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神様がくれた保留連
⑥
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浅田家から少し離れた位置に、一台のワゴン車が止まっていた。
「やるじゃん、コウ。あの子、確実に落ちるぜ」
運転席に座るシラサカは満足そうに頷く。
「あのバカ、こんなところで気抜きやがって」
助手席に佇むレイは不機嫌だった。言うまでもないことだが、ふたりはコウと麻百合のやり取りを全て聞いていた。
「いいじゃん、ちょっとぐらい。あの子のために、コウは頑張ってきたんだろ。少しくらい羽を伸ばさせてやれよ」
シラサカが諭すように言ってみせても、聞いているのかいないのか、レイは返事をしない。
「おまえもさ、たまには真面目におつきあいとかしてみたらどうよ」
そう言って、シラサカはレイを小突いた。
「有り得ねえ。面倒くせえ。女は性欲の捌け口だけで十分」
「うわ、最悪。それ絶対口に出すなよ。マジで訴えられんぞ」
「訴える? この俺をか? それこそ有り得ねえな」
自信満々のレイに、シラサカは完敗と言わんばかりに肩をすくめた。
「それよか、こいつ、どうするよ」
モニター代わりのタブレットを指差すシラサカ。浅田家の近くで、不審な動きをする男が写り込んでいた。
「あの子の元彼だろ。ずいぶんきな臭い感じじゃねえか」
「今日までに金田麻百合をなんとかしろって話だったようだが、ショウヤのガードが固くて何も出来ず、前払いでもらっていた報酬の返還を迫られているらしい」
「それで直談判ってわけね。うわぁ、中入ってんじゃん。ますます危ねえな」
「違う。かき回すために、わざと呼んだんだよ」
レイはタブレットを見つめたまま、渋い表情になる。麻百合の元恋人である松岡を中に招き入れたのは、浅田和子だったから。
「元彼が何をしようが、あの子が相続することは変わらないのにな」
「そっちじゃねえ、狙いはコウだ。あのババア、ダミーの調査事務所に、柳広哲の身元調査をさせやがったからな」
「おい、まさかコウの経歴を知らせたんじゃないだろうな?」
「嘘を教えるわけにはいかないだろ」
「そこはごまかすべきだろ。ダミーの調査事務所なんだから」
不利になるのを承知で真実を伝える。いつものレイらしくないやり方だった。
「あんな奴らでも、ボスと繋がりがある相手だ。嘘を教えたと知れば反撃される。それがボスの耳に入れば、俺だって危なくなる。浅田相手じゃなきゃ、こんなこと絶対やらねえよ」
レイがやけに不機嫌だった理由はこれかと、シラサカは納得した。
「勿論やられっぱなしにはしないさ。そのためにおまえを呼んだ。行ってこい、シラサカ」
シラサカもまた、正装というべき黒いスーツを着ていた。内ポケットから愛用の拳銃ベレッタM92を取り出し、弾を確認する。
「俺も部外者に当たるんだけど、出席していいわけ?」
「おまえはボスのボディーガードだ。行きはコウがその立場だったが、帰りはいなくなる。中で何が起きるかわからないしな」
「ひとりでも問題ないんじゃないの、あの人なら」
花村の威圧感に敵う相手は、ほとんどいない。ましてや、一般人では皆無だ。
「何かあったときにと説得した。おまえは中に入れるようになってある」
「だったらいいけど。ボスの前で派手なことはしたくないんだけどな」
シラサカは殺し屋のリーダーであり、花村に次ぐポストにある。だからこそ、花村の命令には必ず従う。
「通信機から指示は出すが、おまえの立ち位置はいつも通りだ。ボスの言うとおりに動け。万一、コウをバラせと命令されたら従えよ」
レイは腕組みをした。表情はいつになく厳しいものに変わっていた。
「ここまできて、さすがにそれはねえだろ」
シラサカの問いかけに、レイは答えなかった。ただじっと、タブレットを見つめるだけだった。
「やるじゃん、コウ。あの子、確実に落ちるぜ」
運転席に座るシラサカは満足そうに頷く。
「あのバカ、こんなところで気抜きやがって」
助手席に佇むレイは不機嫌だった。言うまでもないことだが、ふたりはコウと麻百合のやり取りを全て聞いていた。
「いいじゃん、ちょっとぐらい。あの子のために、コウは頑張ってきたんだろ。少しくらい羽を伸ばさせてやれよ」
シラサカが諭すように言ってみせても、聞いているのかいないのか、レイは返事をしない。
「おまえもさ、たまには真面目におつきあいとかしてみたらどうよ」
そう言って、シラサカはレイを小突いた。
「有り得ねえ。面倒くせえ。女は性欲の捌け口だけで十分」
「うわ、最悪。それ絶対口に出すなよ。マジで訴えられんぞ」
「訴える? この俺をか? それこそ有り得ねえな」
自信満々のレイに、シラサカは完敗と言わんばかりに肩をすくめた。
「それよか、こいつ、どうするよ」
モニター代わりのタブレットを指差すシラサカ。浅田家の近くで、不審な動きをする男が写り込んでいた。
「あの子の元彼だろ。ずいぶんきな臭い感じじゃねえか」
「今日までに金田麻百合をなんとかしろって話だったようだが、ショウヤのガードが固くて何も出来ず、前払いでもらっていた報酬の返還を迫られているらしい」
「それで直談判ってわけね。うわぁ、中入ってんじゃん。ますます危ねえな」
「違う。かき回すために、わざと呼んだんだよ」
レイはタブレットを見つめたまま、渋い表情になる。麻百合の元恋人である松岡を中に招き入れたのは、浅田和子だったから。
「元彼が何をしようが、あの子が相続することは変わらないのにな」
「そっちじゃねえ、狙いはコウだ。あのババア、ダミーの調査事務所に、柳広哲の身元調査をさせやがったからな」
「おい、まさかコウの経歴を知らせたんじゃないだろうな?」
「嘘を教えるわけにはいかないだろ」
「そこはごまかすべきだろ。ダミーの調査事務所なんだから」
不利になるのを承知で真実を伝える。いつものレイらしくないやり方だった。
「あんな奴らでも、ボスと繋がりがある相手だ。嘘を教えたと知れば反撃される。それがボスの耳に入れば、俺だって危なくなる。浅田相手じゃなきゃ、こんなこと絶対やらねえよ」
レイがやけに不機嫌だった理由はこれかと、シラサカは納得した。
「勿論やられっぱなしにはしないさ。そのためにおまえを呼んだ。行ってこい、シラサカ」
シラサカもまた、正装というべき黒いスーツを着ていた。内ポケットから愛用の拳銃ベレッタM92を取り出し、弾を確認する。
「俺も部外者に当たるんだけど、出席していいわけ?」
「おまえはボスのボディーガードだ。行きはコウがその立場だったが、帰りはいなくなる。中で何が起きるかわからないしな」
「ひとりでも問題ないんじゃないの、あの人なら」
花村の威圧感に敵う相手は、ほとんどいない。ましてや、一般人では皆無だ。
「何かあったときにと説得した。おまえは中に入れるようになってある」
「だったらいいけど。ボスの前で派手なことはしたくないんだけどな」
シラサカは殺し屋のリーダーであり、花村に次ぐポストにある。だからこそ、花村の命令には必ず従う。
「通信機から指示は出すが、おまえの立ち位置はいつも通りだ。ボスの言うとおりに動け。万一、コウをバラせと命令されたら従えよ」
レイは腕組みをした。表情はいつになく厳しいものに変わっていた。
「ここまできて、さすがにそれはねえだろ」
シラサカの問いかけに、レイは答えなかった。ただじっと、タブレットを見つめるだけだった。
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