6 / 13
6 : 慈愛
しおりを挟む
「猊下、ぼーっとして大丈夫ですか?」
聖騎士のカルロが声をかけてきた。
今は神殿が開放されている時間帯であり、神官たちによる大衆の治療を行っている。
もちろんその中に神官長であるアメデアの姿もある。
「大丈夫だよ。少し、昔のことを思い出していたんだ」
「昔ですか?」
アメデアがこうやって人々のために尽くしてきて何年も経った。
はじめはただ、リュアオスと繋がっているためであった。だが、神官の上層にいくにつれて、リュアオスは神託を下し、災禍や国難の恐れがある都度にしかアメデアを抱かなくなった。そして、リュアオスの恩寵を受けたあとは漲る神聖力をもって災禍を最小限のものとした。
まわりは神の代理人だともてはやすが、アメデアはかつての恋人どうしの遊び笑いあった時が懐かしく恋しい。
神の心が欲しいなどと自分が貪欲なことは重々承知しており、今の淡白な関係でもリュアオスと繋がっていられるならと受け入れている。
「カルロは恋人や好きな人はいるかい?」
「はい!? こ、恋人ですか? というか猊下、俺の名前をご存知なのですか?」
カルロは突然の質問に声を裏返して返事をした。疑問符の多い返答にアメデアは笑った。
「もちろん、私の騎士なのだから覚えているとも。カルロは護衛騎士のなかで一番若いだろう。別に聖職者だからって恋愛を禁止しているわけじゃないんだから」
アメデアはリュアオス神に全てを捧げたためにそうなっているが、神聖力をかけた神への誓いでないかぎりそのような掟はない。
「俺はそういうのは……」
「そうかい? 君は愛らしい顔つきをしているし、聖騎士だ。人気もあるだろう。かつては年長の指導者もいそうだ」
アメデアは目の前にいる少年の擦りむいた膝を治療して頭を撫でた。手を振ってお別れを告げる。
「俺のまわりにはいましたが、俺自身にはいませんでした」
「珍しいね。騎士なんていう職種は特にそういったことが顕著だから、少し驚いたよ」
騎士は上下関係がはっきりとしており、「年長者」が「年少者」を教え導くことは慣例化している。優秀な戦士を育てるためにも大人による指導というものが必要だからだ。
「若い方いまの内が華だよ」
少年愛は善であるが、17、8を越えると受け入れられなくなる。それは同性愛という逸脱したものとなる。
あくまで年長の者が年少の者を愛するのは指導であり、成熟した大人がいつまでも受け身であることは侮蔑の対象なのだ。
「猊下は若々しくてお綺麗ですよ!」
「ハハハ。おじさんに向かって若々しいなんて、気をつかわせてしまったかな」
「そんな。猊下ははじめてお会いした時からおかわりありません」
カルロの言葉は決してお世辞などではなかった。
カルロがはじめてアメデアに会ったのは、まだ10かそこらこ年齢の時だった。建設中の建物の倒壊事故に巻き込まれ、死にかけていた時だった。両親が神殿に駆け込み、慈悲深い神官長に治療をしてもらったのだ。美しい天使が迎えに来たのだと思ったほどだ。
あれから十数年経っていてもアメデアの容貌も神聖力も衰えることなく輝いていた。
「猊下、大変です! 東部で疫病が」
若い神官が慌てた様子で走ってきた。
疫病の流行と聞いてもアメデアはさほど驚いた様子を見せず毅然としていた。
「ひとまず東部へ行けるものを募ってください。国がどのような判断を下すかわかりませんが、おそらく東部との往来は制限されます。東部への支援物資リストをつくってください。私も東部へ向かいます」
アメデアは神殿全体にわたるような広範囲の治癒の術を施して事態の詳細確認と王国への親書をしたためた。
そしてその日のうちに引き継ぎをすませて、本人はすぐに東部へと向かった。
「さすが猊下だ」
「あの人がいればなんとかなる」
皆は大きな期待と希望を抱いた。
今代のリュオス神の神官長にはそれほどの能力がある。疫病の終息はもちろん、アメデアが祈ればその年は五穀豊穣だ。
そんな莫大な力を悪用することなく、等しく分け与える。民からの支持は絶大である。
また今代の国王は信心深く、最高神である太陽神ホリューライの次に、明星の兄弟神を祀っている。つまるところ、国王もアメデアには大きく目をかけているのだ。
「先輩、東部って確か」
カルロはアメデアの後に続きながらオルドに声をかけた。
「猊下のご実家がある場所だ」
オルドの返答にカルロは表情を固くした。
聖騎士のカルロが声をかけてきた。
今は神殿が開放されている時間帯であり、神官たちによる大衆の治療を行っている。
もちろんその中に神官長であるアメデアの姿もある。
「大丈夫だよ。少し、昔のことを思い出していたんだ」
「昔ですか?」
アメデアがこうやって人々のために尽くしてきて何年も経った。
はじめはただ、リュアオスと繋がっているためであった。だが、神官の上層にいくにつれて、リュアオスは神託を下し、災禍や国難の恐れがある都度にしかアメデアを抱かなくなった。そして、リュアオスの恩寵を受けたあとは漲る神聖力をもって災禍を最小限のものとした。
まわりは神の代理人だともてはやすが、アメデアはかつての恋人どうしの遊び笑いあった時が懐かしく恋しい。
神の心が欲しいなどと自分が貪欲なことは重々承知しており、今の淡白な関係でもリュアオスと繋がっていられるならと受け入れている。
「カルロは恋人や好きな人はいるかい?」
「はい!? こ、恋人ですか? というか猊下、俺の名前をご存知なのですか?」
カルロは突然の質問に声を裏返して返事をした。疑問符の多い返答にアメデアは笑った。
「もちろん、私の騎士なのだから覚えているとも。カルロは護衛騎士のなかで一番若いだろう。別に聖職者だからって恋愛を禁止しているわけじゃないんだから」
アメデアはリュアオス神に全てを捧げたためにそうなっているが、神聖力をかけた神への誓いでないかぎりそのような掟はない。
「俺はそういうのは……」
「そうかい? 君は愛らしい顔つきをしているし、聖騎士だ。人気もあるだろう。かつては年長の指導者もいそうだ」
アメデアは目の前にいる少年の擦りむいた膝を治療して頭を撫でた。手を振ってお別れを告げる。
「俺のまわりにはいましたが、俺自身にはいませんでした」
「珍しいね。騎士なんていう職種は特にそういったことが顕著だから、少し驚いたよ」
騎士は上下関係がはっきりとしており、「年長者」が「年少者」を教え導くことは慣例化している。優秀な戦士を育てるためにも大人による指導というものが必要だからだ。
「若い方いまの内が華だよ」
少年愛は善であるが、17、8を越えると受け入れられなくなる。それは同性愛という逸脱したものとなる。
あくまで年長の者が年少の者を愛するのは指導であり、成熟した大人がいつまでも受け身であることは侮蔑の対象なのだ。
「猊下は若々しくてお綺麗ですよ!」
「ハハハ。おじさんに向かって若々しいなんて、気をつかわせてしまったかな」
「そんな。猊下ははじめてお会いした時からおかわりありません」
カルロの言葉は決してお世辞などではなかった。
カルロがはじめてアメデアに会ったのは、まだ10かそこらこ年齢の時だった。建設中の建物の倒壊事故に巻き込まれ、死にかけていた時だった。両親が神殿に駆け込み、慈悲深い神官長に治療をしてもらったのだ。美しい天使が迎えに来たのだと思ったほどだ。
あれから十数年経っていてもアメデアの容貌も神聖力も衰えることなく輝いていた。
「猊下、大変です! 東部で疫病が」
若い神官が慌てた様子で走ってきた。
疫病の流行と聞いてもアメデアはさほど驚いた様子を見せず毅然としていた。
「ひとまず東部へ行けるものを募ってください。国がどのような判断を下すかわかりませんが、おそらく東部との往来は制限されます。東部への支援物資リストをつくってください。私も東部へ向かいます」
アメデアは神殿全体にわたるような広範囲の治癒の術を施して事態の詳細確認と王国への親書をしたためた。
そしてその日のうちに引き継ぎをすませて、本人はすぐに東部へと向かった。
「さすが猊下だ」
「あの人がいればなんとかなる」
皆は大きな期待と希望を抱いた。
今代のリュオス神の神官長にはそれほどの能力がある。疫病の終息はもちろん、アメデアが祈ればその年は五穀豊穣だ。
そんな莫大な力を悪用することなく、等しく分け与える。民からの支持は絶大である。
また今代の国王は信心深く、最高神である太陽神ホリューライの次に、明星の兄弟神を祀っている。つまるところ、国王もアメデアには大きく目をかけているのだ。
「先輩、東部って確か」
カルロはアメデアの後に続きながらオルドに声をかけた。
「猊下のご実家がある場所だ」
オルドの返答にカルロは表情を固くした。
58
あなたにおすすめの小説
淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。
神官、触手育成の神託を受ける
彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。
(誤字脱字報告不要)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる