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第一章 龍神誕生編
第10話 立ち位置
しおりを挟む目的地の社に到着すると、その圧巻の大きさに声が出なくなった。
遠目から見てもそこそこ大きかったのだ、近くで見ると、城のようになっていた。
八雲曰く、龍鳴殿というらしい。いかにもという名前だ。
咲磨はその中の一つの部屋に通される。開放感のある和室で、外には松や池など、日本の庭と言うような風景が広がっている。鹿おどしが時々鳴り響き、妙な緊張感を保っていた。
八雲は静かに話を切り出す。
「して、話してくれるか。そなたがここに来るまでの経緯を。」
咲磨は姿勢を正して、これまでのことを話した。夢のこと、過去のこと、天玲の最期を……。
八雲は静かにその話に耳を傾けた。
一通り話し終わったあと、八雲は口を開く。
「500年前、天玲が死んだことは私にも感じ取れた。だが、残滓となってこの世に存在していたとは。私は片割れなのに気づくことができなかった。」
声には深い後悔の念がこもっていた。
「天玲は蒼の宝玉を封印したそうです。だから、気配は感じないと言っていました。」
「そうか……。そなたが後継に選ばれたとなれば、これからの身の振り方について考えなければならん。」
「……俺はなにをしたらいいんですか?」
「む、そうだな。そなたが行うのは大きく2つ、土地神の仕事と神使の仕事だ。」
「神使って神の使いってやつですよね。それなのに神なんですか?」
「ああ。土地神とはこの土地を治める神だ。いわゆる役職の名だと思えばいい。そうだな、人間の世界でいうとしちょう?のようなものだ。引き換え神使はこの世を統治する大神に仕える妖だ。土地神とは格が違う。」
「はあ。」
「我々は土地神としてこの地を治めると同時に、神使として大神に仕えなくてはならない。板挟みのような立ち位置だが、そのほうが、上手く物事を回せるのだ。」
(土地神って地域単位とはいえ荷が重いな……)
普通の学生だった自分が急にその土地の長になるのだ。上手くできる自信がない。
うつむいて不安に思っていると八雲は察したように言った。
「なに、20年もすれば慣れるものだ。そう気張らずとも良い。」
まるで咲磨の心を読んだかのようだ。
驚いて、顔をあげると八雲は穏やかに笑っていた。
「そなたは独りではない。私やまだ会えておらぬが、他の龍たちも居る。この地の土地神は2柱の龍神と決まっておるからな。」
独りではない、その言葉は咲磨の心にすっと入った。今までの不安が取り除かれていくようだ。
「はい!」
咲磨は今日一番の笑顔を見せる。
「よし。では我らの種族について説明しよう。」
「龍じゃないんですか?」
咲磨は疑問に思う。
「違うな。私とそなたは龍神と呼ばれる種族だ。神という字がつくだけあって、妖力は他のどの妖よりも強力なものだ。」
(そういえば、天玲も龍神は他の神使より位が高いみたいなこと言ってたな。)
「龍神は神使だが、元々は神であった。ただ、調律を保つために仕える立場に回ったのだ。」
「そんなことが……。」
規格外すぎて想像もつかない。
「今、龍神は我々を入れて5柱。その2柱である我々は、兄弟としてこの幻影の郷を守ってきた。ちなみに龍神の下は龍王、龍と続く。」
「げんえいのさと?」
聞いたことない単語だ。
「ああ、この地の名だ。私と天玲は2代目の土地神だが……。」
そう言った八雲の眼はなんだか寂しそうだ。
(何かあったのか?)
咲磨は不思議に思ったが、口には出さないようにした。まだ自分が踏みこむべきことではないと思ったからだ。
代わりに話題を変えた。
「そういえば俺、水浸しじゃなかったっけ。なんで濡れてないんだ?」
普通湖に半身浸かったんだ。濡れていてもおかしくない。なのに、気持ち悪いという感覚が全くしない。
「それはそなたが龍神になったからに決まっておろう。龍は元々自然のものを好むからな。ほれ、そなた眼の色も変わっておるぞ。」
鏡を差し出されたので咲磨は自分の顔を見る。
「はあっーーー!?なんだこれ!!?」
自分の眼が蒼色に変わっていた。天玲と同じ、それ。
(黒髪に碧眼って、ラノベ主人公じゃん…!)
「これ元に戻るの!?」
「戻らんな。」
「そんなあっさり!!」
こんなにも焦っているのに!のうのうとしてる龍神をギッと睨む。
「まあ、そう慌てるな。ほら人間の世界には、『こんたくと』というものがあるらしいではないか。それでなんとでもなる。」
「まあ、そうだけど。」
そう言うと八雲は愉快げに笑った。
「やっと砕けてきたな。そのほうが、そなたらしくて良い。」
「むう。」
「天玲ともこうやって話したかった…。」
「えっ仲悪かったんですか?」
あの穏やかな天玲と仲が悪くなる要素などないはずだが。
「いや、そこまでではない。避けられていたのだ。あやつに……」
「………。」
「おっと、この話はまた今度にしよう。そろそろ情報がまわっている頃だろう。」
急に明るくなった八雲はニヤリと笑った。
「情報?」
「新しい土地神。つまりそなただ。」
「えっ、いつのまに……!」
「知らせは早いに越したことはない。」
そう言って八雲はカラカラと笑った。
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