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救援部隊①

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ラプラス、阿頼耶を先頭に三角形型の陣形を組んで目的地まで移動していた。ラプラスの先導で最適ルートを即座に割り出し、阿頼耶が息を切らせながら追随する。後方からついてくる一ノ瀬隊。その全員が、ラプラスの無駄のない身体操作に目を奪われていた。距離は遠く、その全てが分かる筈がない。その状態でもラプラスが自身の体をミリ単位で制御しているのは分かった。明らかに場慣れしている。それどころか隔絶していることが分かった。

 
『阿頼耶ちゃん、左右からステルスデストロイヤー接近、左任せた』
『了解』
『右は私がやる』

 聞こえるのは単語だけ。なのにどうしてか、連携は上手すぎる程に回っていた。


(一個一個の動きは………難しいことをしている訳じゃないな。二年生以上の衛士のレベルなら、誰だって出来るぐらいのことしかやってない)

 異世界では英雄と言われているラプラスだが、特別な事はしていなかった。高度なテクニックや特殊な才能が求められる特別な機動など、使ってはいない。それなのに、と柊シノアは思う。あれを真似をするのは無理だと。理屈ではなく、理解させられていた。

(無理な理由は………分かったわ。とにかく、早すぎる。自分の位置取りに回避行動の要否、兵装と戦術の選択。その全ての判断が的確かつ早過ぎる)


 次々に襲いかかってくるステルスデストロイヤーを相手に、まるで川の流れのように淀みなく対処していく。一連の動作の合間にあるロスが極端に少ないためだろう、無理があるようにも見えない。お互いのカバーリングも完璧で、まるで隙が見当たらなかった。あれならば、10倍以上のデストロイヤーを相手にしても生還出来るのではないかと思わせるぐらいの絶妙な連携で、危なげなくデストロイヤーの群れを制していく。


「………阿頼耶さん、なんだかラプラスに似てきてる?」
「特異点の衛士と呼ばれるだけあって、特殊なラプラスのスキルに感応しているのかも」
「同じスキル同士の共振と同じ原理ですね」

 異世界の衛士は特に損耗が激しく、一つの戦場で何人かが欠けるのが常だとか。人員の入れ替わりが激しいため、全く同じ人員で戦い続けるというのは通常ではありえない。だからこそ即席の面子でも高度な連携をこなせるアドリブ能力が必要となっていったのだろう、と風間は推測する。

 

「仲間に恵まれない……夢を語る暇もなく死んでいく戦場と逐次投入される衛士。流石、ネストを落としただけありますわね」
「あの力が、あの力が私にあれば、兄さん達の仇も!」
「愛花さん、落ち着いて」
「……すみません、熱くなりました」
 

 人格と力量は必ずしも一致しない。気の合う友人が、いつまでも生き残ってくれるとは限らないのだ。多少なりとも別れを経験している二年生二人は、そうした気の合う戦友といつまでも背を預け合って戦えるというこちらの世界の環境を羨ましい思うだろうと、シノアと梅は思った。

 

「………命の代価で得た経験と実力」

 

ぽつりと、真昼が呟いた声は、誰も聞いていなかった。
ラプラスは一通りステルスデストロイヤーを蹴散らすと、休憩時間を設けると言った。

「わかっていると思うけど、ラプラスの私のスピードについてきている時点で貴方達も疲弊している。だけど救出任務は時間が命。高速移動と小休憩を繰り返して目的地へ体力を残したまま到達する。だから休憩。各員、周囲を警戒しつつ体を休めて」
「で、でも急がないと」

 焦る真昼を一瞥すると、ラプラスは無言で木に寄りかかって座って目を閉じた。
 説明は任せる、といった態度だった。
 風間は真昼の肩に手を置いて言う。

「真昼さん、焦る気持ちはわかります。だけど急いで到着しても助けられなければ意味がない、それどころか私達がやられてしまう危険性があるのです。ここはラプラスさんに従ってゆっくり休みましょう」
「うん、分かった」
「全身マッサージをして差し上げますわ!」
「ひゃわ!?」
「真昼から離れなさい」
「シノア様怖いですわ!? 痛い痛い痛いアイアンクローはやめて!」

 葉風達はそんな二人を見ながら話す。

「真昼、だいぶメンタルに来てるね」
「それもそうだろうね。ルームメイトの命の危機ぞゃ。仲間が死ぬ体験をしたことのない真昼に取っては鬼門じゃろうな」
「貴方はそういう経験あるの?」
「同じレギオンやチームは無いが、いつもメンテナンスに顔を出していた衛士がいなくなるのはよくあることじゃしの。ふぁ」
「そっか。眠そうだね?」
「突貫工事で全員分の戦術機を仕上げる必要があったからの。徹夜じゃ。部隊にアーセナルはなんのためにいるのか、こういう緊急出撃にも対応できるためじゃ」
「いつもありがとう」
「うむっ、気持ちをはっきり伝えてくれるのは嬉しい」

 別の場所では風間と愛花が二人で話していた。

「安否が分からない状態での探索目的の出撃、どうしても気持ちは固くなってしまいますね」
「特に高等部から衛士を始めた二人は特に」
「でしたら、私達がフォローしなくてはなりませんね」

 胡蝶も同意を示す。

「うん、さり気なくフォローする。それくらいしかできないから」
「それができる仲間がいるのがどれだけ有り難いかは、ご自分が一番わかっていますよね。そんな下卑しなくて良いんですよ」
「ありがとう、愛花」
「いえいえ」

 二人の会話を見つつ風間は心なかで愛花について考える。

(愛花さんの行動はいつも通り。だけどラプラスさんの世界ではネストを陥落させ、ファンバオでしたか? お兄様方の仇を討ったことを聞いて少し焦っている様子がちらほら。さて、どうしたものでしょう)

 梅とシノアはこれからについて話し合っていた。

「で、どうなんだ」
「あまり良くない状況だけど、絶望するほどでもない、といった感じかしら」
「その理由は?」
「まず閑さんが横浜衛士訓練校における叩き上げで衛士としての経験も豊富なトップクラスの戦術家であること。列車の脱出の援護で開始した瞬間から確実に彼女の中で、そこからの流れを構築しているはず」
「たしかにな。列車に常設してあら予備の戦術機を持ち出して、長期戦をする選択も視野に入れてるみたいだ」
「その上で、横須賀から逗子近辺を繋ぐルート間において戦場に相応しい場所を選別したはず。私達はそこに向かう。まぁラプラスさんの情報共有で大方の位置は絞り込めているけど」
「次は何故、連絡しない、長期戦を選択したか、だな」
「逗子近辺は、過去にデストロイヤー強襲で逗子国際女子高等学校が陥落した地域。その後の反攻作戦で補給路は確保したものの平定できているとは言い難い」
「あ、通信妨害のやつ。しかもステルス型もいる」
「適時注意を引きつつ、隠れて長期戦に持ち込み、援軍が来るのを待つ。つながったわね」

 一方、ラプラスは阿頼耶に押し倒されていた。阿頼耶は顔を紅潮させて、息も荒い。突然、問答無用で唇を奪い、足を引っ掛けて地面に押し倒して唇を重ねる。

「どうしたの、阿頼耶ちゃん」
「熱いんです。脳が焼けるように。ああ、ラプラス様。ラプラス様。ラプラス様。貴方の寵愛が欲しいと体が叫んでいるんです。このまま、交わってしまいたいくらいに」
「……えぇ」

 ラプラスは戸惑った。こんな状況、経験したことない。

「愛、愛、愛です。貴方から頂いた愛。それが私の体を支配する」

 ガブリ、と阿頼耶はラプラスの肉体を捕食する。そして体の一部を飲み込み、恍惚とした表情で笑った。

「ラプラス様の一つになれました。愛、それは【L】の聖文字。ねぇ、ラプラス様、もっともっと私のことを好きになってください。私も、もっともっと貴方を愛します」
「あー、敵が来たからまた後で」
「邪魔物は皆殺しよ」


 では、早速と。そう語るが如く、ラプラスは手早くシューティングモードの狙いを定めると同時に、引き金を引く指に力を入れた。同時、魔力の奔流が火と共に大気を裂いて滑空する。

『危な!?』

 突然放たれたビームマグナムに一ノ瀬隊の心が一致した瞬間だった。

「ラプラス様、貴方の肉体を得た事であることがわかりました。デストロイヤーと衛士の黄金律。そしてラプラスと特異点による共鳴効果の追体験と憑依経験」

 阿頼耶は言う。

「完聖体・第二満開」

 阿頼耶が光って、エネルギーを放出する。
 ラプラスは阿頼耶の変化に構うことなくシューティングモードの銃口の狙いを変えていった。放たれる二度三度の砲撃が、危うい位置にいた一柳隊を脅かしていた個体をしとめていく。それは位置取りも完璧で、射線も全く重ならない的確な援護だった。

「あの、ラプラス様、私覚醒みたいなことしたんですけど」
「あとで聞くから」

その言葉は酷くあっさりと、だけどこれ以上なく鮮やかに切り捨てられた。
それも、一時のもの。すぐそこにまで迫っているデストロイヤーの足音に、戦術が決められた。

「しくしく、ラプラス様が冷たい」
「いきなりキスされて地面に叩きつけられてベロチューされて肉を抉られればそりゃあ塩対応になるよ」

棒読みと棒読み。そうして二人は戦術機を構えた。途端、空気が変わる。一ノ瀬隊は、言い知れない圧迫感を覚えていた。それは、正しかった。

そこから先の二人は、まるで理不尽な自然災害のようだった。早く、速く、疾く。風のように淀みなく動きまわっては一ノ瀬隊の衛士に襲いかかるデストロイヤー群を適度に駆逐していく。狙いは正確無比かつ、迅速果断。無駄弾がゼロであると錯覚させるように的確に、一体一体の肉を弾き沈黙させていった。

一ノ瀬隊も稼働し始めて、適度に密度を薄められたデストロイヤーを相手に奮闘し確実に対処していた。最前線中央部デストロイヤーの数が、目に見えて減っていく。中央部より北側、右翼の方面よりギガント級が突出して来たのだ。一部凹凸した地形を抜けたギガント級が、本来の速度で移動し始めたのが原因だった。このままでは後方に回り込まれる。そう判断してからの、二人の動きは風のようだった。

「行くよ、阿頼耶ちゃん」
「了解、ラプラス様」

普通道路を走る自動車よりも速くやってくる、直撃すればビルさえも倒壊させるだろうギガント級の群れでの突進。その前面に躍り出て、的確なポジショニングを取るまでの時間は僅か10秒程度だった。
それだけでもう、迎撃の態勢は整っていた。遠距離よりやや近く、中距離と言うにはやや遠い。その距離に突撃級が達すると、武は狙いを定めシューティングモードの戦術機を斉射した。

ドドドド、ドドドド、ドドドド、ドドドド、と。リズミカルに放たれた弾丸の全ては、まるで冗談のようにギガント級の脚に命中した。巨体の防御力と攻撃力が自慢のギガント級だが、倒れてしまえはその強みを永久に封じられると同時に転倒し、鼻先を地面にこすらせていった。

だが、それで終わるはずもなかった。更に10体以上のギガント級が、転倒したギガント級を迂回して後から後からやってくる。狙いは既に定まっていた。

 

「射撃は苦手なんだけど――――この距離なら」

 

中距離にまでギガント級が近づいてくると同時、阿頼耶も弾丸をばら撒いていく。命中精度こそ低いものの、何発かはギガント級の脚に命中。一ノ瀬隊も見よう見まねだが加わる。やや荒いレベルでの斉射がギガント級を襲い、次々にその脚が撃ち貫かれていった。

そして5分後には、ギガント級の脅威は消えていた。見えるのは、地面に這いつくばるように歩いている無様な姿だけ。更に乗り越えるように、スモール級やミドル級がやってくるが、待っていたといわんばかりにラプラスが一歩前に出た、その直後だった。

「支援いたします!」

 空から金髪の衛士が現れ、デストロイヤーを射撃していく。

「あ、あの方は!??」

 二水が叫ぶ。

「横浜衛士訓練校が誇るSSSランクレギオン『シュヴァルツェスマーケン』リーダーのアイリスディーナ・クロノホルンさんです!!」
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