悪女の騎士

土岐ゆうば(金湯叶)

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3:騎士団

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アルバートは快活でいて侠気のある人であった。そして騎士団長なだけあって多くの人に慕われている。

「ここがお前の部屋だ。支給の服はすでにクローゼットに入ってるが、サイズが合わなければいってくれ」

衣食住は保証され、正式に騎士になれば給料も出るらしい。今までの暮らしに比べたら天と地ほど違う。

「これから弟子になるわけだ。俺のことは気軽に師匠と呼べ」

気軽とは一体なんだろうとアルバートを胡乱な目でみる。だが彼は気にした様子もなく話を続ける。

「今日はゆっくり休め。訓練開始は三日後だ。それまで姫さまに言われたとおりに肉をつけろ」

グシャグシャと頭を撫でられた。癖なのだろうか。

「お師匠さまに何か聞きたいことはあるか?」

「公爵さまに挨拶をしなくていいのか?」

娘が素性もしれない男を連れてきたのに、公爵はとくに何も言ってこない。知らないだけかもしれないが、それでも突如現れたのは自分に対してまわりは歓迎しており、不思議であった。

「閣下は忙しいからな。それに姫さまのことは良くも悪くも放任なさっているから気にすることはない」

アルバートの言葉に彼女が寂しがりだということに納得してしまった。

「なんで姫さまって呼んでいるんだ?」

「そりゃぁ、姫さまが国王陛下の姪で、王位継承順第四位の歴としたお姫様だからだ」

その事実に戦々恐々とした。

とんでもない所に来てしまったのかもしれないと今さら気づいてしまった。

「なんで俺なんか拾ったんだ……」

「さあな。まあ、姫さまの期待に応えれるように頑張ることだ。あと言葉遣いはどうにかしないとな。訓練まで三日は暇なんだからちょっとは教養を身につけないとな。姫さまの専属騎士になれないぞ」

そう言われると弱かった。

既にあの人の側にいたいと、役に立ちたいと思うようになってしまっていたのだから。

「まあ、ひとまず今日は休め」

アルバートは細かいことはまた明日にでも話すと言って頭をくしゃくしゃにして出ていった。

俺はベッドに横になった。固い土の上ではなく柔らかなマットと枕に感動した。

一日で人生は大きく変わった。

母の言った来るかもわからない迎えを待つよりもずっと現実的な選択をした。

これから生まれ変わって新たな道を歩むのだと希望に胸を踊らせた。





翌朝、部屋をノックする音で目を覚まして扉を開けるとそこにはレティシアがいた。

「おはよう、バティ。よく眠れた?」

なぜ騎士の宿舎にいるのか、こんな朝早くから何の用だろうかと言いたいことは沢山あった。だが最も言いたいことはそんなつまらないことではなかった。

「姫さま、ありがとうございます。俺なんかを拾ってくれて」

昨日言えなかった感謝の言葉を言った。

「姫さまなんてやめてちょうだい。ティジって、あなたはそう呼んで」

「ティジさま」

「うん」

レティシアは満足気に笑った。

「ご飯は食べた? まだなら一緒に食べましょう」

先ほど起床したばかりなので朝食は当然食べていない。きっと彼女もそれをわかっていて聞いたのかもしれない。

「まだ、です」

「よかった。あなたは見習い騎士のまえに私のお客さまだもの。一緒に食事くらい許されるわ」

レティシアは俺の手をひいた。

てっきり食事は屋敷の豪華な食堂で食べるものだと思っていたが、彼女は宿舎の一階にある騎士たちの食堂の一角に座った。

宿舎に住む騎士たちはなれた様子で彼女に挨拶をした。

「姫さま、おはようございます」

「今日の調理担当はジミー副団長なんで、玉子は全部スクランブルエッグですよ」

「お! お前が噂の新人か」

「ベーコンをわけてやるよ。しっかり食って大きくなれよ、チビ」

騎士たちは気さくで主人の気性をあらわしているようだ。とても好意的で居心地のよさを感じた。

「いい人たちでしょ。一人は寂しいから時々、騎士団の人たちや使用人たちとまざってご飯を食べてるの。でも、本当に時々よ」

貴族の、しかも王位継承権をもつ者が下々の者と食事を共にするなど体面は良くないのだろう。だから彼女は取り繕うように一言足した。

「そうだ。アルバートから聞いたのだけれど、本格的に訓練がはじまるまで教養を学ぶのでしょ? だったら私が教えてあげるわ」

レティシアは自信満々に胸を叩いてそう言った。


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