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17:過ち
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無事に王宮に戻り、着替えをすませるとテオドールを呼んだ。
「テオドール、望みをいいなさい」
それは助けてくれた褒賞と口止めをかねてのものだった。
「打算で陛下をお助けしたわけではありません」
「では、質問をかえます。貴方はなぜあの場所にいて、なぜ私の目的を知っていたのですか」
ダンスをした時にはじめて、テオドールの秘めた熱情を知った。
「アンナ・トレムリエの調査を行っていたおりに陛下がいらっしゃり、接触しました」
テオドールの言葉を疑うことはなかった。
その鋭い顔つきから表情が乏しく、冷淡な人物だと誤解を受けやすい。しかしクラウディアにとって、実直であり、長く付き合えば感情の機微がわかりやすい子である。
そう、かつてのアルフレッドのように。
「私に取り入ったところで、これ以上取り立てることはできませんよ」
クラウディアは、テオドールを国王の子どもとして相応の地位を与えるように提言した。
その結果彼は伯爵位と陸軍大佐というポストを与えられた。しかしそれ以上の恩恵を与える理由はなかった。
「そのような理由で陛下のもとにいるのではありません。ただ国王陛下のかわりになれればと」
「王位を望むというのですか?」
「違います! ただ陛下を慰められればと」
王位簒奪を狙っていないことはわかっていてわざとそう聞いた。純粋に慕ってくれているとわかっていた。
だが、テオドールのいう慰めるという言葉に眉根を寄せた。
「そのような事は求めていません」
「陛下が国王を慕っているのは知っています。それならば俺をかわりにしてください」
自分がアルフレッドのことを好きだということを認めたくなかった。かつてはそうでも今は違うのだと子どもっぽく訴えたい衝動をぐっとこらえた。
「馬鹿馬鹿しい。私がいつそんなことを望んだというのですか。それに貴方はあの人には似ていませんよ、烏滸がましい」
「……嘘です」
姿かたちや性格までも似ているが決定的に違うところがある。
「いいえ。貴方はきっと私を優先してくれるでしょう。けれどそれではいけないのです。私はこの国の王に嫁いだのですから」
アルフレッドは生まれながらにした王者であり、クラウディアも生まれながらに王女であり、責務を背負っていた。
だが、テオドールは国王の子であっても王族ではない。前提条件が違う。
同じ境遇だからわかり会える点がある。
私よりも公を優先するべき人が時折見せる特別な愛情が心地よかった。
「貴方に私は背負いきれません」
「ならば、せめて側でお仕えさせてください。陛下には返しきれない恩があります」
ただの気まぐれと義務感で面倒を見ていただけなのに、えらく懐かれたものだ。
彼に割いた時間は子どもたちと比べると決して多くはない。それなのに目の前の青年はどうしてクラウディアを慕っているのか理解できない。
「どうか一夜だけでも夢を見させてください。そうして今宵の秘密を夢だと思い墓場まで持っていきましょう」
「……それがのぞみであるなら好きにしなさい。しかし、貴方が心から望むものは私が与えることはできません。これが最初で最後です」
テオドールはクラウディアの手にキスをしてベッドに沈んだ。
アルフレッドに似た瞳にアルフレッドに似た顔で、だが何もかも違う子供に、口止めのために一度だけ体をゆるした。まるで売春婦のようだ。
だが、クラウディアが彼のものになることはなかった。
愛人にすることも近侍にすることもない。
クラウディアはテオドールを必要としていなかった。
「テオドール、望みをいいなさい」
それは助けてくれた褒賞と口止めをかねてのものだった。
「打算で陛下をお助けしたわけではありません」
「では、質問をかえます。貴方はなぜあの場所にいて、なぜ私の目的を知っていたのですか」
ダンスをした時にはじめて、テオドールの秘めた熱情を知った。
「アンナ・トレムリエの調査を行っていたおりに陛下がいらっしゃり、接触しました」
テオドールの言葉を疑うことはなかった。
その鋭い顔つきから表情が乏しく、冷淡な人物だと誤解を受けやすい。しかしクラウディアにとって、実直であり、長く付き合えば感情の機微がわかりやすい子である。
そう、かつてのアルフレッドのように。
「私に取り入ったところで、これ以上取り立てることはできませんよ」
クラウディアは、テオドールを国王の子どもとして相応の地位を与えるように提言した。
その結果彼は伯爵位と陸軍大佐というポストを与えられた。しかしそれ以上の恩恵を与える理由はなかった。
「そのような理由で陛下のもとにいるのではありません。ただ国王陛下のかわりになれればと」
「王位を望むというのですか?」
「違います! ただ陛下を慰められればと」
王位簒奪を狙っていないことはわかっていてわざとそう聞いた。純粋に慕ってくれているとわかっていた。
だが、テオドールのいう慰めるという言葉に眉根を寄せた。
「そのような事は求めていません」
「陛下が国王を慕っているのは知っています。それならば俺をかわりにしてください」
自分がアルフレッドのことを好きだということを認めたくなかった。かつてはそうでも今は違うのだと子どもっぽく訴えたい衝動をぐっとこらえた。
「馬鹿馬鹿しい。私がいつそんなことを望んだというのですか。それに貴方はあの人には似ていませんよ、烏滸がましい」
「……嘘です」
姿かたちや性格までも似ているが決定的に違うところがある。
「いいえ。貴方はきっと私を優先してくれるでしょう。けれどそれではいけないのです。私はこの国の王に嫁いだのですから」
アルフレッドは生まれながらにした王者であり、クラウディアも生まれながらに王女であり、責務を背負っていた。
だが、テオドールは国王の子であっても王族ではない。前提条件が違う。
同じ境遇だからわかり会える点がある。
私よりも公を優先するべき人が時折見せる特別な愛情が心地よかった。
「貴方に私は背負いきれません」
「ならば、せめて側でお仕えさせてください。陛下には返しきれない恩があります」
ただの気まぐれと義務感で面倒を見ていただけなのに、えらく懐かれたものだ。
彼に割いた時間は子どもたちと比べると決して多くはない。それなのに目の前の青年はどうしてクラウディアを慕っているのか理解できない。
「どうか一夜だけでも夢を見させてください。そうして今宵の秘密を夢だと思い墓場まで持っていきましょう」
「……それがのぞみであるなら好きにしなさい。しかし、貴方が心から望むものは私が与えることはできません。これが最初で最後です」
テオドールはクラウディアの手にキスをしてベッドに沈んだ。
アルフレッドに似た瞳にアルフレッドに似た顔で、だが何もかも違う子供に、口止めのために一度だけ体をゆるした。まるで売春婦のようだ。
だが、クラウディアが彼のものになることはなかった。
愛人にすることも近侍にすることもない。
クラウディアはテオドールを必要としていなかった。
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