Fの真実

makikasuga

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過去~Fの正体~

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 警視庁を出たレイは、自身の車でヤスオカの自宅へ向かった。下手な細工をされたくなかったため、アポイント無しでの訪問にした。
 現在、ヤスオカは都内の住宅地にある二階建ての一軒家に一人で住んでいる。妻に先立たれ、息子は独立し、早期退職制度を使っての隠居生活というのが表向きの肩書きだ。レイは近くのコインパーキングに車を停め、ネクタイを緩めながら降りたが、そこで意外な人物に声をかけられた。
「こんな時間におまえと会うなんてな」
 ヤスオカの息子の高橋翔也たかはししょうやである。苗字は違うが、血を分けた実子であることに変わりはない。
「それはこっちの台詞だ。真っ昼間から仕事サボってんじゃねえぞ」
「オヤジに呼ばれたから仕方なくだ。それに、サボってるわけじゃなく、仕事は休みだ」
 翔也は、現在ハナムラコーポレーションの株主となった金田麻百合が暮らす豪邸の管理をしている。世間的には、背が高く、整った顔立ちで物腰も柔らかいイケメン執事などと言われているが、高校時代は荒れに荒れまくっていた。レイには、当時そのままの口調で接することが多い。
「おまえのことより、ヤッサン、家にいるんだろ」
「いるにはいるけど、今は会えねえと思うぞ」
「会えないって、誰か来てんのかよ」
「おまえんとこの社長。突然だったからオヤジも驚いてた」
 要するにアポ無しで花村が来ているということだ。
「笑顔で話しかけられはしたけど、いつも以上にピリピリしてたな」

 一足遅かったか。

 これでは、レイが訪ねていっても追い返されるに決まっている。失望の溜息をついた後、レイはまた車に乗り込もうとした。花村は、レイの行動を察して釘を刺しにきたのだろう。
「なんだ、帰るのかよ」
「先を越されたからな」
「先を越されたって──」
「死にたくなかったら、俺の仕事に首を突っ込むな!」
 翔也が自分を気にかけてくれているのは有り難いが、彼をこちら側に来させてはならない。ヤスオカに事情を聞けないとなると、やはり松田に話を聞くしかないのかと、レイは頭の中で考えを巡らせていた。

「間違いではないが、言い方は変えた方がいい」
 聞き覚えのある声と共に、強烈な殺気を感じて振り向く。思った通り、花村がいた。
「彼がおまえを心配してくれているのは、嘘じゃないからな」
「お疲れさまです、社長」
 レイは車から降りて、ハナムラコーポレーションの社員として頭を下げた。
「私の用事は終わった。ヤスオカに会ってくるといい」
 この状況で会えと言われてもと、レイが困惑していると、花村はこう言い放った。
「隠さず話せと言ってある。おまえの知りたい情報は、あいつが握っているからな」
 花村がヤスオカに会いにきたのは、口止めではなく、情報を開示しろということだったのか。今まで隠してきたものを、なぜ今になって明るみにしようとするのか。
「レイ、Fの真実を知れ。そうすれば、我々が存在する意義がわかる」
 意味深な言葉を残して、花村は去っていった。
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