悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック

文字の大きさ
上 下
13 / 55
第二章:帝王の玉座

13話:旧時代の王女②

しおりを挟む
「みんな、こんにちは。今日は友達を連れて来たんだ」

 迎えてくれたのは院長シスターと若いシスター。ラナ、シレネ、それに数人の子供達だった。

「手前から、ヴィラトリア嬢、スペッサ、トンガリだよ」
「こんにちは。ヴィラと呼んでください」
「スペッサだよ~よろしくね」
「…………………トンガリだ」

 トンガリ君は訂正しようか迷って、諦めたみたいだ。

 いきなりやって来た身なりの綺麗な4人の貴族の子供と複数の護衛に、孤児院のみんなはビビってる。そりゃそうだよな。

「ラナ、今日はリアはいないの?」

 リッチがラナに尋ねた。

「あいつなら、今日は用があるからって来てないよ」
「そんな!」

 がくーん、と見るからにリッチが落ち込んだ。やっぱり、こいつはいつもリア目当てで来てたんだな。

 その様子にシスターもあたふたしてる。貴族の機嫌を損ねる事ほど怖い事はないだろうしね。

 とりあえず、少し緊張をほぐすか。

「孤児院の皆様に贈り物がありますの」

 オレは侯爵家から連れて来ていた護衛に、準備していた物を運ばせた。

「日持ちのするパンやクッキーですの。中に野菜も練り込んでますので、多少は栄養が摂れますの」
「まぁ!」

 シスターズが顔を輝かせた。孤児院の1番の悩みはきっと食費だろうから。これはとっても助かる筈。

 ふと、ラナやシレネと目が合う。ラナは何か言いたげに、シレネは猫みたいにジーッとオレを観察していた。

 これは…もしかしてバレた?

 とりあえず誤魔化すようにオレは2人に微笑んでみせた。



◇◇◇



 その後は、普段通りの孤児院を見せてもらいたいという事で。リッチの護衛騎士が教える剣の指導に、トンガリ君が交じったり。

 シスターの魔法教室にスペッサが交じったりして各々過ごした。

 オレは勉強してる子達のサポートをした。リアの時は教養があるのを知られたくなくて出来なかったけど、ヴィラの姿ならいくらでも勉強を見てやれる。

 それが楽しくて時間もあっという間だった。

 そろそろいい頃合いだから帰ろうか、と話してる時にその客はやって来た。

 身なりの良い明らかに貴族と分かる男だった。

「ここに、10歳くらいのピンクの目をした子はいないか!?」
「ピンクですか?お待ちください」

 シスターが慌てて、シレネを連れて来る。

 男がシレネに何か話しかけて、頷いたシレネが首元から何かを取り出して見せた。

 ロケットペンダントだ。

「あぁ、間違いない。この子は私の娘だ!」

 その後は孤児院は大騒ぎだった。

 ずっと孤児として育てていた子が、まさか行方不明の子爵の娘だったなんて、漫画やゲームなら王道すぎてビックリだ。

 ん?王道?

 最近すっかり忘れてたけど、ココは妹のハマっていた乙女ゲームの世界で。確かヒロインは、ピンクの髪で、目もピンクだった様な…。

 今さらながら、オレはシレネがいずれこの世界を救うヒロインだという事に気づいた。

 子爵やその護衛、シスターらに囲まれたシレネはとても不安そうだった。

 いきなり知らない男がやって来て、住み慣れた場所や、親しかった仲間から引き離されようとしている。

 そしてこれから、厳しい貴族としての生活や教育が待ってるんだ。

 ふと、6歳の頃にいきなり記憶を思い出して不安になった自分を思い出した。オレにはあの時お母様がいたけど、シレネにはそんな存在はいないんだ。

「子爵、ちょっとよろしいですの?」
「ん、何だい?小さなレディ」

 子爵はオレに目線を合わせるべくしゃがんでくれた。良かった。良い人そうだ。

「ワタクシ、トルマリン家の娘、ヴィラトリアですの」

 貴族としての礼をして、オレは子爵を見つめた。

「無事、お嬢様が見つかって良かったですの。ぜひお祝いに贈り物をしてもいいですの?」
「あ、ああ。ありがとう」

 戸惑う子爵をよそに、オレはシレネの手を引いて教会の中庭に連れて行く。みんなも、よく分からないままゾロゾロ後についてきた。

「見ててくださいの」

 オレは、手の平からいくつもの水の塊を出すと、それを風魔法に乗せて空に飛ばした。続けて氷の塊を飛ばす。

 水の塊が次々と空に弾けて、まるで霧雨の様に雨を降らす。本日の天気は晴れ。陽光を浴びて、うっすらと綺麗な虹が浮かび上がった。

「わあ、綺麗!」

 シレネが目をキラキラとさせた。

 そこに小さく砕いた氷の粒を降らせる。虹の中を、陽光を浴びた氷の粒達がまるで宝石みたいにキラキラと空を舞った。

 これには、子爵含め、他のみんなも歓声を上げた。

 美しい光景にみんなが見惚れる中、オレはシレネを振り返った。

「ワタクシは魔法の力が少なくて簡単なものしか使えないんですの。でも努力したらこんな綺麗な物を作れる様になりましたの」
「ヴィラ様…?」
「これから貴族として生きていくのはとても大変だと思いますの。だけど、努力は裏切りませんの」

 オレはシレネの手をギュッと握った。

「だから大変だと思いますけど、頑張って欲しいですの。そして13歳になったら、また貴族学校で会いたいですの」
「…っ、はい。わたし、がんばります!」

 シレネは泣きながら、でも笑顔で手を振って子爵と去って行った。子爵も何度もオレにお礼を述べて帰って行った。



ーーー


 次話、第一部の最終話です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...