龍神咲磨の回顧録

白亜

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第一章 龍神誕生編

第11話 お披露目

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一方その頃


「伝令!伝令!双玉の蒼が帰ってきたぞーー!」



「本当か!それはめでたい!!」


「500年待ったかいがあった。」


「天玲様は無事だったのか!?」



「天玲様は500年前亡くなられたらしい。新しい龍神様が生まれたそうだ!」


「そうなのか!?天玲様が……。」



「なんと人間の子供らしい。」 



「なんだと!人間が龍神様になったというのか!!」



「何でも天玲様直々に選ばれたそうだ。龍との親和力が異常に高いらしい。」


「だが、神聖なる幻影の郷の主に人間の子供などいささか不安が募るぞ。」


「それはそうだが、500年の空白を埋められるなら、人間だろうが誰でもいい。もう新しい主は妖なのだろう?」



「確かにな。だが、そいつの顔を見ない限りはなんとも言えん。場合によっては……」


「「「我らがなんとかしなければ。」」」



ーーーーーーー





「ちょっと何してくれるんですか!?」


「ん?」


咲磨は目の前にいる龍神に向かって怒鳴る。


自分はまだ妖のことを全然知らない。向こうもそうだ。どこの馬の骨ともしれない人間が妖になってこの地を治めるなど、向こうからすれば、今まで守ってきたものを奪われるようなものだ。もし、自分がその立場なら、そいつを恨むかもしれない。



「普通に考えれば、人間がこの地の長になるなんて、急に言われたら反対以外の何者でもないでしょう!!」



「そう怒るな。だが、本当に知らせは早いに越したことはないのだ。認められるかどうかはそなたの働き次第だが、……大丈夫だ。そなたは私の弟で、蒼の宝玉の正当なる主。そなたを侮辱する者はこの八雲が許さぬ。」


「………」



そう言った八雲は今まで見た中で一番凛々しい顔をしていた。



『弟』その言葉は、長男である咲磨にはなんだかくすぐったい感じがした。


「さて、我らの仕事はまた追々説明をする。今は皆のものにお披露目だ。」


「展開早すぎでしょう!」


咲磨の言葉は流された。


ついてこい、と言われて入り組んだこの龍鳴殿の廊下を歩く。


途中階段があり、八雲は足音一つ立てることなく上っていく。咲磨はそれに半ば驚愕したが、今更だと思い、すぐに後を追った。



マンションで言うところの5階くらいまで上がったくらいだろうか、ようやく階段地獄から抜けた。


長くはないが、急な階段だったため体力がかなり消耗した。


(部活のサボりが祟ったかもな……)


咲磨はもう部活を休むことがないようにしようと誓うのであった。




開けたところに出た。ふわっと冷たい風が頬をなでる。下を見ると、妖がたくさん集まっていた。



妖たちは新しい主に興味津々だ。咲磨に一斉に視線を注いでいた。


ざわざわしていたが、八雲の一言で静かになる。


「さて、もう知らせは届いているだろう、蒼の宝玉の主に認められた新たな龍神、咲磨だ。」


妖は品定めするかのように、咲磨を見つめる。居心地は悪かったが咲磨は奮い立たせ、しっかり前を見据えた。



(天玲も八雲さんも、俺を認めてくれた。少し展開が早い気はするが、俺は双玉の蒼になると決意したんだ。ここでふんばれ、妖達にみとめてもらうんだ…!)



「皆さん、はじめまして。新たな双玉の蒼、咲磨です。もう知ってると思いますが僕は妖ではなく元人間です。これについて納得しない人もたくさんいると思います。しかし、僕は皆さんに認めてもらえるよう、精一杯努力いたします。至らぬ点は多々ありますが、どうかよろしくお願いします。」


妖達の目を見て真っ直ぐに言う。


静寂に包まれる。咲磨は妖達の返事を待った。



一人の妖が言った。


「俺はあんたを信じる。」


また誰かが言う。


「私もっ!」


それをかわぎれに口々に言葉が飛び交った。


そのどれもが、咲磨を受け入れるというものだった。


やがて大合唱となった。



この光景に咲磨は呆然としていた。一方八雲は愉快そうに笑っていた…


「ははは。どうやら、認められたようだな。」


八雲は確信のこもった声で言った。
  

「えっどうして…?もっとこう、反対すると思ったのに。」



「妖は人の本質を理解しやすい。皆そなたの清廉な心に胸を打たれたのだろう。」


清廉な心なんて自分にあるだろうか。


でもそれ以上にとても嬉しかった。


下を見ると、誰もが嬉しそうで、涙を流している者もいた。


咲磨はその顔を見ると、自然と言葉がこぼれた。


「俺、妖が幸せになれるよう頑張るよ。」


「ああ、よろしく頼むぞ。弟よ。」

    
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