カレイドスコープ

makikasuga

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第13話

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 いつのまにか眠ってしまったらしく、目覚めたとき、室内は真っ暗になっていた。ベッドに備え付けの照明のスイッチを入れて起き上がるも、側にいた奏の姿がない。トイレにでも行ったのかと思っていると、ふと壁にもたれかかっている奏の姿を発見する。すぐさま慎平は駆け寄った。
「おい、大丈夫かよ!?」
 壁際の照明スイッチをオンにして、部屋全体を明るくする。目を閉じて苦痛に顔を歪める奏の姿が露になる。
「ごめん、ごめん。トイレにいこうかと思って、ぼんやりしちゃった」
 行動に間違いはないのかもしれないが、奏はなかなか動かない。相変わらず顔色も良くない。
「とにかく休めよ」
「ご主人様ってば優しい」
 言葉は軽いが、奏の目は閉じられたままだ。
「誰か呼んでくる」
「待った、それだけは勘弁」
「なんでだよ!?」
「まだ終わっていないから」
「なにが?」
「とっておきの秘密兵器作成中」
 ここでようやく奏は目を開けて笑った。なぜかドキリさせられた。
「そうそう、慎ちゃんが寝ている間に、新しい情報仕入れたんだけど、聞く気ある?」
「トイレにいくんじゃなかったのかよ」
「そっちはまだ大丈夫だから」
 うまく交わされた気がする。奏は壁に身体を持たれかけたまま、慎平の返事を聞くまでもなく話し始めた。

「勇作の遺言内容が弁護士立ち会いの元で役員一同に発表された。会社は息子の健作にまるごと譲るらしいが、その中にじいさま宛の手紙があってさ、急遽呼び出されたってわけ。手紙の内容に関しては本人の口から聞くとして、問題の遺言だけど」
「そんな内部情報どうやって……?」
「本条コーポレーションに盗聴器仕掛けてあるの」
 最近、盗聴器や発信機なんて言葉が平気で飛び交っている。まるでスパイ映画の中に入り込んだみたいだと慎平は感じていた。
「話続けるね。勇作の遺言は暗号っぽいんだよね。研究の全てはYとSの名を持つ者に寄贈する。彼らの手によってそれは実行される。YとSに関しての詳細はなかったけど、これで伝わるらしいよ。さすがはじいさまの友達って感じだな」
 なんと答えるべきかと慎平が悩んでいると、奏が畳み掛けてきた。
「Yは本条ユリカだよね。残りのSってさ、誰のことかな」
 もはや黙っている意味がなくなった。慎平は机の引き出しの中から白い封筒を取り出し、奏に差し出す。
「みていいの?」
「同じことが書いてある。生前、本条のじいちゃんから受け取っていた」
「やっぱり慎ちゃんがSだったんだね。それにしても意味深な書き方だよね。なにが実行されちゃうのかな?」
「本条のじいちゃんから聞いたのは、研究は失敗に終わり、ある人間を不幸にしたから代わりに止めてほしいって。俺と彼女の虹彩で研究室を開けてくれって」
「研究室を開ける。開けたら実行される。なにかが止まる?」
 奏は難しい顔つきになっていた。
「やっぱ秘密兵器、早く完成させないと……な」
 呟きながら、奏はずるずるとその場にしゃがみこんだ。
「おい、奏!?」
「慎平君、入っていいですか?  服部先生がお呼びでして」
 抜群のタイミングで扉がノックされた。声をかけてきたのは沢木だった。慎平はすぐさま扉を開け、彼を招き入れた。
「沢木さん、奏が!?」
 しゃがみこんで動かない奏に、沢木が寄り添う。顔色を確認するや、大きく息をついた。
「慎平君には口止めされていましたがね、今朝病院で倒れられたのですよ。点滴を受けた後、私がこちらに連れてきました」
「倒れたんですか!?」
 初耳である。顔色が悪いと思っていたが、そこまでとは思わなかった。
「睡眠不足と過労によるものなので、安静にしていれば大丈夫だそうですよ」
 こんなに近くで話しているというのに、奏は目を覚まさない。沢木が抱え、机の脇の簡易ベッドに寝かせた。
「奏君は病院に付き添うまでで、そこからは私がお世話することになっていました。ですが、奏君は慎平君の側を離れたくないと言って、譲りませんでした。怪我させたことに責任を感じていたのだと思います。佐藤さんが何を言っても、聞き入れませんでしたから」
 慎平の前では平気な顔をしていたが、奏がいっていた結構なダメージというのは、言葉よりもはるかに重くて深い気がした。
「しばらく寝かしといてください。じいちゃんが呼んでるって話でしたね?」
「はい。慎平君と至急話がしたいと仰られています。佐藤さんから様子をみてきてほしいといわれて、伺った次第です」
 慎平は、沢木と共に服部の部屋に向かった。

「奏はどうしました?」
 服部の応接室の前には佐藤がいた。扉に背中を持たれかけて、腕組みをしている。
「じいちゃんが呼んでるのは俺です。お説教はひとりで十分ですよ」
 厳しい顔つきの佐藤に、慎平は努めて明るく話しかけた。奏に佐藤の叱責を受けてほしくないという気持ちもあったから。
「奏を庇わなくていいですよ。あいつはなにもわかっていない」
「佐藤さんだって、奏のこと、なにもわかってないよ」
 奏と佐藤の間には距離がある。ふたりは目を見て話さないし、奏は佐藤に名前を呼ばれることを嫌悪する。どういう理由であるにせよ、互いに意識していることがわかる。
「仲良くなられたようで、なによりですよ」
 そういって佐藤は笑う。慎平が言葉の真意を問い質すより先に、佐藤は扉をノックして服部に声をかけた後、入室した。
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