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第三章:堕ちた聖女と救済の悪魔

30話:死刑執行者③

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 執務室に戻ると、デュナメスとメーテルリンクがラスティを見た。メーテルリンクはすぐに椅子から立ち上がり、頭を下げる。

「申し訳有りません。お兄様。先程は冷静さを欠いてしまい失礼なことを言ってしまいました」
「構わないさ。それにこの議論に正解は無いだろう。法律からすれば父さんは死ぬべきだし、肉親からみれば生かしたいと思うのは当然のことだ。それに私はもう選択した」
「何をですか?」
「父さんの未来は自分で決めてもらう。生きたいか、死ぬか、本人に聞いて確かめる」
「それは……大抵の人が生きたいと願うと思いますが」

 苦笑いをするメーテルリンクに、ラスティは笑いかける。

「それでも、だ。しかしどのタイミングで聞きに行けば良いだろうか。私は父さんが囚われている場所を知らないしな。母さんはどうした?」
「私も知りません。母様は…失踪しました」
「わかった。下手に動き回って、処刑日時が早まっても困るし……処刑される当日に聞けば良いか。私が処刑執行人に指名されているなら、確実に話す機会はある」
「それがいいと思います」

 ラスティはデュナメスに視線を向ける。

「デュナメス、魔導ゴーレム部隊と魔力砲をすぐに起動できるように準備してほしい。もし父さんが生きることを望むようなら、腐敗した貴族たちを一掃して国を乗っ取る」
「おいおい、本気かぁ? ボス。国を乗っ取るなんて正気じゃねーぞ」
「私は正気だよ、デュナメス。父さんの件に関わらず、ミッドガル帝国はいつか支配するつもりだった。ロイヤルダークソサエティの影響力は削ぎ落としておきたい」

 ロイヤルダークソサエティの影響力は多岐に渡る。ミッドガル帝国は勿論、他の国々の中枢すら蝕んでいる可能性も高い。でなければ不自然な物資の移動や、技術力の高さ、ロイヤルダークソサエティの研究拠点の位置をしている。

 明らかに各国が手引きをして、ダイモス細胞の研究を加速させている痕跡がある。ダイモス細胞の研究を支援する代わりに軍事利用させる契約や、なんなら不老不死でも目指しているのだろう。
 ダイモス細胞は、面白い性質をいくつも持っている。それを発展させていくと不老不死も夢ではないのは事実だ。

 人間の夢である不老不死。それに至るためならいくら人が死んでも構わないと背中を押す人がいても不思議ではない。

「私達の敵はロイヤルダークソサエティだ。この国の掌握はあくまで過程でしかない」
「そうかい、了解した。いつかやる事なら、今やっても違いはないか。国家掌握、気張っていこう」
「お兄様……言いだした自分でいうのも変ですが、国を相手に勝てるんでしょうか?」
「勝つさ」

 翌日。
 処刑はミッドガル帝国の処刑場で行われる運びとなった。

『さぁ! 今日の悪党はなんと麻薬を流行らせ、暗殺を繰り返し、奴隷市場を開いていた極悪非道なヴェスパーだ!!』

 処刑台では道化師達が処刑を盛り上げるべく弁舌をふるっている。

『その処刑執行人はミッドガル帝国の大臣であるヴェスパーの息子! ラスティ・ヴェスパーだ!! 親殺しによってこの罪に対する罰を終える帝王の寛大さ!! 流石です!』

 ラスティには殺すための錆びついた剣が渡され、父親は手錠と足枷をされた状態で処刑台へ連れてこられていた。

 衣服は薄汚く、手足には血が滲み、顔には深いシワが刻まれている。目の隈も無視できない。

 自分の父親の扱いの悪さに、気分が悪くなるが、表情には出さずに、静かに父親の下へ歩く。

「父さん」
「お前が処刑人か。上層部も随分と人が悪い」
「生きたいか? 死にたいか? どちらでも必ず私は貴方の選択を尊重する」
「良い息子を持って幸せだよ、俺は。生きたいと言えば助けてくれるんだろう。それこそ国に反逆してでも。だが、今は時期ではない」
「……冗談だろう? まさか受け入れるのか」
「案外、悪くない人生だった。殺せ、ラスティ。そして国家に証明するんだ。お前が国に忠実な存在であることを。そして最後は、お前が王になれ」
「では、さらば」

 ラスティは、魔力を使って切れ味を増した、錆びついた剣を振り下ろした。
 まるで時が止まったようだった。
 一切の躊躇なく、父親の首を切断した。
 それを鑑賞し、国中へ中継していた腐敗した貴族たちも、そのあまりの躊躇いの無さに言葉を無くしている。

『おいおいおい! こっちが許可するまで殺すなよ!! これだから無教養なやつは困る!! どうするんだよ! これから! もうメインが終わっちゃったじゃねーか!!』
「…………面倒な」

 殺す必要はあったのか?
 そもそもミッドガル帝国に従う理由は?
 こんなに馬鹿にされて腹は立たないのか? 
 プライドはないのか?
 慈善活動組織アーキバスなんて、それこそ趣味だ。エクシアが運営して、ラスティの庇護が無くても動く。
 殺せ。殺せ。殺せ。
 あいつらを殺せ。

「何か変だ。明らかに思考に偏りがある。何か……こう、暴力的な衝動が湧き出るように誘導されているような……攻撃か?」
『おい! 何を無視してるんだよ!!』

 道化師の一人が、ラスティに向かって拳を放つ。それを避けようとする。しかしその前に道化師は巨大な質量によって踏み潰された。
 地面が割れて、破壊される。

「魔装ゴーレムギア、セットアップ。変身」

 ラスティは変身して、ゴーレムの鎧を身に纏う。そして地面に着地する。そして巨大な質量の上に視線を向けると、そこには少女が立っていた。

「許せない、許せない、許せない!」

 メーテルリンクだ。
 ラスティの妹である。
 彼女は物質創造魔法によって、長方形の硬い岩を生み出し、道化師にぶつけたのだ。

「殺す、殺す、殺す!! みんな! ヴェスパーを馬鹿にして! 私達を馬鹿にして! 見下して! お兄様のことを傷つけようとするなんて! 愚かで醜い存在は、纏めて消えてしまえばいい!!」

 メーテルリンクは光の粒を周囲に浮かべる。それは一筋の流星のように降り注ぎ、貴族達を刺し貫いた。

「シャルトルーズ、無事か?」
「はい、マスター・ラスティ。ご命令を」

 光のシャワーを掻い潜って、貴族たちの中に待機させていたシャルトルーズを救い出す。
 二人は暴走するメーテルリンクから距離をとって、方針を考える。

「シャルトルーズ、君は思考誘導を受けた感覚はなかったか?」
「検索を開始……終了。思考誘導の可能性に肯定。本機は、搭載されているパッシブガード能力によって効果を受けませんでしたが、そのような攻撃を受けた痕跡があります」
「私も思考誘導を受けたが、バランスを保つ思考回路が有効に働いて踏み止まれた。メーテルリンクは無理だったか」

 ラスティの悔しげな口調をシャルトルーズは否定する。

「どうやら、メーテルリンク様だけではないようです」
「なに?」

 ラスティが視線を下に向けると、光の粒を受けて血塗れの貴族同士が殺し合っていた。それだけではない。
 ミッドガル帝国の首都各地からも炎や、怒声、悲鳴が聞こえており、目を凝らすと、民衆同士で殺し合ったり、魔法戦士は虐殺をしている。

「派手なことをするじゃないか、誰かは知らないがやってくれる」
「マスター・ラスティ……」

 自然と笑みを浮かべるラスティに、シャルトルーズは言葉をかけて良いものか迷う。

「いえ、何でも有りません」
「まずはシャルトルーズを止める。そして慈善活動組織アーキバスのメンバーに連絡を……」

 爆発が起きる。
 そこには魔導ゴーレムの姿があった。そして市民や貴族、魔法戦士区別なく生命を破壊していた。

「なるほど。どうやら私達二人以外、みんな暴走しているようだ」
「状況を肯定。どうしますか?」
「……まずはメーテルリンクだ。私が思考操作を解除する。支援してくれ、シャルトルーズ!」
「了解。共に壁超えといきましょう」
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