18 / 55
第二章:帝王の玉座
18話:多数の敵
しおりを挟む
■
【ミッドガル帝国・ラスティ・ヴェスパー大臣の執務室】
良識派の貴族や役員が集うその場所で、一人黙々と何かを書き留める人影が一つ。
ラスティは今回起きた一連の流れを詳細に書き留め、各施設や部門から報告される情報をまとめていた。
部室棟には監視用のマジックアイテムの類も設置されており、空中を行き交う警備ゴーレムの監視映像も存在している。あの場で一体何が起きたのか、凡その情報は出揃いつつあった。
無言でペンを動かすラスティの耳に、部屋の扉が開く音が届く。ふとデスクから顔を上げると、やや憔悴した様子のエクシアがオフィスへと足を踏み入れた。
彼は問いかける。
「デュナメスとシャルトルーズの容態は?」
「現在は安定しているわ、現場での処置も適切。しかし世界封鎖機構が身柄を拘束している」
「……そうか」
エクシアの返答に凡そ予想はついていた。ラスティは深い溜息を吐き出す。エクシアもラスティの隣へと無造作に腰掛ける。椅子が軋み、らしくもなく足を投げ出すエクシア。右手で顔を覆いながら天井を仰ぐ彼女に対し、ラスティは努めて冷静に告げる。
「崩落した慈善活動組織アーキバスの拠点は……一先ず崩落した外壁の撤去と破損した歩道の修繕、爆発した箇所には大型のリペアプレートと固定ジェルで簡易的な修繕を命令して来たわ、外壁周辺はゴーレムで何とかなるし、瓦礫撤去も明日までには終わる筈だ」
「――そうなると、本格的な外壁修繕は明日以降になるわね」
「ああ。メインルームは一時的に封鎖、周囲に大きな怪我人が出なかったのは幸いだ――……が、腐敗派に付け入る口実を当ててしまったのは事実だ」
ラスティの言葉、その後ろにどんな続きがあるのか薄々とエクシアは気付いていた。傍目から見ても彼女は参っている、気が気でないと表現するべきだろうか。暫し無言を貫いたエクシアは、手元の画面が真っ暗な端末を叩きながら呟く。
「テロという評判が広がっている。腐敗派はこれを口実に防衛力の欠如、腐敗貴族による勢力増強を主張してきている。そしてそれはそれとして事件を防げなかった良識派へのバッシングもひどい」
ラスティの言葉に口を噤むエクシア。念入りな調査によって今回の件に腐敗派が絡んでいない事は既に理解している。事件後の意図的な情報操作や、シャルトルーズという過去の遺産を持ち帰ったことに対する批判こそあれど、それは事件に乗っかった動きだ。
主犯ではない。。
「今は外部からの襲撃に対して心配する必要まある。この混乱に乗じてダイモス細胞を持った子達を狙う『ロイヤルダークソサエティ』、引き続きこちらの領地の遺産を狙う『世界封鎖機構』、国家転覆を企む『革命軍』、ミッドガル帝国を憎む『異民族』への警戒もだ」
「今回の騒動、もう外に?」
「……こちらの事に関しては、何処も敏感ですから」
「……世話をかける。すまない。ありがとう。助かる」
「いいえ。大丈夫よ。貴方は私が支える。何があっても見捨てない。死ぬなら貴方より先に死ぬ」
ラスティの肩を、エクシアは優しく包む。それにラスティは手を握ることで返した。
◆
【ミッドガル帝国・ラスティ・ヴェスパー大臣の執務室】
良識派の貴族や役員が集うその場所で、一人黙々と何かを書き留める人影が一つ。
ラスティは今回起きた一連の流れを詳細に書き留め、各施設や部門から報告される情報をまとめていた。
部室棟には監視用のマジックアイテムの類も設置されており、空中を行き交う警備ゴーレムの監視映像も存在している。あの場で一体何が起きたのか、凡その情報は出揃いつつあった。
無言でペンを動かすラスティの耳に、部屋の扉が開く音が届く。ふとデスクから顔を上げると、やや憔悴した様子のエクシアがオフィスへと足を踏み入れた。
彼は問いかける。
「デュナメスとシャルトルーズの容態は?」
「現在は安定しているわ、現場での処置も適切。しかし世界封鎖機構が身柄を拘束している」
「……そうか」
エクシアの返答に凡そ予想はついていた。ラスティは深い溜息を吐き出す。エクシアもラスティの隣へと無造作に腰掛ける。椅子が軋み、らしくもなく足を投げ出すエクシア。右手で顔を覆いながら天井を仰ぐ彼女に対し、ラスティは努めて冷静に告げる。
「崩落した慈善活動組織アーキバスの拠点は……一先ず崩落した外壁の撤去と破損した歩道の修繕、爆発した箇所には大型のリペアプレートと固定ジェルで簡易的な修繕を命令して来たわ、外壁周辺はゴーレムで何とかなるし、瓦礫撤去も明日までには終わる筈だ」
「――そうなると、本格的な外壁修繕は明日以降になるわね」
「ああ。メインルームは一時的に封鎖、周囲に大きな怪我人が出なかったのは幸いだ――……が、腐敗派に付け入る口実を当ててしまったのは事実だ」
ラスティの言葉、その後ろにどんな続きがあるのか薄々とエクシアは気付いていた。傍目から見ても彼女は参っている、気が気でないと表現するべきだろうか。暫し無言を貫いたエクシアは、手元の画面が真っ暗な端末を叩きながら呟く。
「テロという評判が広がっている。腐敗派はこれを口実に防衛力の欠如、腐敗貴族による勢力増強を主張してきている。そしてそれはそれとして事件を防げなかった良識派へのバッシングもひどい」
ラスティの言葉に口を噤むエクシア。念入りな調査によって今回の件に腐敗派が絡んでいない事は既に理解している。事件後の意図的な情報操作や、シャルトルーズという過去の遺産を持ち帰ったことに対する批判こそあれど、それは事件に乗っかった動きだ。
主犯ではない。。
「今は外部からの襲撃に対して心配する必要まある。この混乱に乗じてダイモス細胞を持った子達を狙う『ロイヤルダークソサエティ』、引き続きこちらの領地の遺産を狙う『世界封鎖機構』、国家転覆を企む『革命軍』、ミッドガル帝国を憎む『異民族』への警戒もだ」
「今回の騒動、もう外に?」
「……こちらの事に関しては、何処も敏感ですから」
「……世話をかける。すまない。ありがとう。助かる」
「いいえ。大丈夫よ。貴方は私が支える。何があっても見捨てない。死ぬなら貴方より先に死ぬ」
ラスティの肩を、エクシアは優しく包む。それにラスティは手を握ることで返した。
◆
11
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

同級生の女の子を交通事故から庇って異世界転生したけどその子と会えるようです
砂糖琉
ファンタジー
俺は楽しみにしていることがあった。
それはある人と話すことだ。
「おはよう、優翔くん」
「おはよう、涼香さん」
「もしかして昨日も夜更かししてたの? 目の下クマができてるよ?」
「昨日ちょっと寝れなくてさ」
「何かあったら私に相談してね?」
「うん、絶対する」
この時間がずっと続けばいいと思った。
だけどそれが続くことはなかった。
ある日、学校の行き道で彼女を見つける。
見ていると横からトラックが走ってくる。
俺はそれを見た瞬間に走り出した。
大切な人を守れるなら後悔などない。
神から貰った『コピー』のスキルでたくさんの人を救う物語。
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

不遇にも若くして病死した少年、転生先で英雄に
リョウ
ファンタジー
辺境貴族の次男レイ=イスラ=エルディア。 実は、病で一度死を経験した転生者だった。 思わぬ偶然によって導かれた転生先…。 転生した際に交わした約束を果たす為、15歳で家を出て旅に出る。 転生する際に与えられたチート能力を駆使して、彼は何を為して行くのか。 魔物あり、戦争あり、恋愛有りの異世界冒険英雄譚がここに幕を開ける!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる