79 / 114
敵勢攻勢・第二陣②
しおりを挟む
すでに戦端は開かれた。
対峙する高城と流星もはや両者に油断はない。
高城の手には愛用とする戦術機があり。流星もまた戦術機に手を掛けて――
そこで一つの疑問が生じた。
流星の汚染されたデストロイヤー細胞の暴走の規格外さに圧倒され、ここまで見過ごしてきたが、当然の疑問がそこにあった。
――流星の弱点はどこにあるのか
今流星はデストロイヤー細胞に汚染され、心臓を穿たれても生きている存在だ。
デストロイヤー。怪物。化物。人類史から見ても異形の怪物。
デストロイヤーは魔力を媒介として素材を集めて召還し、マギの意思に赴くまま彼等は戦闘を代行する。
デストロイヤーである以上は魔力の存在が不可欠。それは誰であっても変わらないはずだ。
「あるじゃない。魔力を生み出すポンプがここに」
そんな疑問に対し、流星は何でもないように答えて、自らの胸に手を置く。
瞬間、流星から受ける威圧が爆発的に増大した。
倒れこみそうになるのを必死で抑える。震える身体に活を入れてその存在と正面から向き合う。
別人とも思えるこの圧力。それは単に存在感が増しただけではなく、もっと言えば内部そのものに変化が生じたような――
「馬鹿な……人間の中に、ネストの気配だと?」
高城の感じた違和感に、時雨が正確な答えを出した。
ネストは流星自身の中に。それを表面に現したというなら、この威圧の増大も頷ける。
だがそんなことが可能なのか? 人間の中にネストを取り入れる。そんな特殊な方法が存在すると?
「残念だけど、これは誰もができる方法じゃない」
流星の言葉が響く。
「汚染された叶星は、自らの免疫にてデストロイヤー細胞の消滅を行った。デストロイヤー細胞は消滅を免れるだけで精一杯であり、戦闘など問題外の状態だった。
魔力とデストロイヤーは運命共同体だ。デストロイヤー細胞という戦う手段を失えば、魔力に待つのは敗北だけ。そのままでは不戦敗は明白だ。
ゆえに魔力は行動した。その状況を逆転させるため、起死回生の策に打って出た。それは――自らの肉体と融合すること。そのデストロイヤー細胞の情報を今流星の遺伝子構造に取り込み、デストロイヤー自分自身を戦える存在へと変貌させることだ」
流星のあまりにも荒唐無稽な内容だった。
デストロイヤー細胞ではなくデストロイヤーとの融合。魔力自身が戦えるように自己を改造する行為。言葉にするだけなら簡単だ。
だがそんな容易いことなのか。聞こえだけなら魂の改竄に近いとも思えたが、そう単純なことだとは思えない。
「当然だ。規模がまるで異なる。普通ならば自殺行為でしかない。強化衛士や、一部分のみの移植とは訳が違う。いやこの二つでさえ人間の手には余る」
流星は語る。
「そもそもからして、デストロイヤーとは人間の上位にある者だ。その細胞情報は人間の比ではない。
大地より湧き出る泉の中に、水質の違う一杯の水を混ぜ合わせればどうなるか。水は泉の中に溶けて消え、元の性質など無くなってしまうだろう。
デストロイヤーとの融合とはそれだ。上位の存在を下位の器に流し込めば、器の中身などあっという間に侵し尽くし、器そのものが耐え切れずに自己崩壊する。
そんなことは自明の理であり、試す者などいるはずがない。前人未到であり不可能な所業だ」
今流星は笑う。
「そう、誰にも不可能だった――今流星が成し遂げるまでは。今流星という器は、デストロイヤー細胞という存在に耐え切った。膨大な情報量に侵されながらも、器の中身は元の性質を失わなかった。
その一生分の経験値。細胞として分解され、着色された遺伝子。それら一切を咀嚼し飲み干し、己の血肉に変えた。
デストロイヤーはすべては今流星群の一部だ。どれ一つとして持て余すことなく、完全に我が物としている」
流星が戦術機を構える。
戦術機を手に立つその姿、その威容はギガント級デストロイヤーと並べても遜色はない。
衛士一人ではギガント級デストロイヤーに対抗できない。そんな常識はもはや意味をなさない。
……認めるしかない。今流星アストラ級にも匹敵する脅威であると。
「無論、口で説明するほど簡単なわけがない。デストロイヤー細胞自身でさえそれは賭けだった。あの時がデストロイヤー細胞にとって最大の危機だったよ。
事実、一度は確かに崩壊したんだ。他ならない本人がその判断を下しかけた。それがどれほど絶対的な意味を持つか、説明は要らないだろう。しかしデストロイヤー細胞は戻ってきた。逆境を前に魂を奮起させ、自らの存在をより高みへと進化させた。
特殊な才能スキルによる恩恵ではない。あらゆる人間が持ち得る意志の力、それだけでデストロイヤー細胞は未到の領域にたどり着いたんだ」
今流星は笑う。
「単に強いだけじゃない。デストロイヤー細胞の強さとは苦境にあって発揮される生命力、意志ある生命が持つ無限とも言える可能性だ。
故に私は私のデストロイヤー細胞の強さを評価する。デストロイヤー細胞は初めからの新鮮なものだったけど、私のデストロイヤー細胞には更にその先があった。底が知れない。
ああ長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかといえば――」
戦術機が振るわれる。
受け止める戦術機。激突し合う剣戟の音。
「――私はとうに人間を超えているのよ、高城ちゃん。私はデストロイヤーであり、人間であり、衛士である。汚染されたといったけど、それは間違い。衛士の進化の一形態。心して挑むといい」
戦いの火蓋は切られたのだ。
対峙する高城と流星もはや両者に油断はない。
高城の手には愛用とする戦術機があり。流星もまた戦術機に手を掛けて――
そこで一つの疑問が生じた。
流星の汚染されたデストロイヤー細胞の暴走の規格外さに圧倒され、ここまで見過ごしてきたが、当然の疑問がそこにあった。
――流星の弱点はどこにあるのか
今流星はデストロイヤー細胞に汚染され、心臓を穿たれても生きている存在だ。
デストロイヤー。怪物。化物。人類史から見ても異形の怪物。
デストロイヤーは魔力を媒介として素材を集めて召還し、マギの意思に赴くまま彼等は戦闘を代行する。
デストロイヤーである以上は魔力の存在が不可欠。それは誰であっても変わらないはずだ。
「あるじゃない。魔力を生み出すポンプがここに」
そんな疑問に対し、流星は何でもないように答えて、自らの胸に手を置く。
瞬間、流星から受ける威圧が爆発的に増大した。
倒れこみそうになるのを必死で抑える。震える身体に活を入れてその存在と正面から向き合う。
別人とも思えるこの圧力。それは単に存在感が増しただけではなく、もっと言えば内部そのものに変化が生じたような――
「馬鹿な……人間の中に、ネストの気配だと?」
高城の感じた違和感に、時雨が正確な答えを出した。
ネストは流星自身の中に。それを表面に現したというなら、この威圧の増大も頷ける。
だがそんなことが可能なのか? 人間の中にネストを取り入れる。そんな特殊な方法が存在すると?
「残念だけど、これは誰もができる方法じゃない」
流星の言葉が響く。
「汚染された叶星は、自らの免疫にてデストロイヤー細胞の消滅を行った。デストロイヤー細胞は消滅を免れるだけで精一杯であり、戦闘など問題外の状態だった。
魔力とデストロイヤーは運命共同体だ。デストロイヤー細胞という戦う手段を失えば、魔力に待つのは敗北だけ。そのままでは不戦敗は明白だ。
ゆえに魔力は行動した。その状況を逆転させるため、起死回生の策に打って出た。それは――自らの肉体と融合すること。そのデストロイヤー細胞の情報を今流星の遺伝子構造に取り込み、デストロイヤー自分自身を戦える存在へと変貌させることだ」
流星のあまりにも荒唐無稽な内容だった。
デストロイヤー細胞ではなくデストロイヤーとの融合。魔力自身が戦えるように自己を改造する行為。言葉にするだけなら簡単だ。
だがそんな容易いことなのか。聞こえだけなら魂の改竄に近いとも思えたが、そう単純なことだとは思えない。
「当然だ。規模がまるで異なる。普通ならば自殺行為でしかない。強化衛士や、一部分のみの移植とは訳が違う。いやこの二つでさえ人間の手には余る」
流星は語る。
「そもそもからして、デストロイヤーとは人間の上位にある者だ。その細胞情報は人間の比ではない。
大地より湧き出る泉の中に、水質の違う一杯の水を混ぜ合わせればどうなるか。水は泉の中に溶けて消え、元の性質など無くなってしまうだろう。
デストロイヤーとの融合とはそれだ。上位の存在を下位の器に流し込めば、器の中身などあっという間に侵し尽くし、器そのものが耐え切れずに自己崩壊する。
そんなことは自明の理であり、試す者などいるはずがない。前人未到であり不可能な所業だ」
今流星は笑う。
「そう、誰にも不可能だった――今流星が成し遂げるまでは。今流星という器は、デストロイヤー細胞という存在に耐え切った。膨大な情報量に侵されながらも、器の中身は元の性質を失わなかった。
その一生分の経験値。細胞として分解され、着色された遺伝子。それら一切を咀嚼し飲み干し、己の血肉に変えた。
デストロイヤーはすべては今流星群の一部だ。どれ一つとして持て余すことなく、完全に我が物としている」
流星が戦術機を構える。
戦術機を手に立つその姿、その威容はギガント級デストロイヤーと並べても遜色はない。
衛士一人ではギガント級デストロイヤーに対抗できない。そんな常識はもはや意味をなさない。
……認めるしかない。今流星アストラ級にも匹敵する脅威であると。
「無論、口で説明するほど簡単なわけがない。デストロイヤー細胞自身でさえそれは賭けだった。あの時がデストロイヤー細胞にとって最大の危機だったよ。
事実、一度は確かに崩壊したんだ。他ならない本人がその判断を下しかけた。それがどれほど絶対的な意味を持つか、説明は要らないだろう。しかしデストロイヤー細胞は戻ってきた。逆境を前に魂を奮起させ、自らの存在をより高みへと進化させた。
特殊な才能スキルによる恩恵ではない。あらゆる人間が持ち得る意志の力、それだけでデストロイヤー細胞は未到の領域にたどり着いたんだ」
今流星は笑う。
「単に強いだけじゃない。デストロイヤー細胞の強さとは苦境にあって発揮される生命力、意志ある生命が持つ無限とも言える可能性だ。
故に私は私のデストロイヤー細胞の強さを評価する。デストロイヤー細胞は初めからの新鮮なものだったけど、私のデストロイヤー細胞には更にその先があった。底が知れない。
ああ長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかといえば――」
戦術機が振るわれる。
受け止める戦術機。激突し合う剣戟の音。
「――私はとうに人間を超えているのよ、高城ちゃん。私はデストロイヤーであり、人間であり、衛士である。汚染されたといったけど、それは間違い。衛士の進化の一形態。心して挑むといい」
戦いの火蓋は切られたのだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる