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第25話
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「やめて、お父さん!?」
声を受けて慎平は振り返る。ユリカとシェリーがいた。これで男が彼女の父親である高岡康志だと確定してしまった。
「私は生きなければならない。それが使命。邪魔するものは排除するのみ」
高岡は呪文のように呟き、躊躇うことなくユリカに銃口を向けた。
「嘘、でしょ、お父さん……!?」
父親の異常な姿にユリカはショックを受けたようだった。
「シェリー、なぜ彼女を連れてきた!?」
エリカを庇うように、奏は彼女の前に立ちはだかった。
「どんな現実でも受け入れるといったし、彼女だけ蚊帳の外はおかしいでしょ」
たしかにそうだ。正気を失っているとしても、ユリカの目の前にいるのは彼女の父親なのだから。
「もう十分だろ、下がらせろ」
シェリーは奏の言葉に頷き、ショックで呆然とするエリカの肩を抱き、部屋を出た。
「やはり、おまえ達は排除しなくてはならないということか」
高岡は感情のない声で言い放ち、奏に近づいた。
「YとS、どちらかが死ねば、緊急認証は作動しない。私は生きる。この男の中で新たな世界を生み出すのだ、人間の知能を超えるために」
「新たな世界。知能を超える。まさかおまえ……!?」
奏の言葉に高岡は口角を上げた。笑ったというべきだろうか。
【緊急認証、再スタートします】
そのとき、無機質な声が響き渡り、ブラックアウトしていたパソコンが突然光を放つ。
「おいおい、止まったんじゃなかったのかよ!?」
奏は驚き、拳銃をジーンズのポケットに入れると、パソコンのキーボードを叩き出した。
『こいつ、自分で学習しとる。こっちでデータ書き換えたのに、それを更に書き換えよったで!?』
ガウディが驚嘆の声を上げる。それに答えるように、パソコンから声が発せられた。
【緊急認証を止めることは出来ません。マスターがそれを望んでいます。これはマスターの命令です】
「もしかして、人工知能ってこっちの方? だったら高岡は……!?」
殺気満載で奏に銃口を向けていた高岡は、電池が切れたロボットのように、直立不動状態で止まっている。
【彼はウイルスに支配されています。正確にいえば、埋め込まれたチップにウイルスが侵入し、脳や神経を乗っ取りました。排除しようと試みましたが、達成出来ませんでした】
相変わらず感情のない声であるが、淡々と語る様子は生きているようだった。まるでコンピュータが意思を持っているかのように。
「なんだよ、高岡に移植したチップが人工知能だと思ってたぜ」
当てが外れた奏は悔しそうだった。
【技術的には可能ですが、実用化する段階ではありません。データを作成したのは私ですが、あくまでもプログラムされたデータをチップに埋め込んだだけです】
「だったら、どうしてウイルスに支配されるんだよ」
奏が聞いた。
【データは一定間隔で更新していました。その過程でウイルスが混入したものと思われます。ところで、これを作ったのはあなたですか?】
「人工知能には人工知能で対抗するしかないからな。短期間で作ったものだったし、あんたにも敵わなかったけど」
奏は人工知能と当たり前のように会話している。
【作動した緊急認証が止まるなんてありえません。あなたは私を打ち破ったのです。あなたの名前、片山奏といっていましたね】
慎平は呆然としながらふたり、いや、奏と人工知能の会話を聞いていた。
【片山奏。データ調べました。あなたはマスターと関わりを持っています。私を作り出す上で、あなたの意見が採用されています】
「おまえ、本条のじいちゃんのこと、最初から知ってたのかよ!?」
「うん、知ってた」
全く悪びれない奏に、慎平は怒りを通り越し、呆れていた。
「研究内容が人工知能だとか、予想が外れることなんて絶対ないってのは、全部わかった上での話だったのかよ」
「勇作はいくつかの大学や企業で意見を聞いてたって、いわなかったっけ。実際メールでやり取りしてただけだし、勇作は日本人でハーバード大学に在籍してるってことぐらいしか知らなかったと思う。ところでさ、あいつ、急に止まったけど、なにかしたのか?」
慎平も動かなくなった高岡のことは気になっていた。奏と言い争いはここで止めることにする。
【ウイルスを一時的にブロックしましたが、彼を助けることは出来ません】
「助けられないって、どういうことだよ」
今度は慎平が問いかけた。
【全てのデータは削除されます。私もウイルスも消滅します。このウイルスは突然変異で生まれたもの。元々は私の中にあったものです。人間で例えるなら、負の感情というべきものでしょうか。自らの存在を主張し、生き続けることに執着しています】
「知能が分裂して暴走したってことか。俺が予想した最悪のシナリオ通りになっているようだな」
そんな予想まで当てることないのに、天才は恐ろしいとしみじみ思う慎平であった。
「まあそれだけ出来がよかったなら、消滅させるべきかもしれないな。こんなものが世に出たら危険すぎる」
慎平は高岡に視線を向けた。瞬きや呼吸も普通にしているが、人形のように動かなくなっている。
【彼は長くウイルスに侵されたせいで、脳や神経に大変ダメージを受けています。元通りにはなりません】
声を受けて慎平は振り返る。ユリカとシェリーがいた。これで男が彼女の父親である高岡康志だと確定してしまった。
「私は生きなければならない。それが使命。邪魔するものは排除するのみ」
高岡は呪文のように呟き、躊躇うことなくユリカに銃口を向けた。
「嘘、でしょ、お父さん……!?」
父親の異常な姿にユリカはショックを受けたようだった。
「シェリー、なぜ彼女を連れてきた!?」
エリカを庇うように、奏は彼女の前に立ちはだかった。
「どんな現実でも受け入れるといったし、彼女だけ蚊帳の外はおかしいでしょ」
たしかにそうだ。正気を失っているとしても、ユリカの目の前にいるのは彼女の父親なのだから。
「もう十分だろ、下がらせろ」
シェリーは奏の言葉に頷き、ショックで呆然とするエリカの肩を抱き、部屋を出た。
「やはり、おまえ達は排除しなくてはならないということか」
高岡は感情のない声で言い放ち、奏に近づいた。
「YとS、どちらかが死ねば、緊急認証は作動しない。私は生きる。この男の中で新たな世界を生み出すのだ、人間の知能を超えるために」
「新たな世界。知能を超える。まさかおまえ……!?」
奏の言葉に高岡は口角を上げた。笑ったというべきだろうか。
【緊急認証、再スタートします】
そのとき、無機質な声が響き渡り、ブラックアウトしていたパソコンが突然光を放つ。
「おいおい、止まったんじゃなかったのかよ!?」
奏は驚き、拳銃をジーンズのポケットに入れると、パソコンのキーボードを叩き出した。
『こいつ、自分で学習しとる。こっちでデータ書き換えたのに、それを更に書き換えよったで!?』
ガウディが驚嘆の声を上げる。それに答えるように、パソコンから声が発せられた。
【緊急認証を止めることは出来ません。マスターがそれを望んでいます。これはマスターの命令です】
「もしかして、人工知能ってこっちの方? だったら高岡は……!?」
殺気満載で奏に銃口を向けていた高岡は、電池が切れたロボットのように、直立不動状態で止まっている。
【彼はウイルスに支配されています。正確にいえば、埋め込まれたチップにウイルスが侵入し、脳や神経を乗っ取りました。排除しようと試みましたが、達成出来ませんでした】
相変わらず感情のない声であるが、淡々と語る様子は生きているようだった。まるでコンピュータが意思を持っているかのように。
「なんだよ、高岡に移植したチップが人工知能だと思ってたぜ」
当てが外れた奏は悔しそうだった。
【技術的には可能ですが、実用化する段階ではありません。データを作成したのは私ですが、あくまでもプログラムされたデータをチップに埋め込んだだけです】
「だったら、どうしてウイルスに支配されるんだよ」
奏が聞いた。
【データは一定間隔で更新していました。その過程でウイルスが混入したものと思われます。ところで、これを作ったのはあなたですか?】
「人工知能には人工知能で対抗するしかないからな。短期間で作ったものだったし、あんたにも敵わなかったけど」
奏は人工知能と当たり前のように会話している。
【作動した緊急認証が止まるなんてありえません。あなたは私を打ち破ったのです。あなたの名前、片山奏といっていましたね】
慎平は呆然としながらふたり、いや、奏と人工知能の会話を聞いていた。
【片山奏。データ調べました。あなたはマスターと関わりを持っています。私を作り出す上で、あなたの意見が採用されています】
「おまえ、本条のじいちゃんのこと、最初から知ってたのかよ!?」
「うん、知ってた」
全く悪びれない奏に、慎平は怒りを通り越し、呆れていた。
「研究内容が人工知能だとか、予想が外れることなんて絶対ないってのは、全部わかった上での話だったのかよ」
「勇作はいくつかの大学や企業で意見を聞いてたって、いわなかったっけ。実際メールでやり取りしてただけだし、勇作は日本人でハーバード大学に在籍してるってことぐらいしか知らなかったと思う。ところでさ、あいつ、急に止まったけど、なにかしたのか?」
慎平も動かなくなった高岡のことは気になっていた。奏と言い争いはここで止めることにする。
【ウイルスを一時的にブロックしましたが、彼を助けることは出来ません】
「助けられないって、どういうことだよ」
今度は慎平が問いかけた。
【全てのデータは削除されます。私もウイルスも消滅します。このウイルスは突然変異で生まれたもの。元々は私の中にあったものです。人間で例えるなら、負の感情というべきものでしょうか。自らの存在を主張し、生き続けることに執着しています】
「知能が分裂して暴走したってことか。俺が予想した最悪のシナリオ通りになっているようだな」
そんな予想まで当てることないのに、天才は恐ろしいとしみじみ思う慎平であった。
「まあそれだけ出来がよかったなら、消滅させるべきかもしれないな。こんなものが世に出たら危険すぎる」
慎平は高岡に視線を向けた。瞬きや呼吸も普通にしているが、人形のように動かなくなっている。
【彼は長くウイルスに侵されたせいで、脳や神経に大変ダメージを受けています。元通りにはなりません】
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