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運命の突然確変
①
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「柳、出るぞ、準備しろ」
別室にいたレイの厳しい声で、柳は寝てしまったことに気づいた。
麻百合は深い眠りの中にいるようで、握りしめていた手をそっと外しても起きる気配がなかった。
「出るってどこへ? 麻百合はどうすんだよ」
部屋を出て、廊下でレイと話す。麻百合には、聞かれたくない話をするようである。
「決まってんだろ、浅田の家だよ。そいつはおまえが抱えりゃいい。お嬢様がマジでヤバい」
「ヤバいって……花梨は生きてんのか!?」
思わず声が大きくなり、柳はレイに詰め寄った。
「ああでも言わないと、お嬢様のところへ行くって聞かなかっただろうが」
「そっか。そういうことか……」
花梨が生きていたと知ってほっとしたものの、柳の気持ちは複雑だった。
「なんだ、あんなにお嬢様のところに行きたがってたくせに、今になって尻込みかよ」
花梨に対する気持ちが恋愛ではなかったことに気づかされ、どれほど彼女を傷つけてきたのかを考えると、会わせる顔がなかった。
「てめえの気持ちなんかどうでもいい。あの子にとって、お嬢様はたったひとりの妹だ。最期を看取らせてやろうと思わないのか?」
はっとした。麻百合は自分の体が動かないにも関わらず、花梨に会おうとしていた。ましてや彼女達は双子だ。互いを求め合うのは本能的なことだろう。
「レイ、俺を殴れ」
「は?」
「全部おまえの言う通りだから、一発殴れって言ってんだよ」
この期に及んでも、柳はまだ自分のことしか考えられないでいる。不甲斐ない自分が腹立たしかった。
「だったら、これを持て」
レイはスーツの内ポケットから拳銃を取り出した。
「俺仕様にセッティングされているが、おまえでも持てるはずだ。セーフティはここ。撃ち方は元刑事なんだから知ってんだろ」
渡された拳銃はシグザウエルP229。米国のシークレットサービスが装備しているといわれているものだった。
「ほら、さっさと持てよ」
ずしりと重い感触が柳の手の平に沈み込む。一発の弾丸が人の命を奪う凶器。それをまた手にする日が来るなんて、思いもしなかった。
「これで人を殺せっていうのかよ」
肌身離さず持っている銃器を柳に預けるなんて、レイは何を考えているのだろう。
「出来るものならやってみろ。どうせ出来やしねえだろうけど」
「だったら、なんで俺に預けるんだよ」
「シラサカからの連絡で、向こうにネズミが紛れ込んでいることがわかった。俺のことはシラサカに護らせる。おまえはそれでその子を護れ」
護る? 俺が麻百合を?
「どうせ死ぬなら一刻でも早くってことらしいぞ。お嬢様の持っている財産が欲しくてたまらないのさ」
「やっぱり花梨は、麻百合に自分の財産を譲るつもりでいるのかよ」
花梨が麻百合に何かを託そうとしていることは、柳にもわかっていた。
「浅田花梨が持つ資産は、今住んでる屋敷と裏山の土地、当主の相次郎とで三分の二を取得しているある会社の株だ」
「相次郎と花梨で持ってる株? つーか、そんだけあれば会社の実権を握ってんのと同じじゃねえか」
「そう、ネズミの狙いは株さ。取り決めとして、仕事内容には口を出さないことになっているが、株主からの依頼だけは、問答無用で従うことになっている」
「何やってんだよ、その会社とやらは」
柳の問いかけを受け、レイが不敵に笑った。
「ハナムラコーポレーション。社長の花村謙三は政財界と密な繋がりがあり、裏の顔は俺達の仕事を取り仕切るボスでもある」
「おい、それって!?」
「金も理由もいらねえ。自由自在に人をバラして情報を操作する。悪魔の権利みてえなもんだな。ドクターである相次郎が当主に指名されたのは、そういう事態を危惧してのことだったんだろう」
相次郎は人の命を救うのが仕事である。彼の人柄からしても、悪魔の権利を気まぐれに使うことは絶対にしないだろう。
「確か、相次郎の妻子は殺されたって話だったよな。おまえらを自由に動かせる立場にあったのなら、おまえらに護らせればよかったんじゃねえのか?」
「相次郎は甘かった。俺達以外の人間を雇って妻子をバラすとは考えなかったし、ましてや浅田の人間がそこまで腐ってるとは思いもしなかったのさ。だからお嬢様が正式に養女と認められるまでの間、こっちの人間が張りついた。おまえらが暮らしていたあの家には、誰も近づかせないようにと、相次郎はほとんど出入りしなかったんだよ」
相次郎が花梨と同居しなかったのは、身の安全を考えてのことだったようだ。
別室にいたレイの厳しい声で、柳は寝てしまったことに気づいた。
麻百合は深い眠りの中にいるようで、握りしめていた手をそっと外しても起きる気配がなかった。
「出るってどこへ? 麻百合はどうすんだよ」
部屋を出て、廊下でレイと話す。麻百合には、聞かれたくない話をするようである。
「決まってんだろ、浅田の家だよ。そいつはおまえが抱えりゃいい。お嬢様がマジでヤバい」
「ヤバいって……花梨は生きてんのか!?」
思わず声が大きくなり、柳はレイに詰め寄った。
「ああでも言わないと、お嬢様のところへ行くって聞かなかっただろうが」
「そっか。そういうことか……」
花梨が生きていたと知ってほっとしたものの、柳の気持ちは複雑だった。
「なんだ、あんなにお嬢様のところに行きたがってたくせに、今になって尻込みかよ」
花梨に対する気持ちが恋愛ではなかったことに気づかされ、どれほど彼女を傷つけてきたのかを考えると、会わせる顔がなかった。
「てめえの気持ちなんかどうでもいい。あの子にとって、お嬢様はたったひとりの妹だ。最期を看取らせてやろうと思わないのか?」
はっとした。麻百合は自分の体が動かないにも関わらず、花梨に会おうとしていた。ましてや彼女達は双子だ。互いを求め合うのは本能的なことだろう。
「レイ、俺を殴れ」
「は?」
「全部おまえの言う通りだから、一発殴れって言ってんだよ」
この期に及んでも、柳はまだ自分のことしか考えられないでいる。不甲斐ない自分が腹立たしかった。
「だったら、これを持て」
レイはスーツの内ポケットから拳銃を取り出した。
「俺仕様にセッティングされているが、おまえでも持てるはずだ。セーフティはここ。撃ち方は元刑事なんだから知ってんだろ」
渡された拳銃はシグザウエルP229。米国のシークレットサービスが装備しているといわれているものだった。
「ほら、さっさと持てよ」
ずしりと重い感触が柳の手の平に沈み込む。一発の弾丸が人の命を奪う凶器。それをまた手にする日が来るなんて、思いもしなかった。
「これで人を殺せっていうのかよ」
肌身離さず持っている銃器を柳に預けるなんて、レイは何を考えているのだろう。
「出来るものならやってみろ。どうせ出来やしねえだろうけど」
「だったら、なんで俺に預けるんだよ」
「シラサカからの連絡で、向こうにネズミが紛れ込んでいることがわかった。俺のことはシラサカに護らせる。おまえはそれでその子を護れ」
護る? 俺が麻百合を?
「どうせ死ぬなら一刻でも早くってことらしいぞ。お嬢様の持っている財産が欲しくてたまらないのさ」
「やっぱり花梨は、麻百合に自分の財産を譲るつもりでいるのかよ」
花梨が麻百合に何かを託そうとしていることは、柳にもわかっていた。
「浅田花梨が持つ資産は、今住んでる屋敷と裏山の土地、当主の相次郎とで三分の二を取得しているある会社の株だ」
「相次郎と花梨で持ってる株? つーか、そんだけあれば会社の実権を握ってんのと同じじゃねえか」
「そう、ネズミの狙いは株さ。取り決めとして、仕事内容には口を出さないことになっているが、株主からの依頼だけは、問答無用で従うことになっている」
「何やってんだよ、その会社とやらは」
柳の問いかけを受け、レイが不敵に笑った。
「ハナムラコーポレーション。社長の花村謙三は政財界と密な繋がりがあり、裏の顔は俺達の仕事を取り仕切るボスでもある」
「おい、それって!?」
「金も理由もいらねえ。自由自在に人をバラして情報を操作する。悪魔の権利みてえなもんだな。ドクターである相次郎が当主に指名されたのは、そういう事態を危惧してのことだったんだろう」
相次郎は人の命を救うのが仕事である。彼の人柄からしても、悪魔の権利を気まぐれに使うことは絶対にしないだろう。
「確か、相次郎の妻子は殺されたって話だったよな。おまえらを自由に動かせる立場にあったのなら、おまえらに護らせればよかったんじゃねえのか?」
「相次郎は甘かった。俺達以外の人間を雇って妻子をバラすとは考えなかったし、ましてや浅田の人間がそこまで腐ってるとは思いもしなかったのさ。だからお嬢様が正式に養女と認められるまでの間、こっちの人間が張りついた。おまえらが暮らしていたあの家には、誰も近づかせないようにと、相次郎はほとんど出入りしなかったんだよ」
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