龍神咲磨の回顧録

白亜

文字の大きさ
上 下
10 / 19
第一章 龍神誕生編

第9話 妖達が住むところ

しおりを挟む


ひたすら歩くこと約1時間、瑠璃に導かれるように進んだ先には、小さな滝が流れていた。流れはとても穏やかだ。その下には浅い湖のようになっていた。水は透き通るように美しく、月が水面に映っていた。まるで異界にでも迷い込んだかのようだ…。実際異界なのだが。


(あの噂は本当だったんだ。)


咲磨は滝を見ながら思う。


瑠璃は、湖をスイスイと泳いでいく。


「えっここ通るの?」


見たところそれほど深くはないようだが、この季節、夜はまだ寒い。そんな中水に浸かるなど、明日風邪をひいてくれと言うようなもんだ。


瑠璃は来ないのか?というような目で見つめると、またスイスイと泳いでいく。


「ああー!もう!どうにでもなっちまえ!!」


咲磨は瑠璃の後を追い、湖の中へ入っていく。


深さは腰にかかるかどうかだった。


ザブザブと滝の近くまでいくと瑠璃はくるくると回った。


ほのかに瑠璃の瞳が光ったかと思うと、滝が二手に分かれる。奥には洞窟のようなものが見えた。


「ここを通るのか?」


瑠璃は肯定というように鳴いた。


滝壺がほとんどないので、そのまま進んでいくことができた。


怖いので瑠璃を片手に載せながら歩く。
途中から水はなくなっていった。


洞窟は50mくらいで光が見えてきた。


出口だ。





咲磨は飛び込んできた風景に目を疑った。



現れたのは先程よりもずっと大きい滝がいくつも連なっている光景だった。滝の一番上に城とも言うべき社が建っている。周囲は木々に覆われ、目の前には大きな鳥居が構えてある。


咲磨は直感的にわかった。


この場所は、人間の世界ではない、と。


肌で感じ取れるのだ。妖達が住むところだと。


咲磨はしばらく呆けていた。


瑠璃が咲磨の袖を引っ張ってくれたことではっと現実に戻る。



「よく来た。我が片割れよ。」


「……っ!?」
  

突然降ってきた声に咲磨は驚く。目の前に現れたのは、美しい銀髪に真紅の瞳をした20歳前半の男性だ。


「ふむ、そなたが天玲の後継か。なかなか面白い魂をしているな。」


その人は咲磨をジーと見つめる。絶世の美青年に見つめられるのだ、なんか気恥ずかしい。


「あの……」


「ああすまん。つい嬉しくてな。双玉の片割れがいなくなって実に500年と少し。その間我らは天玲は死んだものだと思っていた……。」


随分と古風な喋り方をするひとである。


なのに何故か懐かしい。これは、蒼の宝玉の感情なのか。


「貴方は一体……?」



「む?そうだな忘れておった。私は白龍双玉のあか、八雲だ。天玲とともにこの地を守っていた土地神である。」


「天玲の……、あっ俺は水宮咲磨です。」


慌てて咲磨も名乗る。


「さくま……。そうか咲磨か!良い名だ。」


何故か嬉しそうな八雲。それから咲磨の頭をグリグリ撫でる。


「えっ、ちょっと?」


咲磨は盛大に困惑する。突然八雲は語りだした。


「先も述べた通り、我々はこの500年、天玲はもう死んだものだと思っておった。蒼の宝玉も奴とともに消滅したのだと。しかし、そなたが現れた。そなたは我々の希望だ。……天玲の意志は宝玉の中で眠っておるだろう。だからそう難しい顔をするな。」


「……はい。ありがとうございます。」


そう思うと、救われた気分になる。友を喪ってこんな平然としていれるのが異常なのだ。


色々ありすぎて、泣くまでの感情がともなっていないだけなのだろう。


「さて、立ち話もなんだ、この周囲一帯を紹介しよう。それから、そなたのこれからの身の振り方もな。」



八雲がまず向かったのは、滝の上にある一際大きい社だった。聞くところによれば、そこは土地神の住居であり神使としての務めを行う領域でもある。



その道中は咲磨にとって驚きの連続だった。


というのも、まず社は滝の上にあるので滝を登らなければならない。普通にまわりこんで周囲の山から登っていけばいいのだが、八雲は咲磨をひょいと掴むとそのまま空を飛んだ。


「えええええええぇーー!!」


「こら、耳元で叫ぶな。驚くではないか。」



(いやいやいや、だって空飛んでるよ!まじで!え?重力無視してるけど大丈夫なの?)


咲磨の頭はパンク寸前だ。


上から見ると、景色はまた違った雰囲気を持つ。まるで地上の明かりが星のようだ。


(これ、落ちないよな。)


今の咲磨の状態は首根っこ掴まれて宙ぶらりんだ。バンジージャンプより心もとない。


幸い八雲はしっかりと咲磨を掴んでいる。どこにそんな力があるのだろう、と咲磨は不思議に思った。



ーーーー

あっという間の空の旅が終わり、若干疲れたような顔をしている咲磨を八雲が怪訝そうな顔で見ていた。


    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

須加さんのお気に入り

月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。 丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

深淵界隈

おきをたしかに
キャラ文芸
普通に暮らしたい霊感女子咲菜子&彼女を嫁にしたい神様成分1/2のイケメンが、咲菜子を狙う霊や怪異に立ち向かう! 五歳の冬に山で神隠しに遭って以来、心霊や怪異など〝人ならざるもの〟が見える霊感女子になってしまった咲菜子。霊に関わるとろくな事がないので見えても聞こえても全力でスルーすることにしているが現実はそうもいかず、定職には就けず悩みを打ち明ける友達もいない。彼氏はいるもののヒモ男で疫病神でしかない。不運なのは全部霊のせいなの?それとも……? そんな咲菜子の前に昔山で命を救ってくれた自称神様(咲菜子好みのイケメン)が現れる。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...