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エピローグ
①
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人の気配を感じて目を開け放てば、カナリアの心配そうな顔が飛び込んできた。
「ごめん、起こした?」
「いや、大丈夫」
蓮見と話をしたのは昼間で、医師の診察を受けた後に眠ってしまったが、既に太陽の光は消えてなくなり、夜になっていた。
「一人で突っ走るから、こんなことになるんだぜ」
カナリアの背後からひょいと顔を覗かせたのはシラサカだった。
「すみません、ご心配おかけしました。あの、レイが怪我したって聞いたんですけど」
「日向がハナムラのことを動画配信で流そうとして、それを止めるためにレイが無茶して、肩に二発食らったんだよ。幸い弾は貫通してたから、先生んとこで処置してもらったんだけどな」
重傷ではあるが、松田のところにいるのならと、直人はほっと胸をなで下ろしたのだが……
「動画配信を止めるためにレイがやった行動がさ、その会社のサーバーを丸ごとぶっ壊す大損害になってさ。表の会社絡みかつ重大事案になっちまったもんだから、大至急サーバーの修復に行くことになったんだ」
怪我をしたというのに、レイは全く休めていないようである。
「俺も手伝って、ようやくさっき終わったとこ。待ち構えてたドクターに強制連行された」
「レイはナオの顔を見てからって言ったんだけど、先生がマジギレしてて、どうにもならなかった」
カナリアとシラサカは顔を見合わせて笑う。普段から強面の松田が本気で怒ったら相当怖いだろう。
「事後報告になったけど、俺、ハナムラの人間になったから」
その後、カナリアは少しかしこまって、直人に言った。
「けど、高校は卒業しろって言われてさ、だからそれまでは江藤大悟でいることになった」
「そっか。なら、もう俺の助けはいらないね」
カナリアには、シラサカは勿論のことレイやマキ達がいる。彼らの側にいれば、メディアに追いかけられたりすることもないだろう。
「色々ありがとう。そして、ごめんなさい」
後の言葉を放ってから、カナリアは深く頭を下げた。
「なんで君が謝るの? 俺が勝手にしたことだよ」
「けど、ナオはいっぱい怪我したから!?」
直人をオッサンとしか呼ばなかったカナリアが、初めて名前を呼んでくれた。そのことが嬉しくて、顔を上げたカナリアに直人は微笑みかけた。
「これだけで済んだなんて、奇跡みたいなもんでしょ。俺、花村さんと直接取引したんだよ」
直人は自分の命と引き換えにカナリアをハナムラの人間にしてくれと頼んだ。花村はそれを受け入れ、直人の左肩を撃ち抜いたのだ。
「そのことなんだけどな。ボスは、おまえをウチに引き入れようとしてるらしいぞ」
シラサカはその場で腕組みをして言った。
「おまえにその気があれば、俺は反対しない。マキは喜ぶだろうしな」
「でも、人殺しなんて俺には」
「他にも仕事はあるから、その点は心配しなくていい。表向きの仕事、人材派遣業も一応やってっから」
ハナムラコーポレーションはダミー会社とはいえ、ハナムラグループの子会社である。世間的なことも考えて、それなりの実績は残してあるのだろう。
「ごめん、起こした?」
「いや、大丈夫」
蓮見と話をしたのは昼間で、医師の診察を受けた後に眠ってしまったが、既に太陽の光は消えてなくなり、夜になっていた。
「一人で突っ走るから、こんなことになるんだぜ」
カナリアの背後からひょいと顔を覗かせたのはシラサカだった。
「すみません、ご心配おかけしました。あの、レイが怪我したって聞いたんですけど」
「日向がハナムラのことを動画配信で流そうとして、それを止めるためにレイが無茶して、肩に二発食らったんだよ。幸い弾は貫通してたから、先生んとこで処置してもらったんだけどな」
重傷ではあるが、松田のところにいるのならと、直人はほっと胸をなで下ろしたのだが……
「動画配信を止めるためにレイがやった行動がさ、その会社のサーバーを丸ごとぶっ壊す大損害になってさ。表の会社絡みかつ重大事案になっちまったもんだから、大至急サーバーの修復に行くことになったんだ」
怪我をしたというのに、レイは全く休めていないようである。
「俺も手伝って、ようやくさっき終わったとこ。待ち構えてたドクターに強制連行された」
「レイはナオの顔を見てからって言ったんだけど、先生がマジギレしてて、どうにもならなかった」
カナリアとシラサカは顔を見合わせて笑う。普段から強面の松田が本気で怒ったら相当怖いだろう。
「事後報告になったけど、俺、ハナムラの人間になったから」
その後、カナリアは少しかしこまって、直人に言った。
「けど、高校は卒業しろって言われてさ、だからそれまでは江藤大悟でいることになった」
「そっか。なら、もう俺の助けはいらないね」
カナリアには、シラサカは勿論のことレイやマキ達がいる。彼らの側にいれば、メディアに追いかけられたりすることもないだろう。
「色々ありがとう。そして、ごめんなさい」
後の言葉を放ってから、カナリアは深く頭を下げた。
「なんで君が謝るの? 俺が勝手にしたことだよ」
「けど、ナオはいっぱい怪我したから!?」
直人をオッサンとしか呼ばなかったカナリアが、初めて名前を呼んでくれた。そのことが嬉しくて、顔を上げたカナリアに直人は微笑みかけた。
「これだけで済んだなんて、奇跡みたいなもんでしょ。俺、花村さんと直接取引したんだよ」
直人は自分の命と引き換えにカナリアをハナムラの人間にしてくれと頼んだ。花村はそれを受け入れ、直人の左肩を撃ち抜いたのだ。
「そのことなんだけどな。ボスは、おまえをウチに引き入れようとしてるらしいぞ」
シラサカはその場で腕組みをして言った。
「おまえにその気があれば、俺は反対しない。マキは喜ぶだろうしな」
「でも、人殺しなんて俺には」
「他にも仕事はあるから、その点は心配しなくていい。表向きの仕事、人材派遣業も一応やってっから」
ハナムラコーポレーションはダミー会社とはいえ、ハナムラグループの子会社である。世間的なことも考えて、それなりの実績は残してあるのだろう。
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