カナリアが輝くとき

makikasuga

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レイVSカナリア

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 レイがハナムラグループの決算関係の仕事を終わらせたのは早朝だった。始発に乗って自宅に帰る余裕はあったが、さすがに疲れてしまい、机の上で突っ伏し、そのまま寝てしまった。

「はい、ハナムラコーポレーション。あ、サカさん、おはよ」
 マキの声で意識が浮上し、頭から何か被さっていることに気づく。突っ伏したまま、うっすら目を開けてみれば、マキのものであろう黒いパーカーがかけられていた。
「レイなら寝てるよ。だいぶ無理したみたいだから、もうちょっと寝かせてあげようかと。……え? ちょっと待って、どういうこと?」
 かかってきた電話に声を潜めながら話していたマキだったが、途中から声のトーンが上がる。
「そんなこと言ったら、レイ絶対怒るってば。てゆーか、こないだから何してるわけ?」
 会話の感じから内容を察したレイは、起き上がるや、マキから電話を奪い取った。
「おまえ、また休む気かよ」
『なんだ、レイ君、起きてるじゃん。えっと、体調不良でしばらく休みまーす』
 体調不良がズル休みの理由第一位であることは言うまでもない。無論、本当に体調不良で休む人間がいることは理解している。
「昨日は元気だったじゃねえか」
『昨日は昨日、今日は今日。無断じゃなく、ちゃんと連絡入れたんだから、今度こそ有給消化な』
「もっとマシな嘘をつけ。ズル休みは無断欠勤と同じだぞ」
 体調不良にしては声が元気すぎるのだ。怒りを通り越し、レイは呆れた。
『嘘じゃないって、色々と頭が痛いのは本当だってば。それから、ナオもしばらく借りるから、有給扱いでよろしく』
「はあ!? なんでナオが……って、おい!?」
 電話は一方的に切られていた。何より不可解だったのは、直人の有給申請をレイにしたことである。
「サカさん、ナオも巻き込んでるの?」
「ナオの有給申請もしろって一方的に言われた。休みすぎて、頭のネジがぶっ飛んじまってんじゃねえか」
 マキと共に呆れ返っていると、デスクの電話が再び鳴った。一コール目でレイが取る。
「はい、ハナムラコーポレーション」
『おまえ達は、また桜井君を危険に晒すつもりなのか』
 声を聞いて、レイはげんなりした。相手は直人の同僚であり、レイとは犬猿の仲である蓮見だったから。
『今朝、桜井君から体調不良でしばらく休むと連絡があった』
 ここもかよとツッコミたい気持ちをレイは飲み込んだ。幸いだったのは、直人が自分で休みの申請していてくれたことか。
『昨日はおまえと会って直帰だった。桜井君に何をしたんだ?』
「ナオと会う約束していたのは確かだが、予定が入って行けなくなり、代わりにシラサカを行かせた」
『まさかおまえ、ハナムラの殺し屋に彼を!?』
 過去の因縁からして、レイが信用されないのはわかるが、組織そのものを否定されては困る。ハナムラと手を組みたいと言ってきたのは、蓮見の上司である草薙なのだから。
「有り得ない。ナオのことはウチの社長も承知しているし、我々は私情で動くわけじゃない」
 言い過ぎたと思ったのか、蓮見は黙り込んだ後、一つ息を吐いた。
『わかった。ひとまず信じることにする』
「昨日ナオから電話でサイバー対策課から案件があると聞いていたが?」
『勿論、聞いている。おまえに相談して、どう対応するかを草薙さんと協議する話になっていたからな。この状況で休みを取るというのなら、私に何らかの指示があるはずだが、桜井君は何も触れてこなかった。気になって、折り返し連絡を入れてみたが、携帯は繋がらなくなっていたよ』
 蓮見の話を聞き、レイは側にいたマキに、シラサカのところへ連絡を入れるよう頼んだ。マキは隣の机の電話を使って、すぐ連絡を入れてくれたが、首を横に振るだけだった。
 シラサカも直人も、体調不良を理由にしばらく休むといって連絡が取れなくなった。おそらく二人は同じ場所にいる。
「蓮見さん、サイバー対策課の案件の資料はあるか?」
『確かパソコンのファイルにデータがあった。ちょっと待ってろ』
 レイのことを嫌っていても、仕事に私情は持ち込まない。その辺の切替は出来るようだ。
『ファイルを開けてみたが、どこにも見当たらないぞ。どういうことだ?』
 警視庁のシステム全般を強化するべく、レイが作った人工知能「システムレイ」とリンクさせてあった。そのシステムレイは、現在何者かに乗っ取られてしまっている。
「紙ベースで情報は残してないのかよ」
『紙で残して、他の人間に見られたら困るから全てメールでやり取りしている。読んだら即削除が決まりだが』
「だったら、そこからデータを引っ張り出してやる!」
 レイは受話器をマキに手渡すと、スリープ状態だったデスクトップのパソコンを起動させ、軽やかに両手でキーボードを操作する。
 そうこうするうちに、画面に幾つもの英数字が羅列した画面が重なっていく。そのスピードに、側で見ていたマキは息を飲み、呟いた。
「久しぶりに見た、レイが本気になってるとこ」
 レイはマキに右手の人差し指で自身の耳を示す。内容を理解したマキは、受話器をレイの右耳に当ててくれた。
「削除したメールを復活させた。開けてみてくれ」
 レイの両手はキーボードを叩いている。リズミカルに規則正しく、まるで音楽を奏でているかのように。
『おまえがクラッキングしたのだろう。そっちで開けろ』
「それでは意味がない。いいから、開けてくれ」
 昨夜、直人は警視庁のデータベースから情報を閲覧するクラッカーが現れたと言っていた。そのクラッカーは、システムレイを乗っ取った人物であり、警視庁のシステム全般を牛耳っている。蓮見がパソコンを触った時点で、レイの動きを察知しているはず。
『ファイルを開いたが、中は空だぞ』
「それで正解だよ、蓮見さん」

 言葉を発すると同時に、レイはそれまで開いていたファイルを一つを除いて、全て閉じた。残った一つのファイルに「system REI forced start entry」と打ち込み、エンターキーを押した。
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