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10話
しおりを挟む~ ティナ&ニーナside ~
私たちは、タミアを出てから安全な道のりで旅を始めた。旅の目的はケン君のために国を1周する大規模なものだ。
途中、ケン君が浮かない顔をしていたから聞いてみたら、魔物と戦えなくて暇だと言った。
旅は安全が第一なのに、わざわざ魔物に対して戦いを挑むの? ケン君ってバトルジャンキーなのかしら?
どうやら王都でかなりのクエストを受けていたのが原因みたい。それだけ魔物を倒していたら、確かに今の状況は暇よね。
というか、2日間のクエストでCランクってどんだけ異常なのよ!? 2日間で、どれだけのことをしたのか聞くために、ケン君の強さの秘密に、どんどんメスが入っていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケンが王都ギルドで、サーシャという人にお世話になったと言う。受付嬢らしい。これは確実にライバルが1人増えたことになる。将来、どれだけ増えるのか先行き不安でもある。
ケンの強さの秘密の中で明かされたアイテムボックスは、まだいっぱいになったことがないらしい。
私は、どれだけの魔力量か気になって質問したのだが、私の言葉足らずな質問に、ケンは意味がわかってないみたい。ティナが代わりに説明してくれて、驚きの事実が判明した。
「ニーナが言いたいのはね、ケン君はどの属性を使えるのかってことよ。クエストの時は、ニーナの真似で土属性を使っていたでしょ?」
「そういうことですか……属性って何種類あるんですか?」
「基本的なものだと、【火】【水】【雷】【土】【風】の5属性に、【光】【闇】の2属性があるわ。ちなみに私は【風】と【光】の2属性持ちよ。ケン君は【土】が確定しているでしょ? 他には何かあるの?」
「全部ですね」
私は驚愕した。全部って何? えっ!? 意味わかんない。私は【火】と【水】と【土】しか扱えないのに……
ケンはズルいと思う。結局、ケンだけ秘密をバラされるのは、不公平と言うことで、今度教会に行ったらステータスを見せることになった。
ガルフが言うには、冒険者夫婦は見せあったりするらしい。ティナが嫁宣言したもんだから、慌てて私もお嫁さんになると言ってしまった。恥ずかしい……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕日が差し迫ってきた頃、野営の準備に取りかかった。ガルフがケン君にテントの事を聞いているけど、ニーナがちゃんと選んだみたい。
ケン君と一緒に寝るために、私を含めた3人で広々と使える4人用を買うなんてね。グッジョブよ!
野営の時は、私とニーナは薪集めの係。料理はさせて貰えないの。以前、ニーナと2人で肉を焼いて塩を振ったものを出したら、ロイドが“それは料理じゃない!”って怒ったのよね。ちゃんと焼いたんだし立派な料理だと思うんだけど、失礼しちゃうわね!
薪を拾うため森に入ったことだし、今回はちょうどいいからニーナとケン君についての話をしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇ、ニーナ。ケン君に、今日頑張ったご褒美を、何かあげようかと考えているんだけど」
確かにケンは頑張っていたと思う。魔物が狩れなくて暇そうにしていたけど。そう思ってご褒美もありかと思い、聞き返すことにした。
「ご褒美? 何にする?」
私はこの時、ティナの言うご褒美の中身を甘くみていた。
「私たちの体よ」
突拍子もない返答内容に私は愕然とした……
(えっ!? 何言ってるの? 頭大丈夫?)
「そんな引かなくてもいいじゃない」
「普通に引く」
誰だって、いきなりご褒美に、体を差し出すと言われれば引くと思う。私だけではないはずだ。
「正確には、ケン君をおっぱいで挟んであげるのがご褒美」
「それなら理解出来る」
最初から、そう言ってくれればよかったのに、変に考えてしまったじゃない。
「それで、見張りを交代したら、テントの中で裸になって抱きつくの」
「……」
は、裸? いやいや、いつもみたいに、抱きつくだけでいいじゃない!
「あれ? ニーナは平気よね? ケン君のこと好きなんだし」
さも当然かのように、ティナは言ってくる。
(待って!? おかしいのは私なの!?)
「んー……それなら私だけでしようかな」
「ティナは、恥ずかしくないの?」
「だっていつもケン君の前で着替えてるし、たまに裸のままで抱きついたりもするし。恥ずかしがって、慌てて後ろを向くケン君を見ると、キュンキュンしちゃうのよね」
は……? いつもしてたの? あの宿屋で……? 痴女なの?
「言っておくけど、痴女じゃないわよ?」
「じゃあ、何故?」
「んー、きっかけは、最初のクエストを一緒にやった日かな」
「カッコよかった」
あの姿は痺れたなぁ……
「それもよかったけど、私が言ってるのは夜のことよ」
「夜?」
もしかして襲ったの!? 子供相手に!?
「あの日の報酬は、受け取りで5等分したから、バカルフとアホイドの2人が、報酬が少ないって言ってたじゃない?」
あぁ、確かに言ってたなぁ。金使いが荒いからそうなるんだ。それにしても、バカルフにアホイドって……プッ……
「あれ……ケン君、ずっと気にしてたのよ。部屋に戻ってからも」
「そんな風には見えなかった。」
「ニーナはまだまだね。そんなんじゃ、ケン君は逃げちゃうわよ?」
「逃げる?」
「ケン君って、どこか他人行儀だったじゃない?」
「確かに。人見知り?」
私も人見知りするしなぁ。あまり上手く人と話せないで、言葉数が少ないのが癖になっちゃったし……
「私も最初はそう思ってたのよ。でも、ずっと一緒の部屋で過ごしてたら、何かが違うって感じ始めたの」
「何が?」
「それはね、壁を造られている感じなのよ。人をこれ以上は、寄せ付けないって感じで」
「そうだったの?」
「まぁ、ニーナは一緒にいた時間が少なかったから、気づけなくても仕方がないんだろうけど」
確かにティナの言う通り、過ごした時間がティナに比べると、明らかに少ない。
「私がスキンシップで歩み寄っても、少し近づいたかなと思ってたら、ケン君の心は、離れていってたのよね」
「それが逃げるってこと?」
「そう……だから、あの日の夜に思い切って聞いてみたの。報酬の件で落ち込んでいたからね。タイミングとしてはちょうどよかったわ」
「何がわかったの?」
「これは、ケン君のプライバシーに関することだから、私から言うのもねぇ……」
ここまできてそれはズルい。気になって仕方がないじゃない!
「そこまで言ったなら話すべき」
「まぁ、ニーナもケン君のことが好きだから、知っておいた方が今後のためにもいいのかもね」
「ケンのことなら、何でも知りたい」
「ケン君って、記憶を失ってるじゃない?」
「両親の事とか、わからないって言ってた」
「実はね、私の予想だと2回記憶を失ってるの」
「――!」
2回!? なんで2回も!? あの年でそんな辛い事を体験してるの?
「1回目……それがいつ起こったのかはわからないけど、2回目の記憶喪失は、最近のことだと思うの」
「どうして?」
「これも予想なんだけど、ケン君って、記憶がなくてお金を稼ぐために、冒険者になったって言ったじゃない?」
「確かに……」
「しかも、王都で冒険者になった。冒険者になって2日間のクエストで、Cランクまで上がった。それからタミアに来て、私たちと出会った」
「ケンの言ってた内容」
「おかしいでしょ? 昔に記憶をなくしたのなら、冒険者になる前はどうやって生活していたの? スラム? 違うわよね? スラムで生活していたなら、あそこまで常識知らずでは生きていけないわ。むしろ他人に欺かれないように、狡猾になったりするし。それ以外で考えたら、孤児院や誰かに養われていたことも除外される。もしそうなら、普通に常識を学んでいるはずだから。ケン君が言ったのは、記憶がないから、冒険者になってお金を稼いだよ」
驚いた……ティナがここまで頭がいいとは思わなかった。いつもは朝に弱くてダメダメな印象しか持っていなかったのに……私は、あまりの驚きについ、口にしてしまった。
「たまに頭が良くなる?」
「ニィィ~ナァア~! たまに頭が良くなるってどういう事よっ!」
「口が滑った」
「はぁ……まぁ、いいわ。つまりね、さっきの理由で、ケン君は最近記憶をなくしたと私は予想しているの」
「辻褄は合ってる」
「その2回目の記憶喪失で、どの程度失われたか……その事はケン君が、予想して言ってたからわかるの。きっと、この体の記憶を失う前の思い出なんだろうって、この世界で生きてきた記憶なんじゃないかって」
この体? この世界? どこか妙な言い回しに引っかかる気がする。でも、普通に聞き流せる範囲でもある。それよりも今は、気になることがあるから、そちらを優先させよう。
「それじゃあ、1回目は何を失った?」
「問題はその1回目なのよ。ケン君が記憶のことを、思い出そうとした時に頭痛を起こしたのよ。2回目の時に頭痛がし始めて、1回目の時は、声に出して苦しんでた」
「大丈夫だったの?」
「その時は、咄嗟に光魔法で痛みをなくしたわ。そして、ケン君が言うには、その1回目の記憶は、思い出すことを体が拒絶しているって言うのよ」
体が拒絶反応を起こすって何? いったいそこに、どんな記憶が隠されているの?
「多分、私はその1回目で、ケン君がその出来事の記憶を失い、心が壊れて失われたんだと思う」
心が壊されて失う出来事って……ケンは今現在、心が壊れているの? 全然そうは見えないけど、気になる私は先を促した。
「1回目は、記憶と共に心が壊れて失われた?」
「そう。その出来事が、今のケン君を形作ってるのよ」
「今のケンを?」
「ここでやっと、他人行儀で壁を造ってるって話に繋がるの。ケン君は基本的に人を信じていないのよ。私は、その事実を知って悲しかったけどね」
「そういう風に見えない」
「それはそうよ。今までずっとそうして生きてきて、体に染み付いたそれが当たり前だと、無自覚に過ごしてたんだから。傍から見ても歪に感じないほど、洗練された壊れ方なのよ」
「何故気づいたの?」
「ケン君のことが、本当に好きだからよ」
自信満々に語るティナは、とても輝いて見えた。私の好きとは深みが全然違う。
「でも好きだからこそ気づいて、とても悲しかった。ケン君にどんだけ好意を寄せても、受け取って貰えないの。ケン君にとっては、他人事だから……どんなに好きと言っても、心に響かない……」
「他人事?」
「そう。ケン君にとっては、自分自身のことですら他人事なの。好意を寄せても、他人事だから無関心。誰か好みの人を見つけても、他人事だから好きにならない。全ての好意が他人事なの」
全ての好意が他人事って……本当に誰も寄せ付けないの? 確かに他人行儀ではあったけど……
「ケン君ね、そんな自分に気づいてしまって、自分のことを人間の皮を被った魔物って言ったのよ……」
ティナが泣いている……その時のことを思い出したのかな? ティナの話を聞いてるだけの私でも、とても悲しく感じてしまう。
ケンは自分を魔物と言うほどに、壊れてしまってたんだね。その場で聞いていたティナの悲しみは、計り知れなかっただろうな。
「……ッ……でもね、私が少しだけでもいいから、歩み寄って欲しいって言ったら、最後には、ちょっと頑張ってくれるって言ってくれたの。それに、その後は、“ティナさんはどこか気になる存在”とも言ってくれたのよ! その言葉だけで、私は大満足だったわ!」
えっ、何なの!? その変わり身の早さは……
さっきのシリアス返してよ! 私の気持ちを返してよ!
「とまぁ、長くなったけど、その出来事がきっかけかな。その日の夜は、ケン君とラブラブになれたし。寝るときに不意打ちでチュッてされて、私も寝てたケン君にチュッて仕返して、次の日の朝には、寝ている私にまた不意打ちでチュッてしてきて、ちゃんと起きたらおはようのキスしてくれたし。キャーー!!」
惚気キターッ!!
何っ!? あの朝の早起きの背景には、そんな出来事が隠されていたの? 確かに珍しく早起きだなとは思ったけど! 思ったけどさ!!
はぁ……なんか疲れたな……
「あ、それで、ご褒美の件なんだけど、裸でケン君を接待するってことでいいよね?」
何、その今までの話がなかったかのような、軽い感じは……もう私は疲れたから好きにして。
「それでいい」
そのあとも、恥ずかしい内容の綿密な計画が、ティナの口から語られて、私は、ケンの為ならいいかなと思い始めたのだった。
……もしかして私……毒されたかな?
私たちは、タミアを出てから安全な道のりで旅を始めた。旅の目的はケン君のために国を1周する大規模なものだ。
途中、ケン君が浮かない顔をしていたから聞いてみたら、魔物と戦えなくて暇だと言った。
旅は安全が第一なのに、わざわざ魔物に対して戦いを挑むの? ケン君ってバトルジャンキーなのかしら?
どうやら王都でかなりのクエストを受けていたのが原因みたい。それだけ魔物を倒していたら、確かに今の状況は暇よね。
というか、2日間のクエストでCランクってどんだけ異常なのよ!? 2日間で、どれだけのことをしたのか聞くために、ケン君の強さの秘密に、どんどんメスが入っていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ケンが王都ギルドで、サーシャという人にお世話になったと言う。受付嬢らしい。これは確実にライバルが1人増えたことになる。将来、どれだけ増えるのか先行き不安でもある。
ケンの強さの秘密の中で明かされたアイテムボックスは、まだいっぱいになったことがないらしい。
私は、どれだけの魔力量か気になって質問したのだが、私の言葉足らずな質問に、ケンは意味がわかってないみたい。ティナが代わりに説明してくれて、驚きの事実が判明した。
「ニーナが言いたいのはね、ケン君はどの属性を使えるのかってことよ。クエストの時は、ニーナの真似で土属性を使っていたでしょ?」
「そういうことですか……属性って何種類あるんですか?」
「基本的なものだと、【火】【水】【雷】【土】【風】の5属性に、【光】【闇】の2属性があるわ。ちなみに私は【風】と【光】の2属性持ちよ。ケン君は【土】が確定しているでしょ? 他には何かあるの?」
「全部ですね」
私は驚愕した。全部って何? えっ!? 意味わかんない。私は【火】と【水】と【土】しか扱えないのに……
ケンはズルいと思う。結局、ケンだけ秘密をバラされるのは、不公平と言うことで、今度教会に行ったらステータスを見せることになった。
ガルフが言うには、冒険者夫婦は見せあったりするらしい。ティナが嫁宣言したもんだから、慌てて私もお嫁さんになると言ってしまった。恥ずかしい……
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夕日が差し迫ってきた頃、野営の準備に取りかかった。ガルフがケン君にテントの事を聞いているけど、ニーナがちゃんと選んだみたい。
ケン君と一緒に寝るために、私を含めた3人で広々と使える4人用を買うなんてね。グッジョブよ!
野営の時は、私とニーナは薪集めの係。料理はさせて貰えないの。以前、ニーナと2人で肉を焼いて塩を振ったものを出したら、ロイドが“それは料理じゃない!”って怒ったのよね。ちゃんと焼いたんだし立派な料理だと思うんだけど、失礼しちゃうわね!
薪を拾うため森に入ったことだし、今回はちょうどいいからニーナとケン君についての話をしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇ、ニーナ。ケン君に、今日頑張ったご褒美を、何かあげようかと考えているんだけど」
確かにケンは頑張っていたと思う。魔物が狩れなくて暇そうにしていたけど。そう思ってご褒美もありかと思い、聞き返すことにした。
「ご褒美? 何にする?」
私はこの時、ティナの言うご褒美の中身を甘くみていた。
「私たちの体よ」
突拍子もない返答内容に私は愕然とした……
(えっ!? 何言ってるの? 頭大丈夫?)
「そんな引かなくてもいいじゃない」
「普通に引く」
誰だって、いきなりご褒美に、体を差し出すと言われれば引くと思う。私だけではないはずだ。
「正確には、ケン君をおっぱいで挟んであげるのがご褒美」
「それなら理解出来る」
最初から、そう言ってくれればよかったのに、変に考えてしまったじゃない。
「それで、見張りを交代したら、テントの中で裸になって抱きつくの」
「……」
は、裸? いやいや、いつもみたいに、抱きつくだけでいいじゃない!
「あれ? ニーナは平気よね? ケン君のこと好きなんだし」
さも当然かのように、ティナは言ってくる。
(待って!? おかしいのは私なの!?)
「んー……それなら私だけでしようかな」
「ティナは、恥ずかしくないの?」
「だっていつもケン君の前で着替えてるし、たまに裸のままで抱きついたりもするし。恥ずかしがって、慌てて後ろを向くケン君を見ると、キュンキュンしちゃうのよね」
は……? いつもしてたの? あの宿屋で……? 痴女なの?
「言っておくけど、痴女じゃないわよ?」
「じゃあ、何故?」
「んー、きっかけは、最初のクエストを一緒にやった日かな」
「カッコよかった」
あの姿は痺れたなぁ……
「それもよかったけど、私が言ってるのは夜のことよ」
「夜?」
もしかして襲ったの!? 子供相手に!?
「あの日の報酬は、受け取りで5等分したから、バカルフとアホイドの2人が、報酬が少ないって言ってたじゃない?」
あぁ、確かに言ってたなぁ。金使いが荒いからそうなるんだ。それにしても、バカルフにアホイドって……プッ……
「あれ……ケン君、ずっと気にしてたのよ。部屋に戻ってからも」
「そんな風には見えなかった。」
「ニーナはまだまだね。そんなんじゃ、ケン君は逃げちゃうわよ?」
「逃げる?」
「ケン君って、どこか他人行儀だったじゃない?」
「確かに。人見知り?」
私も人見知りするしなぁ。あまり上手く人と話せないで、言葉数が少ないのが癖になっちゃったし……
「私も最初はそう思ってたのよ。でも、ずっと一緒の部屋で過ごしてたら、何かが違うって感じ始めたの」
「何が?」
「それはね、壁を造られている感じなのよ。人をこれ以上は、寄せ付けないって感じで」
「そうだったの?」
「まぁ、ニーナは一緒にいた時間が少なかったから、気づけなくても仕方がないんだろうけど」
確かにティナの言う通り、過ごした時間がティナに比べると、明らかに少ない。
「私がスキンシップで歩み寄っても、少し近づいたかなと思ってたら、ケン君の心は、離れていってたのよね」
「それが逃げるってこと?」
「そう……だから、あの日の夜に思い切って聞いてみたの。報酬の件で落ち込んでいたからね。タイミングとしてはちょうどよかったわ」
「何がわかったの?」
「これは、ケン君のプライバシーに関することだから、私から言うのもねぇ……」
ここまできてそれはズルい。気になって仕方がないじゃない!
「そこまで言ったなら話すべき」
「まぁ、ニーナもケン君のことが好きだから、知っておいた方が今後のためにもいいのかもね」
「ケンのことなら、何でも知りたい」
「ケン君って、記憶を失ってるじゃない?」
「両親の事とか、わからないって言ってた」
「実はね、私の予想だと2回記憶を失ってるの」
「――!」
2回!? なんで2回も!? あの年でそんな辛い事を体験してるの?
「1回目……それがいつ起こったのかはわからないけど、2回目の記憶喪失は、最近のことだと思うの」
「どうして?」
「これも予想なんだけど、ケン君って、記憶がなくてお金を稼ぐために、冒険者になったって言ったじゃない?」
「確かに……」
「しかも、王都で冒険者になった。冒険者になって2日間のクエストで、Cランクまで上がった。それからタミアに来て、私たちと出会った」
「ケンの言ってた内容」
「おかしいでしょ? 昔に記憶をなくしたのなら、冒険者になる前はどうやって生活していたの? スラム? 違うわよね? スラムで生活していたなら、あそこまで常識知らずでは生きていけないわ。むしろ他人に欺かれないように、狡猾になったりするし。それ以外で考えたら、孤児院や誰かに養われていたことも除外される。もしそうなら、普通に常識を学んでいるはずだから。ケン君が言ったのは、記憶がないから、冒険者になってお金を稼いだよ」
驚いた……ティナがここまで頭がいいとは思わなかった。いつもは朝に弱くてダメダメな印象しか持っていなかったのに……私は、あまりの驚きについ、口にしてしまった。
「たまに頭が良くなる?」
「ニィィ~ナァア~! たまに頭が良くなるってどういう事よっ!」
「口が滑った」
「はぁ……まぁ、いいわ。つまりね、さっきの理由で、ケン君は最近記憶をなくしたと私は予想しているの」
「辻褄は合ってる」
「その2回目の記憶喪失で、どの程度失われたか……その事はケン君が、予想して言ってたからわかるの。きっと、この体の記憶を失う前の思い出なんだろうって、この世界で生きてきた記憶なんじゃないかって」
この体? この世界? どこか妙な言い回しに引っかかる気がする。でも、普通に聞き流せる範囲でもある。それよりも今は、気になることがあるから、そちらを優先させよう。
「それじゃあ、1回目は何を失った?」
「問題はその1回目なのよ。ケン君が記憶のことを、思い出そうとした時に頭痛を起こしたのよ。2回目の時に頭痛がし始めて、1回目の時は、声に出して苦しんでた」
「大丈夫だったの?」
「その時は、咄嗟に光魔法で痛みをなくしたわ。そして、ケン君が言うには、その1回目の記憶は、思い出すことを体が拒絶しているって言うのよ」
体が拒絶反応を起こすって何? いったいそこに、どんな記憶が隠されているの?
「多分、私はその1回目で、ケン君がその出来事の記憶を失い、心が壊れて失われたんだと思う」
心が壊されて失う出来事って……ケンは今現在、心が壊れているの? 全然そうは見えないけど、気になる私は先を促した。
「1回目は、記憶と共に心が壊れて失われた?」
「そう。その出来事が、今のケン君を形作ってるのよ」
「今のケンを?」
「ここでやっと、他人行儀で壁を造ってるって話に繋がるの。ケン君は基本的に人を信じていないのよ。私は、その事実を知って悲しかったけどね」
「そういう風に見えない」
「それはそうよ。今までずっとそうして生きてきて、体に染み付いたそれが当たり前だと、無自覚に過ごしてたんだから。傍から見ても歪に感じないほど、洗練された壊れ方なのよ」
「何故気づいたの?」
「ケン君のことが、本当に好きだからよ」
自信満々に語るティナは、とても輝いて見えた。私の好きとは深みが全然違う。
「でも好きだからこそ気づいて、とても悲しかった。ケン君にどんだけ好意を寄せても、受け取って貰えないの。ケン君にとっては、他人事だから……どんなに好きと言っても、心に響かない……」
「他人事?」
「そう。ケン君にとっては、自分自身のことですら他人事なの。好意を寄せても、他人事だから無関心。誰か好みの人を見つけても、他人事だから好きにならない。全ての好意が他人事なの」
全ての好意が他人事って……本当に誰も寄せ付けないの? 確かに他人行儀ではあったけど……
「ケン君ね、そんな自分に気づいてしまって、自分のことを人間の皮を被った魔物って言ったのよ……」
ティナが泣いている……その時のことを思い出したのかな? ティナの話を聞いてるだけの私でも、とても悲しく感じてしまう。
ケンは自分を魔物と言うほどに、壊れてしまってたんだね。その場で聞いていたティナの悲しみは、計り知れなかっただろうな。
「……ッ……でもね、私が少しだけでもいいから、歩み寄って欲しいって言ったら、最後には、ちょっと頑張ってくれるって言ってくれたの。それに、その後は、“ティナさんはどこか気になる存在”とも言ってくれたのよ! その言葉だけで、私は大満足だったわ!」
えっ、何なの!? その変わり身の早さは……
さっきのシリアス返してよ! 私の気持ちを返してよ!
「とまぁ、長くなったけど、その出来事がきっかけかな。その日の夜は、ケン君とラブラブになれたし。寝るときに不意打ちでチュッてされて、私も寝てたケン君にチュッて仕返して、次の日の朝には、寝ている私にまた不意打ちでチュッてしてきて、ちゃんと起きたらおはようのキスしてくれたし。キャーー!!」
惚気キターッ!!
何っ!? あの朝の早起きの背景には、そんな出来事が隠されていたの? 確かに珍しく早起きだなとは思ったけど! 思ったけどさ!!
はぁ……なんか疲れたな……
「あ、それで、ご褒美の件なんだけど、裸でケン君を接待するってことでいいよね?」
何、その今までの話がなかったかのような、軽い感じは……もう私は疲れたから好きにして。
「それでいい」
そのあとも、恥ずかしい内容の綿密な計画が、ティナの口から語られて、私は、ケンの為ならいいかなと思い始めたのだった。
……もしかして私……毒されたかな?
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盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
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