カレイドスコープ

makikasuga

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第17話

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「そこまでです」
 沢木の声がしたと思うや否や、照明が落ちた。
「彼を連れ去るというのなら、引き金を弾きます。確実にね」
 一分も立たないうちに照明が復活する。沢木は不法侵入者の頭に銃口を押しつけ、佐藤が背後から拘束していた。
「また服部の関係者か。用意がいいことだな」
 捕まったというのに男は不敵に笑い、あっさりと銃を床に投げ捨てた。
「先生によほど恨みがあるようですね」
 沢木が言った。
「あいつのせいで、こんなことをするくらい人生を狂わされたんだよ」
「そういうことは警察で話してくれ」
 佐藤は冷たく言い放ち、男を連れて病室を出た。

「慎平君、怪我はないですか?」
 銃を収めてから、沢木が駆け寄る。慎平は我に返った。
「沢木さん、奏が、奏が……!?」
 慎平が声を発したことに、沢木は驚いたようだった。
「おい、しっかりしろ、返事しろよ、奏!?」
 奏の側に行き、慎平は必死に声をかける。はっきりみたわけではないけれど、撃たれたことに変わりはない。
「聞いてんのか、命令だぞ!?」
 大声で叫んでいるというのに、奏は反応を示さない。絶望的な状況を目にして、抑えこんでいたものが湧き上がってくる。

 誰かが傷つくところをみたくない。もう、生きていたくなんか、ない。

「ちゃんと、生き、てる、から……」
 強く握った拳に手が添えられる。慎平は我に返り、両手でその手を強く握り締めた。
「奏君なら大丈夫ですよ」
 背後から沢木が声をかけてきた。振り返ると、彼は笑顔を浮かべながらこういった。
「防弾チョッキを着ていますからね」
 慎平は心から安堵した。緊張が一気にほぐれていく。
「ただ至近距離で撃たれたとなると、肋骨が折れている可能性がありますね」
「その通り。本当に面倒だらけだな、おたくらは」
 騒ぎを聞きつけてのことなのか、池田が現れた。色々準備万端のカートも持参している。
「声、出るようになったね」
 池田はまず慎平に話しかけた。探るようにじっとみつめてきた。
「それに、なんとか抑えられたみたいだし」
 いわれてみれば、さっき考えたことが思い出せない。そこだけ記憶がすっぽり抜け落ちている。
「そこのバカ、手当てするから、離れてね」
「俺はバカ、じゃない」
 苦しくとも、そこだけは否定する奏。
「はいはい。足の方は思ったよりひどい傷じゃないな。ひとりで立てるか、それとも、抱きかかえた方がいいのかな?」
 意地悪を承知で池田がいうと、奏は自力で立ち上がり、ベッドに座る。パーカーと分厚いベスト(防弾チョッキ)を脱ぎ捨てる。
「あー、重かった」
 身軽になったからか、奏はいつもの調子を取り戻したが、池田の表情は渋い。
「それだけ?」
「それ以上いうことはねえよ」
「あ、そう。意地張るってわけね。右足出せ」
「なんでそんなに上から目線なんだよ」
「医者だから」
 なぜか反目しあうふたり。ここでも池田は慣れた手つきで処置を施す。やはり彼は外科医なのだ。
「ところでさ、いくら口から出任せでも、あれはないんじゃないかな」
 奏が無事であったことを喜びつつ、慎平は気になっていたことを口にした。
「あれって?」
「ほら、頭を撃ったら賠償金がどうのとか、アメリカから人が来るとかってやつ」
 銃口をそらすための口実だったとしても、脚色しすぎだと慎平は感じていた。
「本当だよ。俺の頭には保険かかってるから。金額は忘れちゃったけどね」
 重要なことをさらっと言い放つ奏。その場にいた三人は一瞬手を止めた。
「そういうのはな、どこかの天才がやることだぞ」
 池田はニヤニヤ笑いながらいった。
「奏って何者?」
 疑問を口する慎平。以前の天才発言からして、やはり何かあるということなのか。
「奏君は十六歳でハーバード大学に入学されたのですよね」
 慎平の問いかけに答えたのは沢木だった。
「うん。暇だったから、卒業するのは四年かけたけどね」
 暇だったら四年、普通にしていたらどうなっていたのだろうか。
「研究手伝えって教授がうるさくてさ、適当にあしらってたら、ウザくなって、面倒だから了承した。まあ今手伝わせてるけどね」
「もしや、奏君がなさっていることって」
「これだけで勘づいちゃうなんて、さすがだね、秀ちゃん」
 奏は沢木のことを「秀ちゃん」と呼んだ。ふたりはいつ仲良くなったのだろうか。
「最初に立てた仮説を実行しようと思って、色々やっている最中だよ。慎ちゃんには話したはずだけど、覚えてる? 本条勇作の研究内容」
「えっと、たしか人工知能がどうのって」
 ピンポーンと軽い口調で奏が言った。
「研究内容は人工知能なのですか?」
「うん」
 仮説なのに断定する自信がすごい。それを肯定し、話を続ける沢木も沢木だが。
「そんな短期間で出来るものなのですか?」
「普通は無理だし、仮で作っているだけだよ。大学にある俺のパソコン、まだ生きているみたいだから、そこにデータ送って組み立ててるところ」
「もしかして、それが秘密兵器?」
「そうね。秘密兵器になるかどうかは試してみないとわからないけどね」
 奏がタブレットを触っていたのはこういうことだったらしい。睡眠不足と過労の原因は、慎平の付き添いだけではなかったということだ。
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