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26話:昔の戦友
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結梨はめざましい成長を遂げていた。
肉体的にも精神的にも成長して、普通の魔導士を超える存在になっていた。何よりも特徴的なのは複数のスキルを同時に発動できること。
魔導杖を使った模擬訓練で見せた動きは熟練者と言っても過言では無く、まるで真昼の生写しのようであった。
という事で、結梨はユグドラシル魔導学園の一員となり、世話を焼いていたマネッティアとクローバーも必然的にレギオンメンバーに説明する事になる。
「みんな、ごきげんよう。結梨だよ! よろしくね!」
オープンテラスに集まっていたレギオンメンバーに向かって結梨は元気よく挨拶をする。
「お~元気になったか」
「ってその制服!」
「うん。正式にユグドラシル魔導学園の生徒にしてもらえたって」
「編入されたってこと?」
「まあかわいい」
レギオンメンバーは好意的だ。彼女が人造生命体だと知らないのもあるが、そもそもとしてクローバーのレギオンメンバーは善人が多い。謎の少女であろうと仲間になったのなら歓迎するのが自然な事なのだ。
その中で唯一、クローバーは結梨に情を移さないように努力していた。
彼女は恐らく近いうちに研究所送りになる。それもモンスターとしてだ。過激派が始めた人造魔導士計画なので、それはもう酷い扱いを受けるだろう。それを知るのは自分だけで良いとクローバーは思った。
「名前の結梨ってクローバーさんとマネッティアさんの子供みたいですね」
「いいんじゃないでしょうか」
「似合ってる……と思う」
「一緒にリハビリしてし、なんか愛の結晶って感じだな」
「一緒に猫缶食うか?」
「どういう文脈で猫缶食べることになったの?」
胡蝶の言葉にクローバーは思わず突っ込んだ。まさか胡蝶には結梨が猫に見えているのか? そもそも胡蝶は猫缶を食べでいるのか? それならば早急に辞めさせなければ。腹を壊す。
(結梨が編入されたことで外部の勢力は表舞台に立たなければいけなくなる。それがどう来るか、気をつけないと。結梨のせいでみんなに迷惑はかけられない。全部知ってる私が上手く対処しないと)
「さて、そろそろお風呂に行きませんか?」
「そういえばもう一年生の時間じゃのぅ」
「クローバー様には申し訳ないのですが、ここで失礼させて頂きます」
「うん、みんなさっぱりしてきて」
マネッティアが結梨を連れてお風呂へ行く。
それを見送ると、クローバーは大きくため息をついた。どうしても結梨の事となると精神を擦り減らす。自分の立場を守り、レギオンメンバーの心を守り、そして世界を守る。全てやらなくちゃいけないのがレギオンリーダーの辛いところだ。
そんなクローバーの頬に冷たいものが当てられる。
「うわひゃ!?」
「どう? びっくりした?」
ドッキリが成功した事で朗らかに笑うのは二代目アールヴヘイムのリーダー天音ソラだった。黄色髪にぴょこんと髪が跳ねている。
彼女とは初代アールヴヘイムからの付き合いで交流があった。周囲を気にかける性格で、落ち込んでる人や不安要素を抱えて不安定になっている人を優しくほぐしていた。
「クローバーも顔色酷いね。上手く取り繕ってるけど、気が抜けた瞬間はまるで枯れ木のようだよ」
「色々考えることが多くて。私もって? 他に誰かいるの?」
「衣奈がね。今スランプ中なの」
上条依奈。
彼女も初代アールヴヘイムの一員で、天音ソラと一緒に二代目アールヴヘイムに入っている。司令官やアドバイザーとして活躍して、彼女のお陰で才能を開花させた後輩は多い。
その本人がスランプに陥るとはクローバーには驚きだった。
「何があったの?」
「わかんない。ただ初代アールヴヘイムが解散してから、閉じこもっちゃって退学させられそうになったから無理矢理私のレギオンに入れたんだけど、そこで元々司令塔をやっていた子から役目を奪って司令塔の役目に入ったから、そこで揉めたし、その司令塔の役割も正直果たせていない」
「だからスランプか」
「そう。衣奈には才能と実力がある。それは過去の戦いが実証している。でも今は彼女の力を十全に発揮できていない。レギオン内の空気も悪くなり始めてるし、一年生から舐められる二年生という立場に衣奈のプライドが傷つけられて、更に焦って失敗する」
「悪循環に入ってるね」
「だから、どうしたものかなって」
「そうだね……」
クローバーは端末を取り出して二代目アールヴヘイムの戦術データを見た。クローバーはGE.HE.NA.からユグドラシル魔導学園の有望な魔導士のデータ収集をする役目を与えられているので、その中に当然ながら二代目アールヴヘイムも入っている。
彼女達の作戦記録を参照して、また適正やスキルなども流し読む。勿論これは外部に流出させなければユグドラシル魔導学園の生徒なら誰でも見れる情報だ。これを見て自分達の動きの参考にするのも推奨されている行為である。
「作戦記録を見る感じ、衣奈ちゃんはまだ初代の動きを引きずってるね」
「初代アールヴヘイム並みの動きを今の一年生に要求してるってこと?」
「いや、そうじゃなくて。基本的に気質の問題だと思うけど好戦的で先行しがちな二代目と違って、初代は司令塔を中心に堅実な動きで敵を撃破していた。ようは防御寄りか攻撃寄りかの話なんだよ」
「初代の防御寄りの命令を、攻撃寄りの二代目にした結果、噛み合わなくて失敗せるってことか」
「たぶん、それは本人も理解しているんだと思うけど、体に染みついたものはなかなか取れないよね。それに加え二年生で一年生を引っ張らないといけない立場にある。もし一年生に無理をさせて大怪我を負わせたらと考えると……もう駄目になるよ」
そうクローバーが言うとソラは涙目になってまひに抱きついた。
「ソラ、どうにかして~お願い。衣奈には立ち直ってほしいの。一緒に戦ってきた戦友が弱っていく姿は辛いよ」
「……」
クローバーは少し考えた。
心情的には助けてあげたい。しかし今は結梨という問題を抱えている。そこまで手を伸ばせるか怪しい。しかしソラも衣奈も一緒に死線を潜り抜けた戦友達だ。
少し無茶をしても、助けたい気持ちが強かった。
「二週間、待って。そしてそれまでの間、このデータをもとに訓練してみて」
クローバーは自分の端末からソラの端末にデータを送った。
「これは?」
「戦闘データと一週間耐久防衛シュミレーションです」
「24時間耐久防衛シュミレーションって、初代の時やったあの地獄の!? そんなデータ残ってたんだ!?」
「うん、どっちやるかは任せるけど、過去に経験した戦いの再現なら衣奈ちゃんもやりやすいだろうし、ほかの一年生も良い経験になると思うよ」
「うわぁ、やりたくない。それで二週間って言うのは?」
「二週間後にあるデータを百由ちゃんに渡して衣奈ちゃんにやってもらいたいこと事があるんだ。まぁ、この二つのシュミレーションでスランプ回復したなら良いんだけど」
戦闘データはそのまま迎撃戦の戦闘データの再現。そして一週間耐久防衛シュミレーションはスモール級からラージ級までのモンスターが押し寄せてくる状況で拠点を防衛し続けるシュミレーションだ。
倒しても倒しても減らないモンスターに、交代制で休みながら常に気を張り続ける精神負荷、いつ終わるかわからない消耗戦。壊れる専用魔導杖と魔導杖ポットに入ってる第一世代が段々と減っていく焦燥感、まさに地獄の戦いだ。
「この二つのデータ、ありがたくもらっておくよ。近いうちにある戦技競技会、楽しもうね。クローバーもいつまでも標準的なストライクイーグル使ってないで、カスタムくらいはしなよ。今回の報酬は豪華魔導通のカスタムだからさ」
「私はこれが使い慣れてるからなぁ、でも考えておくね」
ソラは手を振って立ち去っていった
肉体的にも精神的にも成長して、普通の魔導士を超える存在になっていた。何よりも特徴的なのは複数のスキルを同時に発動できること。
魔導杖を使った模擬訓練で見せた動きは熟練者と言っても過言では無く、まるで真昼の生写しのようであった。
という事で、結梨はユグドラシル魔導学園の一員となり、世話を焼いていたマネッティアとクローバーも必然的にレギオンメンバーに説明する事になる。
「みんな、ごきげんよう。結梨だよ! よろしくね!」
オープンテラスに集まっていたレギオンメンバーに向かって結梨は元気よく挨拶をする。
「お~元気になったか」
「ってその制服!」
「うん。正式にユグドラシル魔導学園の生徒にしてもらえたって」
「編入されたってこと?」
「まあかわいい」
レギオンメンバーは好意的だ。彼女が人造生命体だと知らないのもあるが、そもそもとしてクローバーのレギオンメンバーは善人が多い。謎の少女であろうと仲間になったのなら歓迎するのが自然な事なのだ。
その中で唯一、クローバーは結梨に情を移さないように努力していた。
彼女は恐らく近いうちに研究所送りになる。それもモンスターとしてだ。過激派が始めた人造魔導士計画なので、それはもう酷い扱いを受けるだろう。それを知るのは自分だけで良いとクローバーは思った。
「名前の結梨ってクローバーさんとマネッティアさんの子供みたいですね」
「いいんじゃないでしょうか」
「似合ってる……と思う」
「一緒にリハビリしてし、なんか愛の結晶って感じだな」
「一緒に猫缶食うか?」
「どういう文脈で猫缶食べることになったの?」
胡蝶の言葉にクローバーは思わず突っ込んだ。まさか胡蝶には結梨が猫に見えているのか? そもそも胡蝶は猫缶を食べでいるのか? それならば早急に辞めさせなければ。腹を壊す。
(結梨が編入されたことで外部の勢力は表舞台に立たなければいけなくなる。それがどう来るか、気をつけないと。結梨のせいでみんなに迷惑はかけられない。全部知ってる私が上手く対処しないと)
「さて、そろそろお風呂に行きませんか?」
「そういえばもう一年生の時間じゃのぅ」
「クローバー様には申し訳ないのですが、ここで失礼させて頂きます」
「うん、みんなさっぱりしてきて」
マネッティアが結梨を連れてお風呂へ行く。
それを見送ると、クローバーは大きくため息をついた。どうしても結梨の事となると精神を擦り減らす。自分の立場を守り、レギオンメンバーの心を守り、そして世界を守る。全てやらなくちゃいけないのがレギオンリーダーの辛いところだ。
そんなクローバーの頬に冷たいものが当てられる。
「うわひゃ!?」
「どう? びっくりした?」
ドッキリが成功した事で朗らかに笑うのは二代目アールヴヘイムのリーダー天音ソラだった。黄色髪にぴょこんと髪が跳ねている。
彼女とは初代アールヴヘイムからの付き合いで交流があった。周囲を気にかける性格で、落ち込んでる人や不安要素を抱えて不安定になっている人を優しくほぐしていた。
「クローバーも顔色酷いね。上手く取り繕ってるけど、気が抜けた瞬間はまるで枯れ木のようだよ」
「色々考えることが多くて。私もって? 他に誰かいるの?」
「衣奈がね。今スランプ中なの」
上条依奈。
彼女も初代アールヴヘイムの一員で、天音ソラと一緒に二代目アールヴヘイムに入っている。司令官やアドバイザーとして活躍して、彼女のお陰で才能を開花させた後輩は多い。
その本人がスランプに陥るとはクローバーには驚きだった。
「何があったの?」
「わかんない。ただ初代アールヴヘイムが解散してから、閉じこもっちゃって退学させられそうになったから無理矢理私のレギオンに入れたんだけど、そこで元々司令塔をやっていた子から役目を奪って司令塔の役目に入ったから、そこで揉めたし、その司令塔の役割も正直果たせていない」
「だからスランプか」
「そう。衣奈には才能と実力がある。それは過去の戦いが実証している。でも今は彼女の力を十全に発揮できていない。レギオン内の空気も悪くなり始めてるし、一年生から舐められる二年生という立場に衣奈のプライドが傷つけられて、更に焦って失敗する」
「悪循環に入ってるね」
「だから、どうしたものかなって」
「そうだね……」
クローバーは端末を取り出して二代目アールヴヘイムの戦術データを見た。クローバーはGE.HE.NA.からユグドラシル魔導学園の有望な魔導士のデータ収集をする役目を与えられているので、その中に当然ながら二代目アールヴヘイムも入っている。
彼女達の作戦記録を参照して、また適正やスキルなども流し読む。勿論これは外部に流出させなければユグドラシル魔導学園の生徒なら誰でも見れる情報だ。これを見て自分達の動きの参考にするのも推奨されている行為である。
「作戦記録を見る感じ、衣奈ちゃんはまだ初代の動きを引きずってるね」
「初代アールヴヘイム並みの動きを今の一年生に要求してるってこと?」
「いや、そうじゃなくて。基本的に気質の問題だと思うけど好戦的で先行しがちな二代目と違って、初代は司令塔を中心に堅実な動きで敵を撃破していた。ようは防御寄りか攻撃寄りかの話なんだよ」
「初代の防御寄りの命令を、攻撃寄りの二代目にした結果、噛み合わなくて失敗せるってことか」
「たぶん、それは本人も理解しているんだと思うけど、体に染みついたものはなかなか取れないよね。それに加え二年生で一年生を引っ張らないといけない立場にある。もし一年生に無理をさせて大怪我を負わせたらと考えると……もう駄目になるよ」
そうクローバーが言うとソラは涙目になってまひに抱きついた。
「ソラ、どうにかして~お願い。衣奈には立ち直ってほしいの。一緒に戦ってきた戦友が弱っていく姿は辛いよ」
「……」
クローバーは少し考えた。
心情的には助けてあげたい。しかし今は結梨という問題を抱えている。そこまで手を伸ばせるか怪しい。しかしソラも衣奈も一緒に死線を潜り抜けた戦友達だ。
少し無茶をしても、助けたい気持ちが強かった。
「二週間、待って。そしてそれまでの間、このデータをもとに訓練してみて」
クローバーは自分の端末からソラの端末にデータを送った。
「これは?」
「戦闘データと一週間耐久防衛シュミレーションです」
「24時間耐久防衛シュミレーションって、初代の時やったあの地獄の!? そんなデータ残ってたんだ!?」
「うん、どっちやるかは任せるけど、過去に経験した戦いの再現なら衣奈ちゃんもやりやすいだろうし、ほかの一年生も良い経験になると思うよ」
「うわぁ、やりたくない。それで二週間って言うのは?」
「二週間後にあるデータを百由ちゃんに渡して衣奈ちゃんにやってもらいたいこと事があるんだ。まぁ、この二つのシュミレーションでスランプ回復したなら良いんだけど」
戦闘データはそのまま迎撃戦の戦闘データの再現。そして一週間耐久防衛シュミレーションはスモール級からラージ級までのモンスターが押し寄せてくる状況で拠点を防衛し続けるシュミレーションだ。
倒しても倒しても減らないモンスターに、交代制で休みながら常に気を張り続ける精神負荷、いつ終わるかわからない消耗戦。壊れる専用魔導杖と魔導杖ポットに入ってる第一世代が段々と減っていく焦燥感、まさに地獄の戦いだ。
「この二つのデータ、ありがたくもらっておくよ。近いうちにある戦技競技会、楽しもうね。クローバーもいつまでも標準的なストライクイーグル使ってないで、カスタムくらいはしなよ。今回の報酬は豪華魔導通のカスタムだからさ」
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