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第2話
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「依頼は本条ユリカの身辺調査だったよね。彼女の祖父は、本条コーポレーションの会長で先日亡くなったばかり。この本条コーポレーション、かなり前から、亡くなった会長の勇作を支持する派と、社長かつ勇作の息子の健作を支持する派に真っ二つに分断されていた。勇作は根っからの研究者で金には無頓着だが、息子はその真逆の利益至上主義。とはいえ、勇作が開発した企業向けの虹彩認証システムが利益の大半を生み出していたから、文句は言えなかったんだよな」
身辺調査からこんな情報をつかんでくるのだから、秘書候補になるだけの器はある気がした。慎平は肩をすくめてこう言い放った。
「なるほど、仕事はきちんとしてくれてるみたいだな」
「なんだ、知ってたの。じゃあ、本条勇作が秘密裏に研究していたものがあるってことは?」
「その内容は?」
質問を質問で返す慎平。
「なんだ、これも知ってたの、つまんなーい。てかさ、俺、もうお払い箱じゃないの」
奏は大げさに肩をすくめてみせる。
「内容まではわからないってことか……」
本条勇作はこの世にいない。彼は何を思い、何を研究していたのか、それが知りたかった。
「バカにするなよ、俺を誰だと思っている!?」
突如変貌する奏に、慎平は面食らう。
「勇作は虹彩認証システムの開発をひとりでやってのけた切れ者だ。ある程度の予想はついてるぜ」
奏の表情が変わり、冷たく厳しい視線が慎平に向けられる。
「じいさんはいくつかの大学や企業にコンタクトを取り、意見を聞いていた。おそらく人工知能、AIの研究だな」
「人工知能?」
難しい話になってきたと、慎平の頭は混乱に向かう。
「名前ぐらいは聞いたことあるだろ。人工的にコンピュータ上で、人間と同様の知能を実現させようという試み、あるいはそのための一連の基礎技術。さっき説明しなかったけど、虹彩認証はわかるよね? 個人の目の虹彩の高解像度の画像に、パターン認証技術を応用して行われる生体認証技法のひとつなんだけど、坊ちゃまには難しすぎるかな?」
バカにされたと思ったが、あながち嘘ではないので黙っておく。
「社長の健作は、勇作の研究を狙っていた。金になるからな。このことも知ってたんだろ」
研究内容は知らないし、人工知能についても中身は理解不能であるが、騒動が起きていることは知っていた。現在、勇作の研究室には誰も立ち入ることが出来ない。彼の死後、鍵が開かなくなったのだ。
「あいつは化ける、ねえ」
しばらく黙り込んでいた奏が、何気なく言葉を漏らした。
「孫可愛さの冗談かと思ってたけど、改めなきゃならないようだな」
全く意味がわからない。だが、今一番気になっているのは奏と祖父の関係である。
「おまえ、じいちゃんとどこで知り合ったんだ? どういう関係なんだよ?」
今回の情報収集能力にしても、奏は特別な何かを感じる。
「一言で言えば、助けられたってことかな」
一瞬、奏の目に暗い影が宿ったような気がした。
「助けられた?」
「わからなくて結構。話戻すけどさ、そこまでわかってるなら、俺は用済みじゃないの?」
「いや、むしろ気に入った。俺は本条ユリカの身辺調査を依頼しただけ。裏事情をそんな奥深くまで探ってくれていると思わなくて、つい調子に乗った」
慎平は小さく舌を出し、無邪気に笑った。
「バカにされたお返しってわけか。お灸も据えられたことだし、真面目にやりますよ、ご主人様」
「なんだ、そのご主人様って、気持ち悪いっての」
「じゃあ、やっぱり坊ちゃまがいい?」
「慎平でいい」
「それはやだ。ところでさ、第一秘書がお嬢さんの引越し先に一緒に向かってる。ドライブがてら行ってみる?」
「引越し先?」
「生前、勇作から言われていたらしいよ。自分が死んだらあの家から出るようにって。その手配やなんかを全部第一秘書がやったんだよ」
身辺調査からこんな情報をつかんでくるのだから、秘書候補になるだけの器はある気がした。慎平は肩をすくめてこう言い放った。
「なるほど、仕事はきちんとしてくれてるみたいだな」
「なんだ、知ってたの。じゃあ、本条勇作が秘密裏に研究していたものがあるってことは?」
「その内容は?」
質問を質問で返す慎平。
「なんだ、これも知ってたの、つまんなーい。てかさ、俺、もうお払い箱じゃないの」
奏は大げさに肩をすくめてみせる。
「内容まではわからないってことか……」
本条勇作はこの世にいない。彼は何を思い、何を研究していたのか、それが知りたかった。
「バカにするなよ、俺を誰だと思っている!?」
突如変貌する奏に、慎平は面食らう。
「勇作は虹彩認証システムの開発をひとりでやってのけた切れ者だ。ある程度の予想はついてるぜ」
奏の表情が変わり、冷たく厳しい視線が慎平に向けられる。
「じいさんはいくつかの大学や企業にコンタクトを取り、意見を聞いていた。おそらく人工知能、AIの研究だな」
「人工知能?」
難しい話になってきたと、慎平の頭は混乱に向かう。
「名前ぐらいは聞いたことあるだろ。人工的にコンピュータ上で、人間と同様の知能を実現させようという試み、あるいはそのための一連の基礎技術。さっき説明しなかったけど、虹彩認証はわかるよね? 個人の目の虹彩の高解像度の画像に、パターン認証技術を応用して行われる生体認証技法のひとつなんだけど、坊ちゃまには難しすぎるかな?」
バカにされたと思ったが、あながち嘘ではないので黙っておく。
「社長の健作は、勇作の研究を狙っていた。金になるからな。このことも知ってたんだろ」
研究内容は知らないし、人工知能についても中身は理解不能であるが、騒動が起きていることは知っていた。現在、勇作の研究室には誰も立ち入ることが出来ない。彼の死後、鍵が開かなくなったのだ。
「あいつは化ける、ねえ」
しばらく黙り込んでいた奏が、何気なく言葉を漏らした。
「孫可愛さの冗談かと思ってたけど、改めなきゃならないようだな」
全く意味がわからない。だが、今一番気になっているのは奏と祖父の関係である。
「おまえ、じいちゃんとどこで知り合ったんだ? どういう関係なんだよ?」
今回の情報収集能力にしても、奏は特別な何かを感じる。
「一言で言えば、助けられたってことかな」
一瞬、奏の目に暗い影が宿ったような気がした。
「助けられた?」
「わからなくて結構。話戻すけどさ、そこまでわかってるなら、俺は用済みじゃないの?」
「いや、むしろ気に入った。俺は本条ユリカの身辺調査を依頼しただけ。裏事情をそんな奥深くまで探ってくれていると思わなくて、つい調子に乗った」
慎平は小さく舌を出し、無邪気に笑った。
「バカにされたお返しってわけか。お灸も据えられたことだし、真面目にやりますよ、ご主人様」
「なんだ、そのご主人様って、気持ち悪いっての」
「じゃあ、やっぱり坊ちゃまがいい?」
「慎平でいい」
「それはやだ。ところでさ、第一秘書がお嬢さんの引越し先に一緒に向かってる。ドライブがてら行ってみる?」
「引越し先?」
「生前、勇作から言われていたらしいよ。自分が死んだらあの家から出るようにって。その手配やなんかを全部第一秘書がやったんだよ」
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