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違う世界③

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 この世界の一ノ瀬真昼ならびにレギオンメンバーと合流して、別世界の一ノ瀬真昼は自分をラプラスと名乗ることで区分けすることにした。

「ここが私達のお部屋です!」

 そう言って案内された部屋は、一言で言えばキレイな部屋だった。可愛いものや、それぞれの趣味のものも置いてある。

「ラプラスさんの世界と違いはありますか?」
「そうですね、まずこんなに奇麗で娯楽……というか私物が置いてあるのに驚きました。私達の世界にはもう人類総力戦でしたから、コンクリートの部屋にベットが置いてあるくらいでした」
「それは随分と大変な世界から来たようね。少しの間だけど、ここで英気を養っていくと良いわ」

 そこで愛花は言う。

「そうだ。さっき良いお茶菓子が入ったんです。もし良ければ」

 それにラプラスは首を降った。  

「ありがたいけど遠慮しておくよ。人体強化の影響で味覚がないから、お茶菓子が無駄になっちゃう」
「人体強化って」
「この世界にも或るんじゃないかな。G.E.H.E.N.Aによる強化衛士計画とか」

 それに胡蝶が反応する。

「私は……一時期、力を欲していてね。G.E.H.E.N.Aの協力する代わりに改造手術をしてもらう選択をしたんだ」
「自分からG.E.H.E.N.Aに?」
「うん。そう。私の姉妹契約を交わしたお姉様が死んじゃってね。それはもう荒れに荒れまくった結果、デストロイヤーを皆殺しにするために力を求めたんだ」

 シノアが言葉を紡ぐ。

「その姉妹契約の相手というのは?」
「夕立時雨お姉様」
「そう。そういえばラプラスさんは二年生なのよね」
「うん。もしかして察した? 後輩にシノアちゃんがいるよ」
「なるほど、貴方と私達の世界は反対なのね。鏡のように」
「みたいだね。元の世界に戻れるのがいつになるのかわからないけど、こちらのデータは全部渡すし衛士の生存率は大きく上がるんじゃないかな?」
「G.E.H.E.N.Aの研究によるもの、というのが怖いところね」
「G.E.H.E.N.Aは正直、生温いよ。私が支配して研究を進めた方が技術の発展は目覚ましかったし。あそこはなんというか、マッドサイエンティストの遊び場って印象が強いかな。誰も本気で世界を救おうとしてないだろっていう」
「……私達の世界もそうなるんですかね?」
「さぁ? 違う世界だし。まぁなんとかなるよ。ならないときは潔く死ぬしかないね」
「そういえば貴方はG.E.H.E.N.Aを支配下って言ったけど、どうやったの?」

 そう言われてラプラスは黙る。

「ラプラスさん?」
「いや、どうやったんたっけ。取り敢えずG.E.H.E.N.Aの首脳陣を皆殺しして、G.E.H.E.N.Aの悪行を公表、新G.E.H.E.N.Aの設立を宣言。防衛軍と手を組んで旧G.E.H.E.N.A残党を皆殺しにした感じかな」
「それは、衛士の範囲を超えているわ」
「そうしないといけないご時世だったって事だよ。そのお陰で、ネストを二つ陥落させたし、技術も大幅に向上した。愛花ちゃんの故郷を灰にしたファンバオも愛花ちゃんがぶっ殺したし、結構頑張ったと思うんだけどね」
「それは本当ですか!?」

 ガチャン! と音を立てて愛花が机を叩く。

「本当だよ。倒したデータがあるからそれを参考にしてこの世界でも倒すと良いよ」
「真昼が二人いるし、一年の違いがあるとはいえ、老けてるね、ラプラスさん。白髪が目立つ」

 それを言った直後にすごく失礼な言葉を発したのに気付いて慌てて葉風はフォローの言葉を乱立させる。しかし当のラプラスは髪をかきあげながら言う。

「肯定しよう。本当に疲れたよ。ここ最近は特に――――世界を滅ぼしたいという馬鹿が多くて」

 ため息まじりに返答する。事実、ラプラスという少女の髪には、年齢を鑑みると多すぎる白髪が目立ってきていた。顔にも、隠せないぐらいの皺が刻み込まれている。見るだけで、心身に刻まれた深い心労を察することができるぐらいには。そんな少女から出る過激な言葉に、真昼達は一瞬だけ我を忘れ、絶句してしまっていた。


世界が、滅びる。


不穏に過ぎるその言葉は、一個の軍の衛士としても、そして個人であっても発するべきではない。戸惑うこの世界の人たちをよそに、ラプラスは苦笑しながら話しかけた。

「ねぇ、例えばもし、自分にしかみえない銃があったら貴方はどうする?」

 ラプラスは自分の蟀谷に、人差し指を当てた。

「その銃は非常に頑丈だ。そして弾の威力は十二分。銃は、地球の全人類の蟀谷の隣に浮かんでいる。引き金は一つで、それも手が届かない場所にある。自分一人の力では壊せない。誰かに協力を求めようにも、自分しか見えないので説得力は皆無。届かない場所、もしも引かれれば大半が死ぬ。不発に終わらない限り、確実にだ」


 ラプラスは人差し指を、トリガーを引くように動かした。その目には、火のような煌めきが灯っていた。真昼達の目は、戸惑うばかり。二人の視線が、宙空で衝突する。だが、耐え切れなくなった真昼の方が視線を逸らした。途端、ラプラスは椅子に背を預けてまた苦笑した。

「そして銃を銃と知らない内に、せっせと弾を詰め込む馬鹿が居る。止めようにも、そいつもバカみたいに強すぎて止められない………全く、馬鹿らしいにも程があると思わない?」
「話に聞くラプラスさんの、権限があれば。個人であれば、どのようにでも出来ると思いますが」
「肯定するよ。だが、届かないんだよ。不可能に近い。正面から挑んでも、日本の言葉でいう、“鎧袖一触”に終わるか。そして時間は有限だ」


ため息が部屋の壁を揺らした。そして、沈黙の後。

「知っているからこそ、止まれないことがある………失いたくない人の、その蟀谷に銃がつきつけられている。それを見て動かない人間がいないように。そして抗う術があれば、尚更だ」


 ラプラスは笑った。そして疲れたのか、また黙って。そして再度、笑った。それは酷く乾いた笑いだった。だが、その目には覚悟があった。シノアとて、歴戦の勇である。そんな彼女でも迂闊に言葉を発せない、それだけの威圧感が空間に満ちていた。理屈ではない。だけど嘘ではないと、そう感じさせる凄みが。ラプラスとて直視できないぐらいには。

見まみえることも出来ないまま、愛花は尋ねた。

「要領は得ませんが、命令には従います。私は衛士ですから。それに、内容も望む所なので文句はありませんが―――」


だけど、その目的は何なのでしょうか。声にせず、視線で問いかける真昼に対し、ラプラスは待ってましたと言わんばかりに答えた。
そうして、ラプラスはつぶやいた。何の含みもなく言ってのけたのだ。

「世界を救うために」

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