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2:国王陛下
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「全く不愉快ですわ! なんなんですの、ティオゾ伯爵の態度は! 生意気な」
リゼットは洋扇を握りしめて憤慨した。
普段は温厚な彼女も、ティオゾ伯爵とオートゥイユ夫人が関わると激情を露にする。
「私はそうは感じませんよ。テオは貴族的なやり取りが得意ではないから、そのままの意味だとおもうけれど」
「そうだとすると余計に失礼ではありませんか! 王室の汚点の分際で」
「リズ、言葉を控えなさい。国王陛下の貴き血が流れる子なのよ」
「……失礼しました」
興奮したリゼットをたしなめて庭園を散策する。
リゼットが憤慨する気持ちはわからないわけではない。
オートゥイユ夫人は国王陛下の公妾であり、ティオゾ伯爵はその間の子供だ。王太子とは一つ程しか歳の差がない。
国王が公妾を持とうが子供をなそうがクラウディアにはどうでもいい話だ。継承権があるのは王妃の子だけであり、いくら寵愛を受けようが、立場はゆるがない。
だが、オートゥイユ夫人の行動は目にあまるものが多く宮廷内での評判は悪く、リゼットも彼女を嫌悪している。
「午後からは国王陛下と共に謁見のお時間となっております。その後は王女殿下と劇場視察となっております」
リゼットが午後からのスケジュールを読み上げていると、前方から人だかりが近づいてきた。
クラウディアたちはカーテシーをして頭を下げた。
「ディ…」
「ごきげんよう、陛下」
国王てあるルイ=アルフレッドが愛称を呼びきる前にクラウディアは間髪をいれずに顔を上げて声を遮った。
「……王妃も息災そうでなによりだ。何をしていたのだ」
「お庭の散策ですわ。いつもこの時間にお茶をするのが日課でしてよ」
アルフレッドも知っているはずだ。そのタイミングを狙って現れたのだから。
「陛下とここでお会いするとは思いませんでした」
この後、会うのだからこのように待ち伏せしなくてもいいだろうに。
「そなたを迎えにきたのだ。昼食会では体調不良であらわれずに心配したぞ」
「まあ、ご心配をおかけしましたわ。招かれざる客がいらっしゃったもので」
昼食会は、宮殿に部屋を与えられている貴族たちも参加や見学をする。
基本的に国王の招待のもと共に食事をおこない、許可がなければ任意で見学する機会が与えられている。
それなのにオートゥイユ夫人は許可がおりずとも参席して我が物顔で宮殿を歩いている。
そんな彼女と共に食事などをすればその無礼さに食事どころではなくなるだろう。
「そう言えば、先ほどティオゾ伯爵とお会いしましたの。是非とも晩餐に招き家族で親睦を深めるのはいかがですか?」
クラウディアの提案に、彼女の手をとってエスコートをしていたアルフレッドの足が止まった。
「君は本気で言っているのかい? 俺への当て付けならそう言ってくれ。オートゥイユ夫人を追い出したいなら追い出してくれてかまわない」
「そんなことは言っておりませんわ。私、彼女のことが確かに嫌いですが、感謝もしているのですよ。それにテオは陛下の子ではありませんか」
身分の低い者が高いものへと声をかけることは許されない。
そんな中で、クラウディアはオートゥイユ夫人へ一度たりとも声をかけたはなく、公然と無視をしている。それが彼女の意思表示だ。
しかし、オートゥイユ夫人は本来の意味で公妾の役割を担ってることも事実だ。
彼女のスキャンダラスにやって王妃の風評避けとなり、王室のヘイトは全て彼女へと集まっている。
最も有効な時に切るべきだろう。だが、今はその時ではない。
「ティオゾ伯爵をそのように呼ぶでない。それにクロードはティオゾ伯爵を嫌っており、まだ幼いレティシアやジルベールになんと言えばよいのだ」
「血をわけた兄弟と言えばよろしくって。レティシアはもう十になりますのよ。そのぐらいの分別はありますわ」
「頼むからそのような事を言わないでくれ。ああ、それよりもレティシアと観劇にいくのだろう」
「ええ。此度の謁見はあの子の嫁ぎ先ですから、そのお話もしますわ」
「まだ幼いのに」
「まあ、私が貴方に嫁いだのだって十五で、婚約したのはもっと幼かったですわ」
王室の結婚は外交政策であり、この二人も類に漏れず選択の余地もなく結婚をしたのだ。
「嫁ぐ前に家族の絵を描かせよう」
「家族ですか?」
「俺と君とその子供たちだ」
「王と王妃が並んだ肖像画など聞いたことがありません」
「素敵ではないか。宮殿の誰もが目に止まる場所に飾ろう」
「……お好きにどうぞ」
国王と王妃のやりとりをリゼットは後ろから見ていて歯がゆい気持ちになった。
昔はもっと仲睦まじいお二人だったのにと、オートゥイユ夫人を憎んだ。
リゼットは洋扇を握りしめて憤慨した。
普段は温厚な彼女も、ティオゾ伯爵とオートゥイユ夫人が関わると激情を露にする。
「私はそうは感じませんよ。テオは貴族的なやり取りが得意ではないから、そのままの意味だとおもうけれど」
「そうだとすると余計に失礼ではありませんか! 王室の汚点の分際で」
「リズ、言葉を控えなさい。国王陛下の貴き血が流れる子なのよ」
「……失礼しました」
興奮したリゼットをたしなめて庭園を散策する。
リゼットが憤慨する気持ちはわからないわけではない。
オートゥイユ夫人は国王陛下の公妾であり、ティオゾ伯爵はその間の子供だ。王太子とは一つ程しか歳の差がない。
国王が公妾を持とうが子供をなそうがクラウディアにはどうでもいい話だ。継承権があるのは王妃の子だけであり、いくら寵愛を受けようが、立場はゆるがない。
だが、オートゥイユ夫人の行動は目にあまるものが多く宮廷内での評判は悪く、リゼットも彼女を嫌悪している。
「午後からは国王陛下と共に謁見のお時間となっております。その後は王女殿下と劇場視察となっております」
リゼットが午後からのスケジュールを読み上げていると、前方から人だかりが近づいてきた。
クラウディアたちはカーテシーをして頭を下げた。
「ディ…」
「ごきげんよう、陛下」
国王てあるルイ=アルフレッドが愛称を呼びきる前にクラウディアは間髪をいれずに顔を上げて声を遮った。
「……王妃も息災そうでなによりだ。何をしていたのだ」
「お庭の散策ですわ。いつもこの時間にお茶をするのが日課でしてよ」
アルフレッドも知っているはずだ。そのタイミングを狙って現れたのだから。
「陛下とここでお会いするとは思いませんでした」
この後、会うのだからこのように待ち伏せしなくてもいいだろうに。
「そなたを迎えにきたのだ。昼食会では体調不良であらわれずに心配したぞ」
「まあ、ご心配をおかけしましたわ。招かれざる客がいらっしゃったもので」
昼食会は、宮殿に部屋を与えられている貴族たちも参加や見学をする。
基本的に国王の招待のもと共に食事をおこない、許可がなければ任意で見学する機会が与えられている。
それなのにオートゥイユ夫人は許可がおりずとも参席して我が物顔で宮殿を歩いている。
そんな彼女と共に食事などをすればその無礼さに食事どころではなくなるだろう。
「そう言えば、先ほどティオゾ伯爵とお会いしましたの。是非とも晩餐に招き家族で親睦を深めるのはいかがですか?」
クラウディアの提案に、彼女の手をとってエスコートをしていたアルフレッドの足が止まった。
「君は本気で言っているのかい? 俺への当て付けならそう言ってくれ。オートゥイユ夫人を追い出したいなら追い出してくれてかまわない」
「そんなことは言っておりませんわ。私、彼女のことが確かに嫌いですが、感謝もしているのですよ。それにテオは陛下の子ではありませんか」
身分の低い者が高いものへと声をかけることは許されない。
そんな中で、クラウディアはオートゥイユ夫人へ一度たりとも声をかけたはなく、公然と無視をしている。それが彼女の意思表示だ。
しかし、オートゥイユ夫人は本来の意味で公妾の役割を担ってることも事実だ。
彼女のスキャンダラスにやって王妃の風評避けとなり、王室のヘイトは全て彼女へと集まっている。
最も有効な時に切るべきだろう。だが、今はその時ではない。
「ティオゾ伯爵をそのように呼ぶでない。それにクロードはティオゾ伯爵を嫌っており、まだ幼いレティシアやジルベールになんと言えばよいのだ」
「血をわけた兄弟と言えばよろしくって。レティシアはもう十になりますのよ。そのぐらいの分別はありますわ」
「頼むからそのような事を言わないでくれ。ああ、それよりもレティシアと観劇にいくのだろう」
「ええ。此度の謁見はあの子の嫁ぎ先ですから、そのお話もしますわ」
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「素敵ではないか。宮殿の誰もが目に止まる場所に飾ろう」
「……お好きにどうぞ」
国王と王妃のやりとりをリゼットは後ろから見ていて歯がゆい気持ちになった。
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