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第3話
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公園の側のコインパーキングに駐車された赤い乗用車が動き出す。女性が好みそうな可愛らしいコンパクトカーは、左ハンドルのため、日本車ではなさそうだ。
「これ、おまえのか?」
慎平は助手席の扉を開けて乗り込む。シートは柔らかすぎず、固すぎずで快適だ。
「そうだよ。好みではないんだけど、貰い物だから、文句言えないんだよね」
奏はケラケラと笑ったが、いったい誰に貰ったのだろうか。車が走り出してすぐ、慎平は話を切り出した。
「肝心の調査結果については、まだ何も聞いていないんだけど」
奏は車を走らせながら「そうだった、そうだった」と言った後、話し始めた。
「本条ユリカちゃんは、四月から都立高校の三年生になるね。身長百六十センチ、体重四十八キロ、バスト──」
「そういう調査じゃないだろ!?」
慌てて止めた。スリーサイズを調べろなんて言っていないから。
「せっかく調べたのに聞きたくないの?」
楽しそうな奏を睨みつける慎平。真面目にやれと一喝すると、はいはいと言った後、奏は話を続けた。
「いくつか気になる点があったね。まずは交友関係。本条コーポレーション社長秘書である谷村順子とは、子供の頃から仲が良く、姉のような存在だ。順子は社長の健作派でありながらも、会長の勇作にも可愛がられていた。実質この女がふたりの仲介役だったってところだな」
「その女が怪しい動きをしているってことかよ」
「さあね。谷村順子には恋人がいた。そいつは勇作に近い人間のようだな」
「じゃあ、そいつが怪しいのか?」
「違うな。じいさんが亡くなってから研究室が開かなくなっているが、こいつの虹彩は使われていなかったようだから」
「なんで研究室の鍵が開かなくなったことを知ってる!? しかも虹彩って」
慎平は目を丸くした。なぜ奏はこのことを知っていたのだろうか。
「さっき会社のこと調べたって言ったよね。セキュリティに虹彩を取り入れているのは流れ的に間違いないから、鍵開かないってことは、誰かの虹彩が必要ってことじゃないの。てか、なんでご主人様はそのことを知ってるわけ?」
交わされた挙句、逆に問いかけられてしまった。黙り込む慎平をみて、奏はまたケラケラと笑う。
「図星だねえ。今のところ、怪しさ満載にみえてるのは第一秘書かな」
「なんで佐藤さんの名前が出てくるんだよ」
服部の第一秘書である佐藤一馬は、長らく慎平の世話係も兼ねていた。細身だが鍛え抜かれた体格をしており、無駄話はあまりしないが、優しくて頼りになる人物だ。五十近いという話だが、外見は三十代後半程度にしか見えない。思えば、佐藤の目も鋭い光を発していた。慎平の隣にいる奏と同じように。
「本条ユリカの父親の同僚だからって言って、彼女にくっついているんだけど、聞いてないの?」
確かに、最近佐藤の姿をあまり見かけなくなっていた。
「結局見透かされてるってことなのかな」
思わず独り言が口から出てしまった。不味いと思ったが、時既に遅し。
「何を見透かされているのかな?」
奏に突っ込まれ、慎平は挙動不審になる。
「ご主人様って面白いね。そっちは後回しにして、次いくよ。本条ユリカの母親は三歳の時に病死。父親の本条篤志は仕事で多忙のため、祖父である勇作の家に預けられていた。結婚して姓を変えたのは父親の方だ。妻の死後も子供のことを考えてなのか、旧姓に戻していない。本条篤志の旧姓は高岡。仕事では高岡篤志という名前で通っている。でもって、この父親の仕事が厄介。公務員には違いないけど」
奏は一旦話を切った。慎平を見つめながら、この先の言葉を待っている。
「もしかして、警察関係とか?」
慎平の脳裏に、家庭教師の沢木のことが浮かんだ。
沢木はキャリアと呼ばれる国家公務員Ⅰ種試験の合格者で、将来の幹部候補生だった。だがある事件に巻き込まれ、自らその地位を捨てた。紆余曲折の末、現在は慎平の家庭教師となり、服部家で同居している。
「さすがはご主人様、正解に限りなく近い」
いつまでもご主人様扱いの奏に、慎平は内心苛ついていた。
「頭の回転速いよね。だとすると、ただの勉強嫌いか。ちゃんとやれば、もっといい大学入れたのに、家庭教師は何してたんだか」
「沢木さんが家庭教師になったときには、進路は決定してたんだよ」
「今からでも遅くないからさ、俺が家庭教師になってあげよっか?」
慎平に無邪気な笑顔を向けてくる奏。なんだ、この変わり身の早さは。
「バカはどうしようもないけどさ、勉強嫌いなら救いがあるからね」
容赦ない奏の言葉に、慎平は唖然とした。これから先もずっとこんな調子でつき合っていくのかと不安になった。
「これ、おまえのか?」
慎平は助手席の扉を開けて乗り込む。シートは柔らかすぎず、固すぎずで快適だ。
「そうだよ。好みではないんだけど、貰い物だから、文句言えないんだよね」
奏はケラケラと笑ったが、いったい誰に貰ったのだろうか。車が走り出してすぐ、慎平は話を切り出した。
「肝心の調査結果については、まだ何も聞いていないんだけど」
奏は車を走らせながら「そうだった、そうだった」と言った後、話し始めた。
「本条ユリカちゃんは、四月から都立高校の三年生になるね。身長百六十センチ、体重四十八キロ、バスト──」
「そういう調査じゃないだろ!?」
慌てて止めた。スリーサイズを調べろなんて言っていないから。
「せっかく調べたのに聞きたくないの?」
楽しそうな奏を睨みつける慎平。真面目にやれと一喝すると、はいはいと言った後、奏は話を続けた。
「いくつか気になる点があったね。まずは交友関係。本条コーポレーション社長秘書である谷村順子とは、子供の頃から仲が良く、姉のような存在だ。順子は社長の健作派でありながらも、会長の勇作にも可愛がられていた。実質この女がふたりの仲介役だったってところだな」
「その女が怪しい動きをしているってことかよ」
「さあね。谷村順子には恋人がいた。そいつは勇作に近い人間のようだな」
「じゃあ、そいつが怪しいのか?」
「違うな。じいさんが亡くなってから研究室が開かなくなっているが、こいつの虹彩は使われていなかったようだから」
「なんで研究室の鍵が開かなくなったことを知ってる!? しかも虹彩って」
慎平は目を丸くした。なぜ奏はこのことを知っていたのだろうか。
「さっき会社のこと調べたって言ったよね。セキュリティに虹彩を取り入れているのは流れ的に間違いないから、鍵開かないってことは、誰かの虹彩が必要ってことじゃないの。てか、なんでご主人様はそのことを知ってるわけ?」
交わされた挙句、逆に問いかけられてしまった。黙り込む慎平をみて、奏はまたケラケラと笑う。
「図星だねえ。今のところ、怪しさ満載にみえてるのは第一秘書かな」
「なんで佐藤さんの名前が出てくるんだよ」
服部の第一秘書である佐藤一馬は、長らく慎平の世話係も兼ねていた。細身だが鍛え抜かれた体格をしており、無駄話はあまりしないが、優しくて頼りになる人物だ。五十近いという話だが、外見は三十代後半程度にしか見えない。思えば、佐藤の目も鋭い光を発していた。慎平の隣にいる奏と同じように。
「本条ユリカの父親の同僚だからって言って、彼女にくっついているんだけど、聞いてないの?」
確かに、最近佐藤の姿をあまり見かけなくなっていた。
「結局見透かされてるってことなのかな」
思わず独り言が口から出てしまった。不味いと思ったが、時既に遅し。
「何を見透かされているのかな?」
奏に突っ込まれ、慎平は挙動不審になる。
「ご主人様って面白いね。そっちは後回しにして、次いくよ。本条ユリカの母親は三歳の時に病死。父親の本条篤志は仕事で多忙のため、祖父である勇作の家に預けられていた。結婚して姓を変えたのは父親の方だ。妻の死後も子供のことを考えてなのか、旧姓に戻していない。本条篤志の旧姓は高岡。仕事では高岡篤志という名前で通っている。でもって、この父親の仕事が厄介。公務員には違いないけど」
奏は一旦話を切った。慎平を見つめながら、この先の言葉を待っている。
「もしかして、警察関係とか?」
慎平の脳裏に、家庭教師の沢木のことが浮かんだ。
沢木はキャリアと呼ばれる国家公務員Ⅰ種試験の合格者で、将来の幹部候補生だった。だがある事件に巻き込まれ、自らその地位を捨てた。紆余曲折の末、現在は慎平の家庭教師となり、服部家で同居している。
「さすがはご主人様、正解に限りなく近い」
いつまでもご主人様扱いの奏に、慎平は内心苛ついていた。
「頭の回転速いよね。だとすると、ただの勉強嫌いか。ちゃんとやれば、もっといい大学入れたのに、家庭教師は何してたんだか」
「沢木さんが家庭教師になったときには、進路は決定してたんだよ」
「今からでも遅くないからさ、俺が家庭教師になってあげよっか?」
慎平に無邪気な笑顔を向けてくる奏。なんだ、この変わり身の早さは。
「バカはどうしようもないけどさ、勉強嫌いなら救いがあるからね」
容赦ない奏の言葉に、慎平は唖然とした。これから先もずっとこんな調子でつき合っていくのかと不安になった。
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