カナリアが輝くとき

makikasuga

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カナリア襲来

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「さっきの約束、守ってくださいよ」
 直人はシラサカに念押しした。せっかく更正した店主を、闇の中に引きずり込んではいけない。
「いいぜ。その代わりと言っちゃなんだけどさ、しばらく俺らと行動を共にしてくれよな」
 シラサカの言葉を受けてのことだろう。フードを目深に被った人間が側にやってきた。
「遅いぞ、K」
 声色と身長からして、少年のようだった。両手をパーカーのポケットに突っ込み、ガムでも噛んでいるのか、口元を動かしている。
「お迎えご苦労様、ハニー」
「さっきから気持ち悪い呼び方すんじゃねえよ!?」
 この言い回しからして、先程の電話の相手だろう。
「彼がシラサカさんの気になる子、ですか?」
 女性にモテまくっているという話はマキ達から聞いていたが、この感じでは同性もいけるということなのか。
「そうだよ、可愛いでしょ」
 そう言うと、シラサカは少年の頭をよしよしと撫でた。まるでペットを可愛がるかのように。
「だから、気持ち悪いことすんなって、何回言わせんだ!?」
「えー、俺に縋って泣いたくせに。ヨシヨシしてあげたじゃん」
「ちげえよ、そんなんじゃねえ!?」
 二人のやり取りを見ていると、恋愛関係というよりは、親子のように見える。
「それで、彼はいったい?」
 仲が良いのはわかったが、このままでは話が進まないので、直人は割って入ることにした。
「この子だよ、システムレイを乗っ取ったのは。電話で話しただろ、ナオだよ。ほら、挨拶して」
「なんで刑事に挨拶しなきゃなんねえの」
 少年は直人を見ることもせず、シラサカに不服を訴えた。
「彼は特別だって、さっき説明したじゃん」
 シラサカに即され、少年がようやく直人を見た。相変わらずフードは被ったままだが、顔を上げたことにより、暗がりでも右頬に派手な傷痕があることに気づく。
「あんた、見たことあるわ」
 そう言って、少年がゆっくり近づいてきた。歩を進めながら、右手でフードを外した。短く刈った黒い髪、あどけない表情。漆黒の瞳が発する鋭い殺気に、思わず直人は息を飲んだ。
「病院? 取り調べの部屋? それとも、あの日か?」
 至近距離までやってきて、少年の右頚部にも大きな傷痕があることを知る。頬も頚部も、鋭い刃物で深く傷つけられたことは明らかだった。
「君、もしかして!?」
 四年前に都内で起きた一家殺傷事件。第一報を受け、直人は臨場した。そのとき、ストレッチャーに乗せられた少年が、大量の血を流しながら離れたくないといって暴れているのを目撃した。咄嗟に駆け寄り、直人は少年にこう声をかけた。

(今君がすべきことは、病院に行くことだ。ご両親もそれを望んでいるよ)

 少年の両親が心肺停止状態であることは、無線で聞いていた。せめて少年は生き残ってほしかった。
「思い出した、あん時の刑事だ……!」
 少年は直人の胸倉を掴み、顔を近づける。両目には狂気が宿っていた。
「なんだ、知り合いか。だったら尚更、その辺にしときなよ」
 シラサカの言葉を受けて、少年は直人から離れる。
「どういうことだ、なぜ彼があなたと一緒に!?」
 四年前の事件の被害者が、裏社会の組織ハナムラの人間と共にいる。しかも少年は、システムレイを乗っ取ったクラッカーだというのに。
「その辺りのことは、家でゆっくり話してあげる。行くよ、カナリア」
 シラサカは少年をカナリアと呼んだ。返事はしなかったが、カナリアは直人の後方に回り、背中に固い何かを突きつけ、こう言い放った。
「ほら、Kの後を歩きなよ、刑事さん」
「Kって、あの人はシラサカって名前じゃ」
「そっか。ナオは知らなかったっけ」
 そう言うと、シラサカは立ち止まり、振り向いた。
「良い機会だから教えてあげる。Kは大昔に捨てた名前だよ。その頃の俺は、無差別に人を殺すことが世界の全てだと信じていた」
 これがシラサカの本性だろうか。見つめられているだけなのに、直人の体は凍りついた。
「エーデルシュタインのK、それがもう一つの俺の顔だ
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