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第22話
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「神経経路の異常なら、うまく動かすようにすればいい。高岡が勇作に相談し、研究していた人工知能を実験的に使ったとしたら?」
「そんなこと出来るのかよ。万が一出来たとしても、違法じゃ……」
慎平の脳裏に、服部の部屋で沢木が放った言葉が蘇る。
(研究が失敗に終わり、不幸になった人間がいるということは、研究自体が違法、もしくは危険だということでしょうかね)
「そんな、どうしてそこまでして……!?」
「追い詰められたらすがりつきたくもなるさ。それが危険と呼ばれるものであっても」
奏の言葉は重かった。
「でも、本当にそんなこと出来るの?」
問題はそこである。慎平にはちんぷんかんぷんであるが。
「出来ないことはないよ。人間の神経の役割を果たすようプログラムされたマイクロチップを埋め込めばね」
「それって医療行為だし、簡単に出来るものじゃないよね? 本条のじいちゃんは医者じゃなかったし」
にわかには信じられない慎平だった。
「マイクロチップを人間に埋め込むことは、既に行われている。国によって医療行為とするか否かの定義が違うが、埋め込んだチップを読み取るだけで鍵が開けられる、本人確認にもなる。まあ今回のケースは明確な医療行為に当たるから、入院して手術になってるな。俺の持ってるデータベースを使って、秀ちゃんに調べてもらったら、高岡はある病院に入院して手術を行っていた形跡があった」
「なに、そのデータベースって。すごく危ない感じがするけど」
「世の中には、知らない方がいいこともあるってことさ」
奏はまた不敵に笑った。ここから話は更に難解になっていく。
「そのレセプトみたんだけどさ、脳深部刺激療法、通称DBSを施行してた。脳の深部に電極を埋め込み、微弱な電流を流して機能改善を図る。主にパーキンソン病の治療で用いられることが多いが、DBSの手術にしては入院期間が短すぎるし、患者の年齢も合わない。なにより高岡がパーキンソン病を発症した事実はないから、本当にこの治療を行ったのか疑問だね」
奏からこういう話を聞くと、医学知識があるのはたしかだなと思った。慎平は感心しきりであった。
「内容はよくわからないけど、病院側も違法行為に加担してるってことだよな」
「そゆこと。見返りはもらってると思うけどね。その病院、勇作の友人が経営してるみたいだから」
「まさか、じいちゃんも関与してるわけ?」
「黒木総合病院じゃないし、じいさまが関与していれば、慎ちゃんが標的になった時点で、俺らに打ち明ける。じいさまは俺と同じで慎ちゃん激ラブだからね」
最後の言葉はともかく、服部の関与が否定され、ほっとする慎平だった。奏がノートパソコンを触っていたのは、この情報を確認するためだったのだろう。
「カルテ開示を行えば、この医療行為は詐称だと判明するだろうが、開示請求は患者本人の同意が原則となっている。本人が加担している以上、開示請求されることはない。要するに、誰にもわからないってことだよ」
本人の同意を得ずに、この情報を知ってしまった慎平達はどうなるのだろうか。これは電子カルテの違法閲覧に当たるのではないか。
「医療行為が詐称だから、違法に閲覧されても文句いえないと思うよ」
慎平の心を読んだように言い切る奏。正当化している気がしないでもないのだが。
「この際、人工知能のマイクロチップを埋め込んだと仮定してだよ。なんでこんなことになってるの? 劇的に回復して、その後なにがあったっていうの?」
「人工知能が人間と同様以上の知能を実現して自我を持ち、暴走を始めたとしたら?」
それは映画か小説ではないだろうか。慎平にとって苦痛な時間が始まった。
「さっきのは今考えられる最悪のシナリオだから。勇作は人工知能が暴走した際、それを阻止する消滅プログラムを用意してたんじゃないかな。それがYとSの虹彩によって研究室を開けさせること。ホストコンピュータからなんらかの信号が送られ、チップが破壊される仕組みじゃないかな。それを察知した人工知能が……って、慎ちゃん、大丈夫?」
ようやくというべきか、ここでようやく奏が慎平の異変に気づいた。
「大丈夫じゃない、全然意味がわからない!?」
もう少しで意識を失うところだった。大学の講義にもない内容について語られたのだ。勇作の研究内容が人工知能だと確定していないのに、そこまで発展するのもわからない。
「人工知能が神経から脳まで侵食したってことかしら。それが本当なら、継続して研究したいものね」
運転席のシェリーが楽しそうにいった。
「そやな。こっちでじっくりやったら面白そうや」
続いてガウディも。
慎平は思った、この人達、絶対おかしい、と。
「そんなこと出来るのかよ。万が一出来たとしても、違法じゃ……」
慎平の脳裏に、服部の部屋で沢木が放った言葉が蘇る。
(研究が失敗に終わり、不幸になった人間がいるということは、研究自体が違法、もしくは危険だということでしょうかね)
「そんな、どうしてそこまでして……!?」
「追い詰められたらすがりつきたくもなるさ。それが危険と呼ばれるものであっても」
奏の言葉は重かった。
「でも、本当にそんなこと出来るの?」
問題はそこである。慎平にはちんぷんかんぷんであるが。
「出来ないことはないよ。人間の神経の役割を果たすようプログラムされたマイクロチップを埋め込めばね」
「それって医療行為だし、簡単に出来るものじゃないよね? 本条のじいちゃんは医者じゃなかったし」
にわかには信じられない慎平だった。
「マイクロチップを人間に埋め込むことは、既に行われている。国によって医療行為とするか否かの定義が違うが、埋め込んだチップを読み取るだけで鍵が開けられる、本人確認にもなる。まあ今回のケースは明確な医療行為に当たるから、入院して手術になってるな。俺の持ってるデータベースを使って、秀ちゃんに調べてもらったら、高岡はある病院に入院して手術を行っていた形跡があった」
「なに、そのデータベースって。すごく危ない感じがするけど」
「世の中には、知らない方がいいこともあるってことさ」
奏はまた不敵に笑った。ここから話は更に難解になっていく。
「そのレセプトみたんだけどさ、脳深部刺激療法、通称DBSを施行してた。脳の深部に電極を埋め込み、微弱な電流を流して機能改善を図る。主にパーキンソン病の治療で用いられることが多いが、DBSの手術にしては入院期間が短すぎるし、患者の年齢も合わない。なにより高岡がパーキンソン病を発症した事実はないから、本当にこの治療を行ったのか疑問だね」
奏からこういう話を聞くと、医学知識があるのはたしかだなと思った。慎平は感心しきりであった。
「内容はよくわからないけど、病院側も違法行為に加担してるってことだよな」
「そゆこと。見返りはもらってると思うけどね。その病院、勇作の友人が経営してるみたいだから」
「まさか、じいちゃんも関与してるわけ?」
「黒木総合病院じゃないし、じいさまが関与していれば、慎ちゃんが標的になった時点で、俺らに打ち明ける。じいさまは俺と同じで慎ちゃん激ラブだからね」
最後の言葉はともかく、服部の関与が否定され、ほっとする慎平だった。奏がノートパソコンを触っていたのは、この情報を確認するためだったのだろう。
「カルテ開示を行えば、この医療行為は詐称だと判明するだろうが、開示請求は患者本人の同意が原則となっている。本人が加担している以上、開示請求されることはない。要するに、誰にもわからないってことだよ」
本人の同意を得ずに、この情報を知ってしまった慎平達はどうなるのだろうか。これは電子カルテの違法閲覧に当たるのではないか。
「医療行為が詐称だから、違法に閲覧されても文句いえないと思うよ」
慎平の心を読んだように言い切る奏。正当化している気がしないでもないのだが。
「この際、人工知能のマイクロチップを埋め込んだと仮定してだよ。なんでこんなことになってるの? 劇的に回復して、その後なにがあったっていうの?」
「人工知能が人間と同様以上の知能を実現して自我を持ち、暴走を始めたとしたら?」
それは映画か小説ではないだろうか。慎平にとって苦痛な時間が始まった。
「さっきのは今考えられる最悪のシナリオだから。勇作は人工知能が暴走した際、それを阻止する消滅プログラムを用意してたんじゃないかな。それがYとSの虹彩によって研究室を開けさせること。ホストコンピュータからなんらかの信号が送られ、チップが破壊される仕組みじゃないかな。それを察知した人工知能が……って、慎ちゃん、大丈夫?」
ようやくというべきか、ここでようやく奏が慎平の異変に気づいた。
「大丈夫じゃない、全然意味がわからない!?」
もう少しで意識を失うところだった。大学の講義にもない内容について語られたのだ。勇作の研究内容が人工知能だと確定していないのに、そこまで発展するのもわからない。
「人工知能が神経から脳まで侵食したってことかしら。それが本当なら、継続して研究したいものね」
運転席のシェリーが楽しそうにいった。
「そやな。こっちでじっくりやったら面白そうや」
続いてガウディも。
慎平は思った、この人達、絶対おかしい、と。
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