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違う世界①

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 雨が降っている。
 赤い。
 口に雨が入る。
 苦い。
 よく口の中に広がる鉄の味だ。

「人の、血の雨?」

 ドシャン! と音を立てて何かが降ってくる。そしてばらばらと赤く生暖かいもの、浴び慣れた臓器の感触。

 更には金属の塊も降ってくる。真昼は真上に落ちてきた金属塊を切り裂く。その中からもぐちゃぐちゃになった臓物が落ちてくる。

 ズキン! と脳が痛む。
 真昼は膝をついて、戦術機を支えに倒れるのを防ぐ。体が重い。疲労感が体にのしかかる。意識が混濁し始める。

「ふっ」

 指の骨を折って、痛みを脳みそに与える。神経が活性化して、意識が明確になる。様々な思考が交錯してバラバラだった思考回路が整然とする。
 まずは、優先順位を決める。
 ①ここはどこなのか。
 ②戦況はどうなっているのか。
 ③迅速に対処するべき行動はあるのか。
 まずは3っつ。だがしかし体の疲労は無視できない。金属塊が降ってきても安全な場所を確保しなくてはいけない。
 真昼は建物を探して周囲を見渡し、そして目を見開いた。

 そこにはなんと、戦術機を持って走る衛士が目に映った。ただの衛士ならば、問題はない。だが、それは桃色の髪に、クローバーの髪留め。
 魔力の認識反応も一ノ瀬真昼を示している。
 その一ノ瀬真昼は、柊シノア、愛花と共に消えていった。
 真昼は、複数の可能性を脳内で展開して信憑性の高い情報を取って総合的な結論を決める。

「並行、世界」

 未来? 可能性はある。しかし縦方向への時間移動は未経験だ。
 過去? 自分が一ノ瀬隊になってからこんな異常気象を観測した覚えはない。
 ならば、一度は誘い込まれた平行世界の秦祀のその逆、別の世界に送信された可能性が有力だ。恐らくこの雨は、防衛軍や衛士の血だ。金属塊はアーマードコアだ。
 最後の記憶、アストラ級に匹敵するデストロイヤーの出現。それと同時に起こったことから、デストロイヤーの能力か、もしくは夕立時雨が何かを行った可能性が挙げられる。 

「十中八九、時雨お姉様案件だよねこれ。なら私はとりあえず元の世界に戻れる認識で良いのかな。時雨お姉様が私を見捨てるはずがないし。問題は天葉ちゃんやくすみちゃんをどうするかだかど……帰りのチケットは一人分とか平気でありえるんだよねぇ」

 時雨お姉様ならやりかねない。
 あの人、私以外みんな死ねくらいに思ってそうだから。
 まぁそこが好きなのだけれど。

「問題はこの世界の人たちをどうするかだよねぇ、接触するか、しないか」

 もういってしまえば、隠密活動したところで得られるものが少なすぎるので、現地の協力者は必須となる。
 そうなると、ファーストコンタクトをどうするのか、なのだが得体の知れない人物がただ挨拶しに行くにはリスキーではある。それはまぁ許容範囲内なのだが、できる限り優位に立った状態で会話の主導権を握りたいというのが梨璃の本音だった。
 真昼は、一旦休息を取るために近くの廃墟に入り、睡眠を取った。そしてアラームと共に視界にコード991、デストロイヤーの出現を知らせるものが浮かび上がった。
 真昼の持つデストロイヤーサーチャーに赤い敵性反応が浮かび上がる。

「デストロイヤーか……ここは様子見をさせてもらおうかな」

 真昼はシューティングモード戦術機を展開させ、側面と背後にガトリング砲付きのシールドファンネルを浮遊させて、戦況を見守る。
 デストロイヤーが出現したことで、横浜衛士訓練校と思われる建物から衛士達が出撃していくのが見えた。
 あれは……天葉だ。いやアールヴヘイムの面々だ。どこか幼いというか、かわいい、身嗜みが整えられ過ぎている……おしゃれに気を使えるように見受けられる。

 デストロイヤーは規模は少数で、およそ百体ほどのミドル級とミディアム級の混成部隊だ。
 麻痺るの戦術機も集音機能が現地のアールヴヘイムヘイムの面々の会話を盗聴する。

『みんな変なヒュージ相手だけど! 行くよー!』

 アールヴヘイムの面々は戦闘を開始した。最初は普通の動きだった。しかし戦況は徐々にデストロイヤーが優勢になっていった。
 デストロイヤーの猛攻にアールヴヘイムの殲滅処理が追いついていないのだ。真昼の目から見るとヒュージ一体を撃破するのにかなり時間を割いているように思える。
 それを裏付けるような焦った声が真昼のつけているイヤホンから聞こえる。

『こいつら、一体一体が硬い!』
『正面からの銃撃はほぼ効果ありません。脆い関節部や背面を狙わないとダメージどころか怯みすらしない!』
『その上、この数はまずい。ただでさえ調査のために各方面へ散っているのにこの物量が来れば市街地に甚大な被害が』
『せめてギガント級のような強いやつならノインヴェルト戦術で一気に片付けられるのに!!』
『しかも見た目が気持ち悪い!! 統一された新種なのこいつら!?』

 真昼はデストロイヤーの状態をよく観察する。しかしあれはどう見ても普通のミドル級のデストロイヤーだ。黄色装甲とカマキリを思わせる見た目。
 それに苦戦する、そして見たことがないということはあのデストロイヤーは真昼が本来いた世界からやってきた個体なのだろう。
 なら、助けて印象をよく接触したほうが良いだろう。

「シールドファンネル弾数チェック、稼働時間チェック、操作感度良好、ガトリング砲チェック、戦術機の各機能確認、正常。真昼の残量把握、意識レベル標準、オールクリア。目標、デストロイヤー。殲滅開始」

 シールドファンネルが一斉に飛び出し、搭載されたガトリング砲が火を吹いた。アールヴヘイムより少し離れた位置のデストロイヤーを粉々に打ち砕く。それは上空からの機銃掃射の如くヒュージの群れを分断して、アールヴヘイムへの圧力を減らした。

『なに!?』
『空から弾丸が……?』
『あのデストロイヤーをいともたやすく倒すなんて』
『ガトリング砲がついた飛行ドローン……いや戦術機? 第4世代!?』
『百由様の仕業?』
『いや、彼女は別方面の調査に駆り出されているはずだけど』

 混乱する現地のアールヴヘイム。真昼は解析したオープン通信チャンネルで、呼びかける。

「こちら、横浜衛士訓練校特務小隊隊長、一ノ瀬真昼です。後続はこちらで引き受けます。皆さんは目の前の敵に集中してください」
『え? 特務隊小隊?』
『一ノ瀬真昼? 真昼さん?』
「詳しい話は後でしっかりと説明をします。こちらは気にせず、目の前の敵を確実に倒してください」

 まひは通信を切る。
 そして分断されたデストロイヤーとデストロイヤーの間に割って入り、シールドファンネルを展開させてシューティングモードによる超広域制圧殲滅射撃を行う。激しい弾幕とマズルフラッシュが瞬き硬いデストロイヤーの装甲を貫通し一発で数十匹にダメージを与えていく。それによってものの数十秒で五十以上いたデストロイヤーは跡形もなく消え去った。
 そして真昼は再び、通信を入れる。

「こちら特務小隊、後続デストロイヤーを排除完了。アールヴヘイムに向かうデストロイヤーを、デストロイヤーの背後より近接攻撃にて攻撃する。こちらは魔力リフレクターを装備しているため誤射されても問題ない。射線を気にせず戦闘続行されたし」
『あ、貴方は一体』
「繰り返す。射線を気にせず戦闘続行されたし」

 そして数十分後には戦闘は終了した。
 戦場には疲労困憊してるアールヴヘイムの面々と、悠然と立ちシールドファンネルを帯同させている一ノ瀬真昼の姿があった。

「初めまして。アールヴヘイムの皆さん。改めて自己紹介をさせてもらいます。横浜衛士訓練校特務隊小隊隊長コールサイン・ラプラス01一ノ瀬真昼です」
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