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救援部隊⑤

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 トンネル内で閑の痕跡を追いかけて辿り着いた先。真昼が見たのは、あちこちが崩れ落ちたトンネルとデストロイヤーの死骸だった。紛れも無く戦いの痕跡であるそれは、トンネルの奥の中にまで及んでいる。

 周囲のデストロイヤーも、少ないが残っている真昼達はそれに対処しながらも、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。こんな所に、1人の人間が生身で居ればどうなるのか。

 ドォッン!! と音を立てて、地面からデストロイヤーの手が現れる。それによって壊れかけのトンネルが崩落してそれによって真昼は他のメンバーと引き裂かれていた。

 瓦礫の奥では他のメンバーが戦闘を行っている音が響いている。そしてそれが収まると、シノアの声が聞こえる。 

「真昼! 大丈夫!?」
「はい! お姉様!」
「真昼さん、そちらの状況を教えていただけますか?」

 愛花の落ち着いた声が聞こえる。

「えっと、出口までは空いてます。ただ瓦礫の山はかなり分厚そうです」
「なるほど。では真昼さんはそのまま閑さんの場所まで行ってください。私達はトンネルを迂回してそちらに向かいます」
「わかりました!」
「真昼! デストロイヤーがいても冷静に対処するのよ」
「はい! 気をつけます!」

 真昼は走ってトンネルの出口に向かって走っていった。そしてノイズ混じりのデストロイヤーサーチャーと、閑の予測地点を見合わせて、デストロイヤーと遭遇しないように閑の元へ向かう。
 そこに閑がデストロイヤーを倒し終えている場面だった。しかし背後から迫るデストロイヤーの刃が。

「閑さん! 後ろ!!」

 脳裏に浮かんだ閑が貫かれる光景を否定するように叫ぶ。直後、真昼は自然と戦術機をシューティングモードに変形させて、弾丸を発射させた。弾丸はヒュージを的確に捉え、破壊した。
 砲口から煙が出ている。
 一連の動作を真昼は何も考えず反射的におこなっていた。

「大丈夫ですか!?」
「負傷しているけど、何とか無事よ」

 それを聞いた真昼が、安堵の息を吐いた。

「安心している場合じゃないわ。魔力の量が心もと無いの。すぐに撤退しましょう」
「閑さんの言うとおりですね。急ぎます。ええと、撤退ルートはこれです」

 真昼は閑の端末に情報を転送する。

「これね。これは……少し遠いわね。ところで真昼さんは一人で来たの?」
「いえ! レギオンで来ました」
「そう。なら撤退ポイントまで移動することをここに情報として残しておかないとね」
「そうですね!」

 閑は、弾丸で地面に文字を書く。

「器用ですね」
「これくらい一般教養よ」
(たぶん、司令塔育成コース特有のやつだ)
 

 閑は真昼の顔に浮かんでいる表情を見て、訝しんだ。驚愕の色が濃いが、それよりもなんとも言えない表情をしている。そしてその視線は、銃弾文字に向けられているのだ。

「閑さん、応急処置します。傷を見せてください」
「いえ、それよりも移動を」
「駄目です。ここにいれば合流の可能性もありますし、移動中に襲われれば治療するタイミングがありません」
「そうね、そのとおりだわ。お願い」
「はい」

 それを聞いた真昼は、急ぎ閑に対して応急処置を施した。局部麻酔剤を使って腕に突き刺さっているデストロイヤーの刃を抜き取ると、傷口に包帯を巻くのだ。
 そうしている内に長かった数分が過ぎ去り、真昼の閑への処置が終わった――――その直後だった。

「治療終わりました」
「ありがとう。……ッ! 真昼さん!!」
「デストロイヤー!?」
 
 背後にいるのはミドル級で、既に攻撃の態勢に入っていた。二人は失態を悟った声を発し、それが終わるまでに砲撃の音が響いた。
 真昼のものでも、閑のものでもない砲撃。それは、トンネルの進行方向からやってきたものだった。

『大丈夫? 真昼』
「葉風さん!」
『そっちにデストロイヤーが集まってきている。ラプラス様達と一緒に殲滅するから、援護射撃お願い』
「はい!」

 返答する間もあればこそ、やってきたラプラス達は周囲にいるデストロイヤーを蹂躙した。そうしている内に、また新たな部隊が真昼達のもとに到着した。

 アイリスディーナの戦術機がミドル級の頭部を割断した。そうして、新手を加えた全13人による攻勢。それはものの70秒ほどで、周囲にいるデストロイヤー群の全てを一掃するほどのものだった。

「どうして、ラプラス様達がここに。トンネルとは逆方向で数キロ先で強力な電子欺瞞デストロイヤーを殲滅しているはずでは?」

気づけば、一帯に張られていたジャミングは綺麗さっぱりとなくなっていた。愛花の訝しむ視線に、ラプラスは自嘲気味に答えた。

「こっち側にいた、それだけ」
「灯台下暗しってことですわね」

 真昼はそこでようやく、データリンクが復活していることに気づいた。そして、それと同時にそれはやってきた。

「この反応、音………救助ヘリ?」
「ジャミングが消えたので、救助ヘリが呼べるようになったので呼んでおきました」

 と、アイリスディーナ。 
 真昼が驚き、愛花が何かを察したかのような声を出した。その場に居る全員も、状況の変化にそれぞれの思いを抱く。だが、直後に全員の気持ちはひとつになった。

 編隊で空を舞う救助ヘリ――――その全てが、複数の光線に貫かれて爆散したからだ。
 航空機による制空権という単語を過去のものとした張本人。ラプラスの世界にて衛士にとっての死の象徴が、叫ばれた。

「い、………異世界型デストロイヤー級っ?!」
「馬鹿な、どうしてこのタイミングで!?」

 初見となるが、情報で知っていたアイリスディーナが悲痛に叫んだ。一方で、冷静な者たちもいた。
 デストロイヤー相手の戦場ならば、こういう事もあるだろう。それを頭ではなく、血肉で理解させられた者達である。つまり異世界組の衛士達だ。

「まずいな………分かっていたことだけど」

 ラプラスは小さく呟いた。ラージ級が現れたことにより、デストロイヤーどの大群と戦うそれ以上に厄介な事態になったと。そうして、一柳隊を見回した後に告げた。

「真昼隊とアイリスディーナさんは急いで撤退を。閑を連れて横浜衛士訓練校に帰還して。阿頼耶ちゃん、衣奈ちゃん、神宿りシノアちゃんは付き合って。流石に援護が必要だから」
「了解」
「了解ですわ」
「はい、お姉様」
「援護、って何をするつもりですの?」

 風間の問いかけに、ラプラスは肩をすくめながら答えた。

「後ろからレーザー撃たれて蒸発させられる、って結末になるのは嫌でしょ? 高台から狙われたら逃げられない。そうならないように、こちらはこちらでやることをやるってだけ」
「まぁ、妥当ね。私はそもそも異世界型ラージ級殲滅部隊だし」

 閑はそこで驚きの声を漏らした。歴戦の衛士 揃いであるというラプラスと特務04衣奈が、まさか言葉が足りないにも程がある提案に即答するとは思ってもいなかったからだ。

「じゃあ、囮は神宿りシノアと衣奈ちゃん。本命は私と阿頼耶ちゃんがやる」

 真昼は四人の方を見る。だが彼女達は、まるで表情を変えないでいた。それが当然であるかのように、死地へと挑むつもりだ。それを察した真昼が、緊張に息を呑んだ。もうそこまでの事態になっているのだと。

(ここまでの連戦で、四人の魔力と体力も少ない筈なのに」

 不安要素など、数えきれないはずだ。だが真昼はラプラスの顔を見て、黙り込んだ。吶喊の難易度と死傷率に関して情報は聞かされている。まず間違いなく死ぬだろうということも、想像できていた。

 歴戦であろう異世界部隊なら、自分以上に理解しているだろう。だというのに、ラプラス達とその指示を受けた衛士達はそれが当たり前のものであるかのように受け止めていた。
 平和な世界出身である阿頼耶からも、異論は出てこない。それこそが役割であるというかのように、次なる目的に冷静に向かい合っているように見える。

(これが、死戦しかない世界を生き抜いてきたリリィ)

 愛花、葉風、閑、アイリスディーナはラプラスたちを見て、自分たちとは『当たり前の危険性』の基準が違う事が伝わってくる。
 異世界の衛士達。
 それでも、同じ衛士だ。自分達とほぼ同じ少年少女といっても差し支えのない年齢だ。
 アイリスディーナは胸の中から得体のしれない感情が沸き上がってくるのを感じ取っていた。

「って、時間が無いっていったでしょ! 撤退を急いで!」
「お願いがあります! 私も、参加させては貰えないでしょうか?」
「アイリスディーナさん?」
「この状況、異世界型デストロイヤーが出現する現在、異世界型ラージ級は我々でも対処しなければならない自体がやってくるでしょう。そのノウハウ蓄積のために、実戦で、尚且つ異世界出身の皆さんの援護がある中で経験を積みたいのです」

 ラプラスは考えるように目を閉じる。

「わかった、アイリスディーナさんには私と一緒にラージ級を破壊するチームに入ってもらう。そしてこっちの命令には絶対服従、良いね?」
「了解です」
「あ……」
「どうかしました? 愛花さん」
「いえ、ご文運を」
「ありがとうございます」
 
 愛花が何とか返せた言葉は、それだけだった。時間は待ってはくれない。めまぐるしく変わっていく状況に、対処しなければならないのだ。それは義務であり、しかしという感情が渦巻いている。それは奇しくもアイリスディーナと同じ感情であった。

「それじゃあ、行動開始!!」

 愛花の様子を察したのは、ラプラスだった。お互いに目的地に向かいながら、秘匿回線での言葉が神林に届く。

『自分も私達と一緒に戦いたい。同じになりたい。強くなりたいって感じかな』
『………甘い考えでしかない、ですよね。ただの一年生ごときが、って笑いますか? まぁ、そうでしょう』

 愛花は理性でそう答えた。それが言葉になって、声になる。その反面、音量は非常に小さいものであった。

 ラージ級殲滅チームのこと。思いだすのは、この戦場に出た直後のことだ。選択肢というもの。拾わなければ失われてしまう命がある。彼女達の中で、戦場での死は当然なのだ。それに晒されること。納得している表情をしなければならない。

 『レギオン』なんて、同じチーム、同じメンバーで戦うのが当たり前の世界で生きてきた愛花と、メンバーがすぐ入れ替わり、もしくは補充されぬまま過酷な戦場で戦うのが当たり前のラプラス達が同じなわけがないのだ。

 だが、愛花の顔は晴れなかった。死地に赴く愛花こそを誇りであると、笑って送るのが正しい作法である。できそうもないと、心は言う。笑えるはずがあるものかと。

だが、どうすればいいのか。迷った愛花にまた秘匿回線で届く、同じものを抱いているような声があった。

『――――死んで欲しくないか? 当然だって言われても、理不尽なまま、デストロイヤーに殺されることを良しとしないのか? それが見知らぬ他人であっても』
『当たり前です。衛士なら、いや、人間なら誰であろうと理不尽に死ぬことを良しとして良いはずがない』
『だけど、仕方ない……何故なら人間は万能ではないのだからって感じかな。優秀だからこそ人の死を選ぶときのことを常に考えている』
『何故、わかったんですか?』
『そういう顔してるからだって。死んでほしくない、でも諦めなければならない。無力感を飲み干して我慢してるような、情けない顔………馬鹿でも分かるぜ。私はそんな神林ちゃんのこと好きだけど』

 愛花は答えない。最後の言葉に意表をつかれたからだ。ラプラスはそれを見て、笑った。その笑みを見た愛花は、驚きながら問うた。

『欠けることなく、生き残るつもりなんですか』
『やるだけのことをしないまま、逃げるつもりはない。そういう誓いは済ませてるの。愛花ちゃんは………力不足だからって顔してる。そして、アイリスディーナさんと自分を重ねて、自分の不甲斐なさに嘆いている。でも、それだけで諦めるのか』
『っ、諦めたくはない! だけど………』

仕方ない、という言葉は喉で止まった。声にしてはいけないと思ったからだ。出来るとは思わない、というのが偽りのない本音だった。愛花は誰に言われずとも、今の自分では腕が足りないことは自覚していた。先ほどのことも忘れてはいない。1人では危なかった場面がある。援護されなければ、死んでいたかもしれない時も。

 本当の自分は、与えられている役割はここに残るという選択肢を良しとしない。
 むざむざとここで死なせる訳にはいかない。

 

(だけど………それでも。最前線で私達を守るために戦っている仲間を、こうして戦っている誰かを見捨てることを、良しとするべきなのでしょうか?)

 出てくる答えは、"違う"というもの。納得などできない声。違うと、理屈ではない所で答えは出ている。

 同時に、冷静な自分は不可能だと裁定を下していた。不可能という無謀に命を捧げるのは、馬鹿のすることだと。だけど、納得はできない。

 答えの出ない問いかけだ。ラプラスはそれに答えられない愛花を見て、告げた。


『今は無理。1人じゃあ不可能だ――――だから、ここは任せて』

 ラプラスはそうして、笑った。

『そっちは任せた………閑さんを頼んだよ。彼女は司令塔となるべき存在だ。もしかしたら、この世界を変える存在になるかもしれない。有能なものが上に立ったとき、世界は生まれ変わる』
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