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3:王太子殿下

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クラウディアが自室で手紙を読んでいるとノック音の後に人が入ってきた。

「母上、お呼びでしょうか」

やって来たのは、柔らかなブロンドヘアに溌剌としたグリーンがかった瞳をした長駆の男だ。

「王太子、母になにか言うことはありませんか?」

クラウディアは手紙を畳んで立っている王太子ルイ=クロードを見上げた。

「と、言いますと」

「思い当たる節もありませんこと? それとも多すぎて何も言えないかしら」

クロードは後ろに組んだ手を握って、口をつぐんだ。

「よろしいわ。ちょうど貴方のガヴァネスを変えようと思っていたところなの。何をどう教育したらこんな子になるのでしょうか」

「待ってください。私が何か悪いことをしたのでしょうか」

「狩りにふけるのも、女を囲むのも結構。しかし、王族としての責務を忘れてはいませんか? 貴方は最近何をしていたのでしょうか? 謁見やミサ、夜会や食事会などどれ程参加したのですか?」

「……」

クロードはここ数日は政務を放り出して、ゲレ子爵のアンナのもとへ通っていた。

「貴族と交流をもつのは大いに結構ですが、偏った交流は害悪ですらある。貴方は派閥を生み出し、骨肉の争いでも望むのですか?」

「違います! そういうつもりでは……」

「全くもって軽率です。少しはティオゾ伯爵を見習いなさい。幼くして国境の最前線を指揮し、毎日欠かさず、陛下や私、オートゥイユ夫人に挨拶もするのですよ」

ティオゾ伯爵の名前が出て、クロードは拳を強く握った。

また、奴と比べられた。母上は実の息子である自分よりも、血の繋がらない王室の汚点を気に入っているのだ。

「申し訳ありませんでした。以後気をつけます」

「もう貴方もいい歳です。チューターの手に移るか学校に通うべきでしたのに、いつまでもよくわからないガヴァネスに任せるべきではありませんでした。これは私の落ち度です」

今まで母親以上に愛情を持って育ててくれたガヴァネスを侮辱された気がしてたまらなかった。

「チューターの手に移るか学校に通うか選ばせてさしあげます。決めたのなら陛下に報告なさい」

「……わかりました」

言葉を飲み込んで、乾いた声でそう答えるとクラウディアは困ったように笑った。

「貴方は全く陛下に似ていないのね」

頭を大きく殴られた気分だ。

「失礼しました」

貴女がそれを言うのかと詰め寄りたい思いを必死にこらえて礼をして部屋を出た。


廊下で幼い弟妹にばったりと出会った。

これから王妃の部屋へ行くのだろう。

「王太子殿下、ごきげんよう」

「ごきげんよっ」

一番下の弟はまだ舌足らずに挨拶をした。

クロードを見つめる四つのアンバー色が気にくわなかった。

弟妹たちの挨拶を無視して、その横を素早く通り過ぎる。

「きゃっ」

「王女殿下っ!」

その勢いに気圧されてレティシアが倒れたが気にはならなかった。

そんなことよりも、クロードはアンナに会いたかった。


「お兄さま、どうしちゃったんだろう」

「?」

レティシアは侍女に助け起こされながら、歩き去っていくクロードを見た。

「両殿下、王妃陛下が中でお待ちです」

「ええ」

その日、王室の養育体制が見直された。

これまでのナニーやガヴァネスを解雇し、新しい適任者を王妃自らが選んだ。そして以降は王妃は積極的に王子らの養育に関与し始めた。

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