龍神咲磨の回顧録

白亜

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第一章 龍神誕生編

第7話 ある日のこと

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咲磨はあれからほぼ毎日のように天玲に会いに行った。もちろん部活も行ったが、たまにサボることもしていた。颯には家の手伝いがあると言い訳をしている。


土地神候補はなかなか見つからなかった。咲磨が天玲と出会ってから一ヶ月が過ぎようとしているが、全く手がかりが見つからない。


正直途方に暮れていた。


そして咲磨の体には変化が起きていた。
今まで見えていなかった、妖の類が視えるようになったのだ。


天玲曰く、自分とほぼ毎日会っているせいで影響を受けてしまったとのこと。本人は申し訳無さそうにしていたが……。


今まで視えていなかったからか、その辺に妖がいると、自然と目で追ってしまう。その行動に颯は、不思議そうな顔をしていた。




ーーーーーーーーーー





ある日のこと、咲磨はいつものように天玲のところに行った。


しかし道中、いつもとは違う嫌な予感がした。


木々がざわめき、空気が重いのだ。いつもは天玲がいるところに近づくに連れ、清廉された気分になるのに。


(嫌な予感がする。)



咲磨は足早に向かった。



(何も起きないでくれ……!)



このときばかり、咲磨の予感は的中した。


目に飛び込んできたのは、天玲が黒い霧に首を絞められて、もがいている光景だった………!


「天玲!!!」


咲磨はすぐにかけより、黒い霧を掴む。普通は掴むことなどできないだろうが、咲磨は妖が視えるので、視認できるものには触れられると思っていた。


その予想はあたり、掴まれた黒い霧は嫌がるように身をくねらせる。まるで生きてるようだ。


解放された天玲はその場に崩れる。


咳き込むこの背中を咲磨はさすって落ち着かせた。





「天玲、あれは何だ?」


今なおこの場に居座り続ける霧は、またもや天玲を狙おうとしている。



《おそらく私を、いえ、正確には私の中にある蒼の宝玉を狙うものです。》



「あれが……?」


話には聞いていたが思っていたのとは大分違って咲磨は少し驚く。


《あの霧は遠隔操作で操っています。どこかに本体がいるはずです。》



辺りを見渡しても、それらしいものは見当たらない。



《とりあえずあの霧をはらします。》


天玲は左手を前に出すと、何やら呪文を呟く。



すると黒い霧はいくつにも折り重なった鎖に閉じ込められ、身動きを封じられる。


その鎖が強く締め付けたかと思うと、黒い霧は跡形もなく消滅した。




「すごい…………!」


咲磨は思わず声を漏らしてしまった。天玲は土地神であり、龍神であるので強いだろうとは思っていた。ただいつもが少し気弱そうなので忘れてしまうのだ。



ことが終わったと思って、ホッとしたのも束の間、突然咲磨は突き刺すような視線を感じた。


視線にはかすかに殺気が感じられる。


咲磨はいつも大抵の人とはすぐに仲良くなる。そのときにまず最初に行うのは「観察」だ。相手を観察することで、自分がどう出るのが一番最善なのかを考える。だから相手の雰囲気などを読み取ることに長けているのだ。


その力のおかげで誰かが殺気を放っているのを感じ取った。


殺気の視線にいるのは………天玲だ。



(誰かが天玲を狙っている!?)



咲磨の体は勝手に動いていた。理性ではない。本能的に。


天玲を守る、頭の中にはその考えしかなかった。



先にも述べた通り、咲磨は自分自身で『命を狙われてまで他人のために行動するほどお人好しではない』と言っている。



しかしそれは「他人」のときに限る。




幸か不幸か、咲磨の中で天玲は「友達」として認定されていた。



ーーーーーーーー


天玲が気づいたときにはもう遅かった。


彼の目には、目の前でゆっくり倒れる、人間の友の姿が映っていた。



咲磨の胸には、一本の矢が貫いていた。



《………咲磨……?》


震えた声で友の名を呼ぶ。反応はない。


天玲はその体を抱き起こす。心臓を貫かれていた。


おそらくは、即死だ。


《咲磨……!!》


もう二度と動かない。頭ではわかっていたが、魂がそれを拒否していた。


自分の中で咲磨はかけがえのない存在になっていた。



《ごめんなさい。咲磨。私のせいであなたを死なせてしまった……。私のせいで………!》


天玲は大粒の涙を流す。これまで泣いたことなど殆どなかったのに……





天玲が哀しみにふけることでさえ、敵は待ってくれない。


無情にも、次々と矢が放たれていく。


《よくもっ……よくも私の友を……!!》



刹那、天玲の体から白い力が溢れ出す。


その力は周りのものをも巻き込み、辺り一帯すべてを吹き飛ばしていくーーー。





静寂に包まれた。


敵の姿は消えていた。死んだか、それとも逃げ切ったか、真相などどうでもいい。


今は咲磨が先決だ。


《咲磨、本当にごめんなさい。私がしっかり拒絶をしていれば、こんなことにはならなかったのに……。それなのに私は、貴方と友でいたいという気持ちが強くなっていました。》


天玲の姿がぼんやりと光る。


《私はさっきの力で、ここにとどまれなくなりました。
おそらくもうすぐ消滅するでしょう。》


天玲はそう語ると自分の胸に手をおき、そのまま何かを取り出すように動かす。


天玲の手のひらには、美しく輝く、蒼い玉がのっていた。


《咲磨、貴方を生き返らせる唯一の方法があります。双玉の蒼となることです。貴方は人間として死んでしまった。もう二度と人間に戻ることは叶いません。しかし、妖としては生きられます。私の後継者、龍神としてなら……。
この選択を私の独断で行うことを、どうか許してください。》



天玲は双玉の蒼を咲磨の胸に押し当てる。


《さようなら、咲磨。今まで本当にありがとう。》



天玲の姿が一際輝いた。


光がやんだときには、天玲の姿はなかった。





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