悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック

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第二章:帝王の玉座

13話:旧時代の王女②

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 無傷で施設の最下層まで降りることができた3人は、非常灯の明かりに従って歩く。上層と比べて道は複雑ではなく、一本道だった。通路自体も広いとは言えず並んで歩くのは2人が限界。出入り口も3人が落下してきた以外の穴は無い。つまり、あそこから落下するルートが正規の道なのだ。設計者は馬鹿なんじゃないか、とデュナメスは思った。

 

「────」

 

 外界からは完全に遮断されているこの空間に響くのは3人の足音と呼吸音。冷たい空気が流れて、言いようがない緊張感がエクシアとデュナメスを襲って、思わず固唾を呑んでしまう。そして、暫く歩いていると突然開けた明るい空間に出た。

 ────そこで、三人は有り得ないものを見た。


「これはまた」
「……えっ!?」
「お、女の子……?」


 広い空間にポツリと存在する機械の椅子。そこに一糸纏わぬ姿で眠る少女が居た。長い、黒の流麗な髪。雪月花のような顔。きめ細やかな肌。華奢な美しい手足。眠り姫だった。童話の中でしか存在しないような、純粋無垢な……純白の姫君がいた。

 その現実離れした美しさにエクシアとデュナメスは目を奪われる。呼吸すら忘れてしまうほど空想的だったのだ。まるでこの場所だけがミッドガル帝国から切り離されているような、絵本の中に出てくるお菓子の国のような……そんな光景。 

 数秒後、はっとした2人は慌てて少女の方に歩み寄り360度隈なく観察する。そして、その2人の後をラスティがついてくる。

「この子……眠ってるのかしら?」

「返事がない、ただの死体のようだ」

「不謹慎なネタ言わないで。それに死体っていうか……ねえ、見て」

 

 エクシアは少女を指差して。

 

「この子、怪我とかじゃなくて……『電源が入ってない』みたいな感じがしないかしら?」
「そうかぁ? いや確かに言われてみれば、何だかマネキンっぽい。どれどれ……凄い、肌もしっとりしてるし柔らかい……ここに何か文字が書かれてる」

 少女の肌を指先でつんつんしていたモモイはその肌に文字を見つけた。刻まれているのだろうか。まるで何かのシリアルナンバーのように。 

「シャルトルーズ?」
「どういう意味だ、こりゃあ」
「名前……か」
「一体この子は……それにこの場所、いったい何なんなのかしら?」
「この子に聞いた方が早いんじゃない?」
「起きて話してくれるなら良いんだけど……とりあえずこのままじゃ可哀そうだし、服でも着せてあげましょう」
「へえ、予備の服なんて持ってきてるとは準備が良い……待て待て、それ私のパンツ!」
「違うわ、これは私の。猫ちゃんの表情が違うでしょ」

 言いながらてきぱきと服を着せるモモイとミドリ。数分も経たずに少女は白のミレニアムの制服を纏った姿になった。

「……よし、これでいいかしら」


 そう言い終えた途端、部屋全体に音が響いた。穏やかではない音、警報音。


「な、何この音!?」

 三人は肩を一瞬だけ跳ねさせて、それからすぐに構えて周囲を警戒する。何が出てきても対処ができるように。だが、何時まで経っても何かが出てくる気配は皆無だった。肩透かしを食らった少女は銃を下し、キョロキョロと見渡しながら口を開く。


「警報音みたいだけど……もしかくて近くにゴーレムが?」
「ううん……この子から聞こえた気がする」
「え? ま、まさか……」
「────状態の変化、および接触許可対象を感知。休眠状態を解除します」

 無機質ではない、声帯から発された平坦な声。

「────」

 青い、大きな瞳が開かれた。或る少女の覚醒。長きに渡る孤独の終わり。

「め、目を覚ました……?」
「状況把握、難航。会話を試みます……説明をお願いできますか?」

 こてん、と愛らしく首をかしげる少女。見惚れてしまうほど美しい、まるで1枚の絵の様な光景であったが疑問を投げかけられた少女達はそれどころではなかった。

「え、えっ? せ、説明? なんのこと?」
「説明が欲しいのはこっちのほうだ。君は何者? ここは一体なんなの!?」
「本機の自我、記憶、目的は消失状態であることを確認。データがありません」

 矢継ぎ早に投げかけられた疑問。だが、その全てに回答を得られなかった。彼女は記憶喪失であるから。自我も、記憶も、目的も全て真っ白。彼女は今、初めて生まれたのだ。


「ど、どういうこと……い、いきなり攻撃してきたりしないよね?」
「肯定。接触許可対象への遭遇時、本機の敵対意思は発動しません」
「うわ、すごい。人形はあるけどこんなに私たちに似てるのなんて初めて」

 敵対の意志は無い────そう告げられた少女達は警戒して離していた距離を再び詰めて、再度観察する。ゴーレムとは明確に違う、ワンオフ。コストなんて度外視で作られた精巧が過ぎる機体は、あまりにも生命だった。

 どうしようか、と疑問に思ったエクシアはラスティに視線を投げた。彼ならばなんとか丸く収めてくれるのではないか、という願望。少女の願い。それを受け取ったラスティは軽く微笑み、少女の視線と己の視線を合わせる。

「おはよう、私はラスティ・ヴェスパー。君の名前は?」
「回答不可、本機の深層意識における第一反応が発生したものと推定されます」

 返ってきた返答はまたしても不明。だが、彼女なりに考察を交えた……先ほどよりは明確に情報量が多い答えだった。それに満足したラスティは「そうか」と短く言って、少女から離れる。この場ではこれ以上意味がないと言わんばかりに。


「深層意識って、何のこと……?」
「うーん……工場の地下、ほぼ全裸の女の子、おまけに記憶喪失……」

 ────その時、デュナメスに電流が奔る。

「ふっ、良いこと思いついたぜ」
「いや……今の言葉の羅列からは、嫌なことしか思い当たらないんだけど」
「────?」

 少女を置いてきぼりにして、少女の近い未来が決定した瞬間であった。
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