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27:終焉と誕生
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テオドールはあれ以降静かであり、不用意にクラウディアに接触することもなくなった。
アルフレッドにこの事を言わなければと思いながらも切り出せずに時間は流れていった。
「プロンベルト侯、有意義な時間であった」
「こちらこそ、両陛下にこのようにもてなしてもらい感激いたした。大陸でもっとも優美なエルパンシェーヌ宮殿に滞在でき光栄でした」
プロンベルト侯が帰国する時となり、見送りをしていた。
「クリスティーナもここを気に入ったようで、またお邪魔してもよろしいだろうか」
「もちろんです。いつでもお待ちしておりますわ」
クリスティーナははにかみながらも嬉しそうに礼を言った。
そうして王太子クロードと王女王子らとも親しげに挨拶をしていた。
クロードは結局、王族としていることを望み、またアンナとの関係を絶った。何が彼の心境に影響を与えたのかわからないが、以前よりもよい顔つきをするようになった。
すでにセリーヌ嬢とその母親は修道院へ送られ、前ジョレアン公爵は処刑された。爵位だけはクリストフに受け継がれたが、ジョレアン公爵領は王家の直轄地となった。
「ディア、クリスティーナ嬢とクロードのことだが」
「もうしばらく様子をみましょう。双方の意見を聞かなければなりません。あのようなことは起こしたくありませんから」
プロンベルト侯と姻戚になるのは決定事項ではあるが、相手が誰かは決まっていない。
セリーヌ嬢のような目にプロンベルト侯の息女をあわせるわけにもいけないない。
「しかし、今のクロードなら大丈夫だと信じています」
「そうだな。ジョレアン領の統治もうまくしているようだ」
クロードは信頼失墜を挽回するかのように公務に精を出しており、またクリスティーナとは何をきっかけにか親しくなっていた。
「陛下……アルフレッド、少しお話があります」
プロンベルト侯を見送りクラウディアは話を持ち出した。
少し膨らんだ腹を見てから拳を握った。
「この子の話です。おそらく、貴方の子ではありません」
「……そうか」
驚くとおもっていたのに、アルフレッドはひどく穏やかな声で一言こぼしただけだった。
「驚かないのですか? 罵倒しないのですか? 誰だとは聞かないのですか?」
「以前にも言っただろう。君が産んだ子なら誰でも愛せる」
その言葉に涙がでそうだ。もっと怒ってくれたほうが嬉しかった。気が楽だっただろうに。
「度重なる流産や死産で君の体はボロボロだった。ジルベールを産んで、もう出産に耐えられる体ではないと避けていた」
「つまり避妊をしていたというのですか」
「ああ。性交渉をやめればよい話だが、君との繋がりを感じていたかった」
人工的に避妊をすることは神の摂理に反する行為だった。それなのに、そうまでして彼は求めていたのだ。
「ごめんなさい。貴方を裏切るような行為をして。一度だけの過ちであったとしても罰をうける所存です」
自分が感じた裏切りを同じようにしてしまった。その事に罪悪感と嫌悪感を覚えた。
「よい。これでお相子だ。黙っていることもできたのに、話してくれた。君もきっと望んでいたことではなかったのだろう」
アルフレッドは子の父親が誰かは聞かなかった。
「クロードが妃を迎えて落ち着いたら、退位するつもりだ。二人で旅にでるのもいいし、離宮てのんびり過ごすのもいい。退位をすれば王族てしてではなく、ただの夫婦として過ごしたい」
「夢のような話ですね」
「そうだろう。それまで待っていてくれ。それまでは俺は王で君は王妃だ。それぞれの責務がある」
「ええ」
「そう長くはかからないはずだ。クロードはクリスティーナ嬢と親の意図しない所でいい関係を育んでいるし、新大陸の経営も、ノルディストと関係もうまくおさめる」
「わかりました」
「君の故郷も見てみたいな」
「私は水の都と名高い隣国の貿易都市に行ってみたいです」
二人はまるで昔に戻ったかのように話をした。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
王妃は黒い王女を産んだ。
国王に似ていると言われたが、アルフレッドはその父親が誰なのかはっきりとわかってしまった。
クラウディアは出産により体調を大きく崩し寝たきりの生活となった。
年々体調が悪化し、季節の変わり目には寝込む王妃に気が気ではない国王は、王太子クロードの結婚をはやめ早々に退位した。そして空気のよい保養地へと居住を移した。
しかし王族ではなく、ただの夫婦としての時間はそう長くなかった。
クラウディアの最後は、他国に嫁いだレティシア王女や若くして公爵位を得て兄を支えるジルベール王子、そして国王夫妻のクロードとクリスティーナといった家族に囲まれ看取られた。
天寿を全うするにはまだ早すぎるとアルフレッドは嘆いた。
母親の死を悲しまない者はおらず、王国中が国民の母、エルパンシェーヌの母の死を悼んだ。
ただ一人、黒い王女だけがその輪にいながらも、どこか阻害されていた。
彼女が新たなゲームのヒロインなのか悪役なのか、それはティオゾ伯爵テオドールだけが知っている。
だがテオドールもノルディストとの戦争ですでに戦死しており、この世にいない。
……end
アルフレッドにこの事を言わなければと思いながらも切り出せずに時間は流れていった。
「プロンベルト侯、有意義な時間であった」
「こちらこそ、両陛下にこのようにもてなしてもらい感激いたした。大陸でもっとも優美なエルパンシェーヌ宮殿に滞在でき光栄でした」
プロンベルト侯が帰国する時となり、見送りをしていた。
「クリスティーナもここを気に入ったようで、またお邪魔してもよろしいだろうか」
「もちろんです。いつでもお待ちしておりますわ」
クリスティーナははにかみながらも嬉しそうに礼を言った。
そうして王太子クロードと王女王子らとも親しげに挨拶をしていた。
クロードは結局、王族としていることを望み、またアンナとの関係を絶った。何が彼の心境に影響を与えたのかわからないが、以前よりもよい顔つきをするようになった。
すでにセリーヌ嬢とその母親は修道院へ送られ、前ジョレアン公爵は処刑された。爵位だけはクリストフに受け継がれたが、ジョレアン公爵領は王家の直轄地となった。
「ディア、クリスティーナ嬢とクロードのことだが」
「もうしばらく様子をみましょう。双方の意見を聞かなければなりません。あのようなことは起こしたくありませんから」
プロンベルト侯と姻戚になるのは決定事項ではあるが、相手が誰かは決まっていない。
セリーヌ嬢のような目にプロンベルト侯の息女をあわせるわけにもいけないない。
「しかし、今のクロードなら大丈夫だと信じています」
「そうだな。ジョレアン領の統治もうまくしているようだ」
クロードは信頼失墜を挽回するかのように公務に精を出しており、またクリスティーナとは何をきっかけにか親しくなっていた。
「陛下……アルフレッド、少しお話があります」
プロンベルト侯を見送りクラウディアは話を持ち出した。
少し膨らんだ腹を見てから拳を握った。
「この子の話です。おそらく、貴方の子ではありません」
「……そうか」
驚くとおもっていたのに、アルフレッドはひどく穏やかな声で一言こぼしただけだった。
「驚かないのですか? 罵倒しないのですか? 誰だとは聞かないのですか?」
「以前にも言っただろう。君が産んだ子なら誰でも愛せる」
その言葉に涙がでそうだ。もっと怒ってくれたほうが嬉しかった。気が楽だっただろうに。
「度重なる流産や死産で君の体はボロボロだった。ジルベールを産んで、もう出産に耐えられる体ではないと避けていた」
「つまり避妊をしていたというのですか」
「ああ。性交渉をやめればよい話だが、君との繋がりを感じていたかった」
人工的に避妊をすることは神の摂理に反する行為だった。それなのに、そうまでして彼は求めていたのだ。
「ごめんなさい。貴方を裏切るような行為をして。一度だけの過ちであったとしても罰をうける所存です」
自分が感じた裏切りを同じようにしてしまった。その事に罪悪感と嫌悪感を覚えた。
「よい。これでお相子だ。黙っていることもできたのに、話してくれた。君もきっと望んでいたことではなかったのだろう」
アルフレッドは子の父親が誰かは聞かなかった。
「クロードが妃を迎えて落ち着いたら、退位するつもりだ。二人で旅にでるのもいいし、離宮てのんびり過ごすのもいい。退位をすれば王族てしてではなく、ただの夫婦として過ごしたい」
「夢のような話ですね」
「そうだろう。それまで待っていてくれ。それまでは俺は王で君は王妃だ。それぞれの責務がある」
「ええ」
「そう長くはかからないはずだ。クロードはクリスティーナ嬢と親の意図しない所でいい関係を育んでいるし、新大陸の経営も、ノルディストと関係もうまくおさめる」
「わかりました」
「君の故郷も見てみたいな」
「私は水の都と名高い隣国の貿易都市に行ってみたいです」
二人はまるで昔に戻ったかのように話をした。
◇◇◇◆◆◆◇◇◇
王妃は黒い王女を産んだ。
国王に似ていると言われたが、アルフレッドはその父親が誰なのかはっきりとわかってしまった。
クラウディアは出産により体調を大きく崩し寝たきりの生活となった。
年々体調が悪化し、季節の変わり目には寝込む王妃に気が気ではない国王は、王太子クロードの結婚をはやめ早々に退位した。そして空気のよい保養地へと居住を移した。
しかし王族ではなく、ただの夫婦としての時間はそう長くなかった。
クラウディアの最後は、他国に嫁いだレティシア王女や若くして公爵位を得て兄を支えるジルベール王子、そして国王夫妻のクロードとクリスティーナといった家族に囲まれ看取られた。
天寿を全うするにはまだ早すぎるとアルフレッドは嘆いた。
母親の死を悲しまない者はおらず、王国中が国民の母、エルパンシェーヌの母の死を悼んだ。
ただ一人、黒い王女だけがその輪にいながらも、どこか阻害されていた。
彼女が新たなゲームのヒロインなのか悪役なのか、それはティオゾ伯爵テオドールだけが知っている。
だがテオドールもノルディストとの戦争ですでに戦死しており、この世にいない。
……end
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