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第二章:帝王の玉座

22話:敵地侵入②

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「周辺一帯に反応なし、オールクリアだ」
「中々強かったわね」
「全くだ。最初は三体だけだと思ったけれど、後から沢山来たし。まだバレてないよな?」
「此処は地下だ。戦闘音も地上に聞こえる程派手には出ていなかったと思う」
「爆発は控えめにしたから平気よ」

 地下通路に転がる幾つもの魔導士達、破壊したそれらを前に言葉を交わす三人。最初は三人だけだった魔導士も、偶然か、或いはその手のスケジュールが組まれていたのか、後から後からと僅かずつ増援が重なっていき、最終的には十二人の魔導士を撃破するに至った。幸運なのはこれらが纏めて出現したのではなく、三人ずつ四度の戦闘を繰り返した事。

 諜報防諜部門の言葉通りならば今此処で撃破した魔導士も、世界封鎖機構たちからすれば依然変わりなく稼働状態のままに見えている筈だった。ずっと構えていた手を下ろし、ゆっくりと息を吐き出すラスティの耳に通信が届く。

 

『皆さん、戦闘部門から合図を受信しました、要塞都市の防衛部隊と交戦を開始したとの事です』
『地上のゴーレムも大体戦闘部門の方に向かったみたいです!』
『地下通路を出るなら、今のタイミングだね』

 

 通信は戦闘部門が行った陽動に防衛部隊ご釣られたと云う報告。それを聞いたラスティは作戦通りの展開に表情を明るく変化させ、耳元のインカムに指先を添えながら小さく頷く。


「よし、ならば急ぐとしよう」
「良いタイミングね」
「やっと地上か」

 薄暗い地下通路を只管進み地上を目指す一行。手にした端末からホログラムが表示され、マップを表示し皆の行くべき方向を指し示す。『作戦通り戦闘部門が囮として活動している第三区画、中央通りからは離れた位置に出ます、通路番号は十六番です、間違えないように』、ホログラムと同時に表示される立体的な赤い矢印を動かし告げる。全員が諜報防諜部門のガイドに従い通路の出入り口、その一つへと辿り着く。地上への階段はセキュリティによって封鎖されていたが、諜報防諜部門の協力を得た今殆ど素通りに近い。階段を駆け上る一行、徐々に明るさを取り戻す視界に胸を高鳴らせ、外界へと飛び出す。

 瞬間、刺す様な痛みが瞳に走った。眩い夕焼けが彼らを照らし、暗闇から一気に世界は彩を取り戻す。


「眩しいな……っ!」
「もう陽が沈み始めているの?」
「おお、建物に夕焼けが反射して綺麗だ」

 要塞都市リッチドラムを囲う高壁、その周辺を囲う様に隆起した山脈に隠れ行く光。その陽光を反射した建物の光は儚くも幻想的であった。望外の景色に一瞬我を忘れ、思わず見入るエクシアやデュナメスに反し、ラスティは周囲のビル群や街道、設備などをじっくりと観察する。

「映像で見た時とは少し印象が違う、まるで大都会そのものだ――まぁ技術的にも、そう引けはとらないのだろうが……ミッドガル中央区画の一ブロックと云われても信じるかもしれない」

 上空写真で見た時はもう少し武骨な印象を受けたが、こうして実物大の都市を見上げるとミッドガル帝国の中央区画に負けず劣らず機能的な美しさを感じる。

 やや奇天烈な都市構造の様にも見えるが、ラスティ自身都市社会学、地理学の類には詳しくない。

 同心円モデルだとか、扇形モデルだとか、多核心モデルだとか、精々が凡その表層をなぞる程度の知識である。確か現代の都市構造モデルとなると、幾つかのモデルを複合させたものがあったか。

 その辺りに関しても恐らく慈善活動組織アーキバスにいるそっち方面の部門の者たちの方が詳しいだろう。

 今この場で彼女に問い掛ければ、「説明しましょう!」と嬉々として語って聞かせてくれるのだろうが、残念ながらその時間が自分達には存在しない。

 掘り下げれば分かる事情もあるだろう――胸につっかえる疑念をそのままに、ラスティは周囲を見渡し呟く。

「……情報通り、ゴーレムは何処にも居ないみたいだね」
『流石は戦闘部門、誘因効果は抜群だ』
「本当に一機も居ない何て、ちょっと怖いわね」
「それだけ私達の作戦が上手くいっているって事だ! それで、此処からはどう動けば良い?」

 デュナメスが元気よく端末にそう問いかければ、表示されたホログラムマップが回転し現在地を赤く点滅させ強調。そこから赤い線が街道を伸びて行き、次に進むべき道を示す。

『現在地からルートを算出しました、左手にある大通りを真っ直ぐ北に向かって下さい』
『シャルトルーズが居ると予想される中央のタワーには、そこから遠くない筈』
「此処から全力で走れば三十分――いや、二十分程度かな?」

 表示される中央タワーの位置と現在位置を見比べ呟く。距離としてはまずまずだが、ダイモス細胞を宿したダークレイスである彼女達からすれば遠いとまでは云えない。全力疾走を続けられるならば二十分を切る事さえ可能だろう。

 随分と良い位置の出入り口から地上に出られたものだと、内心で想う。

「今の内にガンガン行くとしようぜ、ボス』
「ああ、そのようにしよう」

 デュナメスの声に応えるラスティ。
 警戒して前を行くデュナメスに、ラスティとエクシアが続く。
 要塞都市リッチドラ厶を照らす暁の中、三人の影が真っ直ぐ伸びていた。

 


 走る、走る――兎に角走る。
 全力疾走を繰り返す三人は時間と共に体力を削られ、汗が滲む。

 足を緩める事はしなかった、兎に角今は時間との勝負。戦闘部門が敵の主力を誘引している間に中央タワーへと辿り着き、シャルトルーズを救助する必要がある。

 理想はこのまま気付かれずタワー内部に侵入し、シャルトルーズを救助した後、全員で戦闘部門に加勢――或いは戦闘部門が単独で離脱可能であれば、別途要塞都市より離脱する事。

 このまま敵の主力を戦闘部門が撃破してくれるのならば万々歳、しかし口には出さないがそれは難しいだろうという確信に近い予感があった。

 戦闘部門は確かに強力な切り札ではあるが、世界封鎖機構の組織力からして対策を講じていないとは思えなかったのである。故に彼女達が限界を迎える前に、一分一秒でも早く辿り着かなければならない。
 だからこそ、かれこれ十分近く全力疾走を行っているのだが――。


 端末越しにナビゲートを行っていた諜報防諜部門のナビゲーション担当者。その投影されていたモデルが不意にざらつく、まるで砂嵐の様に掻き乱される映像。

 それは明確なノイズだった、先頭を行くデュナメスが違和感を覚え徐々に足を緩める。直ぐ後ろを走っていたラスティも、何やら異変に気付き目を瞬かせた。
 その内、彼女の告げる音声すら不明瞭となってしまう。


「お、おい? どういうことだこりゃあ……?」
「デュナメス、通信にノイズが入っているな?」
「ああ、急に通信状態が――」
『デュナメス? 何か、通信――……悪化し―……』
『これは、まさ――……カウンタークラッ――……!』
『マズいよ! 皆、気を付け――……! 封鎖機構――勘付か……ッ!』

 まるで出来の悪い粘土細工の様に引き延ばされ、攪拌される投影映像。それを呆然と見つめる事しか出来ない三名。
 何かが起こっている、そう確信すると同時に端末とインカム、両方から凍える様な声が響いた。

 

『やはり慈善活動組織アーキバス。貴方達だったのね。ミッドガル軍は来ないと思っていたけれど、遺物の奪還を委託されたのかしら』
「脅迫だ。奪還しなければ私の家族が処刑される」
『貴方は?』
「私はラスティ・ヴェスパー。ミッドガル帝国の大臣にして、慈善活動組織アーキバスのリーダーだ。あなたの名前も聞きたいな」
『名乗る必要はないと思うけど』
「美しい女性の名前を聞きたいと思うのは自然なことだ。それに、世界封鎖機構所属の女性、というのは長すぎる」
『いいわ。名乗りましょう。私は世界封鎖機構所属、ラインアーク・ネフェルトよ。階級は少佐』

 その声を耳にした瞬間、全員の身体が跳ねる。乱れたホログラム映像は軈て再び形を取り戻し、そこには先程とは異なる人物が佇んでいる。

「これって、通信が乗っ取られたのかしら」
「恐らく、そういう事だろうね。さすがは世界封鎖機構。やってくれる」

 顎先を伝う汗を拭い、険しい視線でネフェルトのホログラムを見つめるラスティ。

 このタイミングで気付かれる事は、正直に云えば予想外も良いところだ。まだシャルトルーズを見つける所か、中央タワーにすら到達出来ていない。

 作戦段階で云えば序盤も序盤、最低でもタワー内部に侵入を果たしてから発見されたかったが――どうやら向こうの方が上手であったらしいと、ラスティは内心で臍を噛む。

『ここまで来るとは……よほど例の遺物が欲しいと見えるわ』
「その通りだ」

 或いは彼女は予期していたのだろう、誰かがこうしてシャルトルーズを取り戻しに来る事を。

 どれだけ言葉を尽くしても、論理的に語って聞かせたとしても、彼女達が頷き受け入れる事はない。

 薄々だが、彼女はそれを感じ始めていた。だがそれを理由に自身の合理正しさを曲げる事は出来ない――故に世界封鎖機構の女性は自身のそれを証明すべく、再び口を開いた。


『――貴女達は、トロッコ問題をご存知かしら?』
「トロッコ問題……? 有名な思考実験の話かい?」
『えぇ、そのとおり。至って簡単な話よ――故障し、止まる事が出来なくなってしまった列車トロッコがレールの上を走っている時、大多数を生かす為に一人を犠牲にするのか、或いは一人を生かす為に大多数を犠牲にするのか、そういう選択を迫る問題』

 唐突に語られたその内容に、全員が面食らい目を白黒させる。

 トロッコ問題――レールを走るトロッコが制御不能になった時、そのまま直進すれば前方に居る五人が轢き殺されてしまう。しかし、レールの分岐器の傍に立っていた人物が進路を切り替えれば、直線上で作業を行っていた五人は助かる。

 代わりに、分岐先で作業を行っていた一人が死ぬ。

 障害物の設置や脱線、緊急停止、あらゆる手段は封じられ、分岐器を切り替えるかでのみこれらの人物を助けられるか決定される時。

 この時、レールの分岐器を操作する事が正しいのか? それとも操作しない事が正しいのか?

 この行為は許されるのか、それとも許されないのか。

 ――五人(世界)を救う為に、一人(シャルトルーズ)を犠牲にする事は許されるのか正しい事なのか。

『これの答えは明白よ、そして誰かがレバーを引く役割を担わなければならない……私はただ、その役を引き受けようとしているだけ』

 ネフェルトは淡々と、それこそ自身の内側で決まり切っていた答えを口にした。悪意も敵意も、彼女は端から持ち合わせてなどいない。

 分岐器を切り替えるか否か、彼女の答えは勿論――『切り替える』、だ。

 ましてやその対象が五人ではなく世界そのもの、そして犠牲となる対象が一人のままであるのならば、迷うべくもない。たった一人を犠牲にする事で世界を、世界を救えるのならば彼女は喜んで泥を被ろう。

 それは、正しい行い正義である筈だ。


『私はただ、皆を――』

「救いたいだけ、か。世界封鎖機構の理念もそこにあるように思える。人助け。それに対して私が言う言葉はシャルトルーズを返してほしい、ということだ」
『………』


 ホログラム、ネフェルトへと向けられる余りにも明瞭な叫び。

 私の友人であり、仲間であるシャルトルーズを犠牲になどさせない――彼女の返答は、一貫して変わらない。
 ネフェルトへと指を突きつけたラスティは、胸を張って言葉を続けた。

「世界封鎖機構は全体にしょっぱい。世界の脅威だとか何だとか理由を付けてシャルトルーズを誘拐したが、スケールが小さすぎる。もっと想像して楽観的になったほうが人生楽だろうなって感じる」
「ラスティ……?」

 そこ張り合う所なの、とエクシアは思わず疑問を口に出し掛けた。しかし、どうやらラスティとしては譲れない一線らしく、鼻息荒く言葉を続ける彼は天を指差し叫ぶ。

「それこそ世界を救う何て云うのなら、空に大きな航空戦艦でも飛ばして、巨大な空中要塞に突っ込むくらい派手な演出してほしい。私達の物語はいつだって鮮烈で、派手で、夢と希望に溢れている未来を目指している。誰か一人を犠牲にして成り立つ鬱々としていて、物悲しい展開は好ましくない。はっきり言って認められない」
『………』
「全員救うか、全員死ぬか。そっちのほうが刺激的だ」
『……リーダーには向かないわね。それで組織運営できているのが奇跡だわ。それに独善的だわ。強制的な一蓮托生なんて』
「自覚している。しかしリーダーである私は負ければ死ぬんだ。だったら救いたい人達を全力で救って、失敗したらみんな死ぬべきだと思わないか?」
『貴方の庇護を失ったダークレイスの子達はロイヤルダークソサエティの実験体でしょうし、ダイモス細胞を宿してくれた時点で一蓮托生ということか……独善的だけど合理的だわ』

 ネフェルト少佐は意外そうに告げる。

「人道的では無いがね。ダイモス細胞を持って生まれた時点で実験体か、我々に保護されて慈善活動組織アーキバスで働くしか選択肢はない。改めて考えると酷い話だ」
『だからこそ世界封鎖機構が必要なのよ。世界をもっと酷い世界にしないために遺物を封印している。それを利用しようとする危険組織も叩き潰す必要がある』
「遺物を利用して世界をプラスの方向へ向けようと思わない時点で私の好みではないな。思考のスケールが小さい」
『ネガティブ思考で悲観的か、ポジティブ思考で楽観的かの違いね。案外、貴方は好き嫌いは口をしても私たちの存在の否定はしないあたり、話が分かる人物だと感じているわ』

 その言葉にラスティは笑みを深くする。

「それは何より。美人に褒められれば悪い気はしない。どうだい、一緒に悲しいんでいる少女達を救う気はないかい? 君たちが協力してくれると心強い」
『ないわ。私たちは貴方達を潰す。良い人物だとは思うし、惜しいと思うけど……これは個人的な感傷だわ』
「個人の感情こそ何より大切にするべきだと思うが。組織のために己を殺すのは美しいと思うが、苦しいだろう。君は平気かい?」

 それは合理的判断ではない。ネフェルトは何かを口にしようとして、やめた。それは彼女の主義主張に対し一定の正しさを認めたからだとか、そういう事ではなかった。自身を見つめる瞳が余りにも強く、輝きを放っていたからだ。

 それはいつか、部室棟の廊下で出会った時よりも強く、より強固に

 ――だが、感情一つで世界は救われない。

 微かに視線を険しくさせ、ホログラムに映らない手を握り締めるネフェルトは想う。それは、現実という困難を前に余りにも無力な代物の筈だ。

「ちょっと横から失礼するわ」
『――貴女は?』

 不意にラスティの肩を掴む手があった。はっとした表情で振り返れば、エクシアがラスティの肩越しにホログラムを覗き込む。

「ネフェルトさん、今回の一件、何故こうも性急に事を運んだの? 強引に事を進めれば、こうして反発が起きるのは目に見えていたでしょう」
『命令があって、私もそうするべきだと思ったからよ、それ以上でも以下でもないわ』
「ミッドガルだけの話じゃない、もしネフェルトさんの話が真実であるのならば尚更、他の国――それこそ連合を作る選択もあった、そうすれば世界封鎖機構だけでは取れない選択肢も、新しく浮かんできた可能性がある」

『国家にこの事を相談した所で事態は好転しない確率の方が高いわ。現在の国家群のレベルの低さは、慈善活動組織アーキバスである貴女達も知っているでしょう』
「それは――」

 ネフェルトの吐き捨てる様な冷たさを孕んだ反駁に、エクシアは思わず口を噤んだ。現在の国家群、その実情を断片的ながらもエクシアは把握していた。
 ミッドガルは上層部は腐敗して、賄賂と奴隷と不正と隠蔽と非人道的な行為が横行している。他の国家も似たようなのものだ。

『もしこの話が通ったとしても、国家群が共同して対策組織を設置して、実際に防衛都市やそれに準ずる設備、計画の為に動き出すのはいつになるのかすら不明瞭……国家群は一枚岩ではないわ、ましてや世界封鎖機構の圧力が失われ、共通の敵への意識が分散しつつある今、各国は自分の利益のために動き始めている。仮に協力を呼び掛けたとしても各国が従うかどうかも未知数』
「………」
『ロイヤルダークソサエティの存在も忘れたとは云わせない。やつらはダイモス細胞の研究のためならどんな敵も行為も恐れない』
「……だから、単独で事を起こしたと?」
『えぇ、そして命令がやってきた。世界封鎖機構が一時的に撤退した地域で、世界を滅ぼす遺物が起動したから収容しろと』

 呟き、ネフェルトは顔を伏せる。元より彼女は何度もシミュレーションを重ねた上でこのやり方を選んだ、当然行われた演算の中にはあらゆる国と協力関係を結んだ場合のシチュエーションも存在する。

 だがそもそも協力関係が築けない、敵対関係に至る、最終目標の不一致から足並みが揃わない、此方の提案を聞き入れられない――そう云ったネガティブな結果が殆どであった。

 しかし、既に賽は投げられた。故に迷いはない。ホログラムの中に佇むネフェルトは顔を上げ、エクシアを真っ直ぐ見つめながら断言する。

『単独で事を起こす、これが最も合理的な判断であった、私はそう考えているわ』
「……それは独善ね。しかし好き嫌いでいえば好きよ。私は貴方と手を取りたいと思う。でも無理。私は全てを失うか、全てを得るかの方が魅力的だもの」
『――そう。ありがとう。今直ぐ貴女達に納得して貰うのは難しいでしょう、その事は私自身十分理解しているもの』

 悲し気に告げられた言葉に、ネフェルトは吐息を零した。だからこそ彼女達は仲間を引き連れ、この場所に立っている。自分の持てる力を全て結集し、仲間を救わんと奮闘している。

  理論や理屈で納得できるのであれば、彼女達はこの場にこうして立ってはいまい。


『えぇ、だから――今は、力で以て退かせて貰うわ』

 ネフェルトはそう決めた。

 それが望んでいたものでなくとも、必要があれば躊躇わず決断しよう。ネフェルトは端末を指先で叩き、幾つかの項目を操作する。そして腕を前に突き出すと共に、力強く宣言した。

『拠点防衛型ハイエンド魔導ゴーレムNo.09、ジャスティス。発進』

 瞬間、鳴り響く轟音――その場に居た全員が思わず身を跳ねさせ、周囲を見渡す。響く轟音は徐々に大きくなり、何かが迫っているのだと分かった。 


「エクシア、デュナメス、警戒を」
「了解!」
「おーけい」

 三人が固まって迎撃態勢を整え、音の鳴る方向へと注視する。

 瞬間、ビルの隙間を縫って出現する巨躯――甲高い走行音、地面を擦りながらドリフトを敢行する彼の者は巨大な盾を地面に叩きつけ、強引に機体を旋回させた。

 振動で周囲の建物が揺れ、幾つかの窓硝子が罅割れ砕ける。飛び散るそれらを身に浴びながら、巨大な影――拠点防衛型ハイエンド魔導ゴーレムNo.9ジャスティスは一行の前に現れた。


「こ、これは――ッ!」


 その全貌を見た皆は思わず息を呑む。

 脚部は戦車と同じ履帯、其処に人間と同じような上半身と頭部が取り付けられ、球体関節から四本の主腕が伸びる。

 下部二本は巨大な装甲板盾と魔力大砲を持ち、上部二本は拡散魔導バズーカと魔力ガトリング弾砲を備えていた。

 大きさはちょっとした2階建ての建物程度はあるだろう、上半身に至っては170センチのラスティを5人繋げたよりも高い。

 何より特徴的なのは、センサー類が集中しているのだろう頭部。或いは飾りなのかもしれないが、そのオールドチックな魔導ゴーレムらしい風貌とも、或いは前衛的過ぎるとも云える絶妙な表情――表情? を象った頭部。

 これこそが世界封鎖機構ネフェルト少佐の用意した拠点防衛型ハイエンド魔導ゴーレムNo.9ジャスティスである。

 どこか自信を滲ませる表情で口元を緩ませるネフェルト。

『……理解されないのなら、もう良いわ、そのままでも構わない、重要なのは機能と実力だもの――さぁ、彼女達を撃退しなさい、ジャスティス!』

 ジャスティスの目が光り手にした銃口を一行へと突きつける。凡そ魔導戦車の主砲にも匹敵し得る口径を持つそれを突きつけられ、彼女達は悲鳴染みた声を上げた。


「世界封鎖機構の少佐が自信を持って登場させた魔導兵器だ。諸君、踏ん張りところだぞ」
「ええ」
「ああ」
「共に、壁越えと行こうじゃないか」
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