その魔導士は『戦域支配魔砲使い』と恐れられた。

ウィリアム・ブロック

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29話:戦う理由、守るべき者③

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 クローバーは朝一番から行動を開始した。
 理事長室に向かい、入る。

「おはようございます、理事長室代理」
「おはよう、クローバー君。何か用かね?」
「単刀直入に言います。近いうちにモンスターが襲来します。そのモンスターーは従来のモンスターを凌ぐ強力な個体であるのは間違いないでしょう」

 その言葉が予想外だったのか、理事長代理は面食らったような顔をした後、問いかけた。

「近いうちというのは?」
「具体的な時期はわかりません。今日かもしれないし、一週間後かもしれない」
「そのモンスターが襲来するという根拠は?」
「私のラプラスとしての直感です」
「ふむ、世界唯一のラプラスとして活躍してきた君の言葉を軽んじるつもりはない。具体的には何をしてほしい?」
「防衛隊の出撃待機と百由ちゃんの高出力砲の設置、更に全てのアーセナルと衛士を動員した戦術機の緊急メンテナンスと出撃待機。外征任務の中止、他学園の協力要請といったところでしょうか」
「かなり大規模だ。それをするだけの必要があるのかね?」
「わかりません。わかっているのは強力なモンスターが二体やってくること、そしてその後にネストを破壊できる機会がやってくる事です」
「その具体性はどこかきたのかね?」
「クフィア様です。クフィア様の魔導杖がモンスターに突き刺さったままネストで修復されたことでネストがクフィア様の影響を受けて変質。クフィア様になろうとするモンスターや性格を受け継いだ結果、通常の運営が出来なくなり強力なモンスター排出する結果になりました。それは魔力の消耗を無視した方法である為、この二体を撃破すればネストが無防備な状態で晒されます」
「クフィア様……か」

 理事長代理は目を細めた。
 クローバーがクフィアが幻覚を見ていることは上層部にとっては周知の事実だ。しかしその言動におかしな部分はない為、魔導士として活動を許されてきた。それは成功して大戦果を上げ続けた。しかしここにきて、危険を知らせる警告をしてきた。
 これをどう受け取るか迷っているのだろう。

「理事長代理、私は最善を常に尽くしてきました。現れるモンスターは強いです。ユグドラシル魔導学園が陥落するかもしれません。私の言葉を信頼できないのはわかります。ですが、どうが、私の功績を鑑みてお願いできないでしょうか?」

 クローバーは頭を下げた。
 理事長代理は息を吐くと頷いた。

「わかった。準備を進めよう。だがすぐに全てはできない。まずは外征の中止、高出力砲の設置、順次魔導士と魔導杖メンテナンスからだ」
「ありがとうございます」
「ああ、少し待ちたまえ」
「なんですか?」
「結梨君については何か知っているか?」
「結梨? いえ、知りません」
「そうか、わかった」

 はお礼を言って部屋を出た。

「あと、するべきことは」

 クローバーは頭を回転させる。
 組織の助力は得られた。なら他にするべき事はもっと個人的な事だ。だがただの一人で何ができる? やはり一人では駄目だ。組織の助力がなければ何もできない。
 そこでクローバーはGE.HE.NA.を思い出した。GE.HE.NA.用の端末にメッセージを入力する。

『緊急・ユグドラシル魔導学園に強力なモンスターが襲来予定。サンプル確保のため防衛隊の装備に紛れ込ませ、大型長射程高出力砲やパワーアシストアタッチメントを要請します』
『試験開発中の新型B型兵装の実験も兼ねて輸送する。使用されよ』
『了解』

 これでGE.HE.NA.からの支援ももらえる。
 パワーアシストアタッチメントがあれば魔力と精神力は使うが強力な兵器だ。使用できるのは大きい。
 その時、クローバーの端末にメッセージが届けられた。

【結梨およびマネッティアの捕縛命令】
【結梨はモンスターー由来の人造魔導士であり、外部の研究機関に引き渡すことになった。しかしマネッティアの手引きによって逃亡して行方不明である。見つけ次第捕縛せよ】
【モンスターを心通わす相手と見なすことは人類にとっての禁忌です。モンスターと同じ魔力を操る魔導士もまた一つ間違えば脅威と捉えらえかねません。それだけは絶対に避けねばなりません】
【現在防衛軍の部隊がこの学院に迫っています。人と魔導士が争う事態は絶対に避けねばなりせん。各員落ち着いて、冷静に対処してください】

 クローバーはため息をついた。

(マネッティアちゃん、優しいのは良い事だけどそれは駄目だよ。今はモンスター対策をしなきゃいけないのに、結梨の捜索にリソースを割くなんて)

 足取り重くレギオンの待機室に足を向ける。
 待機室にはルドベキア以外が揃っているようで、先の通達に対して活発な議論がされている様子だった。

「どうするんですかどうするんですか!? 結梨ちゃんがモンスターでマネッティアさんと一緒に逃げて逮捕命令って!」
「どうする?」
「そんなの決まってますよ! だって結梨ちゃんがモンスターのはずないじゃないですか! マネッティアさんは間違ってないですよ!」
「だけど学院から逃げたということはここも安全ではないと判断したということよ」
「私は強化魔導士だ。昔GE.HE.NA.に体じゅうをいじくり回された。お前達と出会ってやっと抜け出せた。GE.HE.NA.は嫌いだ。信用できない」

 そしてクローバーも。と胡蝶は言おうとして口をつぐんだ。どうやらレギオンメンバーの様子を見る限りクローバーがGE.HE.NA.と絡んでいるのは秘密にしているようだった。胡蝶も馬鹿ではない。何故口止めをせず、胡蝶の意思に任せているのが疑問だったが、それは胡蝶への信頼として受け取っていた。

 マネッティアは好きだ。クローバーにも恩がある。裏から手を任してくれたのはわかる。だが自分からGE.HE.NA.と手を組むのに胡蝶には理解できないし、賛同できなかった。

 クローバーは深呼吸して、仮面を作る。

「みんな、出動だよ。マネッティアちゃんには逮捕命令、結梨には捕獲命令が出た。二人を追いかける」
「それは何のためです?」

 愛花が問いかける。

「クローバー隊はどの追っ手よりも早く二人を捜し出し保護する。これは隊長としての判断……っていってもわかるよね。結梨もマネッティアちゃんも誰にも渡さない! 解決するまでの時間稼ぎをする!」
「それって学校からの指示とは違うよな」
「私が仲間を無意味に見捨てるような真似にするように見える? 私は常に最善を目指している。今回はこれが最善とは思えない。だから動くよ!」
「あ~……クローバー様ならそう言ってくれると信じていました!」
「あっ。そういえば風間は?」
「あいつん家も今回の件に関わっとるようじゃからな。バツも悪かろう」

 クローバーはルドベキアのお父さんがどちらの判断を下すか不安になった。仮定の話だが、もしクレスト社がGE.HE.NA.と縁を切って結梨に有利な情報を出してきた場合、引き渡しが失敗する可能性がある。
 それは大きな損失だ。人類にとっての損失だ。

「皆さんお揃いですのね」

 暗い顔をしたルドベキアが現れる。胡蝶が聞く。

「どこ行ってた?」
「ほんの野暮用ですわ」

 クローバーは風間を見た。

「空気読んでない上で聞くよ、ルドベキアちゃん」
「はい、なんでしょう? クローバー様」
「ルドベキアちゃんのお父さんは結梨ちゃんについてどういう立場を取ることになったの?」
「……」

 ルドベキアは言い辛そうに口を紡ぐ。

「安心して。責めるつもりはないし、私は既にお父さんの口から結梨がクレスト社とGE.HE.NA.共同で製造した人造魔導士であることを教えてもらっていた」
「いつの間に!?」
「写真を撮ってほしい、と頼まれた時に。本題はそっちだったんだよ。そこで引き渡しの手伝いを要求されたけど断った。ルドベキアちゃんの反応からするとルドベキアさんのお父さんの意見は変わらなかったみたいだね」
「はい。これは人類にとって必要な事だと。譲りませんでした」

 良かった。
 クローバーは安心した。
 これでルドベキアのお父さんひいてはクレスト社が敵に回るなんて事態にならなくて心の底から安堵した。

「そっか、わかった。切り替えていこう。私達は今からマネッティアちゃんを追いかける。風間ちゃんもついてきてくれるよね?」
「はい! お任せください!」
「でも居場所はどうやって特定するんですか?」

 クローバーは端末を取り出した。

「本人に聞くよ」

 クローバーは端末を操作してマネッティアに連絡した。そして結梨を守ることを約束して居場所を教えてもらい、レギオンメンバーで向かった。
 そこには防衛隊が取り囲んでいた。マネッティアと結梨に銃を向けて、緊張状態が続いている。

「通してください」

 クローバーは魔導杖を持ったまま、前に出て防衛隊とマネッティア達の間に進む。
 マネッティア達とクローバーが向かい合う。

「お姉様、すみません。私、結梨が研究施設に送られると聞いて」
「怒ってないよ。それが良い人の当然の反応だもんね」
「ねぇ、クローバー。私ってそんなにモンスターと似てるのかな?」

 クローバーは首を振った。

「似てないよ。少なくとも外見は全く」
「でも私はモンスターなんだよね」
「どちらかといえば親がモンスターって感じかな。今は人の意識と体を持っている。だからみんな、どうしてモンスターから人が生まれたか知りたくて研究したがっている」
「私なりたくてこんな風に生まれたわけじゃないんだけどな。クローバーもそんな風に思うことある?」
「もっと強ければ、って思った事は何度もあるよ。自分を受け入れる事はできても、理想の自分で生まれてきた人はいないんじゃないかな。生まれた生命はその時点で自分の能力と環境に折り合いをつけて生きていくしかないんだよ」
「私がもしモンスターになったら、モンスターは私を仲間として受け入れてくれるかな?」
「敵とは見做さない可能性あるよ。モンスターの姫っていってね。子供の頃にモンスター細胞を入れた魔導士はモンスターに攻撃されない存在になる。でもモンスターは喋らないし、食べ物もないよ。楽しいのは人間側だと思うけど」
「でも私は人の居場所はないんでしょ?」
「無いなら、作れば良い。マネッティアちゃんと私で結梨の居場所を作るよ。不自由で、辛い研究にも参加してもらうかもしれないけど、それでも幸せと不幸が半分くらいの人生を送れるように努力する」

 クローバーは歩みを進めて、結梨に手を伸ばす。

「結梨が決めて。辛いことも楽しいこともある私達と来るか、モンスターの仲間になるか。自分自身で選ぶんだ。自分で選んだ人生じゃ無いと納得できない。納得は全てに優先される。納得した人生ならそれは後悔があっても幸せなんだ」

 それにマネッティアがクローバーの手を握る。

「待ってください。結梨を研究施設に渡すんですか?」
「全部じゃ無い。折衷案だよ。魔導士として人類貢献する代わりに非人道的な実験や研究を止める。そう交渉する。これでも私は顔が広いからね。私の価値は世界に通用するんだよ?」
「それで結梨は、幸せですか?」
「常に幸せになる事などあり得ない。絶頂でいられる期間は短い。人生は波なんだ。マネッティアちゃんなら、衛士なら、それはわかってないと困るかな。今日一緒にご飯を食べた戦友が明日には死体になってる。そんな時勢、そんな時代なんだから。さぁ、結梨。選んで」

 結梨はクローバーを真っ直ぐ見つめた後、クローバーの手を掴んだ。

「よし、結梨のこと、守ってあげるからね」

 その時だった。
 ユグドラシル魔導学園のモンスター襲来を告げるサイレンが鳴り響いた。防衛隊が移動を開始する。そして海の中から波を切り裂いて巨大なモンスターが姿を現した。

 山が動いているようだった。

 そのモンスターは無数の子機を飛ばすと、光が収束して強烈なビームを発射した。海を切り裂いて、大地を焼いてユグドラシル魔導学園に直撃するが学校の巨大の結界に衝突してなんとかビームが拡散する。

「あれがクフィア様の言っていた、強力なモンスター。ギガント級」

 それは50メートル以上ある巨大な砲身をユグドラシル魔導学園に向けたまま、リチャージを始めるのだった。
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