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神凪藝術高校②

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 五人はシュミレーターが起動するとガンシップの中に立っていた。ガタガタと揺られていて、立っているのも困難だ。ガンシップで移動したことないフレデリカは目を輝かせて周りを触りまくる。

「うおおお! すごい! ガタガタする!」
「フレデリカうるさい! でも凄い技術ですねこれ。これシュミレーター何ですか」
「ここまでの精度を横浜訓練校ではやっているんですね。うっ、みぞれも緊張してきました。

 スピーカーに声が響く。
 
『こちらパイロット。デストロイヤーの群れを確認した。近くのビルに接近します。そこから降りてください』

 その声に流星がみんなを纏めるように声をかける。

「みんな! シュミレーターといえどダメージを受ければ痛いわ! 教えられた通りの戦術で対処して!」
 
 ハッチが開き、風が吹き通る。そして眼下には地表でデストロイヤーが人間を襲っていた。真っ赤な血がぶちまけられる。内臓が弾け飛び、コンクリートの壁に叩きつけられた。
 あまりに凄惨なグロテスクな状況に瑠衣は口を抑える。胃から迫り上がってくるものを感じた。

「降下!!」

 流星はハッチから飛び降りる。続いて他の三人も降りる。みぞれだけは震えて、降りるのを立ち止まってしまう。その時だった。一条の光がガンシップを貫き、炎が綾波みぞれを包んだ。

「ああああああああ!?!?」

 全身を燃やされながら、みぞれは空中に投げ出され、地面に叩きつけられる。

「みぞれちゃん!?」
「私がいくわ! 流星は現場の指揮を!」
「うん!」

 現場はかなり酷い状況だった。
 横転したトラックが炎上し、ビルは崩れ、道路は陥没している。人々は逃げ惑いながらシェルターに向かっているが、冷静な判断ができているとはいえず、自ら危険な場所へ入る者もいる。
 サイレンが鳴り続け、不安を煽る。
 姫歌が顔を顰めながら言った。
 
「これは思ったより酷い状況ですね……!」
「建物もかなり損壊しています。パニックが起きています。まるで本物」

 備え付けの端末から情報が入る。

『住民に重軽傷者41人、死亡は確認できているだけで21人。区域周辺の住民は避難が完了していない為、迅速な対応が求められる』
「被害がそんなに……」
「これ以上、被害が出ないようにやるしかない」
「ええ、そうね」
「防衛軍の人達もいるのね。けどガンシップを貫いたあの光。ラージ級がいる」
 
 防衛軍というのは衛士ではない者が中心に組織された火力支援及び避難誘導役だ。正面から戦うことはできないので、衛士が戦いやすいように住民を避難させ、瓦礫などを撤去する仕事が主だ。
 戦闘力はスモール級レベルまで対抗できない。ラージ級のデストロイヤーに襲われれば瞬く間に壊滅する。
 
「見過ごせないわ」
「そうですね、防衛軍に被害が出ないように私達がこの区域のデストロイヤーを片付けましょう」
「10時の方角にスモール級の群れを発見。数は20から30」
「陣形を取りつつ殲滅を優先! お互い支援範囲から出ないように!」
「了解です!」
 
 お互いを援護する形で戦いに参戦した。
 瑠衣が正面から切り込み、敵を薙ぎ倒す。流星は瑠衣の左右と背後を守り、後衛のフレデリカは遠くのデストロイヤーを狙撃する。

「3時の方角からスモール級5!!」
「瑠衣ちゃん対応して! フレデリカちゃんはミドルレンジから射撃でサポート! 敵を止めてください!」
「了解」
 
 瑠衣は射撃しながら接近し、近接モードに変形させ切りかかった。デストロイヤーを撃破するが、それども数が多い。ヒットアンドウェイで、攻撃と徹底を繰り返す。
 そして撤退を支援するように瑠衣の横を弾丸が通り抜け、デストロイヤーに着弾する。フレデリカの射撃だ。弾丸はデストロイヤーの装甲を貫き爆散した。
 そこに医療キットで回復したみぞれと高城が参戦する。
 
(みぞれちゃんトラウマになってないと良いけど)
 
 流星は敵と交戦しながらみぞれの精神について考えていた。
 いきなり爆発に巻き込まれ、体を燃やされるのは驚くだろう。こんな戦場を選択するなんて意地の悪い教導官だ。
 しかしこれで当初の陣形が組める。
 
「陣形、サークル・ワン! 展開!」

 流星を後方に中衛はフレデリカと瑠衣とみぞれ、そして敵を引き寄せるのは高城の役割だ。援護射撃を受けながら高嶺は敵に突っ込み、攻撃を加える。そしてすぐに退避して、分厚い射撃支援が受けれる場所まで戻る。
 デストロイヤー達は高城を追うことで無防備になったところを他四人に集中攻撃を受けて粉砕された。
 
「戦闘終了。支援ありがとう」
「うっそ、もう終わっちゃったよ。すご」
「確かに有効的な戦術ね。前衛の負担が大きいけれど」
『こちら本部。敵の増援が確認された。ただちに急行されたし』
「みんな聞いたわね! まだ戦いは続くわ! 陣形を維持しつつ前進!!」

 そして全員が死亡した時点で機械的な『シュミレーター終了』の声が響き、その音声と共に世界が切り替わる。
 真昼がシュミレーター室に入ってくる。

「シュミレーター訓練ご苦労様です。皆、初めてのシミュレータでの訓練でサークル・ワンの理想的な動きができていたと思う」
『ありがとうございます!』
「だけと、それでも未熟な部分が多いのも事実です。これから1人ずつ結果を見て気になった点を伝える。心して聞いて、次回以降の訓練では同じ注意を受けないよう留意して」
『はい!』
「まずは隊長である今流星」
「はい!」
「先ず言えることは戦闘指揮、後方からの支援、そして作戦立案。どれをとっても素晴らしかった」
「ありがとうござます! 」
「だが、それでも想定していなかった、又は想定できなかった事によって発生するトラブルへの対策が、やはり何処か足りないと言わざるを得ないだろう。本来、デストロイヤー大戦勃発以来より作戦とは上手くいく事の方が稀。予想以上の敵の増援や、想定もしていなかった動きに掻き乱され戦線を維持できなくなる事の方が多い位だ。貴方はもっと考えや視野を広く持ち、戦線全体を見て行動するよう心がけて。以上だ」
「はい! ご教授、ありがとうございました」
 
 再び敬礼をして、元の位置に下がる流星、続いて高城の名前を真昼が呼ぶと、流星と同じようにして前に出て、ひと呼吸置いてから真昼は再び口を開く。
 
「宮川高城、貴方はフォーミュラフロント中でチームのトップであり、近接戦闘で言えば他のガーデンでもそうそういないレベルの衛士と言える。貴方が順調に成長していけば、レギオン内ポジションは前衛に配置される事だろう。特に近接戦が優れている」
「はい! 過分な評価、恐れ入ります」
「だが、その分射撃が長刀を用いた近接戦闘と比べお粗末になりがちだ。何でもかんでも近接戦闘だけで片付けようとすれば、衝撃が体に返ってくるブレードモードは体の扱いに長けていなければ、負担は大きくかかってくる。銃撃も同じように扱っていかなければ圧倒的な物量の前に飲み込まれ、死に至るだろう。そこを十分理解し、これからの訓練に励め」
「了解であります!  ご教授ありがとうございました!」
「次、綾波みぞれ」
「は、はい! 」
 
 高城が下がり、若干ビクビクとしながらみぞれが前に出る。
 
「綾波みぞれ。貴方の射撃能力はフレデリカと比べてツートップの素晴らしいものと言えるだろう。戦場を広く見渡し、前衛の高城が逃した標的の撃墜。遠方にいる標的への、遮蔽物のある中でのズレの無い正確な射撃。経験という点を除けば、かなりの腕前だ」
「はっ、はい!! ありがとうございます!」
「故に、貴方に伝えられる点はそう多くない。それでも言うとすれば、もっと冷静に事を進めろという事だけだ。シュミレーター中、仲間が撃墜されて以降の経過は決して良いとは言えない。仲間を失う事を恐れるなとは言わない。だが、それに怯えるばかりでは失う仲間の数は雪だるま式に多くなり、自棄になってばかりでは無駄も多くなる。一朝一夕に慣れろとは言えないが、その事をしっかりと考えてこれからの訓練に励め。最初の降下による怯えで今回は被害が出たが、貴方ならそれも克服できるだろう」
「了……解であります。ご教授ありがとうございました!」
 
 自分でも理解していた点なのか、若干ションボリとしながら。しかし、決して言われた事から逃げる事はなく、しっかりと頷いて下がる綾波みぞれ。そんな彼女と入れ替わって、今度は五条フレデリカの名前が呼ばれ前に出た。
 
「五条フレデリカ。貴方に言える事も綾波みぞれと同じでそう多くはない。ブレードモードでの近接戦とシューティングモードでの銃撃戦。どちらも平均的に上手くこなし、仲間へのフォローも積極的に行っている。過去のデータを見るを鑑みるに、一人突出して戦場で活躍するようなタイプではない。それと組み合わせ考えれば、お前が戦場で活躍する場面となると最後のラストショットや敵の遠距離狙撃になるだろう。それは基本課程での成績を見るに不安になるような事はない。デストロイヤー相手でも、そういう事態になった時に、お前は他の追随を許さぬほど有効的な手法を取れる。それは時として、一騎当千の兵よりも重宝される」
「はーい! ありがとうございます!
「だが、悪くない点が多くないとは言え、指摘する点が無いと言えばそうではない。追い詰められれば、お前にも突き詰めていくべき点は多々ある。具体的に言えば、綾波みぞれと同じ様に仲間が撃墜されてからの動きが極端に悪くなる上に、突発的な事態に対応が遅くなり流星と似た傾向に陥りやすいのも事実。そして実戦で未知のデストロイヤー相手にスケッチブックを取り出し観察していたと聞く。それは絶対にやめろ。データ採集は必要だがそれは戦術機のレコーダーがやってくれる。貴方に関しては技術よりも精神面の自覚と成長が必要になるだろう」
「えー、そんなの勿体無い」

 真昼も内心申し訳なく思う一方、それでも指摘した内容自体は間違っていないと信じいる為に生温い言葉をかけるつもりはなかった。下手な優しさは、今のような時代においては慰めにはならない。
 それで嫌われたとしても、真昼としてはこれからも止めるつもりはない。先生、特に良い教導官というのは嫌われる者なのだと理解しているのだから。そこまで考えて、真昼は気持ちを切り替える為大きく咳払いをすると、最後の隊員である赤火瑠衣の名前を呼んだ。
 
「赤火瑠衣は、宮川高城の代わりとして前衛の役目を務める場合がある。射撃戦だけではなく高速戦闘戦に慣れる努力をしろ。お前のいるポジションというのは、死ねば後ろの味方をも呆気なく道連れにしかねない重大なポジションだからね」
「了解です。一ノ瀬教導官」
 
 そうして瑠衣が下がり、真昼は言う事を全て終える。本音を言えば、まだまだ言うべき事は多々ある。だがそれらは、現段階で言った所で直ぐ様その通りできるようなものでないのも事実。
 あまり詰め込みすぎても、考えが頭に回りすぎて動きが悪くなるので避けたかったのだ。ただでさえ、今告げた修正点の数々は本来もう少し先になるものなのだ。

 彼女達フォーミュラフロントひいては神凪の衛士はデストロイヤー討伐に志願制であるが故に『真面目』で『仲間意識』が強く『自己犠牲を厭わない』者が前線に立つ場面が多く死亡率が高い。
 特に転校してきた宮川高城や今流星などがその傾向にある。

 そして戦いを好まない神凪の衛士が彼らと共同戦線を張った時、その技量とモチベーションの違いから悲劇を起こすのだ。フォーミュラフロントに行っている教導はそれを防ぐ為のものだ。
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