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海洋プラント侵攻①

57話:大規模侵攻②

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 物資を遠慮なく使っての面制圧は、無事に成った。
 アーキバス機甲4師団および魔導ゴーレム甲10個連隊、防衛隊第16大隊で編成された東側の上陸と誘導を担当するウィスキー部隊も、損耗率が少ないままで敵勢力を誘導し始めていた。
 湾沿いで接敵後、敵勢力を削りつつ西へ、西へと移動。一部の分隊は南へ、同じく敵勢力を誘導しながら戦っていた。

『ヴァルキリー1より、中隊各機。エコー部隊の上陸が近い』
『―――クサナギ1より、中隊各員。先鋒のウィスキー部隊に倣え。緊急事態に備え、いつでも発進できるように準備を』
『―――被害状況を報せよ』
『小破が1機、戦闘の続行は可能な状態です。他に脱落者は居ません』
『結構だ―――望外には遠いが、ひとまず平常通りという所か』
 
 第16大隊は二中隊、24名がウィスキー部隊の本隊と同道していた。12名は南下し、分隊の援護と共にある地点に向かっている状況だ。
 
 その24名も固まって動かすつもりはなかった。部隊を少数に分けて、ウィスキー部隊の移動ルート上に広く展開させていた。遊撃に努めることで、防衛隊の機甲連隊の損害を減らし、誘導の規模をより上げるための戦術だった。
 
 だが、言うは易く行うは難し。孤立と死が同義な戦場において、戦力の分散は愚の骨頂とも言える。第16大隊は、その常識を覆していた。
 
 自機は当たり前に、味方機の面倒をみつつも戦果を積み重ねていく。それを成すために求められる技量は如何程のものなのか、通常のパイロットであれば考えるだけで気が遠くなるもの。
 
 味方を助けて数を減じさせることなく戦い続けることこそが最良の戦術の一つであるという、“数は力なり”という理念に沿った戦術は、この土地でより発展系の形を成しつつあった。

「エコー部隊、上陸完了―――オメガ・オーバード・ウェポン輸送部隊も移動を開始しました」
 
 損耗無く上陸に成功、本隊から外れて移動を開始したという報告を受けたHQは、緊張を緩めず、されど第1段階はクリアという言葉を脳裏に浮かべていた。



 動く、動く、動く。
 伝わる、伝わる、伝わる。

「今回のアップデート、凄い」
 
 ブレイヴはつぶやく。
 着地、長刀での一撃から抜けるまで。ラージ級の改造亜人の反応速度を上回る機動、接地の脚から腕まで伝わる力の比率、予後の機体の負荷まで、既存のゴーレムギアとは明らかに違う。
 
 中途半端な腕であれば、長刀はラージ級の頭部であっても途中で止まる、だというのに何気なく振るった斬撃が抵抗少なく肉を斬り裂き通してくれる。
 
 シューティングモードに切り替える時の速度もそう、その反動も少なくなっていた。長時間の戦闘において、その振動は装着者の体力に影響してくるという、それが無視できるほどに吸収されているように感じられる。
 
 方向転換や回避機動の時の、機体の重心移動も容易すぎた。多少の無茶でもきっちりと機体が応えてくれる、推進力のロス無く方向を転換してくれる。まるで、生きているかのような挙動を前に、ブレイヴはゴーレムギアを駆る手に汗が流れる感触を覚えていた。
 
(なんでしょうこの気持ち、頭がどうかなってしまいそう)
 
 対改造亜人戦において、最上位の技能を持つ装着者が追求するのは効率の1点に限られていく。人間のように相手の心理を読む必要はない、個々の機体性能や素質、連携の精度を鑑みることも必要ない。
 
 ただ、地上でに動いている改造亜人をできる限り早く、消耗少なく、危険を侵さずにばら撒いていく。
 
 通常の装着者でさえ、極まった者達は並を外れていく。ベテランの装着者が鎌を使って草刈りをするなら、更に越えて芝刈り機のようになっていく。抵抗など考えもしないと、当たり前のように屍を量産していく。
 
 それは、戦場で重要視される素養としての理想とも言えた。実現するために必要なのは、圧倒的な基礎技量と判断力を裏付ける経験。
 
 そこに最新鋭のゴーレムギアが加わった時、人は死神になる。触れれば死ぬし触れずとも砕け散るという、理不尽の塊に。
 
 その域に至った、天災は―――エミーリアは海洋プラントの地で、死を配布していた。
 
『―――』
 
 一歩、踏み出しては中刀を切り抜いてギガント級の改造亜人の頭を落とし、
 
『―――』
 
 次には跳躍し、邪魔になるラージ級の頭部を最小限の弾幕で砕いていき、
 
『―――』
 
 銃撃の反動を電磁伸縮炭素帯に僅かにため、その反発を推進力として軽く跳躍し、
 
『―――っ』
 
 狙った通りの間合いでギガント級の攻撃を回避、その相手の攻撃の力を利用するカウンターの形で関節部に深く切り込みを入れて、
 
『―――』
 
 振り抜いた勢いのまま更に前へ、ギガント級のせいで機動が削がれていたラージ級の脚の上に、複数の脚を傷つけられる位置に魔力弾を通して、その向こうに居るラージ級の頭部に叩き込む。
 
 一つの動作に複数の意味を、その全てが燃料、弾薬、機体の負荷を抑えるためのもの。
 
 だというのに複数のデストロイヤーを的確に巻き込んでいくため、撃破数は他の者に比べて一線を画していた。
 
 その早さは異常そのものだった。中隊の誰もが気づけば目的地であるアルファポイントに到達していて、その直後に時計の故障を疑ったほどだった。
 
 エミーリアは周囲を警戒しつつ、オメガ・オーバード・ウェポン輸送部隊との合流地点で佇み、他のみんなが補給コンテナを引っ張ってくる様子を眺めながら、エミーリアは手を確かめるように握りしめては開いていた。
 
『暇になるとは』
『主に君のお陰でね』
 
 エミーリアのボヤキにラスティが突っ込んだ。そうして、補給をしているラスティ達は広域データリンクにより、海洋プラントの各地で動いていく戦況を見ていた。
 
 主には、改造亜人の誘導の進捗状況だ。砲撃が失敗した時、軌道上から再突入した降下部隊が海洋プラントの深部へ侵入する必要がある。そのための誘引で、西から上陸して南北に散らばったウィスキーであり、東から上陸して北部へ、更に北東部へ敵を引きつけるエコー部隊である。

 エコーの本隊から別れて、東海岸から上陸した後に南下したが、いくらかの敵勢力はついてきているし、点在する大隊規模の敵総数を減少させることに成功している。何らかのアクシデントがあり、陸上からの打撃支援の砲撃が予定数を下回ったとしても、すかさず全方位型長距離魔力レーザー砲台『オリュンポス』を目指して侵入できるようにするための作戦だった。
 
 ペースで言えばこの上なく、海洋プラントの周辺に存在する神聖防衛王国の戦力を掃討することが出来ている。このまま問題なくことが運べば、あるいは切り札として扱われるオメガ・オーバード・ウェポンが無くても、『オリュンポス』の破壊に成功するかもしれない。
 そう考えたラスティだが、表情を変えると海洋プラントがある方角を睨みつけた。
 
『薄くなれば早速、か―――そうそう上手くはいかないな』
 
 直後、振動と共に海洋プラント周辺の海水が舞い上がったことが確認された。
 
 通信を聞いた部隊長は周囲と地中部への警戒を命令した。それに続き、地中の振動を計測する機械を設置した。
 
 海に突き刺して通信を送れば自動的に5mまで埋まる自動計測機で、その精度は地上部とは比べ物にならない。今回の作戦からの奇襲を封殺するための装置だ。
 
 そこまでして警戒するのは、平地での戦闘であれば圧倒できるが、地中からの奇襲は対応できなくなる可能性があったから。
 
 了解の声を返しながらも、広域データリンクに映る反応をじっと眺めていた。全ては順調、相手の援軍も想定内で―――だというのに嫌な予感が消えなかったからだ。
 
 直感か、錯覚のどちらか。ラスティは判断がつかなかったが、不安になる自らの内心に対し、何らかの理由があるのかと思い悩んだ。
 
 原因、元凶を、感触の根拠をそれとなく探しながらも、本拠地がある海洋プラントから飛び出してきた化物をきつく睨み返していた。

「オリュンポス」

 ラスティは呟く。
 嵐のように荒れ狂うドラゴン型の全方位型長距離魔力レーザー砲台。
 それが、生命体のようにうねりながらアーキバスの部隊をレーザーで焼き尽くしていく。

「ラスティさん、ブレイヴさん、下がってください」
『システムに深刻な障害が発生しています。直ちに起動を停止してください』
「オメガ・オーバード・ウェポン、起動」
『身体に過負荷がかかっています。肉体の崩壊する可能性があります。ただちに使用を停止してください』
「出力上昇」
『精神汚染率87%。精神に深刻な負荷がかかっています。ただちに使用を停止してください』
「照準合わせ」
『ただちに使用を』
「セーフティ、オールパージ」
『オメガ・オーバード・ウェポン・強制停止まで10秒』
「殲滅開始」


 オメガ・オーバード・ウェポンが起動して、激しい閃光と爆撃と衝撃波を撒き散らして、一条の光の奔流がドラゴンを八つ裂きにして破壊した。反動としてエミーリアの全身は熱で焼き爛れて、ドロドロに溶けていく。

「がっ、ぐ」
「すごい威力だ、オメガ・オーバード・ウェポン」

 ボロボロのエミーリアに触れて、傷を治す。

「よし、前進だ。敵を殲滅する」
    
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