悪女の騎士

土岐ゆうば(金湯叶)

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1:拾った仔犬

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俺の人生は決して輝かしいものではなかった。

まだ十年しか生きていない少年が人生を語るのは馬鹿げているかもしれないが、ボロ布を纏って人気のない路地に寝転がっている人の人生が輝かしいなんて誰も思わないだろう。

母親は数年前に流行り病で儚くなった。最後の言葉は夢見がちな母にぴったりなものであった。

「あなたのお父さんは高貴な方なの。これを持っていればいずれむかえに来てくれるわ」

母は高価そうな宝石の装飾がついたロケットペンダントを渡した。

その日の食事すら怪しいというのに、年端もいかない子供にそれだけを残した母はやはり世間から少しはずれていたのだろう。

母が死んでからはさらに暮らしは苦しくなった。もともとスラムのような場所だけあって物乞いも孤児が大勢いても、救ってくれる人はいない。それどころか俺が唯一持っていた母の遺品を奪う者がいるほどだ。

ゴミをあさってなんとか命をつないでいたが、その場所さえ似たような境遇の孤児に奪われた。

軟弱な俺は常に何かを奪われてばかりだった。

そんな時、一筋の光がさした。

「あなた。よかったら私の騎士にならない?」

地面に這いつくばっている俺とは比べることなど出来ないほど綺麗な少女が手をさしのべた。

絹糸のように滑らかで輝く銀髪に包まれた顔はあどけなく、バイオレットの瞳は無垢であった。

みたこともないのに天使とはきっと彼女のことであり、自分をむかえに来たのだと思った。

手をとりたかった。

だが美しい天使を汚してしまうことを恐れて触れることすら厭われた。

「こんな所にいるよりも私と一緒に来ない? いやになったら勝手に出て行ってもいいから」

少女は不器用に笑った。

その時、目の前の子は自分と同じ人間なのだと知った。

迷わずその手を取った。藁にもすがる思いだった。まだ生きたいと、彼女の側にいたいと思った。

「私はレティシア。あなたのお名前は?」

少女はレティシアと名乗り、俺の手を強く握った。

汚いと振り払うこともせず、臭いと顔をしかめることもせずに嬉しそうに笑った。

「ギルバート」

「よろしくね、バティ」

愛称などはじめてなのに彼女にそう呼ばれると妙に耳馴染みがした。

そうして俺は彼女の元に身を寄せた。貴族のお嬢様の気まぐれだといわれればそれまでかもしれないが、彼女が飽きるまでは側にいても許されるだろう。


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