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先読みレボリューション
④
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「秘密証書遺言書を作っておくなんて、あの子もやるわね」
翌日、某ホテルのロビーに浅田和子と隼人の姿があった。ふたりは相次郎の父(既に死亡)の兄の子供であり、相次郎とはいとこに当たる。
「予想はしていたさ。法的相続人が相次郎と金田麻百合なのは、どうしたって変わらねえしな。だが、このまま引き下がるつもりはねえよ」
そう言うと、隼人は腕時計で時間を確認する。時計はブランド物で、販売価格は数百万するものだった。
「そろそろか。あれかな、眼鏡に黒いスーツ。目印は白いハンカチだったな」
特徴通りの若い男がやってきて、隼人と和子の前に着席する。全くの初対面なのに、知り合いと待ち合わせをしていたかのように自然な仕草だった。
「浅田隼人さん、和子さん、ですね。黒沢調査事務所の者です。ご依頼の品は、こちらになっております」
男は鞄の中から茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。隼人が受け取り、中身を確認する。その間、男は注文を取りにやってきたウエイターを、すぐに帰るからといって立ち去らせた。
「確かに。代金はそちらの指定通りに振り込ませるよ」
「ありがとうございます。では、私はこれで」
男は立ち上がり、一礼して去っていく。姿が見えなくなったことを確認するや、隼人はニヤリと笑った。
「女ってのは、叩けばホコリが出るもんだな」
隼人が見ていたのは「金田麻百合に関する調査報告書」だった。そこには麻百合の経歴から、プライベートに関することまでが克明に記されていた。
「使えそうじゃない、この男」
報告書を隼人から受け取り、和子も中を見た。その中に出てきたある人間のことが目に止まる。
「離婚してギャンブルで借金まみれ。こいつなら金で動く。俺達が手を下さなくても、案外簡単にいけるかもな」
ふたりはほくそ笑む、一部始終を見られていることに全く気づかずに。
隼人と和子に資料を渡しに行った男は、ホテルを出ると、ある車の助手席に乗り込んだ。車が走り出すや、眼鏡を外し、ネクタイを緩め、運転席の男に向かって言葉を吐き出した。
「やはり、クズはクズに目をつける。わかりやすいものだな」
「想定通りってことだろ。次はどうするよ?」
「悪だくみにのってやるんだよ。ああいう連中は、決定的な証拠を掴んどかねえと、尻尾を出さねえからな」
助手席にいるのはレイ、運転席はシラサカだった。
「あの様子だと、ダミーの調査事務所を経由せずに、直接コンタクトを取るんじゃないか?」
ちなみに黒沢調査事務所は、レイが作った架空のダミー会社であり、名目上の所長はシラサカになっている。
「だろうな。あいつがまだ使い物にならねえ以上、しばらくは様子見だ。ショウヤがどこまで押さえ込めるか、お手並み拝見だな」
そう言うと、レイはほくそ笑んだ。
翌日、某ホテルのロビーに浅田和子と隼人の姿があった。ふたりは相次郎の父(既に死亡)の兄の子供であり、相次郎とはいとこに当たる。
「予想はしていたさ。法的相続人が相次郎と金田麻百合なのは、どうしたって変わらねえしな。だが、このまま引き下がるつもりはねえよ」
そう言うと、隼人は腕時計で時間を確認する。時計はブランド物で、販売価格は数百万するものだった。
「そろそろか。あれかな、眼鏡に黒いスーツ。目印は白いハンカチだったな」
特徴通りの若い男がやってきて、隼人と和子の前に着席する。全くの初対面なのに、知り合いと待ち合わせをしていたかのように自然な仕草だった。
「浅田隼人さん、和子さん、ですね。黒沢調査事務所の者です。ご依頼の品は、こちらになっております」
男は鞄の中から茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。隼人が受け取り、中身を確認する。その間、男は注文を取りにやってきたウエイターを、すぐに帰るからといって立ち去らせた。
「確かに。代金はそちらの指定通りに振り込ませるよ」
「ありがとうございます。では、私はこれで」
男は立ち上がり、一礼して去っていく。姿が見えなくなったことを確認するや、隼人はニヤリと笑った。
「女ってのは、叩けばホコリが出るもんだな」
隼人が見ていたのは「金田麻百合に関する調査報告書」だった。そこには麻百合の経歴から、プライベートに関することまでが克明に記されていた。
「使えそうじゃない、この男」
報告書を隼人から受け取り、和子も中を見た。その中に出てきたある人間のことが目に止まる。
「離婚してギャンブルで借金まみれ。こいつなら金で動く。俺達が手を下さなくても、案外簡単にいけるかもな」
ふたりはほくそ笑む、一部始終を見られていることに全く気づかずに。
隼人と和子に資料を渡しに行った男は、ホテルを出ると、ある車の助手席に乗り込んだ。車が走り出すや、眼鏡を外し、ネクタイを緩め、運転席の男に向かって言葉を吐き出した。
「やはり、クズはクズに目をつける。わかりやすいものだな」
「想定通りってことだろ。次はどうするよ?」
「悪だくみにのってやるんだよ。ああいう連中は、決定的な証拠を掴んどかねえと、尻尾を出さねえからな」
助手席にいるのはレイ、運転席はシラサカだった。
「あの様子だと、ダミーの調査事務所を経由せずに、直接コンタクトを取るんじゃないか?」
ちなみに黒沢調査事務所は、レイが作った架空のダミー会社であり、名目上の所長はシラサカになっている。
「だろうな。あいつがまだ使い物にならねえ以上、しばらくは様子見だ。ショウヤがどこまで押さえ込めるか、お手並み拝見だな」
そう言うと、レイはほくそ笑んだ。
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