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5:ティオゾ伯爵
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入室したティオゾ伯爵は王妃の私室に国王がいることに少し驚いた様子を表した。
だがクラウディアは気にするなという顔をして右手をさしだした。
その手をとってエアキスをすると、刺すような視線を感じた。
「ジャン=テオドール、王妃になんの用だ」
「クリストフ・ド・コルヌアイユに関して報告に参りました」
「なぜ王妃がジョレアン公爵令息に関して調べている」
クリストフ・ド・コルヌアイとは、王太子であるクロードの婚約者セリーヌ嬢の異母兄だ。
「アンナ・トレムリエとの接触があったからです」
「君はまた…」
アルフレッドは言いかけた言葉を飲み込んだ。
王太子と懇意にしている女が、その婚約者の兄と親しくしており怪しまない方がおかしいだろう。
「テオ報告をしなさい」
「はい」
テオドールにエスコートを受けて安楽椅子に腰をかけた。
クリストフは軍に属しており、テオドールの配下にあたる。近しい境遇からか親しくしており、情報は自然と入ってくる。
「アンナ・トレムリエとの接触は偶発的な出来事であったらしいです」
街におりたときに暴漢に襲われそうになっているところを助けたことが出会ったきっかけだった。
そこから何度か街で会うようになって、少し話をするような関係になった。
彼女が王太子と関係のある女性だということも、異母妹が彼女に対して嫌がらせのようなことをしていることも知らない。
「クリストフ中尉はアンナ・トレムリエは妙に家庭環境のことを知っており警戒しているようです」
「それは不思議ですね。つい先日首都にきた元庭師の娘がどうしてそのようなことを知っているのでしょ」
ジョレアン公爵家においてクリストフの立場は危ういものだ。
彼は前妻の子であり、後妻は彼を嫌い、家族仲もよくない。
ジョレアン公爵は前妻とは典型的な政略結婚であり、前妻のことは嫌っていた。
当然のように愛妾をかかえており、前妻の死後、若く見目の良い伯爵家の娘を後妻に迎えた。それが現在のジョレアン夫人である。
夫人は権力欲の強い性格であり、自分の子が爵位を継ぐことを望み、公爵の方は嫌いな女が産んだ子供より、自ら望んで結婚した女の子供を優遇した。
「前公爵夫人がいた時はまだましだったが、今のジョレアン公爵家は見るに堪えない」
アルフレッドが思い出すように言った。
噂では、現ジョレアン夫人と公爵の関係は、前妻が死ぬ前から持っており、前公爵夫人の急死は二人が糸をひいているのではないかと言われている。
「陛下、丁度よいではありませんか。クリストフ中尉をこちら側へ引き込むのです。テオ、クリストフ中尉はジョレアン公爵を憎ましく思っていましたか?」
「はっきりとした感情はわかりませんが、おそらく。アンナ・トレムリエにもその感情を煽られるような言葉を投げられたようです」
ますますアンナ・トレムリエという人物がわからなくなった。
庶民であった彼女が貴族の内情をなぜそこまで知っているのか、警戒していて損はないだろう。
「王妃のいう通りだな。近々謁見の機会をもうけよう。ティオゾ伯爵、もうさがってよい」
「お待ちなさい」
勝手に話を切り上げて、テオドールを帰そうとするアルフレッドを睨み付ける。
「テオ、不便はありませんか?」
「はい。王妃陛下のお心遣いのおかげです」
「それはよかった。何かあれば私を頼りになさい。陛下の子は私の子でもあるのですから」
建前ではなく心からの言葉である。彼の母親は後ろ楯にはなりえず、毒でしかった。
そして最も頼みになるはずの国王陛下は冷淡であった。
「ありがたきお言葉です」
「貴方もアンナ・トレムリエには気を付けなさい」
「身の程はわきまえております。王太子殿下のものに手をだすようなまねはいたしません」
そのようなつもりで言ったわけではないのだが、真摯な瞳がまっすぐといぬき、これ以上はなにも言えなかった。
「さがりなさい」
「はい」
今度こそテオドールは退室した。
だがクラウディアは気にするなという顔をして右手をさしだした。
その手をとってエアキスをすると、刺すような視線を感じた。
「ジャン=テオドール、王妃になんの用だ」
「クリストフ・ド・コルヌアイユに関して報告に参りました」
「なぜ王妃がジョレアン公爵令息に関して調べている」
クリストフ・ド・コルヌアイとは、王太子であるクロードの婚約者セリーヌ嬢の異母兄だ。
「アンナ・トレムリエとの接触があったからです」
「君はまた…」
アルフレッドは言いかけた言葉を飲み込んだ。
王太子と懇意にしている女が、その婚約者の兄と親しくしており怪しまない方がおかしいだろう。
「テオ報告をしなさい」
「はい」
テオドールにエスコートを受けて安楽椅子に腰をかけた。
クリストフは軍に属しており、テオドールの配下にあたる。近しい境遇からか親しくしており、情報は自然と入ってくる。
「アンナ・トレムリエとの接触は偶発的な出来事であったらしいです」
街におりたときに暴漢に襲われそうになっているところを助けたことが出会ったきっかけだった。
そこから何度か街で会うようになって、少し話をするような関係になった。
彼女が王太子と関係のある女性だということも、異母妹が彼女に対して嫌がらせのようなことをしていることも知らない。
「クリストフ中尉はアンナ・トレムリエは妙に家庭環境のことを知っており警戒しているようです」
「それは不思議ですね。つい先日首都にきた元庭師の娘がどうしてそのようなことを知っているのでしょ」
ジョレアン公爵家においてクリストフの立場は危ういものだ。
彼は前妻の子であり、後妻は彼を嫌い、家族仲もよくない。
ジョレアン公爵は前妻とは典型的な政略結婚であり、前妻のことは嫌っていた。
当然のように愛妾をかかえており、前妻の死後、若く見目の良い伯爵家の娘を後妻に迎えた。それが現在のジョレアン夫人である。
夫人は権力欲の強い性格であり、自分の子が爵位を継ぐことを望み、公爵の方は嫌いな女が産んだ子供より、自ら望んで結婚した女の子供を優遇した。
「前公爵夫人がいた時はまだましだったが、今のジョレアン公爵家は見るに堪えない」
アルフレッドが思い出すように言った。
噂では、現ジョレアン夫人と公爵の関係は、前妻が死ぬ前から持っており、前公爵夫人の急死は二人が糸をひいているのではないかと言われている。
「陛下、丁度よいではありませんか。クリストフ中尉をこちら側へ引き込むのです。テオ、クリストフ中尉はジョレアン公爵を憎ましく思っていましたか?」
「はっきりとした感情はわかりませんが、おそらく。アンナ・トレムリエにもその感情を煽られるような言葉を投げられたようです」
ますますアンナ・トレムリエという人物がわからなくなった。
庶民であった彼女が貴族の内情をなぜそこまで知っているのか、警戒していて損はないだろう。
「王妃のいう通りだな。近々謁見の機会をもうけよう。ティオゾ伯爵、もうさがってよい」
「お待ちなさい」
勝手に話を切り上げて、テオドールを帰そうとするアルフレッドを睨み付ける。
「テオ、不便はありませんか?」
「はい。王妃陛下のお心遣いのおかげです」
「それはよかった。何かあれば私を頼りになさい。陛下の子は私の子でもあるのですから」
建前ではなく心からの言葉である。彼の母親は後ろ楯にはなりえず、毒でしかった。
そして最も頼みになるはずの国王陛下は冷淡であった。
「ありがたきお言葉です」
「貴方もアンナ・トレムリエには気を付けなさい」
「身の程はわきまえております。王太子殿下のものに手をだすようなまねはいたしません」
そのようなつもりで言ったわけではないのだが、真摯な瞳がまっすぐといぬき、これ以上はなにも言えなかった。
「さがりなさい」
「はい」
今度こそテオドールは退室した。
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