダグリ領は南に近い西であり、フーリエ王国の首都とも近いため標準語圏なはずだ。
俺のいいたいことを理解したエドウィンはあくまでも表情は崩さなかった。
「忠告いたみいる。領内の風紀を取り締まりましょう」
エドウィンとの会談を終えて、俺はアルバートに会いに行った。
今世の彼は五体満足でいる。彼を実の父のように慕っていた彼女が悲しむことはないし、アンらも喜ぶだろう。
アルバートは元気すぎるくらいで、俺の部下たちと手合わせをしていた。
「あんなに小さかった少年がこんなに立派になって助けてくれるなんて思ってもみませんでした」
アルバートは快活な笑顔を浮かべた。
そんなにかしこまらないで欲しいのだが、主君と同じ立場の人間にそうできないのもわかっている。
しかし、かつて鬼のようにしごいてきた師匠に丁寧に扱われるのはむず痒い。
「あなたのおかげで父に会うことができました。あなずっと、昔から感謝しているんです」
「大袈裟ですよ。ほっておけなかっただけですから。それに、あの時捕まえた男のおかげでブラックマーケットを取り締まることができたんです」
それはかつて彼女がおこなったことだ。その時に、俺のペンダントを見つけたと言っていた。きっと全て知っていたんだろう。
「殿下、殿下。そんなことより、アルバート卿はとても強いんですよ。あのトニーを黙らしたんですから」
ブラッドは自分のことのように、地面に座ったトニーをさして言った。
「殿下と剣筋が似ていたから気を取られただけだし! 余計なこと言うなよ、ブラッド!」
それは当然なことだ。アルバートは俺の師匠なのだから。
部隊の中で最年少のトニーは、天才剣士ともてはやされていただけに、すこし意固地になってブラッドに八つ当たりをした。
「ブラッド、仕事だ。後始末を頼んだ。それと近々フーリエ王国に行く」
「そうなると思ってました。私だけ仕事量多くないですかぁ?」
「なんのために非戦闘員であるお前を連れてきたと思っているんだ。トニーの馬にただ乗りしたんだろ」
「ただじゃありませんー。小遣いをせびられましたー」
ブラッドは文句をいいながらも立ち上がって、ヨーセアン公爵の事務官と話し合いをしに行った。
今回のダッド領とヨーセアン領の領地戦への参入をめぐっての意見表明と、ダッド領からの攻撃を受けたことに対する責任追及だ。
これで最悪の事態を回避し、恩も売れた。一度帰国して、彼女に会う準備をしよう。
もうすぐだ。
もうすぐ彼女に会える。
愛おしくも憎らしく、かならず幸せにならなないと行けない最愛の人。
「エテルネの大公子殿、ご尽力に感謝します」
ヨーセアン公爵であるエドウィンと対等の立場で扱われることになんだか違和感を覚えた。だがそれをさとられないように対外的な笑みをはりつける。
「いえ。そちらのアルバート卿にかつて助けられた恩返しだと思ってください」
「その話はアルバートから聞き及んでいます。しかし、他国の領地戦に貴殿が関与してよかったのか」
「そのことですが。実は、たまたま通っていた道にダグリ領のゲリラ隊になぜか攻撃されまして」
ヨーセアン公爵のためではなく、あくまでも攻撃された報復という体裁をとる。
「それはとんだ災難だったでしたね。貴殿らがダグリの隠れた兵をとらえていなかった、こちらの被害は甚大だったでしょう。何か礼をしなければなりませんね」
エドウィンも俺たちの建前を理解しているようだ。前世ではつかえてい人の兄として、上司としていた彼が、こうやって対等になると食えない奴だと思いしらされる。
「礼だなんて。ただ、フーリエ王国にしばらく滞在する予定があるので、親しくしていただけると嬉しいです。フーリエ王国には友人がいないので」
「そんなことなら、滞在期間中は我がタウンハウスに招待しましょう」
その言葉を待っていた。
やっと彼女に会える。
舞い踊りそうな気持ちに蓋をして、エドウィンに感謝の言葉を伝えた。
「そういえば、ダグリ領の兵の中に北訛りで話す兵士たちが見受けられました。まるで、プセアラン王国の者のように。最近の流行りですか? あまり、いい流行ではないですね」
ヨーセアン領やダグリ領は南に近い西であり、フーリエ王国の首都とも近いため標準語圏なはずだ。
俺のいいたいことを理解したエドウィンはあくまでも表情は崩さなかった。
「忠告いたみいる。領内の風紀を取り締まりましょう」
エドウィンとの会談を終えて、俺はアルバートに会いに行った。
今世の彼は五体満足でいる。彼を実の父のように慕っていた彼女が悲しむことはないし、アンらも喜ぶだろう。
アルバートは元気すぎるくらいで、俺の部下たちと手合わせをしていた。
「あんなに小さかった少年がこんなに立派になって助けてくれるなんて思ってもみませんでした」
アルバートは快活な笑顔を浮かべた。
そんなにかしこまらないで欲しいのだが、主君と同じ立場の人間にそうできないのもわかっている。
しかし、かつて鬼のようにしごいてきた師匠に丁寧に扱われるのはむず痒い。
「あなたのおかげで父に会うことができました。あなずっと、昔から感謝しているんです」
「大袈裟ですよ。ほっておけなかっただけですから。それに、あの時捕まえた男のおかげでブラックマーケットを取り締まることができたんです」
それはかつて彼女がおこなったことだ。その時に、俺のペンダントを見つけたと言っていた。きっと全て知っていたんだろう。
「殿下、殿下。そんなことより、アルバート卿はとても強いんですよ。あのトニーを黙らしたんですから」
ブラッドは自分のことのように、地面に座ったトニーをさして言った。
「殿下と剣筋が似ていたから気を取られただけだし! 余計なこと言うなよ、ブラッド!」
それは当然なことだ。アルバートは俺の師匠なのだから。
部隊の中で最年少のトニーは、天才剣士ともてはやされていただけに、すこし意固地になってブラッドに八つ当たりをした。
「ブラッド、仕事だ。後始末を頼んだ。それと近々フーリエ王国に行く」
「そうなると思ってました。私だけ仕事量多くないですかぁ?」
「なんのために非戦闘員であるお前を連れてきたと思っているんだ。トニーの馬にただ乗りしたんだろ」
「ただじゃありませんー。小遣いをせびられましたー」
ブラッドは文句をいいながらも立ち上がって、ヨーセアン公爵の事務官と話し合いをしに行った。
今回のダッド領とヨーセアン領の領地戦への参入をめぐっての意見表明と、ダッド領からの攻撃を受けたことに対する責任追及だ。
これで最悪の事態を回避し、恩も売れた。一度帰国して、彼女に会う準備をしよう。
もうすぐだ。
もうすぐ彼女に会える。
愛おしくも憎らしく、かならず幸せにならなないと行けない最愛の人。
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