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「なんだ、そんなことか」
大公から聞いた話を公爵に話すと、既に知っておりとるに足らないと言いたげな態度をされた。
「大方、反王権の地方領主や勝手に張り合ってくるエカテ公爵あたりが仕掛けたものだろう。陛下もこの不名誉な噂を危惧されており、噂の出所を探っているところだ」
あの公爵が何もしていないわけがなく、俺が何かを言える立場ではないらしい。
「それよりも、ティジが婚約話を全て断りたいと言ったらしいな」
なんとも耳がはやいことだ。しかも今までで一番嬉しそうだ。
「王太子にはエカテ公爵令嬢あたりをあてがえばいいだろう。お前が大公と良好な関係を築けるようだから、野蛮な新興国の王子とも結婚しなくていい。金だけが取り柄の家との結婚にメリットもない。聖書よりも経済書を読む時代に教会の権威などいらん」
公爵はすべての婚約話にそれらしい理由をつけて送り返した。俺としてもレティシアが誰かのものにならなくて安心している。
「閣下がすべて処理してくださったの?」
公爵との話をレティシアに伝えると、少し驚いた様子を見せた。
「でもまずいわね。王太子の婚約者がオリヴィア嬢になるなんて。今ごろジュリアと出会って……」
「どうかなさりましたか?」
「きっとアルフレッドはジュリアと出会って恋に落ちているはずよ。オリヴィア嬢と諍いが起きる気がするの」
なんとも聞き覚えのある話だ。まるでエテルネ大公の話をきいている気分だ。
「つまり婚約がうまくいかないと?」
「十中八九そうね。今までもそうだったもの。エカテ公爵にまで飛び火して混乱しなければいいのだけれど」
俺にはよくわからない話だが、突っ込んでまで知ろうとも思わない。レティシアについていくだけいいのだから、知る必要などない。
「エテルネ大公から、ティジさまに関するよくない噂をききました」
「私が悪女だというものかしら」
やはりレティシアも既に知っていたようで、この話に驚いた様子もなく受け入れていた。
「バティは社交に疎いから知らなかったのね。私、実は名高い悪女なのよ。傲慢で権力を笠にやりたい放題。使用人を痛めつけて、気に入らない令嬢には熱々の紅茶をかけるの。私より目立つドレスの子にはワインを頭からかぶせるのよ」
レティシアはおかしそうに笑ったが、瞳はどこか寂しそうだった。
「本当にそのようなことを?」
俺は彼女がそんなことをするとは思っていない。もし、そんなことをしたとしたら何か理由があるはずだ。
「まさか。でもね、私がどれほどいい子に振る舞っても、まわりは神様から与えられた瞳をもって違うように見るの。そういう風に世界のルールがあって、私はいくら頑張っても道化なの」
彼女の言っている半分も理解できなかった。ただ、彼女は悪いことなどしておらず、まわりが誤解をしているということだけはわかる。
「俺はティジさまが優しく素晴らしい人だと知っています。屋敷のみんなも、閣下もです」
「ありがとう。……そうね。もう時間がないのかもしれないわ」
レティシアの時間が何の刻限をさしているのかはわからなかった。だが、最近の彼女は何かに追われているような、どこか死に急いでいるような気がした。
日がな一日、人形のように過ごしては、少し寂しそうな顔をする。そんな彼女に息抜きにと話し相手にアンをつれてきたり、外出を促したりした。だがそんなことはあまり意味をなさなかった。
そんなある日、公爵とレティシアの会話を偶然耳にした時に疑念が生まれ膨れ上がった。
「なぜギルバートを拾った。お前のすることだから何か意味があると思い黙認したが、まさか大公の子だと知ってか?」
「はい。ですが、それが目的ではありません。彼に私を殺させる為に連れてきました。死ぬ時ぐらい、痛い思いはしたくないじゃないですか。せめて幸せな気持ちで死にたいと願う私のわがままです」
「本気で言っているのか」
「はい。ですからどうか愚妹の頼みをきいてください。最後のお願いです、お兄さま」
レティシアが公爵にした頼みがいったい何なのかわからないが、俺は聞いてはいけない、知りたくない話を聞いてしまった。
あの日、彼女が手をさしのべた時からすべて彼女の掌の上だったとでもいうのだろうか。
大公から聞いた話を公爵に話すと、既に知っておりとるに足らないと言いたげな態度をされた。
「大方、反王権の地方領主や勝手に張り合ってくるエカテ公爵あたりが仕掛けたものだろう。陛下もこの不名誉な噂を危惧されており、噂の出所を探っているところだ」
あの公爵が何もしていないわけがなく、俺が何かを言える立場ではないらしい。
「それよりも、ティジが婚約話を全て断りたいと言ったらしいな」
なんとも耳がはやいことだ。しかも今までで一番嬉しそうだ。
「王太子にはエカテ公爵令嬢あたりをあてがえばいいだろう。お前が大公と良好な関係を築けるようだから、野蛮な新興国の王子とも結婚しなくていい。金だけが取り柄の家との結婚にメリットもない。聖書よりも経済書を読む時代に教会の権威などいらん」
公爵はすべての婚約話にそれらしい理由をつけて送り返した。俺としてもレティシアが誰かのものにならなくて安心している。
「閣下がすべて処理してくださったの?」
公爵との話をレティシアに伝えると、少し驚いた様子を見せた。
「でもまずいわね。王太子の婚約者がオリヴィア嬢になるなんて。今ごろジュリアと出会って……」
「どうかなさりましたか?」
「きっとアルフレッドはジュリアと出会って恋に落ちているはずよ。オリヴィア嬢と諍いが起きる気がするの」
なんとも聞き覚えのある話だ。まるでエテルネ大公の話をきいている気分だ。
「つまり婚約がうまくいかないと?」
「十中八九そうね。今までもそうだったもの。エカテ公爵にまで飛び火して混乱しなければいいのだけれど」
俺にはよくわからない話だが、突っ込んでまで知ろうとも思わない。レティシアについていくだけいいのだから、知る必要などない。
「エテルネ大公から、ティジさまに関するよくない噂をききました」
「私が悪女だというものかしら」
やはりレティシアも既に知っていたようで、この話に驚いた様子もなく受け入れていた。
「バティは社交に疎いから知らなかったのね。私、実は名高い悪女なのよ。傲慢で権力を笠にやりたい放題。使用人を痛めつけて、気に入らない令嬢には熱々の紅茶をかけるの。私より目立つドレスの子にはワインを頭からかぶせるのよ」
レティシアはおかしそうに笑ったが、瞳はどこか寂しそうだった。
「本当にそのようなことを?」
俺は彼女がそんなことをするとは思っていない。もし、そんなことをしたとしたら何か理由があるはずだ。
「まさか。でもね、私がどれほどいい子に振る舞っても、まわりは神様から与えられた瞳をもって違うように見るの。そういう風に世界のルールがあって、私はいくら頑張っても道化なの」
彼女の言っている半分も理解できなかった。ただ、彼女は悪いことなどしておらず、まわりが誤解をしているということだけはわかる。
「俺はティジさまが優しく素晴らしい人だと知っています。屋敷のみんなも、閣下もです」
「ありがとう。……そうね。もう時間がないのかもしれないわ」
レティシアの時間が何の刻限をさしているのかはわからなかった。だが、最近の彼女は何かに追われているような、どこか死に急いでいるような気がした。
日がな一日、人形のように過ごしては、少し寂しそうな顔をする。そんな彼女に息抜きにと話し相手にアンをつれてきたり、外出を促したりした。だがそんなことはあまり意味をなさなかった。
そんなある日、公爵とレティシアの会話を偶然耳にした時に疑念が生まれ膨れ上がった。
「なぜギルバートを拾った。お前のすることだから何か意味があると思い黙認したが、まさか大公の子だと知ってか?」
「はい。ですが、それが目的ではありません。彼に私を殺させる為に連れてきました。死ぬ時ぐらい、痛い思いはしたくないじゃないですか。せめて幸せな気持ちで死にたいと願う私のわがままです」
「本気で言っているのか」
「はい。ですからどうか愚妹の頼みをきいてください。最後のお願いです、お兄さま」
レティシアが公爵にした頼みがいったい何なのかわからないが、俺は聞いてはいけない、知りたくない話を聞いてしまった。
あの日、彼女が手をさしのべた時からすべて彼女の掌の上だったとでもいうのだろうか。
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