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11:過去ー薔薇の盛り
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宮殿内にあるいくつかある庭園の一つはクラウディアが輿入れした際に国王とアルフレッドの命によって造園されたものである。
いわばクラウディア専用の庭園である。
季節の草花に飾られ、幾何学模様の美しいシンメトリーの配置の中心には趣向のこらした精巧な噴水がある。
優雅な散歩道は並木に囲まれ異なった趣になっている。
「妃殿下、どちらでピクニックになさりますか?」
「いつものガゼボにいきますか?」
「木陰でシートを引いてみるのもいいのでは?」
侍女たちがバスケットを持ちながら楽しげに話していた。
主の久しぶりの外出に彼女たちは浮き立っていた。
「ガゼボに行きましょう。薔薇が見頃だわ。まだ体調が万全ではないの。遠出は難しいわ。元気になったら湖畔まで出掛けましょう」
そう言うと侍女たちは嬉しそうに色めき立った。
楽しくお喋りをしながら話をしているとば薔薇に囲まれたガゼボが見えてきた。
それと同時に会いたくない人が前方からやって来た。
その姿をみてリゼットが叱責の声をあげた。
「なっ! なぜ貴女がここにいるのですか、オートゥイユ夫人。ここは妃殿下の庭園ですよ。勝手な立ち入りはゆるされません」
リゼットをはじめとして皆敵意を笑顔の裏に押し込めたが隠しきれずに漏れ出ていた。そして場違いな存在を追い出そうとした。
「シャルモン伯爵夫人、そのような言い方は失礼ではなくって」
だがオートゥイユ夫人も引き下がることはなかった。
「あら、いくら殿下の愛妾だからといって序列を蔑ろにする人に礼儀を語られたくなくってよ。たかが男爵夫人の貴女と私では格が違いますもの。それに妃殿下に挨拶もなさらないなんて」
味方の多く、理にかなっているリゼットの方に分があるためかオートゥイユ夫人は悔しそうな顔をした。
クラウディアはそんな彼女らを嗜めることもせずガゼボに入り足を休めた。
「リズ、今日のプティフールは何かしら」
リゼットは意図していることに気づいたのか駆け寄ってお茶の準備をするように指示をだした。
「今日はマカロン、野いちごのタルト、クロッカン、ガトーショコラです」
「まあ、ショコラがあるのね。久しぶりに食べられるのね」
クラウディアを囲むように侍女たちも集まる中、オートゥイユ夫人はガゼボの外でカーテシーをしていた。
しかしクラウディアは公然と彼女を無視した。
それが侍女に裏切られた彼女にできる精一杯の意趣返しであった。
ただ、妊婦を長時間立たせておくわけにもいかず、洋扇を軽くふって退かせるように合図する。
「妃殿下の御慈悲によって不問に付します。即刻この庭園から立ち退きなさい」
オートゥイユ夫人にそう言ったのは赤毛の侍女であった。
侍女といっても彼女たちは生粋の貴族の婦女たちであり、クラウディアの臣だ。当然のようにオートゥイユ夫人よりも身分の高い者たちが多い。そんな彼女たちにとって序列を軽視するオートゥイユ夫人は絶対的な悪であり、異端なのだ。
オートゥイユ夫人は今にでも地団駄を踏みそうな勢いで踵をかえした。
「なんと厚かましい。妃殿下のおかげで宮殿に部屋を与えられたというのに」
「そうですわ。迷い込むのもありえませんが、庭園も我が物顔で歩いていて信じられません」
このガゼボはクラウディアのお気に入りであり、知らないものはいないほど有名な場所だ。
そんな場所に我が物顔で現れれば、さも自分が王太子妃であるかのように振る舞っていれば顰蹙を買うのは当然である。
「おやめなさい。口汚く罵るのは品がありませんわ」
「妃殿下は優しすぎます」
「そうですわ」
クラウディアは優しさから言うのではない。
オートゥイユ夫人がいくら虚勢をはろうと政略結婚で結ばれたクラウディアの地位が揺るぐことはありえないのだ。
眼中にないといってもいいほどであり、そんな者に自らの臣の感情がふりまわされるのが嫌なのだ。
「薔薇の盛りは一瞬ですもの。香りや色で注目を集めても直ぐに枯れてしまうじゃない。そんな事よりもお茶にしましょう」
クラウディアは侍女たちとお茶会をする。そうして、自分が動けなかった間の社交界の動向を知るのだ。
いわばクラウディア専用の庭園である。
季節の草花に飾られ、幾何学模様の美しいシンメトリーの配置の中心には趣向のこらした精巧な噴水がある。
優雅な散歩道は並木に囲まれ異なった趣になっている。
「妃殿下、どちらでピクニックになさりますか?」
「いつものガゼボにいきますか?」
「木陰でシートを引いてみるのもいいのでは?」
侍女たちがバスケットを持ちながら楽しげに話していた。
主の久しぶりの外出に彼女たちは浮き立っていた。
「ガゼボに行きましょう。薔薇が見頃だわ。まだ体調が万全ではないの。遠出は難しいわ。元気になったら湖畔まで出掛けましょう」
そう言うと侍女たちは嬉しそうに色めき立った。
楽しくお喋りをしながら話をしているとば薔薇に囲まれたガゼボが見えてきた。
それと同時に会いたくない人が前方からやって来た。
その姿をみてリゼットが叱責の声をあげた。
「なっ! なぜ貴女がここにいるのですか、オートゥイユ夫人。ここは妃殿下の庭園ですよ。勝手な立ち入りはゆるされません」
リゼットをはじめとして皆敵意を笑顔の裏に押し込めたが隠しきれずに漏れ出ていた。そして場違いな存在を追い出そうとした。
「シャルモン伯爵夫人、そのような言い方は失礼ではなくって」
だがオートゥイユ夫人も引き下がることはなかった。
「あら、いくら殿下の愛妾だからといって序列を蔑ろにする人に礼儀を語られたくなくってよ。たかが男爵夫人の貴女と私では格が違いますもの。それに妃殿下に挨拶もなさらないなんて」
味方の多く、理にかなっているリゼットの方に分があるためかオートゥイユ夫人は悔しそうな顔をした。
クラウディアはそんな彼女らを嗜めることもせずガゼボに入り足を休めた。
「リズ、今日のプティフールは何かしら」
リゼットは意図していることに気づいたのか駆け寄ってお茶の準備をするように指示をだした。
「今日はマカロン、野いちごのタルト、クロッカン、ガトーショコラです」
「まあ、ショコラがあるのね。久しぶりに食べられるのね」
クラウディアを囲むように侍女たちも集まる中、オートゥイユ夫人はガゼボの外でカーテシーをしていた。
しかしクラウディアは公然と彼女を無視した。
それが侍女に裏切られた彼女にできる精一杯の意趣返しであった。
ただ、妊婦を長時間立たせておくわけにもいかず、洋扇を軽くふって退かせるように合図する。
「妃殿下の御慈悲によって不問に付します。即刻この庭園から立ち退きなさい」
オートゥイユ夫人にそう言ったのは赤毛の侍女であった。
侍女といっても彼女たちは生粋の貴族の婦女たちであり、クラウディアの臣だ。当然のようにオートゥイユ夫人よりも身分の高い者たちが多い。そんな彼女たちにとって序列を軽視するオートゥイユ夫人は絶対的な悪であり、異端なのだ。
オートゥイユ夫人は今にでも地団駄を踏みそうな勢いで踵をかえした。
「なんと厚かましい。妃殿下のおかげで宮殿に部屋を与えられたというのに」
「そうですわ。迷い込むのもありえませんが、庭園も我が物顔で歩いていて信じられません」
このガゼボはクラウディアのお気に入りであり、知らないものはいないほど有名な場所だ。
そんな場所に我が物顔で現れれば、さも自分が王太子妃であるかのように振る舞っていれば顰蹙を買うのは当然である。
「おやめなさい。口汚く罵るのは品がありませんわ」
「妃殿下は優しすぎます」
「そうですわ」
クラウディアは優しさから言うのではない。
オートゥイユ夫人がいくら虚勢をはろうと政略結婚で結ばれたクラウディアの地位が揺るぐことはありえないのだ。
眼中にないといってもいいほどであり、そんな者に自らの臣の感情がふりまわされるのが嫌なのだ。
「薔薇の盛りは一瞬ですもの。香りや色で注目を集めても直ぐに枯れてしまうじゃない。そんな事よりもお茶にしましょう」
クラウディアは侍女たちとお茶会をする。そうして、自分が動けなかった間の社交界の動向を知るのだ。
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