龍神咲磨の回顧録

白亜

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第一章 龍神誕生編

第12話 妹

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無事お披露目も終わり、八雲に招かれた先は、最初の和室だった。


そこには布団が用意されていた。


「今日はここに泊まるといい。夕食はまだだろうが、もう夜も遅い。」


咲磨が時計を見ると、0時を超えていた。


今更友達の家に行っても迷惑がかかると思ったので甘えさせてもらった。



色々ありすぎたせいで、見知らぬ部屋なのに、一瞬で寝た。





目を覚ますと、もう9時過ぎだった。


一瞬どこだろうと思ったが、昨日の夜に見た松の木で、すぐに思い当たる。



「ここは確か……」



「幻影の郷、龍鳴殿でございます!」



「ああ、そこだ。って、えっ?」


ふすまの向こうに、見知らぬ幼女が正座している。黒髪におかっぱの振り袖姿に座敷わらしを思わせた。



「君は?」


「私はひなと申します。この龍鳴殿の掃除、配膳担当です。八雲様から咲磨様を起こしにいくよう仰せつかりました。」



「そっか。ありがとな。」



咲磨はそう言って雛の頭を撫でる。どうも長男属性がでてしまっているようだ。



雛は何故か体を震わせて俯いていた。


「あっごめん!馴れ馴れしかっよね。」



「ちっ違います!!この郷の至宝の方にこのようなことをしてもらえて、感動に浸っているのです!! 」


そう言った雛は、顔を真っ赤にして叫んだ。


「本当に?嫌じゃない?」


咲磨が顔を覗かせると、雛は赤い顔をもっと赤くしてわなわな震えていた。



「はい!!雛は幸せものです!もういつ死んでもいいです!」



「そんな大げさな…。」



咲磨が苦笑したときだった。



「雛!そんな下賤な者と喋ってはいけませんわ!」



突然出てきたのは、朱色の髪に紫の瞳をした、17歳くらいの美しい少女だ。あでやかな赤い着物を着ている。



「八重様!この方は新しい土地神の咲磨様ですよ。主様ですよ!」


小さな身体の雛がいさめている。なんだかシュールだ。


「私は認めないわ!土地神は、天玲様ただ一人です!」


(あーやっぱ反対するやついるよな。そりゃ。)

少し安心した。


咲磨は『下賤な者』と言われても特に何も思わない。大抵の悪口は聞き流せるのだ。ただある一点を除いては。



「八重様!天玲様は亡くなられたではありませんか!」


「それでも、人間が選ばれるなどもってのほかですわ!しかもこんな顔だけの女に……!兄様の考えがわかりかねます!」



傍観者を決め込んでいた咲磨だったが女と言われてカチンと来た。女顔と言われるならまだわかる。不本意ではあるが咲磨自体そう思っているからだ。それでも嫌だが。



だが女と断定されるといつもの数百倍怒りが湧いてくる。


「おい、お前!」


「何よ女。」


「俺はれっきとした男だ。女じゃない!!」


「……は?」


八重は心底驚いたような顔をした。それはもう、先程の怒りが嘘のように。



その顔を見ると余計腹が立ってくる。



「嘘でしょ…。この顔で男?ありえない!!」



「失礼なっ!こっちだってなりたくてなったんじゃねぇ!」


喧嘩になった。


目の前の少女、八重は思いのほか語彙が多いのか、あの手この手で咲磨を罵ってくる。だが咲磨も負けてはいない。この種の勝負は慣れている。今までの散々たる喧嘩のおかげだろう。



雛はオロオロとして声をかけあぐねている様子だ。


段々とお互いヒートアップしてきた頃、突然ふすまが開いた。


「何をやっているのだ。お前たちは。」


呆れ顔の八雲だ。


「八雲さん!」「兄様!」


突然の八雲の登場に驚くと同時に兄様という単語に硬直する。


八雲はため息をついて言った。


「八重、そなたは咲磨よりも何百倍も大人だろう。少しは慎みを持たんか。」



「……はい、申し訳ありません。」
 

「咲磨もだ。そなたは皆の上に立つのだから、そう易易と自分の感情を表に出してはいかん。」
 

「ごめんなさい。」


「よし。これで、一件落着だ。」


八雲はパンっと手を叩いた。ようやく雛が安堵したような顔になった。色々心配していたらしい。



「さて、咲磨よ。そなたが会うのは初めてだったな。こやつは八重。私の妹だ。」



「は?妹?八雲さん、妹いたの!?」


改めて八重の顔をまじまじ見る。人形のような可愛らしい顔立ち。スミレのような大きく美しい瞳。桜色の唇。色彩は違うが確かに言われてみれば、似てる気がする。



「うむ。驚くのも無理はない。」


八雲はカラカラと笑った。


「兄様!どういうことですの!?私に許可もなく勝手に双玉の蒼を決めるなんて!私も龍の一員です。土地神を認定する資格はあると思いますわ!」



「そなた、どんなに候補を集めたとしても、すべて追い返すだろう。天玲しか双玉の蒼はいないなどと理由をつけて。」


「むう。」


「咲磨はそなたが好いておった天玲が選んだ男じゃ。自分が惚れた男の言うことが聞けんか?」



咲磨はバッと八重の方を見る。今、衝撃的なことを聞いた気がした。



「なっ何をおっしゃいますの!?私はそんな、別にっ……!天玲様が好きなのではなくてっ……!」


八重の顔がみるみる赤くなっていく。これは八重にとって弱いところみたいだ。



(図星だな。)


こんなお嬢様でも好きな人のことになると林檎みたいになるのが咲磨は新鮮だった。


八重はふぅーと長いため息をつくと、覚悟を決めたように顔を引き締めた。



「……っそうですわね。天玲様が認めたからには私も文句を言えません。だから、私がこの人間を立派な龍神にしてみせます。」



非常に嫌そうな顔で、八重はそう言った。本当に嫌そうに。


「うむ。そうしなさい。」


八雲もそれに追づいする


(?あれ?俺の意見は無しですか。)


勝手に二人で話を進められて置いてけぼりにされた咲磨はそう思ったが何も言わなかった。





それにしても天玲効果はすごいな、と改めて感じる咲磨だった。
   
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